One In A Million
「ついに関東大会かー。」

正面玄関で空を見上げてなまえは感慨深そうに呟いた。天気は晴れ、幸先も良さそうだ。

「そういえばうちが出るの初めてなんだよねえ。」
「今年から伸びて来たらしいもんね。すごいことだわ。」

一緒に来たキッドが彼女の呟きに対して重ねる。伝聞の形であるのはなまえがまだ入部して半年くらいであるからだ。

「あっ、なまえ!」

少し遠くから声が聞こえて来たかと思えば、同じマネージャーである比奈がこちらに向かってきている。なまえは手を振って自分たちがいる集合場所をアピールした。

「比奈ちゃん!こっちこっちー。」
「さすが早いわね〜。あ、キッドも一緒にいたのね。」
「最初から居たよ……。」

比奈やキッドと和やかに談笑しながらなまえは他のメンバーが来るのを待った。それから20分もしないうちに監督やメンバーが来たので揃って会場入りする。会場に入ると中は存外広く、壇上にはそれぞれのチームマスコットのマグネットが貼られたホワイトボードと抽選箱が置いてある机があった。

「……それにしても何で全員来る必要があるの?今日は抽選会だけでしょ?」

他のチームも大所帯で来ているのを見てキッドは疑問を口にした。

「ああ、今日は月刊アメフトの撮影会も兼ねてるから。…ありがたいことに西部は結構期待されてるみたいよ。さっきキッドが取材の申し込みされてたことも関係あるでしょうね。」
「はあ…まあ期待されるとロクなことないけどねえ。しょっぱなから疲れたよ。……という訳で陸、抽選行って来て。」

期待されていると知るや否や心底だるそうにキッドは椅子に座り、後輩に話を振った。

「全く、貴方は……。」

相変わらずなキッドになまえは呆れた。でもまあ…そういうところも含めて彼のことが好きなんだけれども。

「どういう訳ですか。いや、先輩方がいいなら行きますけど…。」

先輩のご指名なら仕方がない。逆らえるはずもなく陸はため息を吐く。因みに先輩方もキッドの言葉に乗じて満場一致で陸が行く事になった。


『東京代表、西部ワイルドガンマンズ』

アナウンスで呼ばれると陸は立ち上がって監督とともに、抽選箱の方へと歩いていった。代表者に仕立て上げられてしまった陸が抽選箱からくじを引く様子を少し離れた所から見守るガンマンズ一同。陸がくじを引いて番号を告げると、スタッフの方がガンマンズのマスコットであるサボッテンナーのマグネットを所定の位置に貼った。

「左側か〜。最初だからよく分かんないけど。」
「強いチームはなるべく来てほしくないなあ。」

比奈となまえは結果を見て苦笑いした。1番手でまだ他のところが分からないからなんとも言えないのだ。

「そうだねえ。いきなり神龍寺とかは避けたいねえ。」
「太陽だったらいいけどな。練習試合は勝てたし、データ揃ってるだろ。」
「でもちょっとデータ変わってると思いますよ。ほら、アレ見て下さい。」

ぼやくキッドと牛島。そんな牛島にそう言ってなまえは太陽スフィンクスのメンバーがいる方を見つめた。夏休みに西部と戦った時と雰囲気が少し変わっている。

「うお、本当だ!あれから何か特訓したっぽいなー。」
「でもうちには敵わないんじゃね?」

先輩方が太陽スフィンクスのメンバーを見て口々に言った。その間、陸は西部の方へ戻る途中で泥門のセナくんに話しかけていた。泥門にリベンジしたい選手はたくさんいる。だからこそ…西部が勝てるようにデータを集めておきたい、なまえはその微笑ましい様子を見て思った。

「あ、うちの対戦相手、岬ウルブスみたいね。」
「北海道のチームね。帰ったらデータ確認しなきゃ。」

次々とブロックが埋まっていく中、対戦相手のチームがようやく判明した。


そして撮影会も無事終了した帰り道、鉄馬とキッドと共に歩きながらなまえはぽつりと言った。

「……泥門と戦いたいね。」
「そうだね。…今度は完全勝利の試合にしたいよねぇ。」

隣にいる鉄馬を見てキッドが言うと、鉄馬は力強く頷いた。

「貴方も戦友ともう一度戦いたいんでしょう?」
「さあねえ…なんのことやら。」

なまえはにこりと笑ってキッドに言うが、彼ははぐらかす。

「いつの間にかメアドも交換してたのに?」

くすくすと笑ってなまえは言った。前にまもりちゃんがヒル魔くんは素直じゃないとか言ってたけどそういうところ、彼とキッドは少し似てるかもしれないと思ったのだ。

「なんで知ってるの…。」
「秘密ー。」

やれやれ…と言った風にテンガロンハットを傾けるキッドになまえは笑って言った。キッドや鉄馬くん、それに陸くん…みんなのために私ができることは泥門と戦えるように勝ち続けるために、まずは情報収集をすることだ。特に岬ウルブスと白秋ダイナソーズは情報があまり揃っていないからなんとかして集めて対策を練らないと。2人の様子を見てなまえは改めてそう心に誓った。




それから数日後、抽選会の時に申し込まれた取材のためにキッドは着替えずに部室でインタビュアーの到着を待っていた。

「おい何でキッドなんだよー。」
「各校の代表選手にって言ってましたから。キッドはうちのエースでしょう?」

どこから嗅ぎ付けたのかは知らないが、女子高生ライターが取材するということを知って、不満たらたらな先輩達。

「そうだけどよー。顔くらいちょっと見てみてえって思うだろ?」
「はいはい、インタビューの邪魔になるから早くグラウンドに行きましょう。」

先輩達はゆるがないマネージャーにちぇーと言いながら大人しくグラウンドに出て行った。その時、コンコン、と部室の扉がノックされる音がした。なまえはドアを開けてインタビュアーを迎え入れる。

「あ、はーい。こんにちは、初めまして!」
「は、はは初めまして!熊袋リコと申します。きょ今日は宜しくお願いしますです。」
「こちらこそどうぞ宜しくお願い致します。あ、こちらへどうぞ。」

慣れた動作で来客を迎えてなまえは椅子を引くと、コーヒーをいれに奥へと入っていった。

「こちらこそ宜しくね。」

それを横目で見ながらキッドも椅子から立ち上がると、挨拶する。そしてリコが座った後自分も席に着いた。すると、すぐにコーヒーをいれたカップを持ってなまえは戻ってきた。

「どうぞ。」
「あ、どうもありがとうございます。」
「お砂糖とミルクはお好みで使って下さいね。」

その様子を見つめながら、彼女の細やかな気配りや優雅な動作、優しい笑みに自分はひかれたのだろうと改めて感じる。彼女は一通り取材のための場所をセッティングし終えると、キッドにインタビュー頑張ってね、と一言かけて用具を準備しにグラウンドへと行った。
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