何がないのっつったらおむつがないかなあ? って言うから買ってったらサイズが合わなかった。俺の記憶は正しかった。ただ、思っているよりもガキの成長はくそ早いという話だ。ごめんサイズアップしたの言うの忘れてた、と出かける支度を始めようとした嫁を諌めて戻ってきたドラッグストア。キャラクターの並んだ袋を抱えて「交換ってお願い出来ますか」と言うサングラスの若い男を、サッカー選手なんて知らなそうなこの女子大生アルバイトはどんな気持ちで見ているのだろう。少々お待ちくださいませ。彼女が慣れた手つきで社員を呼ぶ旨の放送をかける。よくいるのだろうか。こういう客。どこの親もそんなものなのだろう。


「すいません、混んでんのに」


空いた頃合いを見て並んだはずなのになぜか俺の後ろにはゴミのように人が押し寄せて、今ではすべて開放されてフル回転しているレジを横目に言う。わりと常識的な俺は地味に肩身が狭い。ジャージにサングラス、まとめた長髪。柄の悪そうな男からそんな言葉が出るとは意外だったのか、店員はきょとんとこちらを見てから笑い直した。


「いえ。むしろお子さんが大きくなったってことなんですから、嬉しいことじゃないですか」

「……そっすか」

「よくお子さんといらしてくださいますよね。お父さん似でとってもかわいいなって思ってたんです」

「………ど、どうも」


社員が来るまで暇らしい店員はそんなことを言いながら俺からレシートを受け取る。「こちらのレシートはお預かりさせていただきます」さっきの笑顔とはちがうマニュアル言葉に頷いたところで中年の男が来て、小さくなってしまった商品はそいつに抱えられて行ってしまった。もううちのはでかいやつ。ひとり残された女子大生がそれを打ち直してどうぞと再び笑う。むき出しのベビー用品。


「ありがとうございました、またお越しくださいませ」


女ってどいつもガキが好きなんだろうか。目の前にその赤子がいるわけでもないのにあんなに笑顔になるもんなのか。…そういえばなまえも、棚に並ぶベビー用品を見るだけでにやにや機嫌よくしていた記憶がある。肌寒い帰路を早足で進みながら、今度はいらないおむつではなく嫁と共に息子を抱えてこの店に来てみようとすこし思った。うちのガキはそっくりに定評があるのだ。ほら、くしゃみしたあとのあの間抜け面とか、他にも。








「おかえりなさい」


おつかいから帰ってきた明王は、行きとは違い堂々とかわいい絵のついたビニールを下げていた。父親レベルが上がったらしい。布団に転がっていた息子が父親の声に反応したのかなにか言って、パパははいはいと返事をしながらも逆方向へ手を洗いに行く。それを追いかける息子。放置の母。
子供の世話は基本的にその時手の空いている方がやることになっている。サイズアップを知らなかったのは海外合宿ですこし日本にいなかったのが原因だった。決して子供の成長を見ていないくそやろうなわけではない。

抱きかかえられて帰ってきた息子を受け取る。明王にそっくりな外見をしているのにわりと寡黙なので、べらべらテレビに向かって喋ったりしている明王と並んでいるのを見ると少し面白い。
「手洗ってる最中にだっこせがむなよ」水で冷えた手で頬を挟まれたちびは少し眉毛に力を入れた。念願のパパのおててとはいえ気に入らないようだ。不満気にとがったくちびるをぶにぶに押してさらに反抗の声を上げられる、という一連の流れが最近の明王のお気に入りである。性格悪。



「なまえも機嫌損ねるとこの口になんだぜ」

「!?」


いたずら顔で微笑んだ明王は指を上にあげて、今度はわたしのくちびるを押す。ここで文句を言ったら明王の思う壺だ。ちびにやっているのと同じやつだ。そう思って口を引き結ぶ。真一文字で押す場所のなくなったそこを見た明王は、なぜかにやりと笑って、わたしの両頬をさっきのように両手で挟んだ。冷えた手のひらに押しつぶされて間抜けに飛び出るくちびる。


「ママはおててじゃないの欲しいだろ? んーっ」

「んっ、……むかつく!」

「ほらな、文句言うとこまで全部同じ顔」


性格悪。







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