Love Sick
西部ワイルドガンマンズは1回戦、2回戦と順調に勝ち上がっていき、月日が流れるのは早いもので、いつの間にか新緑の季節である5月になっていた。今日は強豪、王城高校との対戦だ。


選手達やチア達、マネージャー達が緊張する中、その前半戦が終わった。

「えーと前半が終わって今、20対7で西部がリードしてます。」

そうナレーションを入れてなまえはカメラを止める。
試合を終えてフィールドからベンチ側に向かってきた選手達のためにドリンクを渡す準備をした。

「みんなお疲れ様でーす!」
「おーみょうじありがとなー。」
「このままガンガン行け!」

なまえはベンチの方にやって来た選手達1人1人ににドリンクとタオルを手渡す。監督はBANG!とエアガンを鳴らした。確かにこのままキッドくんと鉄馬くんのパスが相手に止められなければ行けそうだ。

「はい、キッドくん鉄馬くんお疲れ様。」
「ありがとうみょうじ。」

前半大健闘だったなまえはキッドと鉄馬にドリンクを渡す。ドリンクを受け取るとキッドはロッキングチェアに座った。というか誰このロッキングチェア持って来たの……。

「はー…前半終わって20対7か。」

ギッと音を鳴らしながらキッドはけだるげにロッキングチェアを後ろに傾ける。強豪だと聞いておりミーティングもとりあえずパスな!という雑だったのでなまえは正直不安に思っていたが、なんとかいけそうだ。

「キッドくんのパスもすごいんだけどやっぱり鉄馬くんのレシーブもすごく上手だからだよね。鉄馬くん、後半も頑張ってね。」

なまえが鉄馬にそう言って笑いかけると彼はコクリと頷く。褒められてうれしそうだ…とキッドは感じた。

「本当に息ピッタリですごいなって思ったよ〜。」
「買いかぶりすぎだって…。でも、ま、息ピッタリなのは鉄馬とは付き合い長いからだろうねえ。」

自分が武者小路紫苑だということを知らない元許婚であるなまえにキッドは言う。"キッドとして"振り向かせたいが、本当は彼女に自分が武者小路紫苑だと気づいてほしいのかもしれない…キッドはそう思った。

「そうなんだー。……まあ試合はこの調子なら大丈夫そうね。」

中学時代に2人は出会ったのだろうかと思いながらなまえは彼の意図には何も気づかずに答える。


「王城から20点ねえ…出来すぎだ。良すぎるとたいてい後でロクなことがねぇ。」

キッドはテンガロンハットを顔の上に被せて日差しを避けながら言った。確かに言ってるしあれ本当に口癖なんだ…となまえはこの前鉄馬が教えてくれたキッドの口癖が出たのを聞いて少し口元を緩ませた。

「鉄馬ァ、スラント!」

彼女がそんなことを考えているとはつゆ知らず、キッドは手元に置いてあったドリンクボトルを取ってピッと宙に投げる。それを鉄馬はキッドが指示したルート通りに見事キャッチした。キャッチする際に鉄馬の力が強過ぎてドリンクがボトルからぶしっと溢れ、後でなまえにせっかく入れたのに!と起こられたのはまた別の話。


「やっぱりだな。良すぎる。」

テンガロンハットをロッキングチェアの肘掛けの部分においてキッドは鉄馬を見る。そんな彼らをよそになまえは先輩方の様子を見ながら比奈が出ているハーフタイムショーを横目で見て改めてうちのチアは派手だな……と思っていた。

「元気だねぇー、ウチの監督は。な〜んか後半戦やな予感がするんだよね…。」

ノリが派手な監督を少し老成した目で見るキッド。だからチアの中で年寄りくさいと言われてしまうのよとなまえは若干呆れながらなまえは聞いていた。

「後半もGUN!GUN!攻めるぞ。鉄馬ァ!テメーが肝だ。GUNGUN水分補給しとけよ。」

監督はフッと銃を構えて息を吹きかけると、鉄馬に片方を向けて指令を出すのに対して鉄馬はドリンクを飲みながら頷いた。そんな中、なまえが選手の固まっている所を聞いて回りながら選手の状態を確認する。

「先輩方、お怪我はないですか?」
「ああ、大丈夫だぜみょうじ。余裕だ!」
「それは頼もしいですね。」

様子を見ながら先輩と談笑するなまえをキッドはじっと見つめていた。

「そうだ鉄馬のヤツちゃんと食ってきてんのか?」
「食事メニューまで全部指示しましたよ。」

しかし監督に話を振られてキッドはすぐにそちらの方を向いた。キッドはピラッと食事メニューが書かれた紙を見せる。

「…あれ、鉄馬くんドリンクおかわり?」

先輩と和やかに談笑していると鉄馬に肩を叩かれてなまえは振り返った。鉄馬はコクリと頷く。

「はい、あんまり取りすぎちゃだめよ?一気に水分取りすぎると逆に気分が悪くなるみたいだから。」

鉄馬を気遣いながらなまえはドリンクを渡した。そして中身の入っているボトルがなくなったのでなまえは補充するべくベンチに置いてあるボトルを取りに行くと監督とキッドのやりとりが耳に入ってくる。


「去年はひでぇ目に遭ったからな〜。」
「一体何があったんですか?」

なまえがベンチにおいてあるドリンクのボトルを取って監督に訊ねる。

「試合前はあんま食うなって全体向けの指示で言ったら三日間絶食してフラフラできた。」
「まあ…指令を忠実に実行するんで。」

どうやら彼は1年前も昔と変わっていないようだった。鉄馬らしい間違いになまえは思わず小さく笑った。監督の言葉にキッドはフォローを入れる。

「あれ、鉄馬くん?また…?」

微笑ましいなと思いながら笑っていると横から伸びて来た手になまえは驚く。

「わー!鉄馬くんそんなに飲んだらダメだって!」

なまえが止めようにも鉄馬は監督の指令を忠実に実行している最中で聞く耳を持ってくれない。

「あの、監督……。」

仕方ないと思って監督に言おうとするもキッドとの会話に集中していてなまえの声に気づかない。


「ま、前半の様子なら心配ねーな。GUN-GUN水分補給しとくように言ったし…。」

そう言って監督はベンチの上に置いてある空のボトルを手に取った。
てっきり中身があるかと思っていたが軽かったので監督は怪しむ。

「ガンガン…?」

キッドもその言葉に何やら嫌な予感がした。
そして鉄馬を見ると、彼はぐびぐびと絶賛水分補給中だった。後ろには空のボトルの山がある。

「うおおおおお!!」
「私止めたのに……。」

監督とキッドが声を揃えて必死に止めているのに対し、なまえはぽつりと呟いた。



『まもなく後半戦が始まります。』

西部ワイルドガンマンズがぐだぐだしている中、無情にもアナウンスがなった。

「おいおい大丈夫かよ。」

キッドは鉄馬の背中を押して歩きながら彼をずるずると連れて行く。


それから試合がスタートするも、1球目をキャッチするとともに鉄馬がトイレへと駆け込んだ。

「監督、鉄馬くん、もしかして水を取りすぎていたからお腹を壊したのか気分が悪いのかもしれませんね。」

トイレに駆け込んだ鉄馬の表情から体調の悪そうだということを一瞬で見抜いたなまえがそう言うと鉄馬の様子を見に監督もトイレめがけて走って行く。帰って来た監督は鉄馬が復帰するのは難しいという事を伝えた。西部ワイルドガンマンズの士気が若干下がった。
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