昼時の食堂は賑やかだ。ちらりと横目で遠くを見れば、あいらしい笑顔を浮かべた彼女の横顔が見える。その瞬間、どくんと心臓が重く脈打った。リヴァイはじっと見つめる。ちいさな花のような彼女の笑顔を。胸の中は焼け焦がれたように、ただれていた。


おいと後ろから声を掛ければ、彼女はすぐに振り返る。細くやわらかな髪をなびかせながら颯爽と振り返る姿はまるで飼い主を見つけたときの子犬のようだ。なまえは瞳を爛々と輝かせながらこちらへ駆け寄ってきた。

「リヴァイ兵長」

凛と透き通った声が名前を呼ぶ。それと同時にほこぶ彼女の口元。それから、あわく染まった頬。なまえは本当に可愛いと思う。不愛想な自分とは正反対で素直で明るくて誰にでも笑顔で接することが出来る。だからこそ惹かれたのだろう。気付けばリヴァイは彼女を自分の班へと引き抜き、自分の補佐官としていつも傍らに置いていた。当然のことだが、なまえは自分のものではない。いや、誰のものでもないのだが、彼女への独占欲は日増しに膨れ上がっていき、同時に嫉妬心もふつふつと湧き上がってくるようになっていた。

「お仕事ですか?掃除はもうすませましたよ」

本当にこいつはどこまで純粋で従順なんだ…
心の内でため息をもらす。きっとなまえは予想もしていないだろう。まさか上司であるリヴァイが、自分に対してヨコシマな感情をいだいているなどと。

「リヴァイ兵長?どうかしましたか?」

きょとんとしてなまえは大きな瞳でこちらを見上げてくる。もしもこれが無意識のうちの行為だとすれば相当タチが悪い。だからだろう。なまえには"余計な虫"が集る。さっきの食堂でもそうだ。なまえが誰にでも愛想よく接する所為でそれに惹かれた男どもがうじゃうじゃと寄ってくる。それでもなまえは鬱陶しそうな顔ひとつ見せずにみんなに平等に笑顔を向け、言葉を返していた。もちろん、昼食時にそんな光景を見せられては気持ちがいいわけがない。
どれ、少し思い知らせてやろうか。意地の悪い心が疼いた。

「なぁ、なまえよ」
「?はい?」
「お前は本当に出来の悪い部下だな」
「えっ……」

冷たく言い放ってやるとなまえが一瞬何が起こったのかわからないといった表情をした。だけどそれはすぐにほどけてみるみるうちに悲しそうな顔へと変わっていく。眉が下がり、大きく澄んだ瞳は早くも涙を蓄えはじめた。あからさまな彼女の反応に内心にやりとする自分がいた。

「本物のクズ野郎だ。まさかここまでだとは思ってなかった。さすがに失望したぞ」

相手が傷つくように、そしてその傷をさらに深く抉るように、わざと非情な言葉を選んで並べていく。

「…………す、すみま、…せん……」

なまえは意味が分からないと戸惑いの表情を見せたあと、余程ショックを受けたのか肩を下げてしゅんとうつむいてしまった。

「謝って済むと思ってんのか?」

ドスの利いた低い声が静かな廊下に鈍く響いた。

「……い、いえ……」

なまえはもうすでに涙声だった。

「そこらじゅうの男どもに媚びを売って誘惑をする出来の悪い部下には躾が必要だな」
「えっ…?……こ、媚びを…売る……?」
「そうだ。誰にでもへらへらしやがって。気に入らねぇんだよ」
「ご、ごめんなさい…でも、わたしそんな媚びなんて売ってるつもりは…」
「言い訳はいらねぇ。俺が何のためにお前を引き抜いたと思ってる?」
「そ、それは……」

言葉を交わすごとに募る苛立ちと醜い嫉妬心。こいつは何にも分かってなかったんだと知った途端に感情はあふれて止まらなくなっていた。

「うるせぇ。黙れ。それ以上口を開くな」

リヴァイはなまえの腕を掴んで壁へと押し付ける。途端になまえの顔が苦痛にゆがんだ。そしてわずかな隙も与えることなく、なまえの唇に強引にくちづける。花のような甘い香りが鼻につき、彼女の唇のやわらかな感触が欲望をかき乱した。それから無理やり舌をねじ込ませ、荒々しく口内をかき回してから唇を離す。彼女の唇の端からは生温かい唾液がこぼれていた。壁と自分の間に挟まれたちいさな彼女は頬を赤らめ、あどけなさを残しつつも艶っぽい表情をしていた。こんな一面を見せられるとどうもたまらなくなる。ぎゅっと心臓を鷲掴みされたように苦しくなるのだ。
――お前はいつか、こんな顔を見せるのか。俺以外の誰かに。

「嫌いだ」

まだ呼吸も整いきっていないなまえへ告げる。

「お前が嫌いだ。嫌いで嫌いで、憎くてたまらない」

冷徹な声と言葉を吐きだすと、リヴァイはもう一度なまえの唇にキスをした。彼女の唇は相変わらずやわらかかった。
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