「なまえ、お前の泣き顔は最高にそそる」

リヴァイ兵長の部屋に入り最初に聞いた第一声がこれだった。彼が何を言っているのか、果たしてその言葉にどんな意味が含まれているのか、わたしには分からなかった。だけど、このあとわたしはそれを嫌というほどこの身を持って知ることとなる。


「どういう、意味…ですか?」

戸惑いを色濃く滲ませた表情を隠し切ることが出来ずに、頭の中にぽっと浮かんだ疑問をそのままリヴァイ兵長に投げかける。彼は厭らしい笑みでわたしを見つめながらそのままの意味だと答えた。もちろんこれだけで分かるはずもなく、わたしはおそれつつも首を傾げる。するとリヴァイ兵長はすっと立ち上がって歩いてきて、わたしの目の前で止まった。何をするのか、何をされるのか、考えただけで体が凍りついてしまう。

「………」

リヴァイ兵長は無言で、そして無表情でわたしを見卸す。
な、なに……
何もない空っぽの時間が漂っただけで背中には汗が滲みしっとりと濡れはじめた。

「………お前はそんなに馬鹿だったのか」
「えっ…」

声は冷めていた。明らかにわたしに対して呆れている、もしくは失望したとでも言いたげな雰囲気。途端に焦りがおそってきて、何がそんなに彼の機嫌をそこねてしまったのかと必死に頭の中の記憶を漁った。あのとき場所も考えずに泣いてしまっただからだろうか。それともヤキモチを妬いてしまって重い女だと思われたとか。今、リヴァイ兵長が言ったことの意味を理解出来なかったからとか。ほんの一瞬考えただけで理由はたくさん溢れてくる。

「……す、すみませ」
「惚れた女の泣き顔ってのは相当いいものだ」
「……えっ?」
「そしてお前の泣き顔は最高だ。俺の思った通りだった」

ん…?
えっ?
おっ?

「ほ、惚れた……?」
「あのときも言っただろ。俺はお前を愛してる」

リヴァイ兵長は戸惑うわたしを他所にふっと笑みを浮かべる。

「あんなに分かり易く言ってやったのに伝わってねぇなんてな……。呆れた…」
「だ、だって…!それは……」
「……それは?」

なんだ?と視線が訴えている。
それは?って……それは……だって……

「わたしは、ずっと好きになんてなってもらえてなかったと思っていました」
「誰がそんなこと言ったんだ」
「…いや…言われては、ないですけど……」

どうしてわたしが責められているのだろう…
彼の威圧的な雰囲気に気圧されてしまってわたしは反論をすることすら出来ない。

「愛情表現ってのはただべたべたくっついたり楽しく幸せな時間を過ごしたり、それだけじゃねぇだろ?」

彼はまた意味の分からないことを言い始める。わたしはまた首を傾げることしか出来ない。するとそんなわたしを見て何を思ったのか、リヴァイ兵長は満足げにほほ笑んでこう言った。

「愛情表現ってのはいろいろあるってことだ」
「…すみません…わたしには分からなくて……」
「まぁいい。とりあえず俺はお前を愛していて、今までお前をほっといたのはわざとだったってことさえ分かればそれでいい」
「!!?」

リヴァイ兵長の口から出た衝撃発言によってわたしはようやく気付く。彼はわたしの泣いた顔や困った顔が見たいがためにあんなことをしていたのだと。そしてきっと影からそれを見てご満悦だったのだと。

「……ひ、ひどいです…」

真実が分かった途端になんだか胸の中がもやもやとし始めた。
彼がどんな反応を示すか分からないがここで悲しい顔をしてしまったらそれこそ思う壺だろう。そう思って今わたしは怒っているのだと伝えるためにむっとしてみた。

「そんなにむくれるな。別にお前のことが嫌であんなことしてたわけじゃねえんだ」
「で、でも…」

そういう問題ではないと思います…
心の中でぽつりとつぶやてみるが、それが彼に伝わることはない。

「……なんだ?不満か」

リヴァイ兵長はわたしの顎に手を添えるとくいっと上を向かせ、顔を近づけてきた。
ッ!!?

「ちょ、ちょっと!だ、大丈夫ですから!不満なんてありませんから!!」

わたしが顔を背けつつ両手でガードをするとリヴァイ兵長は心底残念そうにそうかとため息混じりでつぶやく。なんだかその姿がいつもの彼らしくない弱々しい姿だったのでわたしはおどろいた。そして同時になぜか申し訳なくなる。

「あ、あの…」

謝罪の言葉を口にしようとしたそのとき。

「…つまんねぇな…」

これはリヴァイ兵長の低い声だろう。ぞくりと身を凍らせてしまうほどの冷めた声。どうやら彼はわたしの返答が不満だったようだ。

「えっ……な、なんで…」
「不満のひとつやふたつでも言ってもらわねぇとお前をいじめらんねぇだろ」
「っ!!??」

衝撃発言第二弾。
この人は……!なんてことを……!!!
リヴァイ兵長はにやりと口元を歪め、明らかにわたしの反応をたのしんでいるようだった。そしてそんな彼にどきどきと高鳴る胸と熱を帯び始めた頬。

ああ、わたし、やっぱりこの人のことがすきなんだな…

不覚にもときめいてしまった自分がいて。そんな自分にちょっとだけ嫌気がさした。だけどもう好きになってしまったものは仕方がない。
ずっとずっと遠くから見ているだけでいいと、それでいいと思っていた。そんなあわい気持ちに変化が訪れたのはいつだかの壁外調査の日のことだった。リヴァイ兵長は怪我をしたわたしを医療班のところまで馬を走らせ、必死になって連れていってくれたのだ。はじめて触れた体温がなんだかあたたかくて、自分の痛いほどの胸の高鳴りが心地よくて。もっと、もっと近づきたいと、わたしのことを知ってほしいと思ったのだ。同期の子に何度も何度も相談をして、勇気を持ってなんどか話しかけて、名前だけでも覚えてもらえればと必死だった。しかし最後はリヴァイ兵長のことが好きだと同期のみんなにバレてしまい、その場のノリで告白をしなければいけない状況になってわたしはその日の夜。
リヴァイ兵長に思いを告げた。すると予想外にも、リヴァイ兵長はこんなわたしの思いに応えてくれたのだ。

懐かしいなと、なんだか遠い過去のように思えてしまうつい最近の出来事。いろいろあったけれど、リヴァイ兵長はまちがいなくわたしのことが好きなんだと知ることも出来てよかった。で、終わるはずがなかった。

「まぁいい……そんな口実なんざなくても…」

リヴァイ兵長はじりじりとわたしへと歩みよってきて。その目はまるで獲物を捕えるときの肉食獣のよう。

「えっ、えええっ、リ、リヴァイ兵長!?」
「お前をいじめる……いや、躾けか。躾ける時間ならたっぷりあるからな」

躾け!?わ、わたしは躾けをされなければいけないほどの悪いことはしてないはずなのに…!なんで!!?

「で、でもわたしこのあと団長に呼ばれてて…!」
「ハッ、知るか。お前は黙って俺の言うことをきいておけばいいんだよ」
「そ、そんな…!」

彼の理不尽で自分勝手な要求に戸惑うわたし。
自分のやるべきことをやりたいのだが、今の彼をするりと交わして逃げることはまず無理と言っていいだろう。さらにじりじりと滲みよってくるリヴァイ兵長。自然とあとずさりをしてしまうわたし。結果はもう見えていた。

トンッ

掠れた音がして、背中にひんやりとした硬いものを感じる。
こ、これはまさか………

「黙れ、そして目を瞑れ。俺の言うことは絶対だ」

追い詰められたわたしを見て満足そうに微笑んだリヴァイ兵長はわたしの両側に手を突き、一気に距離を縮めてきた。澄んだ黒い瞳が、薄く色づいた唇が、もうすぐそこまでのところにある。ぎゅっと胸は締め付けられて苦しくなり
どきんと、心臓は素直に反応を示した。わたしはどうすることも出来きずに涙が滲んできた瞳で彼をじっと見つめていた。

「なまえ、お前は従順ないい子だろ?」

ふわりとあたたかい感触がして、リヴァイ兵長がわたしの頭を撫でているのだと気付く。

「だったら俺の言うことに従え。これからお前のことめちゃくちゃにしてやる。そして俺が満足するまでその泣き顔見せたら、愛してるって囁いてキスしてやろう」
「っ!?」
「ご褒美が、欲しいだろ?」

彼のあまく低い囁きの所為で、もうすでに涙がたまって限界だった瞳からすぅっと雫がこぼれる。するとリヴァイ兵長はまたにやりと笑って、赤い舌でそれを舐めとってキスを落とした。冷たい指が頬を撫で、首筋を撫で、肌を伝っていく。今までに感じたことのないあまい感覚に酔い痴れながら、わたしは不覚にもこんな彼をいとおしいと、感じてしまっていたのだった。
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