Promise Her The Moon


※エデンのスタッフの女の子








「打ち上げの後、送ってく。裏口で待っててくれ」

ライブ終演後のいつもの時間、いつもの場所、そしていつもの言葉。いつのまにか当たり前になっていた。まさかバンドマンである徹平とエデンのいちスタッフであるなまえが一緒に帰る仲になるとは思っていなかったから、不思議なものだ。



「悪い、待たせちまった」
「いいのに。…徹平くん、お疲れ様!」

打ち上げが終わってからすぐ来たのだろう、慌ててなまえに駆け寄る徹平。そんな彼の姿にうれしくなる。付き合ってはないけど、付き合ってるような感覚を味わえるから。


「今日のライブ、すっごく良かった!お客さんも増えてたし盛り上がる一方だね」
「ありがとな。やっぱ盛り上がってるとすっげえ楽しい」

月明かりでほんの少しだけ明るい夜道を歩きながら今日のライブについて話す。今日のライブの感想を伝えると、徹平はうれしそうに笑う。なまえはそんな彼の表情を見ているのが楽しいと感じる。

「ライブはやっぱ楽しいな」
「うん。…見てるこっちも楽しい」

特に上手いバンドはね、となまえが微笑むと、徹平も「だろ!」とうれしそうに笑う。そして自分のバンドメンバーがいかに素晴らしいかという話になった。

本当にBLASTが大好きなんだなと感じる徹平の表情や弾む声が好きなんだとなまえは思う。そして、彼は強面な見た目とは裏腹にとても紳士的なところも。夜中に女性が1人で歩くのは危ないからという理由でこうして家まで送ってくれている。



「……いつもありがとね」
「何がだよ?」
「いつも送ってくれてありがとう。同じ方向とはいえ、ちょっと離れてるから」

そう言えば、きっといつものように、「女子が1人だとあぶねえだろ」と言ってくれるのだろう。しかし今回は珍しく中々返事が返ってこない。どうしたのかとなまえは徹平の横顔を覗き込んだ。

「徹平くん?」
「……女子に1人で夜道歩かせるのは危ねえし、それに…、」

呼びかければ、徹平は先程のなまえの言葉に答える。しかし途中で言いよどむ。なまえは彼の言葉の続きを静かに待った。

「好きな奴とは一緒に長く居たいもんだろ」

視線を反らして恥ずかしそうに告げる。月明かりしかないほの暗い夜道のせいかはっきりとは断言できないが、耳も赤く染まっているように見えた。

「……え?」

何かの聴き間違いでは、と思ってなまえは思わず聞き返してしまう。BLAST一筋で恋愛なんて…と思っているような人から告白されたのだ。驚かないはずがない。

徹平となまえの足がほぼ同時にぴたりと止まる。そしてどちらからとなく互いに身体を向けた。月のやわらかな光と頼りない街灯以外の明かりのない暗い世界で今、2人きりだ。ドクドクと心臓が高鳴っている。

「…だから、なまえが好きなんだ」

ひと呼吸おいて、一言一言はっきりと伝えるかのようにゆっくりと告げられた。なまえがびっくりして目を瞬いてると、それまで絡み合っていた徹平の視線が反らされる。照れくさいのと自分の気持ちに応えてくれることはないだろうという思い込みからだった。

「やっぱ嫌だよな。…忘れ「そんなことない!私、うれしい…!」」

なまえは震える声で一生懸命伝える。反らされていた顔が再び彼女の方に向けられる。

「私も、徹平くんが好きだよ」

再び視線が絡まって気恥ずかしいのをなんとかこらえながら気持ちを言葉にする。なまえの言葉を耳にした瞬間、徹平の表情がふっと弛んだ。そして一歩彼女に近づくと、ぎゅっと彼女のやわらかな身体を抱きしめる。


「……大事にしてね」
「当たり前だろ」

微笑むなまえの表情を見て愛おしく思いながら徹平は彼女を抱きしめる腕に力を込める。そんな2人をまるで見守るかのようにやわらかな月の光がそっと照らし出していた。




タイトルはMr. Bigの曲名から。
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