Allied Forces
「ねーねー、ヒル魔っていう人はどんな音楽好きか知ってる?」
「うーん…私は知らないなあ。本人に聞いてみたら?」

アメフト部のお手伝いに来てくれたなまえの唐突な問いを、まもりは作業をする手を止める事なく返事をした。するとなまえの身体、表情、その他諸々が固まった。彼女のそんな様子にまもりは首を傾げる。

「ちょ、まも…それ本気で言ってるの?」
「?」

ヒル魔と高校時代から付き合いのあるまもりはきょとんとしている。

「チキンハートな私には無理だよ!だってあの人、やってることがめっちゃDQN(不良)っぽいじゃん!」
「ど、どきゅん…?」

DQN(不良)はメタラーの敵だよ!なんて意味の分からないことをわめているなまえにまもりはクエスチョンマークを頭の上に浮かべる。

「銃ぶっ放してるし、色んな人脅してるのこの目で見たし…怖いよ!銃刀法違反だし恐喝罪で捕まるだろ!警察どうした!」
「怖くないわよ。…確かにちょっと横暴なところはあるかもしれないけれど、とても頼もしいし信念の強い人よ。悪い人じゃないわ」

まもりは苦笑してそう言ったその時、背後から声が聞こえた。


「へー姉崎サン、俺のことそう思ってたんデスネ」

わざとらしい片言のような言葉で会話に混じってきたのは話題にしていたヒル魔だった。

「!!!」
「ちょ、ちょっとヒル魔くん、脅かすのやめてよね!」

突然出て来たヒル魔にビビるなまえ。そして話の内容を聞かれていたことを知って少し恥ずかしがりながらも毅然とした態度で抗議するまもり。ヒル魔はそんな彼女の抗議をいつものことと慣れた動作で流す。



「……で、俺がなんだって糞メタラー?」

ゴゴゴゴゴ…とどす黒い妖気を醸し出しながら、それはそれは綺麗な動作でスッと黒い手帳を取り出した。台紙にはカクカクした文字で脅迫手帳というやたら怖い単語が書かれている。うわーん怖いよ、助けてー!となまえはまもりの背後に隠れた。全く意味はない行為なのだがなぜかそうしてしまった。

「ヒル魔くん、なまえはヒル魔くんの音楽的嗜好が気になるらしいわ」

まもりはなまえのフォローに入り、同意を求める。彼女はコクコクと小さく頷いた。

「あ?何だそりゃ?」

拍子抜け、と言わんばかりにヒル魔はクエスチョンマークを頭に浮かべる。ええい、この空気に乗じてもう聞いてしまおう。まもりもフォロー入れてくれたし!まもりと話す時は比較的穏やかな雰囲気になることに気づいたなまえは勇気を振り絞る。


「……あなたの好きなバンドを教えて下さい」

ぎゅっと拳を作って握ってなまえはヒル魔に訊ねた。彼女のその質問が彼にとっては意外な質問だったようでぽかんとしている。その一瞬の沈黙さえも気まずくて、不安感情が高まっているなまえは沈黙を埋めるべくしてぺらぺらと喋りだした。

「いや、あの、いつもカッコイイデザインのTシャツ着てるし、基本黒い服着てるし、ファッキンってよく使ってるし…もしかしたら同族かなと思いまして……」

怖くて思わず丁寧な言葉になる。しかしこれ以上話すことがなくなって、なまえは蛇に睨まれたカエルのように緊張して萎縮しながら黙ってヒル魔を見つめた。するとヒル魔は穏やかな口調で答える。

「……Linkin Parkとかだな。因みにメタルは嫌いじゃねえが詳しくねえ」


パチパチと何度かまたたきをしてなまえはヒル魔を見た。そんな彼女にまもりは"嫌いじゃないっていうのはわりと好きっていうことよ"と、ヒル魔に聞こえないようにこっそり耳打ちしてくれる。

「…っ、マジか!え、っていうか本当に!?」

ひと呼吸置いて勢いよくなまえは食いついた。

「嘘言ってどうすんだ。何度も言わせんなこの糞メタラー」

ガシャコと銃を構えだしたのであまり騒ぐと銃弾の餌食にされると悟ったなまえは大人しくなった。しつこいのは嫌われるもんね!

「そういえばヒル魔くんはどうしてなまえがヘヴィメタルのファンだって分かったの?」
「Tシャツ。…まあ、あとは脅迫手帳か」

訊ねるまもりにヒル魔はプーッとガムをふくらませながらなまえの着ている派手なプリントのある黒いTシャツを指さした。なるほど、確かに彼女の着ている服は見る人が見たら分かるのねーなんてまもりは感心している。


「……DQNとか思っててすみませんでした。あと友達になって下さい!」

なまえはバッと勢い良く頭を下げた。メタルもわりと好きかもしれないと分かった瞬間、積極的になった彼女のこの態度の変わり様にヒル魔とまもりは少し驚く。


「フー…ならヒル魔、僕も友人希望だ」
「どっから出てきた!?」

さりげなくなまえの横から突如にゅっと出てきた赤羽に驚いて、なまえは思わずつっこむ。

「今日はJUDAS PRIESTのTシャツかい?」
「そうだよ〜って、話聞けよ!」

どこまでもフリーダムな赤羽。この糞メタラーは自由人だと感じていたが糞赤目はそれ以上だな…とヒル魔は傍観していた。

「ねえそれより、今までいなかったよね?何さらっと会話に参加してんの!?」
「僕も君とは同族だし、興味のあるコードが聞こえてきたからね」

何を言っているのかよくわからないが、興味のある話題が聞こえて来てホイホイされたということだろう。

「意味分かんない、要するに盗み聞きじゃん!」
「仕方ないだろう、人間はそういう風にできてるんだ。カクテル・パーティー効果って知らないのかい?」
「心理学専攻なんだから知ってるよ!というかそれ今日授業でやったやつ!」

会話の噛み合なさはさらにヒートアップし、話がずれていった。肝心のヒル魔そっちのけで言い合いを始める赤羽となまえ。

「うるせえ黙れ糞メタラーども!」

そんな2人にガガガガガとヒル魔はマシンガンを発砲した。一部始終を見ていたまもりは「なんだかんだで仲良しよね…」と呟いたとか呟かなかったとか。


結局、友達まで一気に発展はしなかったが、ヒル魔と少し打ち解けることはできた。そしてその日、赤羽となまえは密かに"ヒル魔をメタラーに染めよう同盟"を発足した。


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タイトルはTriumphの曲名から。ぶっちゃけ、邦題が「メタル同盟」だったから使っただけという← ヒル魔さんの口調がよく分からな(ry DQN扱いしてごめんなさい、ただのネタであって管理人は1ミリたりともそんなことは思っておりません念のため。あと、ヒル魔さんは洋楽聴きそうだけどどんなジャンルか思いつかなかったので、過去にどこかのサイト様で読んだ中にあったバンドをひっぱってきました。リンキンは「ハイブリッド・セオリー」しか知りませんすみません。
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