Please Don't Leave Me


「あっ、進さんだ!こんにちは、お久しぶりです」
「おう、久しぶりだななまえ。元気にしてたか?」

夏フェスの時からなまえとOSIRISの進さんと距離が段々近くなってる気がする。夏フェスが終わってからもそれは目に見えるものだった。今もとても楽しげに進さんと話している。たまたまOSIRISも今日のライブに出演してたらしく、控え室で会ったのだ。



「なんか、フェス終わってからOSIRISの奴らとよく話してるな」

会話を終えて戻って来たなまえに大和先輩が言う。ストレートに切り込んでくる。いや、ストレートすぎるくらいだ。さすが大和先輩っス…。そんな大和先輩に重ねるように翼先輩も続けた。

「進さんと特に仲良いよね」
「夏フェスの時、すごくお世話になったからね」

みんなが水着はいてない時とか特に!と頬を膨らませる。残念ながら彼女の言うその時の記憶は何故かほぼないのだが……。

「あんなお兄ちゃん欲しかったなーって」
「言われてるぞ、宗介」
「ああ?ふざけんな、俺じゃなくてアイツだろ」
「いや、お兄ちゃんもだよ」

いや、今の言葉は1番上のお兄さんではなく、絶対に宗介先輩のことだと思う。言わねぇけど。先輩達となまえが進さんについて話している。なまえが楽しげに進さんについて話している表情を見て、なんだかモヤモヤする。なんでそんなに楽しそうなんだよ、好きなのかよと不安になる。

確かに、進さんはドラムも上手いし、ルックスだって俺なんかより断然いいし何より人に怖がられたりしない。料理上手だし家も造れるくらい頼もしい人だ。年上特有?の余裕だってある。

だからもし、なまえが進さんの方がいいって、好きだって言ったら、俺に引き止められる訳がねぇし、引き止める権利もねぇ。だから不安になるんだってことも分かってる。




なのに、そんな俺の気持ちを知らないなまえは帰り道、俺と2人きりになった今も進さんの話をしている。自分の愛する彼女が他の男を褒めたり楽しそうに話しているのは正直面白くない。

「でね、最年長だしみんなのお兄さんみたいですねって言ったら、アニキってのは勘弁なって言うのね」

俺といるのに、他の人の話題ばかり。考えてたらモヤモヤを通り越してイライラしてきた。そんなに好きなら俺とじゃなくて進さんといればいいじゃねぇか。

「魚屋では売れ残りの魚をアニキって呼ぶからなんだって!初めて知ったよー。徹平くんは知ってた?」
「知らねぇ」

はしゃぐなまえが憎らしくてついそっけない返事をしてしまう。聞いてる?って聞かれて、聞いてる聞いてると生返事をしてしまった。本当はほとんど聞いてない。

「進さんって本当に頼れるお兄さんって感じで素敵だよね」

――――“素敵”。そんな言葉、俺に対してもほとんどかけてくれたことがない。なんだよ、そんなにあの人がいいのかよ。

「……そんなに言うなら進さんのとこにでも行けばいいだろ」
「え……?」
「だから、進さんと付き合えばいいだろって」
「なんでそんな話になるの?」

困惑した表情でなまえが機嫌を伺うように俺の顔を覗き込む。困らせたい訳でも、本当に進さんと付き合えばいいなんて思っちゃいねぇ。そんなこと言いたくないのに、気持ちとは裏腹な天の邪鬼な言葉だけがスラスラ出てくる。

「うれしそうに話して、進さんが好きなんだろ」
「違うよ、そういう好きじゃないよ!」

ああいうお兄ちゃんが欲しかったなってただそれだけ!となまえははっきりと否定する。その言葉で徹平は自分が嫉妬で冷たい態度を取っていたことに気づいた。

「私が好きなのは、徹平くんだけだよ」
「…分かってる。すまねぇ」

立ち止まって、なまえの手が徹平の服の裾を掴む。彼女のまっすぐな瞳が見つめる。彼女の言葉が、今まで感じていたマイナスな感情を溶かして消してゆくのを徹平は感じた。しかし彼女の態度は反対に、嫉妬をしていた自分が後ろめたくて彼は顔をそらしてしまった。

彼が嫉妬をしているのではないかと感じたなまえも申し訳なさそうに俯く。確かに彼氏と一緒にいるのに、他の男性の話ばかりしていたのは良くなかったなと反省したのだ。でも、不謹慎にもうれしいという気持ちもほんのりとわき上がってくるのも感じた。


「徹平くん、もしかしてやきもち妬いてるの?」
「……カッコ悪ぃだろ」

なまえはうれしくて顔が緩みそうになるのをこらえながら聞くと、徹平はガシガシと頭をかきながら恥ずかしそうに答える。

「ううん、そんなことない。うれしいよ」
「なんでだよ?」
「だって、それだけ私のこと好きでいてくれてるってことでしょ?」

だからうれしいの、とはにかみながら笑うなまえ。……あー畜生、かわいいな。やっぱり彼女には敵わない。どこにも行かせたくないし、俺だけの人でいて欲しい―――徹平はなまえの腕を掴むと、自分の腕の中に閉じ込めるように抱き寄せる。

「…ごめんね。徹平くんが嫌がるならもう進さんの話はしない」
「ああ。……もう他の男の話はなしな」

背中になまえの手が回され、胸に顔を埋めてきた。さっきまでのモヤモヤが消えていって、その代わりに愛おしい気持ちで満たされる。

「お兄ちゃんの話も?」
「宗介さんは別だ。でも、2人でいる時ぐらい別の話がいい」
「ん、分かった」

そこでようやく2人で笑い合えた。こうして話している時間が好きだ。そしてやっぱり、なまえを誰にも渡したくない、自分だけのものにして独り占めしたいと徹平は思った。


「……やっぱ、手放したくねぇや」
「うん、離さないで」

徹平がぎゅっと抱きしめる腕に力を込めれば、なまえも同じように返してくれる。ずっと傍にいたい、一緒にいてぇって気持ちは一緒なのだとその時、心から感じた。




タイトルはPretty Maidsの曲名から。
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