Let The Good Times Rock


「……で、どんな子なんだ?」
「は?」

終演後の反省会が終わると、珍しくそわそわしている真琴の隣で、同じくそわそわしているレイ。一体何だろうかと京が考えていると、レイは言葉を続けた。

「だから、まこっちゃんの彼女!」
「そういえばチケット取り置きしてたのって今日のライブか」
「……」

“真琴の彼女”という存在に興味津々なのかレイは真琴に更に絡み始める。しかも進も少し興味があるのか言葉を重ねた。真琴はめったにプライベートな話をしないから余計に気になるようだ。

(確かに今回のライブは真琴が珍しくチケット取り置きを頼んでいた。真琴も否定せず黙っているということは、本当に今日彼女が来ているからなのか……)

京も黙って真琴の方を見ていた。単純に話の行く末に興味があったのだ。黙っている真琴に肯定を感じ取ったレイは真琴の肩に腕を回す。

「いやー、まこっちゃんも隅に置けねぇなー!」
「うるさいですよ」

もういいでしょう、とうんざりした様子でため息をついて眼鏡を指先で押し上げ、レイの腕を引き離す真琴。―――早く彼女のもとに行きたい。なまえと話したい。タオルで汗を拭いて衣服を着替える。

「先にホール戻ってます」
「あっ、待てって」

なおも引き止めるレイをよそに真琴はホールへと繋がる扉を開けて客席のホールへ戻っていった。



足早に客席へ行ってぐるりと周りを見渡してなまえの姿を探すと、彼女は身支度をして帰ろうとしているところだった。真琴は急いでなまえを追いかけ、出入り口へ先回りする。そして出入り口の前で扉に手をかけ、彼女を捕まえる。

「僕に黙って帰る気ですかなまえ」
「ま、真琴くん!ごめん、真琴くんの出番見れたしこれ以上ここにいるのも場違いかなって思って…」

ライブを見たのもライブハウスに来たのも初めてななまえは仕組みや雰囲気がよく分からず馴染めなかったのだろう。OSIRISを見てくれたのならそれでいいのだが、自分のライブを見た感想を聞きたい。

「だからって僕に会わずして帰るなんて、随分冷たいじゃないですか」

彼女の口から早く感想が聞きたい。その一言が素直に言い出せずに真琴は遠回しに、自分に声をかけるよう伝える。

「…ごめんなさい」
「はあ……OSIRISのライブは見てくれましたか?」
「うん。真琴くん、かっこよかった」
「…ありがとうございます」

照れたように目を伏せながらなまえは褒める。その仕草が愛らしくて、褒めてくれるのがうれしくて真琴はやわらかな笑みを見せた。

「あと、すっごくハードに動くんだね。なんか意外だった」
「そうですか?まあ、パフォーマンスもライブには必要ですからね」

観客を楽しませることも演奏者の務めですからとやわらかい眼差しで彼女を見つめる真琴。そうして彼が幸せを噛みしめていると、背後から呼ばれる。


「おーい、まこっちゃんー!」

振り向けば、身支度を終えたレイがいた。せっかく2人の世界に浸りかけていたのに、なんてタイミングで現れるんだと真琴は心の中で思った。

「ギタリストのレイさんです」
「…は、ハロー…?」

なまえは誰?と頭にクエスチョンマークが浮かんでいて固まっている。そんな彼女に真琴がバンドメンバーを紹介すれば、金髪碧眼の男性であるレイの見た目に騙されて英語で会話をしようとするなまえ。

「大丈夫ですよ、こう見えてこの人全く英語喋れませんから」
「えっ、そうなの!?」

そんな彼女の様子がおもしろくて、真琴は小さく笑いながら「こう見えて日本生まれ日本育ちだそうです」と種明かしをした。それに対してなまえは目を丸くするが、すぐに「も、もう早く言ってよ!」と恥ずかしそうに真琴の服の裾を握る。

「いや、ちょっとは喋れるからな!」
「失礼致しました。…初めまして、こんにちは。なまえと申します、宜しくお願いします」
「初めまして。気にしなくていいぜ。…ったく、まこっちゃんも意地が悪いよなー」
「人聞きの悪いことを言わないで下さい」

レイと真琴が話している間、なまえは黙って静かに2人のやりとりを眺めていた。そんな中、レイは思い出したように真琴に言う。

「そうだ!進が他のバンドに挨拶しに行くから早く戻ってこいってよ」
「……分かりました」

仕方ないですね、といった表情で眼鏡をあげながら真琴は返事をした。そしてレイについていく前に彼に何か短めに話すと、なまえの元へ戻って来た。


「なまえ、僕はこの後他バンドに挨拶と打ち上げがあるんですが早めに抜けます。だから…先に帰って待ってて下さい」

意味、分かりますよね?と真琴はなまえの耳元で囁く。既に渡してくれている合鍵で、部屋に帰って待っていてくれという意味だ。お家デートのお誘いがうれしくて、彼女は顔を赤く染めて頷いた。

「…それに、ここはお酒も出ますし悪い大人がいっぱいですからね。長居は危険だ、気をつけて帰って下さい」

対バン相手の方に挨拶もいかなくてはならないし、自分の目の届かないところにこれ以上止めておくのは不安だ。大丈夫だとは思うが、万が一のことが起こらないとは限らない。

「子どもじゃないから大丈夫だよ」
「大丈夫じゃないから言ってるんです。気をつけて下さいね」
「はーい」

真琴は出入り口までなまえをエスコートし、送っていく。―――今日のところはこれでいい。感想はまた帰ってからじっくり聞くとしましょうか。




タイトルはEuropeの曲名から。ライブハウスの様子は、昔アマチュアバンドを見に行った時の記憶で書きました。
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