04 ナマエのハート


!ヒロインのスタンド固定です
!スタンド名は「ハート」で、能力は「スタンドで触れた後、最初に見た人を好きになる」です





それはDIO様から頼まれたワインをワインセラーから運び出している時のことであった。ちょうど廊下の曲がり角を曲がろうとしたところで、向こう側からやってきたヴァニラにぶつかりそうになったのだ。

「わっ…!」

ナマエは急に出てきた存在に驚いてこけそうになり、ワインを取り落としそうになる。まずい、年代物のワインを落として割ってしまったなどになったらどうなるか…と彼女はとっさの判断で自身のスタンドを出して転ばないようにワインと自身の体をかばう。

「大丈夫か、ナマエ」

感情の見えない瞳でナマエを見つめるヴァニラ。彼女がスタンドを出して支えていたと同時にヴァニラも彼女が転ばないように彼女の体を腕一本で支えていた。そして彼のその腕にスタンドが触れてしまっていたことには2人とも気づかなかった。

「う、うん…大丈夫」

ナマエはヴァニラを間近に感じてなんだか気恥ずかしくなり、彼から離れようとする。しかし彼の腕がそうはさせなかった。むしろ強い力でグッと彼の方に抱き寄せられた。

「ナマエ、何故逃げる」

腰に回された手で身体をきつく抱きしめられ、逃れられない。今までに見たことのないような甘い瞳で見つめられ、空いている手で頬を撫でられてそのまま顎を持ち上げられる。

「…え?」
「俺はこんなにもお前のことを想っているのに……」

明らかに様子がおかしい。いつもの彼とは全く異なる態度だ。腰を撫で上げられ、まるで自分を口説くような甘い束縛めいた台詞を彼の唇は紡いでいた。


(も、ももももしかして、スタンド触っちゃった―――!!?)

これはまずい。非常にまずい。もう1度スタンドで触れたいけど、妙な動きを見せたら本当にやらかしそうだ。いや、この人なら絶対にする!怖い!!

「…でぃ、DIO様にワインを届けなきゃいけないから!」

自分を口説き始めたヴァニラに対し、ナマエはそう早口でまくしたてて、彼がDIOという言葉に反応して固まった一瞬の隙をついて彼を突き飛ばす勢いで両手で彼の胸を押して脱兎のごとく逃げ出した。




「……で、どうして私のところに来たんですか」

今までのことの顛末をテレンスに話すと、明らかに面倒くさそうな、不機嫌な顔をされた。

「だ、だって、こんな時に頼れるの…テレンスしかいないんだもん」
「すぐにDIO様に相談にいけば良かったのでは?」
「あの方にこんな失態見られたくない……」

自分のスタンドで自分の貞操が危うくなっているところなんて見せられない。こんなことがあの方の耳に入ってしまえば直ちに配下失格だ。そうなれば役立たずだと言われ、最悪殺されるかもしれない。

しゅんとしているナマエにテレンスは意外にも優しかった。惚れた弱味というやつだろうか、なんとか彼女の力になってやりたいと思ったのだ。ぽんと彼女の頭に手を置いたかと思えば、なでなでと優しく頭を撫でられる。

「…分かりました。一緒に作戦を練りましょう」

まずはあなたのスタンドの射程距離に入らせるところからですねとテレンスは続けた。

「うん。……ありがとう」

やっぱりテレンスは頼りになるなあとナマエは気を持ち直す。そして彼女の安堵したような表情にテレンスが心を奪われた瞬間、ガオンッという音が聞こえると同時に壁に穴があいた。


「ナマエ、何故他の男の部屋になどいる」

お前が見ていいのは俺だけだ、とヴァニラは獲物を狩るような瞳をナマエに向ける。そしてその鋭い瞳はテレンスにも向けられた。ヤンデレ怖い、とさすがのテレンスもヴァニラの普段見たことのないような激情を孕む瞳に恐怖を感じる。

―――これはまずい。嫉妬に狂った奴は所構わずスタンドでナマエとの恋路を邪魔するものは亜空間に消し去るだろう。そしてこれを止められるものは1人しかいない。

「…ナマエ、DIO様のところへ行きますよ」

テレンスはそっと彼女に耳打ちして後ろ手で部屋のドアを開ける。DIO様のところなら絶対に安全だ。開けたドアからテレンスはナマエを連れてDIOの寝室へと全力で走った。





「……ふむ、それで私の所へ来たということか」
「私の不手際で申し訳ございません」

恐ろしい形相で追いかけてくるヴァニラから必死で逃げ、DIO様の部屋まで無事逃れた。そしてナマエは自分の失態を説明した後、主に渡すためのワインを渡せないで抱えたまま情けなさに唇を噛んで俯く。そんな彼女のところへDIOはザ・ワールドを使って一瞬で寄り、彼女の顎に指先を添えた。

「そう俯くな、ナマエ。優秀な部下を失うのは私も心苦しい。なんとかしよう。それに……君の能力はとても素晴らしいものだよ」

DIOは彼女の腕の中からワインを抜き取り、指先で顎をあげる。DIOの美しい瞳がナマエを見つめた。吸い込まれそうな魅力にナマエはただ顔を赤くして絶句しているだけだった。

