Look At Me Now


「なんでテレンスってお兄さんと仲悪いんだろ?」

たまたま用事があったとかでテレンスの実兄であるダニエルが屋敷にやってきた日のこと。

口論しているのを見て止めにかかった後、兄とは昔から気が合わないと愚痴を言うようにこぼしたテレンスの意外な側面にびっくりしたのだ。

しかしその素朴な疑問がまさか自分を地獄に突き落とすことになるとは想いもしなかった。


「さあ…?でもこの前ダービー弟が言ってたんだけどさ、昔ガールフレンドに兄貴が手を出したことがあったんだってさ」

それからずっと許せないんじゃない?とマライアは興味がなさそうに軽い口調で言った。しかし何気なく明かされたその事実に、ナマエはまるで頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。


過去にガールフレンドがいたっておかしくはない。兄弟が仲違いをした理由が女性関係であったことということ……それがショックなのだ。未だ仲が悪いのは今もそのガールフレンドのことをを好きだからではないのか。

ナマエの頭の中は黒い感情でぐるぐると渦巻いていた。



DIO様が起きてこられる時間に向けてナマエはテレンスと共に再び屋敷の清掃に取りかかっていた。テレンスを見る度に兄弟の仲違いの原因について考えてしまう。いやだ、マライアと話した内容がまだ頭の中に残ってる。

お兄さんのことを未だに許せないのは、そのガールフレンドを今も好きだから―――。だったら、彼の気持ちが私に向くことなんて一生ないんだ。正直に言えば、今もテレンスの心をつかんで離さない彼女がうらやましくてたまらない。

ナマエは視線を箒に落とし、唇を噛んだ。報われない恋をしている自分が嫌だったのだ。そんな時、テレンスの声が聞こえる。

「浮かない顔をしてどうしました?」
「そ、そんなことないよ」
「いや、随分と悲壮な顔ですよ。何かありました?」
「何にもないよ」

あなたに話せるようなことなんて何もない。テレンスの気持ちが私に向くことなんてないのだから、話したって意味がない。ナマエは無理矢理笑みを作った。会話を流そうとするが、テレンスはそれをさせない。

「いつものあなたらしくない」
「…何よそれ。いつも私のこと見てるみたいな言い方」
「その通りですが?」
「………は?」

さらりと放たれたテレンスの言葉にナマエは思わず掃除の手を止めてしまった。えーと、えーと、ちょっとした変化も分かっちゃうほどテレンスがいつも私を見てるって……。何それ、うぬぼれてもいいのだろうか。


「いつもあなたを見ていると言ったんです。何ですかその反応は」

私はいつもあなたを見ているのに、あなたは私の視線に気づかないようですけどね、と皮肉をこめてテレンスは言う。彼も掃除の手を止めてナマエに向き合った。

「え、あ…あの、それってどういう意味……?」
「そのままの意味が分からないほどあなたは馬鹿ではないでしょう」

突然の展開についていけない。ガールフレンドの話はどうなったのだろう。というかいつも自分のことを見ていたのか、気づかなかった。ナマエが1人脳内で考えているとテレンスの声がすぐ近くで聞こえる。

「ナマエ、あなたのことが好きです」


テレンスからの突然の告白にナマエは驚いてしまった。彼の気持ちが自分に向くことはないと思っていたからだ。とてもうれしい。

……が、素直に受け止めきれない。やはりマライアの話が気になる。未だに忘れられないほど好きな人がいるのに、何故告白なんてするのか。ナマエは戸惑って慌ててテレンスに尋ねた。

「え、ええッ、ちょっと待って、あの、テレンス、ガールフレンドは?」
「ガールフレンド?今そんなものいればあなたに告白なんて不誠実な真似しませんよ」

ちょっと子憎たらしい表現だけどテレンスらしい誠実な答えに思わず胸がキュンとする。どうしよう、ちょっとうれしい。ドキドキしながらもやはりマライアが言っていた話が気になった。


「そ、そうじゃなくて…まだ、好きなんじゃないの?」
「過去のガールフレンドが?」
「うん。だって、昔そのことでお兄さんと喧嘩したって聞いて……今も仲良くないみたいだし、」

確信が得られずまだ不安が残るナマエが俯いてしどろもどろになりながらブツブツと言っている。そんな彼女にテレンスはあきれたような表情でため息を吐いた。

「……その話誰から聞いたんですか。いいですか、確かにそのことで揉めて兄をボコボコにしたことがありますが、あの女には何の未練もありません」

きっぱりと言ってのけるテレンス。彼の言葉に嘘はないだろうと分かり、なんだかとても安心した。全然報われない恋ではなかったのだ。

……しかしそれにしても、お兄さんボコボコにされてしまったのか。見かけによらずなんて野蛮なことをするんだこの男は。ナマエは少し驚いた。

「兄のあの態度が気に入らないだけですよ」

私にとってはあのことはもう過去のこと。兄とは元々相容れないんですとテレンスはわざとらしくため息をつきながら言った。


「じゃあそのガールフレンドのことが今でも好きだからお兄さんと今も仲良くないってことは……」
「ないですね。それともあなたは私のことを、過去のことをいつまでも引きずっている、そんなに女々しい男だと思っていたのですか?」
「………」

なぜか若干小馬鹿にされているような感じで言われたのは気のせいだろうか。テレンスなら過去を引きずること、ありえないでもない気がする。でもそれを言うと面倒くさいことになるだろう。ナマエは何も言わずに黙っていた。

すると、もういいですかと言われて手首を掴まれたかと思えば彼の方に引っ張られる。そして気づけばナマエはテレンスの腕の中に居た。


「今はナマエ以外考えられない」
「…!」
「あなたが好きです、ナマエ」

私の恋人になって下さい、と微笑んだテレンスの表情は男のくせに綺麗な顔だと思った。恥ずかしくて小さな声で「はい」と答えると彼はうれしそうに笑った。



タイトルはFionaの曲名から。
テレンスって何か一言余計めに言いそうなイメージ。
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