Rock Bottom


「ほらここ座れ」

ぽすっといつも彼が座っている椅子に座らされる。徹平の家に遊びにきたなまえが「ドラム叩いてみたい」と言ったのだ。


初めてのことに少し不安になった彼女は彼の姿を目で追うべく後ろを見上げると、彼は少し照れたように視線をそらせた。

「…っ、前向いてろ」

なまえと自分の立ち位置的に、必然的になまえが上目遣いになるのだ。愛らしい瞳が自分を求めて見つめるのがかわいらしくて、徹平は表情が緩みそうになる。

しかしお遊びとはいえドラムのことを教えるのだから真剣にならねば。そしてできれば、できる男を見せたい。好きな女に自分のカッコイイところを見せてぇって思うのは自然なことのはず。

スティックのささっているところを教え、なまえにスティックを取らせた。……初めてだから仕方ねぇけど…ダメだ、握り方がなっちゃいねぇ。

「……で、握り方はこうだ」
「!」

スティックを握るなまえの手の上から徹平の大きな手が重なる。それだけでなまえの心臓はドキドキと脈打っていた。この心音が全て彼に伝わってしまうのではないかなんて心配をよそに、彼の指導は続く。

「まずはハイハットとスネアを交互に叩くんだ」
「ハイハ…?」
「あー、ここな。腕はクロスさせて……」

腕はクロスさせたものの、ドラム初心者のなまえには徹平の言っている用語すら分からなかった。彼が何を言っているのか分からず固まっていると、徹平の身体が近づき、彼の手が彼女の手を優しく包み込むように掴む。そして、彼女の手をリズムに乗せて動かした。

馴染んだリズムのはずなのに、初めて聞いた音色だった。いつも自分が刻んでいるビートを彼女が刻んでいる。なんだか不思議な感じがした。

同時に、ああ今すぐ抱きしめてぇ……という考えが浮かんだがなんとか頭の隅に追いやる。徹平は一生懸命自分のリズムに合わせてリズムを刻んでいるなまえが愛おしくてたまらなかった。

「そうそう、上手いじゃねぇか。そのままペダル踏んで」

口でタン、タン、とリズムを刻む徹平。そのリズムに合わせて足でペダルを踏むが、そちらに気を取られてなまえの手から力が抜けるのを感じる。徹平は彼女の手を掴んだまま、最初のリズムを刻み続けた。



「……難しい。手と足バラバラに動かすなんて…無理」
「誰でも最初はそんなもんだ」

ワンフレーズを叩いた後、なまえはぐったりしていた。みんな最初に通る道だ。徹平は励ますように、彼女の肩をぽんぽんと優しく叩いた。

「徹平くんはすごいね」
「まあ練習してるからな」

なまえはキラキラして瞳で徹平を見つめて褒める。愛する人に褒められてうれしくない訳がない。ニヤケそうになる顔を引き締めながら徹平は平静を装う。

「一気にできるようになるのは無理だな」
「うう…やっぱり演奏は無理だよね」
「まあ練習あるのみだな」
「あっ、じゃあ、パフォーマンス的なこと知りたい!」
「パフォーマンス?」
「こう、スティックくるくる回すのとか!」
「あー、あれな」

こうやるんだよ、と徹平はスティックを1本持ってクルクルと器用に回す。とても簡単そうに彼は回している。しかしその動きを目で追うのすらなまえには難しかった。

「ええ…どうやってやってるの?」
「どうって…外に回すイメージで回す?」

もう感覚でやってるから上手く説明できねぇ。徹平はうーんと頭を悩ませる。彼の言葉を聞きながらなまえはなんとかスティックを回そうと手や手首をひねってみるが、徹平のやるようにスティックは回らない。

「外に回す…?こう?あれ、うまくいかないな…」

なんとか見よう見まねでなまえはスティックを回そうとするがうまくいかない。徹平は失礼ながら彼女のそんな様子をかわいいと思ってしまう。

「こうだな」

なまえがあたふたしてると、徹平が小さく笑いながら彼女の細い手首を握って、もう片方の手で指先を使ってスティックをクルクルと回す。直接感触を身体に叩き込めば分かるだろうと徹平は思ったのだ。

しかしなまえはそれでも分からなかった。それにすぐ傍に感じる徹平の存在にドキドキしすぎてそれどころじゃない。せっかく教えてくれているのに申し訳ないが、好きな人が傍に居るだけでうれしいのだ。

「多分、みんなこうして回してると思う」
「そ、そうなんだ…」

頭の中でスティックを回すイメージを思い起こしながら徹平は手を動かしていた。しかし残念ながら素人のなまえには分からない。彼女の手が動かないのを見て、徹平は尋ねる。

「分かったか?」
「む、難しい…」
「なまえは不器用なんだな」
「むー」

難しいと唸るように言うなまえもまた愛らしい。徹平は小さく笑いながら、彼女の手から自分の手を離した。そして「今日はここまでにするか」と言って彼女の頭を優しく撫でる。

頷いたなまえがドラムスティックを元あった場所に置いたのを見届けると、彼女の手を引っ張って自分の腕の中に閉じ込めた。ぎゅっと抱きしめれば、彼女のやわらかな身体の感触がダイレクトに伝わる。

「徹平くん……?」
「練習してる間、ずっとこうしたかった」
「嘘……」
「嘘じゃねぇよ。結構我慢してた」
「……徹平くんだけじゃないよ」

触れたいのは私も同じ、となまえは徹平の胸に顔を埋める。すると、その言葉で完全に火のついた徹平は噛み付くようになまえの唇を奪った。




タイトルはUFOの曲名から。ただ徹平にドラムを教えてもらうだけのお話。
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