こんなところ、ヴァニラにでも見られでもしたら…とテレンスは横目で主とナマエをチラリとみやる。その視線に気づいたDIOはテレンスの方へと顔を向けた。

―――ナマエが最初に頼ったのがテレンスということは…ナマエはテレンスにかなり心を開いている証拠。そして普段冷徹なテレンスも彼女と一緒にくるということは、テレンスも憎からず思っているのだろう。今のヴァニラの状態があまりおもしろくないはずだ。

そこまで考えてDIOは意味深にフッと口元に笑みを浮かべると、彼女の顎から手を離した。そしてナマエの耳元でスタンドを出して自身の目の前で構えておくように囁く。ヴァニラの気配を部屋の外で感じたのだ。そしてDIOの予想通りノックが三回聞こえ、ヴァニラの声が通る。

「DIO様、失礼致します。ナマエがそこにいるでしょうか?」
「ああ。……入れ、彼女に用事だろう?」

ヴァニラの声が聞こえ、ナマエは身を硬くしつつも自分のスタンド”ハート”を出現させた。DIOの許可が出るとヴァニラはツカツカと彼女の元へと歩み寄る。その様子をハラハラしながら凝視するテレンス。DIO様はなんとかすると仰っていたが、下手をすれば自分は消される。

「ナマエ…何故DIO様に迷惑をかけてまで逃げる?そんなに俺が嫌なのか?」

ヴァニラは術にかけられたかのような甘い瞳でナマエを射抜くように見つめた。そして彼がスタンドを出そうと構えた瞬間、DIOはスタンドを出して静かに告げる。

「ザ・ワールド、時よ止まれ」

時を止めているその間にDIOはヴァニラの身体を動かし、ナマエのスタンドに触れさせた。そしてスタンドを解除し、止まっていた時を進ませる。その瞬間、ヴァニラは再びナマエのスタンドに触れ、彼にかけられていた彼女の術は解かれた。


「……!?」

その瞬間、彼の瞳はいつもの瞳に戻り、驚いた表情でナマエを見つめる。

「ヴァニラ、本来のあなたを奪ってしまってごめんなさい」
「いや、大丈夫だ。……俺こそすまなかった」

力こそないが、強烈なパワーを実感したヴァニラは気まずそうにナマエから離れ、頭を下げた。DIO様もご迷惑をおかけして申し訳ございません、とヴァニラは頭を下げる。俺が一番巻き込まれたんだが、と存在を忘れ去られているテレンス。



そんなこんなで一件落着し、各自、今まで取りかかっていた各々の仕事に戻る。何かあったらまずいから、とテレンスにナマエと共に戻るようDIOは告げていた。もしかしたら自分の気持ちがお見通しなのではとテレンスは少し気まずさを感じる。

「……あの、テレンスも、巻き込んじゃってごめんね」

戻る道すがら、ずっとむすっとした顔をしているテレンスの様子を伺いながらナマエは謝る。謝るタイミングを逃していたのと、ずっと無言でいられるのがなんだか気まずくて耐えられなかったのだ。

「全くですよ。今回は一緒にいるのがまだ私だったからよかったものの、次は勘弁して頂きたいですね」

あんなヴァニラはもう2度と見たくないものですとテレンスは言う。ヴァニラの様子が恐ろしかったのもあるが、他の男が彼女に言いよっているところなど見たくもない。―――わざとでも冷たい言い方をしないと嫉妬で狂いそうだ。


そんな彼の気持ちなどつゆ知らず、ナマエは彼が自分に冷たく言い放つのが気に食わなかった。そんなに怒ることないじゃない、もっと優しくしてくれたって――と。

――あ、もしかしたらテレンスも私に優しくしてくれるかもしれない――そんな淡い期待を込めてナマエはスタンドで試しにテレンスの肩に1度だけ、彼にバレないようにそっと触れた。すると彼はバッと彼女の方を振り向く。

すかさずナマエはパッとスタンドの両手を上にあげさせた。まるで何もしてませんよと言わんばかりに。

「……何やってるんですかナマエ。遊んでいる暇があったら図書室の掃除をお願いしますよ」

しかし彼女の方に向き直ったテレンスは呆れたようにそう言う。そして彼女とヴァニラに背を向けて客室のセッティングをしに向かった。―――どうか彼女にまだ自分の気持ちがバレませんようにと祈りながら。自分から伝えるその時までは、彼女は知らなくていい。


(あれ??どうして変わらないんだろう……?)

スタンドで触れたというのに彼の態度はいつもと変わらない。自分に迫ってくることもなかった。

まさか好きな人にも冷たくする感じなの?それとも最初に見たのが私じゃなかったとか?頭にクエスチョンマークを浮かべるも謎は解けないままだったのでナマエはひっそりと彼の肩にスタンドを触れさせて能力を解除させた。

―――ま、いいか。それよりも図書室の掃除を押し付けられてしまったことの方が問題だ。あそこに張っている蜘蛛の巣はやっかいだ。はたきを取りにいかないと、とナマエも掃除道具を取りに向かった。




一方別室へ行ったヴァニラ・アイスといえば、ナマエの姿を思い出すと胸の動悸が未だに収まらず胸に手を当てたまま動けなかった。

(なんだこの違和感は―――まだ胸がドキドキするが後遺症が残っているのだろうか)
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