What It Takes


※SRミント:「ゴホウビ」ネタ





その日はお寺の夏祭りの屋台でバイトしてるって聞いたから、バイトが終わった後にデートしようかって話になって。ちょっと早めに行ってバイトしてる姿を見たいな、なんて思ったのがまさかあんなことになるなんて……思いもしなかった。

「徹平くん、バイトお疲れ様!」
「おー、早いななまえ」
「えへへ、バイトしてる徹平くんが見たくて」
「…あんまかわいいこと言うなよ」

色んな屋台を見て回ってる中、リンゴアメの屋台でアルバイトをしている徹平を見つける。屋台仕様の服装が祭男らしくてかっこいい。和装というのかどうかは分からないが、和のもの、例えば和太鼓なんかが似合いそうだ。

「売れ行きどう?」
「………」

たくさん刺さっている綺麗なリンゴアメを見ながら売れ行きについてなまえが聞くと、徹平は押し黙ってしまった。表情も固まっている。もしかしてまずいことを聞いてしまったのだろうかとなまえは動揺する。

「…え?」
「全然ダメだ。みんな俺の顔見て逃げてくんだよな……リンゴアメはうめぇのによ」

更に尋ねれば、徹平はため息を吐いた。どうやら徹平の顔を見るなりお客さんが逃げ出してしまうらしい。どうしたもんかと徹平は悩んでいる。このままではバイト代が出ない。なまえも一緒に頭を悩ませる。

「うーん……私、売り子やろうか?」
「マジか、いいのか!?」
「うん、いいよ!私も浴衣だし分かりやすいと思う」

頑張るね!と笑うと、ありがとな!とニカッと笑って頭を撫でてくれた。

それからなまえは道行く人に声をかけ、リンゴアメの屋台までなんとか連れて行くことに成功した。しかし……屋台に着くなり「ひっ…!殺さないで下さい!」とアメを買わずに逃げるように去って行ってしまった。

それが何度も続いていた。リンゴアメは依然売れないままだ。どうしたらいいのか……と途方に暮れたその時、Cure2tronのミントが通りかかった。

「へー!てっぺっぺ、ここでバイトしてるんだね!」
「臨時だけどな」
「そうなの。それで私も客引きをしてるんだけど、上手くいかなくて…」

ガラガラなこの状況と今までの事の顛末を徹平となまえはミントに説明する。すると、ミントはふんふんと頷いてこう言った。

「しょうがないなー。困ってるならボクがなんとかしてあげる♪」

そしてミントによる徹平プロデュースが始まった。



まず笑顔が足りないと言われ、笑顔を練習するが全然上手くいかない。法を犯すことに愉悦を感じている狂気の顔だと言われてしまっていた。道のりは遠そうだ……。

「お前、俺をなんだと思ってるんだ……」
「あっ!じゃあさ、なまえちゃんが相手だと思って笑ってみてよ」
「……んなの、意識してやってねぇから分かんねぇよ」

そう言って笑おうとするがやはりぎこちない。いつもなまえに見せるやわらかく微笑んでいるあの表情は彼女の相手で自然なタイミングでしか出ないのだ。やれと言われてできるもんじゃねぇ。

「ま、まあ笑顔の良さは人それぞれだし置いておいて……次は接客ね!」

そんな徹平を見て笑顔はダメだと諦めたのかそう言って、かわいらしい売り文句を手本で言ってみせるミント。それ俺がやんのか?と少し渋っていた。

しかし売り上げのため、笑顔を作ろうとすごんだ表情でミントの台詞そのままをぎこちない口調で言う徹平。彼の素とのアンバランスさがシュールすぎてなまえは笑いそうになるのを一生懸命堪えた。

「おい、笑ってんじゃねぇよなまえ」

しかしその笑いが抑えきれずに声をもらすと、みにょーんと徹平に両頬を抓られる。

「痛い、痛い、ごめんてば………ぷぷっ」
「わーらーうーな」
「なんか怖い。子どもを狙うシリアルキラーみたい」
「……この契約はなかったことにする。帰れ」

散々な言われ様に徹平も諦めたのか、ミントを追い払うような仕草をした。もう自力でやるしかねぇのかな……。

「わー!ごめんごめん!8分の1は冗談みたいなもんだから許して」
「9割近く本気なの!?」
「せめて半分にしてくれ!」
「でも正直てっぺっぺの接客をよくするのはちょっと難しいかも……」
「……なら、一肌脱いでくれ!!」

なんとかミントをおだてて売り子をしてもらおうと徹平は頼み込んだ。売り子を倍増すれば客引きの数も増え、買ってくれる人が出てくるのではないかと徹平は考えたのだ。

上手く報酬と口車に乗せられたミントは上機嫌で売り子を引き受ける。ミントならきっと上手くやってくれるだろう。今までの売り子は何がダメだったのか彼に聞くためにもなまえは自分の結果を伝える。

