Halfway To Heaven


今日こそはなまえとキスするぞ!

……と徹平は意気込んだものの、タイミングが掴めない。なまえと付き合い出して2週間が経った。もうキスしたっていいだろうと思っていたけど、どのタイミングでするもんなんだ?

練習の後、久しぶりに泊まりに来たなまえは雑誌を読んでくつろいでいる。それはそれでいいのだが、なんつーかこう……そういうムードにならねぇというか、どういう空気になったらキスしていいんだ?

悶々と徹平はキスをするタイミングを考え、もとい、隙を伺っていた。


「なまえ」
「んー?」

呼びかければ、雑誌から顔を上げてなまえの愛らしい瞳が自分を見つめる。何だりろうな、この気持ち……愛しい。かわいい。キスしてぇな…って。でもなまえの気持ちはどうなんだ?あーくそ、こんなまどろっこしいこと考えてるのは性に合わねぇ!

徹平はそう結論を出して、なまえに思い切って尋ねてみることにした。

「キス、してもいいか?」
「えっ!?」
「ダメか?」
「や、やだ、そんなこと聞かないでよ、徹平くんの馬鹿!」

恥ずかしい!とパタンと閉じた雑誌をべしゃっと机に置くなまえ。それ俺の雑誌……と思いつつ、キスしたい気持ちでいっぱいになる。

「で、ダメなのか?」
「ダメじゃないよ。でもこう……ムードってあるじゃない」
「……」
「……」

沈黙が気まずい。けど、少なくともなまえはキスがしたくない訳じゃねぇって分かった。ムードさえあればってことだけどよ……ムードってどんなムードだよ。

「……どういうムードになったらいいんだ?」
「え?うーん……甘い感じ?」
「ふわっとしてんな」
「だ、だってしたことないもん!そんなの…分かんないよ」

ああ、くそ、翼先輩みたいに情報だけでも集めときゃこんなに困らなかっただろうか。雰囲気作りってどうすりゃいいんだ。

「……多分、だよ?多分、目と目が合って、したいって思った時…かな?」

友達に聞いた話を一生懸命思い出していたなまえは、友達が言っていた言葉を伝える。意識してしまっているのか、視線は下に向けられてもじもじしている。


「……こうか?」
「っ…!」

徹平はなまえの傍に寄ると、彼女の頬に手を添え、彼女の瞳を捕らえる。目と目が合って、視線が絡んで、胸がドキドキと緊張と期待で高鳴った。気恥ずかしさと愛おしさで胸がいっぱいになる。

なまえも愛しさと気恥ずかしさでいっぱいだが抵抗するそぶりもなく、徹平を見つめる。キスをしたいのは自分だって同じ。どうやったらキスできるのか彼女も考えなかったことはない。


なまえを見つめながら徹平は緊張で生唾を飲み込んだ。―――やっと、触れられる。…だが、焦るな。愛しい彼女の唇まであと少しだ。徹平ははやる気持ちを抑えながら照準をずらさないように気をつけつつなまえを見つめる。

「なまえ」

徹平の憂いを帯びた瞳がなまえを熱っぽく見つめる。求められるように見つめられて恥ずかしくなったなまえは思わず目を伏せて視線を反らした。すると、徹平は顔を少し傾けて彼女の顔に自分の顔を近づける。

なまえは今からキスされるんだと分かった瞬間、ゆるく瞼を下ろして目を閉じた。徹平の長めの前髪の毛先がさらりと彼女の顔の輪郭を撫で、影が落ちる。

なまえの唇に柔らかな唇の感触が触れた。一瞬で軽く吸われるように唇を押し当てられて触れられる。そして、ちゅっと小さく音が聞こえた時には既に離れていた。

たった数秒の動作のことなのに、胸の中に温かな感覚がじんわりと広がり、甘い気持ちで満たされる。彼女のことで頭がいっぱいになり、幸せだと思うと同時にドキドキと胸の動悸が止まらない。


彼女が瞬きをすれば、彼の愛おしげに自分を見つめる瞳とかち合う。徹平の甘い瞳に気恥ずかしくなって思わず顔をそらしてしまうが、気持ちは自然と彼を求めていて、なまえは彼の胸のあたりの服を掴んだ。

「なまえ?」

彼女の小さな頭を愛おしげに何度も優しく撫でながら、徹平は尋ねる。やばい、やわらかい、たまんねぇ。しかもこの仕草は反則だ、かわいすぎんだろ…!平静を装いながらも内心は興奮していた。


「……もっと」

大好きな人と交わすキスがこんなにも幸せなものなのだと、何度だってしていたいと思うものなのだとなまえは思った。それでもキスをねだるなど恥ずかしくて、精一杯の言葉を発する。

大好きななまえの愛らしい仕草に、お願いに、徹平の胸は愛おしさでいっぱいになる。何度だってキスしたいのは自分も同じなのだから。

「ん」

うれしくてつい顔が緩みそうになるのをなんとか抑えながら徹平は答える。なまえの頬に再びそっと手を添えると、彼女の顔を自分の方へと向けさせた。なまえは気恥ずかしそうにこちらを見つめ、顔を赤くしながらそっと目を閉じる。それを見届けたところで、徹平はもう1度自分の顔を少し傾け、彼女の顔に近づける。

今度はなまえのやわらかな唇の感触を堪能するかのように触れる。最初のキスよりも少し長く重ねていた。最後に少し吸いつくように唇を絡めてちゅっとリップ音を鳴らし、名残惜しげに唇を離す。


「徹平くん、大好き」
「…俺も、大好きだ」

唇が離れたと同時に恥ずかしそうに視線が絡むと、なまえは耳まで真っ赤にしながらも笑う。その笑顔に愛おしさが溢れるのを感じながら徹平も笑って彼女の身体を強く抱きしめるかのように抱き寄せた。

やっと、触れられた―――。初めて知った愛しい人の唇の感触を思い出しながら徹平は腕の中にいるなまえへの愛しい思いと幸せでいっぱいになった。




タイトルはEuropeの曲名から。思春期男子に青春させたかった。キスの描写上手く描けてるといいんですけど……。
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