03 アレッシーのセト神


「!!!」

驚きつつも、天使のような愛らしい存在を前にテレンスは声を失った。かわいい!なんだこれ天使か!かわいすぎるだろ!

あまりの興奮に固まっているテレンスの目の前には5、6歳くらいのかわいらしい幼女がいる。



「天使みたいだね。…襲うなよ」
「誰がするか!」

目の前のかわいすぎる幼女を一緒になって覗き込んでいたダニエルが弟に釘を刺す。その瞬間、ドスッと音がしたかと思えば、テレンスの拳がダニエルの腹にめりこんでいた。


「それにしてもこの幼女は一体誰なんだ……」
「顔や髪の色、雰囲気からして……ナマエに似ている気が」
「だろうね。今、彼女だけいないし。」

同じように覗き込んでいたヴァニラが問題の幼女について尋ねる。おそらくナマエだろうとテレンスが憶測し、復活したダニエルも同意する。

「……となると犯人は、」

アイツしかいない、ということで全員の意見が一致した。ダニエルとテレンスは小さくなったナマエを見守る係に、ヴァニラは犯人を連れてくる係になった。





「見つけたぞ、犯人」

それから数十分後、ヴァニラは片手に1人の男の首根っこをつかんで引きずりながら再びダービー兄弟の元に戻って来た。

引きずられてきたのは、おそらく元凶であろうスタンド能力を持っているアレッシーだった。よほど怖い思いをしたのだろうか、アレッシーは意識はあるが既に泡を吹いている。

「どうか、い、いい命だけは……」
「やはりあなたでしたか」

片腕に幼女になったナマエを抱きながらテレンスはアレッシーを睨みつける。部屋の隅っこには膝を抱えて座っているダニエルがいた。異様な光景にヴァニラは思わずつっこむ。

「おい、ダービー兄に何があった」
「心理的にショックを受けただけですのでどうかお気になさらず」

何かしたのかと怪訝そうに尋ねるヴァニラに、テレンスはさらりと流してしまう。至極どうでもいいとでも言いたげだ。本当に何があったんだとヴァニラはテレンスを見た。

「心理的ショック…十分大事だろう」
「10歳にも満たない幼じ…少女から見れば30歳はおじさんでしょうに」

一体何を今更ショックを受けているのやらと呆れた様子でテレンスは冷たい視線を実兄に向ける。幼少時に戻ったナマエが初めましての挨拶をした時、彼女はダニエルに向かって「おじさん、だれ?」と聞いたのだ。テレンスがその時のことを話すとヴァニラは何とも言えない気持ちになった。


「……早く彼女を元に戻せアレッシー」

これ以上悲劇を生む前に彼女を元に戻してもらわねばと思ったヴァニラはアレッシーに言う。彼は頷いたが、テレンスによってそれは遮られた。

「待って下さい!もう少し堪能させて下さい!」

ダメだコイツ、早くなんとかしないと……とヴァニラは心の中で思った。いや、必死過ぎるだろ。どれだけナマエが、いや幼女が好きなんだよ。

「せっかくなので服を作って着せ替……いえ、せめて少し楽しんでからにして下さい!!」
「ダービー弟、余計に誤解を生む表現をしているぞ」

DIO以外のことでは比較的常識人であるヴァニラが冷静に諭すも、ヒートアップしたテレンスは理性を失い、アレッシーにすごんでいる。すごまれたアレッシーは頷くほかなかった。

しかしナマエの身を案じたヴァニラがテレンスに反対し、折衷案で今日中にはスタンド能力を解くということで話はまとまった。




「ああ、やっぱりよく似合いますね…!」

どんな服を着ても人形のようにかわいらしいナマエにテレンスはほう…っと感嘆する。話がまとまった後、テレンスの部屋でファッションショーが行われていた。

部屋にはテレンスと小さくなったナマエの2人だけ。人形用に前々からあたためていた洋服案を元にミシンで一気に作り上げたテレンスの脅威の才能にもはや誰もつっこむ者はいない。

「ほんと?」
「ええ、まるでどこかの令嬢のようだ。可憐でとても素敵ですよ」
「どういう いみ?」
「あなたがかわいいという意味です」

興奮しているのを悟られないように冷静に装うが、顔を赤らめて少し息を乱してテレンスは言う。明らかに変態の表情だが、ナマエは言われ慣れていない言葉を言われ、うれしくて恥ずかしくて顔を赤らめている。

「あ、ありがと…テレンス」

照れながらも笑顔でお礼を言うナマエ。天使とはこういうことを言うのだろうとテレンスは思った。いつものナマエもいじめがいがあっていいのだが、こういう素直な反応も悪くない。

「こちらもどうですか?」
「うん!」

フリルやリボンをあしらったかわいらしい洋服を見せると、ナマエも楽しいのか笑顔で返事をしてくれた。天使だ。この頃の彼女を知らなかった自分が憎い。


「テレンス、きがえたよー!」

今この瞬間の幸せをかみしめていると、着替えが終わったナマエが出てきてくれた。自分の作った服を着こなしている彼女が本当に愛らしい。あまりの愛らしさにテレンスは本日何度目かの息をのんだ。

やはり自分は彼女のことが好きなのだろう。この愛らしい雰囲気は大人のナマエそのものだ。いつもは言えないが、好きだと素直に言えたらどんなにいいだろう。

「テレンス?」

ナマエに名前を呼ばれてテレンスはハッと我にかえった。心配そうに見つめてくる彼女の瞳は大人の時の彼女と変わらない。

大人に戻った彼女には、今の関係が崩れてしまうことを恐れて告白はきっとできないだろう。卑怯かもしれないが、何も知らないうちにこっそりと伝えておきたい――そう思った。そしてテレンスは意を決してナマエの手を取り、名を呼ぶ。

「……ナマエ」
「なあに?」

彼女の身体を引き寄せ、頬に手を添えた。幼女特有のやわらかな感触が伝わってくる。愛おしげに彼女を見つめ、顔のラインをなぞるようにゆっくりと手を動かすと、愛らしい瞳が自分を見つめ返してきた。

「どんな姿でも、あなたを愛しています」

コツリ、と彼女の小さな額に自分の額を軽くくっつけ、離す。テレンスの告白に、愛を知らない少女の愛らしい瞳が不思議そうにテレンスを見つめていた。

――本当に、なんて愛おしいのだろう。テレンスは彼女にキスをしたくなったが、さすがに幼女の唇にキスをするのは気が引けて額にそっと唇で触れる。

そして次に唇を離しナマエの瞳を見つめた時、彼女にかかった魔法が溶け始めた。

「!!?」

彼女の身体がぐんぐんと大きくなり始めたのだ。アレッシーが自らスタンドを解いたかヴァニラあたりにメンタル的な意味で再起不能にされたのだろうか。

いきなり大きくなりはじめ、今着ている幼女用の服はすぐにサイズが合わなくなった。テレンスが目を見開いていると、大人のサイズに耐えきれずに服が弾け、ところどころ際どい格好になった成長したナマエが目の前に現れる。



「!?ッ…きゃああああ!へ、変態!」

幼児期健忘のせいか幼女になっていた間の記憶はないが、今の自分の置かれた状況を即座に理解したナマエ。彼女は羞恥で顔を真っ赤にしながらテレンスの顔をひっぱたいた。

今の格好でどっちが変態だよと思いつつも、幼女用の服を作って着せた本人としては何も言えなかったテレンスだった。彼の想いが彼女に届くのはまだまだ先になりそうだ。
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