「でもね、呼び込みは普通にやってもダメだったんだ…」

私に魅力がないからか、徹平くんのいる屋台まで連れて行けても買ってもらうまでに至らないのだ。

「あー、てっぺっぺの顔にビビって買わずに帰っちゃったんだね」
「……」
「ん〜じゃあ、別の方向で考えよ!」
「別の方向?」

なまえが首をかしげていると、ミントはすうっと息を吸い込んだ。そして売り文句を大きめの声で言い始める。

「そう!……みんな寄っといで寄っといでー!摩訶不思議な顔面悪魔の作り出すちょっとやばメな甘さのリンゴアメだよー!」

ミントのセールストークに徹平もなまえも驚いてただただ見つめていた。徹平はその状況でもツッコミを入れるのは忘れていなかったが。

「これが売れないとボクたち……顔面悪魔に食べられちゃうんだ!みんな助けてー!!」

なまえはミントに腕をひっぱられたかと思えば、うるうると瞳を潤ませた彼に腕をぎゅうっと抱きしめられた。ほら、悲痛そうな顔して!と言われて、なまえも少し苦しげに顔を歪ませる。

すると、か弱い女の子(男の娘もいるけど)を助けなければ!という使命感にかられた人が一気に集まって来て、次々とリンゴアメを買って行く。

そしてみるみるリンゴアメは売れてゆき、ものの10分くらいで完売してしまった。なんでも悪魔とかわいい子のアンバランスな珍しい組み合わせでお客さんの気を引こうと狙ったらしい。おそるべしミントさんのプロデュース……。

そして無事報酬を手に入れたミントは上機嫌で帰って行った。次もし同じようなバイトがあればやってくれるとまで言ってくれていたし頼もしい。



「バイト、予定より早く終わったね」
「そうだな。…ミントすげーな」

手をつないで2人して並んで歩きながら話す。ミントがご褒美としてくれたリンゴアメをかじりながらなまえはうれしそうに笑った。それに対し、徹平は苦笑いする。悪魔扱いは酷ぇけど結果的にリンゴアメが売れたから今回はそんなに悪い気はしない。なまえや自分の努力も報われたことだし。

「このリンゴアメ、おいしいね」
「そうか」
「一口食べてみなよ」

なまえはリンゴアメを徹平に向かって差し出す。「俺はいらねぇからやる」と言っていたけど、せっかく徹平くんがもらったんだし…と思ったのだ。しかしこれって間接キスになるのでは、と徹平は一瞬だけ躊躇する。だがなまえが気を使っているのだということも分かっていたので、身をかがめると差し出されたリンゴアメをかじった。

「ん、甘ぇ」
「あっ、」

ガジ、とリンゴアメをかじると飴の部分の甘さが口の中に広がる。口元についた飴のかけらを指で擦ると、それを見ていたなまえはようやく間接キスになることに気づいた。

「何だよ」
「い、いや…間接キスになっちゃったね……」
「お前なぁ……」

間接じゃなくてもキスしてるだろ、気づいてなかったのかよと言えば、顔を真っ赤にしてなまえは恥ずかしいこと言わないで!と反論する。かなり恥ずかしそうにしているなまえはかわいいが、こっちまで恥ずかしくなる。徹平は顔を反らした。


そうしてゆっくりと屋台を歩いて見て回る。進さんがまだ金魚すくいやっていたのを発見するが見なかったことにした。なるべく人混みを避けながら、浴衣で歩きにくいなまえに配慮しながら手を引いてゆっくり歩く徹平。そんな彼の優しさやミントのためにちゃんと報酬を残しておく律儀さに、やっぱり彼が好きなんだとなまえは思う。

「なまえ」
「ん?」
「言い忘れてたけどよ……その浴衣、似合ってる」
「!」

かわいいな、と照れたように笑う徹平くんの笑顔は私にだけ見せてくれる永久保存版だ。うれしくて、でも恥ずかしくて顔が熱くなるのを感じた。恥ずかしがりながらもなまえが彼の笑顔に見とれていると、パンッ!と花火の上がる音が聞こえる。

「お、花火始まったな」
「すごい、きれー!」

打ち上げ花火が始まったことにより、2人の視線は空の上に向けられた。夜空に浮かび上がる火の粉はとても綺麗だ。

「……こうして一緒に花火見れてうれしいな」
「ああ、来年も見ような」
「うん、約束ね!」

指切りしようと小指を差し出せば、一回りくらい大きな小指が絡められた。また来年もこうして一緒に過ごせますように―――。その約束をしかと聞き届けたよと伝えるかのように、一際大きな花火が空に咲いた。




タイトルはAerosmithの曲名から。
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -