「私、シリウスさんが好きよ、大好き。」
「嬉しいよ、ありがとう。」
「もう、いつもいつもそうやって取り合って下さらないのだから。ねぇ、それは何故なの?私が子供だから?それとも他に好きな人がいるから?」
「どっちもさ。」
「まぁひどい!私はもう子供じゃないわ。月に一回ダラダラと血を流すし、胸だってある。」
「でも子供だよ、あまりにも。」
雲の多い夜、鈍い月の光が死体の山を照らしていた。草原の外れにある大木にもたれながらそれを眺める男と少女。少女は杖をクルクルとまわしながら、男は煙管をやりながら。半径二キロには、この二人以外人間の気配はない。
「皆死んじゃったわね!半分は私がやったのよ。すごいでしょう?賞賛に値するんじゃなくって。」
「その通りだ。君は偉いね。素晴らしい。」
「私が欲しいのはそんな言葉ではないのに。」
「君は我侭だな。僕にどんな言葉を期待しているの?」
「惚れ直したよ。とか。」
「僕が惚れるのは、後にも先にも一人だけだよ。」
「それが、好きな人?」
「そう。」
「その感情は、私がシリウスさんに向ける感情よりも大きい?」
「当然のことだと思うけれど、僕には君が僕に向けてくれる感情の大きさが分からない。」
「シリウスさんが私とまぐわって下さるなら、目に映るものすべてをアバダケダブラで殺ってもいいくらい。」
「それは大きいな。驚いたよ。」
「じゃぁ、その人のことはあきらめて私のことを好きになって下さらない?」
「それは無理だ。」
「ねぇ、どうしてそんなに残酷なの。その人はそんなにまぐわうのがお上手なの?」
「違うよ。彼女とは一度もなかった。」
「じゃぁ接吻がお上手なの?」
「いいや、接吻をしたら全力で殴られたし、されたら全力で殴ってたな。」
「そんな!」
「手もまともに繋いだことがなかった。掴み合いの喧嘩の時くらいさ。柔らかかったのは辛うじて覚えている。その記憶が、僕の一番大切なものだよ。」
「でも、それではまるで好きとは思えないわ。」
「確かに好きだった。心の底から。彼女が死んだ時にはじめて気づいたんだ。彼女の死体を見る影もなく殴って、グチャグチャにした後でね。彼女の死体はとても冷たかった。信じられないくらいに。」
「…私は彼女に勝てないの?」
「勝てないよ。」
「一生?」
「もちろん、永遠に。」
「そんなの酷いわ。今すぐ殺してしまいたいくらい!」
「君に僕は殺せないよ。実力に差がありすぎる。君はさっき半分と言ったけど、実際は三割と少しだ。」
「でも私は今とても悔しいし、絶望しているの!きっといつもの倍強いわ!」
「それでも、僕は死ねない。彼女とたった一つだけ交わした約束なんだ。やぶるわけにはいかないよ。」
「その人がとても憎い!シリウスさんの心を奪ったまま死んでしまうなんて!」
「性格の悪い彼女らしいさ。」
「…悔しいわ。こんな敗北感生まれてはじめて。」
「それは、君がまだ子供だからだよ。」
「私、早く大人になってシリウスさんに追いつくわ。」
「そんな勿体ないことをしてはいけないよ。人生は長い方がいい。若い時間は貴重だよ。」
「だけど。」
「さぁ、もう戻ろうか。皆が君を心配しているだろう。」
「ね、シリウスさん、最後に一つだけ教えて下さる?」
「なんだい?」
「その人の名前を教えて。」
ナマエ、ナマエって言うんだ。そう
【君と同じ名前】
だからだろうね、君を放って置けないのは。
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