06 オインゴのクヌム神


前略。

シャワールームに忘れ物を取りにいったら、餌の女達がいてめちゃくちゃ怒られた。そして慌てて逃げたら覗き野郎!と怒り心頭の彼女らに追いかけられている。災難だ。

そしてそんなオインゴはその女性達にバレないように彼女達と同性である館の住人、ナマエに化けた。これでしばらくは撒ける…!そしてその内に彼女らはDIO様との戯れの時間を思い出して戻っていくだろうとオインゴは考えた。

しかしそのデメリットについては本人と遭遇すること以外あまり深く考えていなかった。―――そう、例えばナマエと絡みがある人物と遭遇するとか。


「ああ、よかったナマエ。ちょうどいいところに」
「へ!?な、なな何だ!?」
「?……なんか、いつもと違いますね」

後ろから呼び止められて思わず素に戻ってしまったオインゴは振り向くも普段通りに返事をしてしまう。しかし、その答え方にテレンスは違和感があった。なんだかいつもの彼女らしくないと思ったのだ。それを感じたオインゴは慌てて言い換える。

「そ、そんなことね…ないわよ」
「1887年のワインを持ってきてもらえますか?DIO様がご所望だ」
「分かったわ、よ」

なおもいぶかしげに見つめているテレンス。こいつなんて勘が鋭いんだ!いや、それとも普段どんだけナマエのこと見てんだよ!好きなのか!?好きなのか!?


「……ナマエ、なんか背がかなり高くなってませんか?」

いつもと服装が違いますしナマエにしては高すぎると思うんですが……と悩むテレンス。大正解だ。そして正論だ。そして早くここをやりすごして変身を解きたい。

「いや、これはいつもよりヒールを高くしてるん……の!」
「…へえ」
「じゃ、じゃあ私はこれで……ッ!?」

オインゴが会話を切って帰ろうとした時に執事に手首を掴まれる。

「本当にナマエですか?いつもと雰囲気違いますよね」
「な、何を言ってるの?私に決まってるじゃない」

なおも怪しいと思っているのか疑うような瞳で見るテレンス。ああもう早く帰してくれ!しかしここで執事は爆弾発言をした。



「……なら、この間の返事、聞かせてもらえますか?」

サラリと指先で髪の毛を撫でられ、じっと見つめられる。テレンスの瞳はいつになく真剣な、しかも愛おしげに見つめるような優しいものだった。執事の見たことのない仕草や瞳に、気持ち悪いとオインゴは密かに思った。

「返、事…?」
「ええ。この間ゲームをした時に告白したでしょう?」

忘れたとは言わせませんよと執事は詰め寄ってくる。やめろ、おれは男に詰め寄られる趣味はねーんだよ!というかコイツ、ナマエに告白してたのかよ!!?意外すぎるだろダービー弟!

「聞かせて欲しいんです、あなたの気持ちを」

うおおおお、やめろ!迫ってくんじゃねえ!迫ってくるテレンスから顔を背けて尋ね返すオインゴ。やべえ、気持ち悪い。鳥肌立ちそうだ。

うおおおお、なんで告白された時に答えねえんだよナマエ!どうすんだよこの状況!どう答えりゃ正解なんだよ!知らねえよ!!



「さ、最低ッ!このサイコ野郎!!」

ナマエは我慢できなくなって叫んだ。目の前にいる彼女からではなく、背後から聞こえた彼女の声にテレンスは驚いて振り向く。彼女に扮したオインゴはまずいと思った。やべえ!本物と出会っちまった!どう弁解すんだよこれ!!!

「えっ、ナマエ!?」

本物のナマエを前にテレンスは困惑した。しかし、目の前にいる彼女よりは背後から叫んでいる彼女の方が、本物のナマエのように思える。目の前の彼女に少し違和感のあった理由が分かった。本物のナマエではないからだ。

「テレンスのバカ!私に告白したくせに!それなのに他の人を口説くなんて、私のこと、やっぱりからかってたんだわ!」
「ちょ、違ッ…!」

勘違いしたままちょっと違う観点で怒り、一方的にまくしたてるナマエにテレンスはなんと言うべきなのかあたふたしている。おお、こんな執事初めて見たぜ…とオインゴは驚いた。

「からかって笑い者にしてたんでしょ!」
「それは違う!」
「ナマエ!早く答えてやらないおまえが悪いんだぞ!」

唇を噛み締めて涙をこぼしながら怒るナマエに対し、テレンスは否定の言葉をはっきりと叫んだ。そして彼の言葉に重ねるように彼女に扮したオインゴが叫ぶ。その言葉にナマエもテレンスもオインゴを見つめた。

「早く答えてやれよ!」

そうだ、そもそもナマエが早く答えてやれば、こんなことにはならなかったんだ!おれが執事の恋愛事情に巻き込まれるっていうことにはな!

「ッ…!だ、誰だか知らないけど私の姿で悪さするのはやめてよね!」
「ごもっともです、すみません」

というか変身解きなさいよ!と唸るナマエ。だがしかしここで変身を解く訳にはいかない。なぜなら変身を解いたら完全に女装している変態にしか見えないからだ。あと他の女どもに追われているからだ。


「…ナマエ、聞かせて下さい」

オインゴによる偽ナマエから離れて、本物のナマエの方へ歩いていくテレンス。先程のオインゴの言葉に勇気づけられたのか、歩みやまなざしに迷いはない。

「私は本気であなたのことが、好きなんです」

ナマエの手首を掴んで自分の方へと引き寄せる。そして耳元で、あなたの気持ちを知りたいと甘く囁かれた。恥ずかしさで胸がいっぱいだが、どうやらテレンスが本気であることは間違いないということは伝わった。


「……すき、です」

テレンスの告白に、耳まで真っ赤にしながらナマエはかなり恥じらいつつも今度はしっかりと答えた。彼女の答えにテレンスはうれしそうに微笑む。

そしてナマエのやわらかな身体を抱きしめると、真っ赤にしている彼女の顔を自分へ向けさせてそっと唇にキスをした。

「…はやすぎない?」
「随分待ちましたから」

テレンスは笑ってまた額にキスを1つ。幸せな雰囲気で微笑み合う2人。―――このままひっそりと姿を消してずらかろう。オインゴはひっそりと足を1歩踏み出した。しかし2人に見つかってしまう。




「……で、あの不審者どうするの?」
「スタンド使いの可能性が高いので、倒して追い出しましょう」
「おおおおい!おれだよ!オインゴ様だ!」

戦闘態勢に入ったテレンスとナマエ、オインゴはヤケになって変身を解いて正体を明かした。ただの女装している姿になった彼を見ても、2人の不審者を見る目は変わらない。

オインゴは弁解するもむなしく、その場から自分の部屋へ逃げ、2時間眠った……そして目を覚ましてからしばらくして自分の痴態を見られたことを思い出し、泣いた。
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