Down To The Devil


仮面のアーティスト、ダーク……いや、ミスティ・アイズのノエインの経歴を知ったダンテとなまえはフォアキャッスルへ向かった。そして人波をかき分けて、フォアキャッスルでノエインと対峙する。

「ノエイン……いや、今はあえてダークと呼ぶべきか」

ダンテのその皮肉る言葉から、ダンテは彼に対して怒っていることがはっきりと読み取れた。かつての仲間に裏切られたような思いがあるのだろう。やけにピリピリしている。まるでダンテさんじゃないみたいで怖いくらいだ。

「……そうか。知ったようだね、私の事を」

緊張した面持ちでダークを見つめるダンテとなまえ。寂しげな瞳でエデンからの刺客を見つめながら一歩一歩近づいてくるダーク。その口元には自嘲気味に笑みが浮かんでいた。

「だったらなぜ私がここにいるのかも理解してくれたのではないかな?」
「理解はした、だが到底共感は出来ない」

なまえの前に立って彼女をかばいつつ、静かに怒りを表しながらダンテはダークに告げる。全てを奪った相手にこびへつらうなど死を選ぶ、と続けた。

彼のその言葉に、だからこそ15年も幽閉されることを選んだのだとなまえは理解した。そして、そんな彼の強さに心惹かれていることも。

「ノエインさん、音楽は音楽ですよ!たとえその曲を作った人が死んだとしても、いい音楽はその後も人の心に残るもの!それと同じです!」

ダンテに加勢するようになまえは彼の肩ごしにダークに向かって叫ぶように話す。音楽は音楽だ。それを作った人がどんな人であろうと、曲が良いものであれば時代を超えて愛され続けるものだ。

なまえの真理を突く言葉を聞きながらダンテは驚いたように彼女を見つめた。デュエル以外でこんなに熱が入っているなまえを見るのは初めてだったからだ。同時に、熱くなっているなまえを見る事により、ダンテは自分の中に再び火がついたのを感じる。


「それに……!いくら名前を偽ったって声で分かりますよ、あなたの素晴らしい歌声をファンは忘れると思う!?かつてマイケル・キスクという歌手は業界から姿を消した後、アーニーという別名を使って他バンドのアルバムにゲスト参加して歌ったけどその正体をファンは見抜いたんですよ!?」

それにあんなに素晴らしい歌声を、ファンは聞き逃したりはしない。ずっと聴いてきたファンなら、その声を、歌を、忘れたりはしないはずだ。

「あんな激しい見習い、初めて見た」
「大和先輩、その発言は誤解生みます」
「おい翼、アイツになんかのりうつってるぞ」
「宗介、憑依ではなくエデンでのストレスでああなったのさ」
「先輩方、話こじれるんでちょっと黙っててくれません!?」

珍しく声を荒げる見習いの姿に、BLASTの面々がヒソヒソと後ろで話している。よく言った徹平となまえは心の中で徹平を褒めた。


「だから…外野の言葉なんて気にしないで、あなたの音楽だけで判断してくれる純粋なファンのことをもっと考えてよ!」

もっとノエインさんの曲を聴きたいと願っているファンは絶対にいる。そんな純粋なファンのことを考えると、なまえは涙が出そうになった。自分の好きなバンドがそんなことになってしまったら、つらくてしかたがない。

そんななまえの気持ちを汲み取ったのか、言葉を続けようとする彼女の前に腕を広げて制した。もういい、お前の気持ちは言いたい事は伝わったとダンテは優しい瞳で彼女を見つめる。

「その通りだ。…ノエイン、勝負だ」

言葉よりも音で勝負だとダンテの目が言っている。ダンテの言葉になまえも力強く頷いた。デュエルの準備をして、ダークと向き合うが、負ける気は全くしなかった。



その予感通り、パーフェクトスコアといえども偽りの音楽には屈することなく、打ち勝つことができた。パーフェクトスコアが敗れ、マイクスタンドに寄りかかるようにしてダークは跪いた。

「音楽と共に生きる為に悪魔にすら魂を売ったというのに……私には音楽を奏でる資格がないというのか……」

俯いたままうちひしがれ、嘆くダークにダンテは「黙れ」と一蹴した。自分にとって、絶望は歩みを止める理由にはならない。絶望の中だからこそ希望はよりはっきり見えてくる。そのためには歩み続けるしかないのだ。

それでも自分の罪について嘆き続けるダーク。罪があろうとなかろうと音楽は音楽だ。ダンテの傍でなまえは彼の言葉に耳を傾ける。

「もう一度言うぞ。…黙れ」

視線を落として語るダークをなおも一蹴するダンテ。そしてダンテは視線をなまえに向けた。先程はよく言った、と小声で彼女に語りかける。

「さっきコイツが言っただろう。音楽は平等だ、くだらないレッテルに惑わされ音楽を素直に受け止めようとしない者の声になど耳を傾けるな」

ダンテはなまえの肩に手を置いた。そして切なげに眉を寄せてダークを見つめる。彼はダークの、ノエインの本当の意志を貫いて欲しいと心から願っていた。

「お前はお前の意志のまま、やりたい音楽を奏でてみせろ……!」
「意志の……まま……」

そう呟いたかと思えばダークは立ち上がり、仮面を取り払った。そして真の姿を見せて、やはり自分の音楽で勝負をしたいと言うノエイン。ダンテの気持ちは伝わったのだ。ダンテは笑ってデュエルを受けた。



「今度のノエインは本物のアイツだ。さっきまでの比ではなく手強いぞ」

デュエルを始める前に、デュエルの準備をしながらながらダンテは笑みを浮かべて楽しそうにドラムスティックを回す。かつての仲間と真の音楽でデュエルすることがうれしいのだ。

「はい…!」

返事はするが、なまえは緊張で下唇を噛み、拳を震わせていた。相手はかつて時代を作り上げた人なのだ。同じく時代を牽引したダンテが言うのだから間違いない。負けられない、1つもミスできない……だが勝たなければいけない。

プレッシャーにより緊張で力の入りすぎてガチガチになっているなまえを見て、ダンテは力が入り過ぎだと彼女の背中を叩く。しかし尚も身体は硬いままだ。仕方のない奴め、とため息をつくと彼は彼女の背後に回った。

「……心配するな、全力を尽くせ。勝利に導いてやる」

そして後ろから肩に手を回して耳元で囁かれる。油断せずいつも通りしていればいいと言わんばかりの口調で、ダンテはいつものように笑っていた。良かった、いつものダンテさんだ。その表情を見て、普段見せてくれる雰囲気になまえは安堵した。

ダンテの言葉はまるで氷を溶かしてゆく春の陽射しのようだった。魔法でも使えるんじゃないかって思ってしまう。強ばり過ぎていた筋肉が緩み、なまえはデュエルに挑んだ。



本物のパワーに押されそうになったが、ダンテの言葉でリラックスできた。そのおかげか、デュエルはダンテとなまえの勝利で幕を閉じた。敗北したノエインは片膝を着いて俯いている。表情は読めない。しかし彼は穏やかな口調で話し始めた。

「音楽は自由…か。そうだな、もう1度俺自身の音楽で進んでいこう」

それが俺の答えだ、とダーク、いやノエインは顔を上げる。歓声を受けながらそう話すノエインの表情はすっきりしたもので、その顔には爽やかな笑みさえも浮かんでいた。まるで澄みきった空を表すようなものだった。

「お前の言葉で目が覚めたよ。……礼を言おう、ダンテ、それから勇敢で気高きチューナーよ」

そう言ってノエインは微笑んでなまえの手を取った。その瞬間、ダンテはなまえの肩を抱いて自分の方に引き寄せると同時に、ノエインから彼女を引き離す。

今回のことでなまえを奪われるとは思わない。しかしノエインは女性関係が派手だったこともあり、あまり近づけたくはない。万が一だとしても、だ。ダンテとしてはいかなる不安要素も潰しておきたいのだ。

「コイツは俺と契約中なんでな、話をしたいなら俺を通してからだ」
「そんなに警戒しなくとも彼女をとったりはしないさ」
「フン、心配などしていない」
「まあこんなに優秀なチューナーなら引く手あまただろうな」
「契約料は高いぞ」
「お金かかってませ…んむっ」

勝手なことを言い出すダンテに反論しようとなまえは口を開くも、ダンテの大きな手に口を覆われてしまった。余計なことは言うなということだろう。

「……お前のようなじゃじゃ馬、俺以上に上手く扱える奴はいないだろう」
「そういうことですか」

パッと手を離すと、「困るのはお前の方だぞ」とからかうようにダンテは笑う。我ながら素直ではないと思うのだが、生憎こういう物言いしかできないのだ。ダンテはふくれているなまえの機嫌を取るようにくしゃくしゃと頭を撫でれば、彼女の表情はうれしそうなものに変わる。

「目的を果たすまではお前の身も心も俺のものだ。それを忘れるな」

ルビーのような瞳がまっすぐになまえを捉える。視線が交わった後、ダンテは自分が与えたリングの光る彼女の手を掴むと、自分の口元に引き寄せる。そしてそのリングの光る指にそっと唇を寄せた。




タイトルはEdguyの曲名から。メタラーだけが楽しい話ですみません。マイケル・キスク〜のくだりは実話。理由は分からないけど、キスクは別名で正体を隠してAvantasiaのアルバムにゲスト参加してました。歌声聴いたら声とか歌い方とかでファンにはバレましたが。
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