ジェームズ・ポッターがその日休日の最大の楽しみとも言える惰眠を貪っていると、急に毛布が剥がされた。何者かによる犯行である。彼はまだまだ寝ていたかったので、んんーんと意味の無いうめき声をあげ、もぞもぞとベッドの端に移動すると、まるで母親の羊水に抱かれた胎児のように身体を縮ませた。

「ねぇっ。」

しかし、安眠妨害という大罪を犯した犯人の声を聞いて、ジェームズは一気に覚醒した。

女の子の声だ。

昨日リリーが泊まった覚えはないし、というか右手と仲良しでしたし?とまだ寝ぼけて混乱している頭で馬鹿なことを考えながら部屋を見渡すと、さらにジェームズを混乱の渦へと突き落とす人物、むしろ単なる有機物と表現した方が良いような、人物がベッドサイドからくりくりの眼でジェームズを見詰めていた。



「えぎゃあああああああああああー。」



【正しからざるペドフィリア、清らかざる正太郎コンプレックス】 21話後



「と、言うわけなんだ。」

「何が、と言うわけなんだよ!何ひとつ分かんないわ!」

グリフィンドール中の好奇の視線を一身に浴びながら、ジェームズの悲鳴の原因、もといシリウス・ブラックはソファの上で両足をぶらぶらさせながらオレンジジュースを飲んでいた。

その手はもみじの葉のように小さく、肌はぷにぷにと柔く透き通るように白く、そして何よりその眼は、今皆の前にいる生き物が皆が良く知るシリウス・ブラックと同一人物であることを完全に否定するかのように純粋でキラキラと輝いているのだった。

「なんでシリウスが子供になってんのよっ!」

リリーは唾を撒き散らしながらジェームズに詰め寄った。

「わわわ分かんないよ僕にだって!朝起きたらちびっちゃいシリウスがいたんだもん!」

「もん、じゃないわ!あんたが可愛い子ぶってどうするの!」

リーマスははぁとため息を吐くと、「とりあえず冷静になって、本人に話を聞いてみれば良いんじゃない?」と的を得た進言をした。

「そ、そうね、それが良いわ。」

「そうだそうだ。」

リリーははっとしたようにリーマスに向かって頷くと、小さなシリウスの隣に座った。そして母親がそうするようにシリウスの手を握って自分の膝の上に置くと、目を見ながらゆっくりと話しかける。

「君の名前は?」

「シリウス。」

「ご両親の名前は?」

「…オリオンとヴァルブルガ。」

「ああやだ、本当にシリウスみたいよこの男の子!」

リリーが振り返ってジェームズにひそひそと言うと、リリーにぴったりくっついて座っていたジェームズはリリーの肩越しにシリウスを見詰めながら「良いから早く続けて!」と言った。

「そ、そうね。ねぇシリウス?ここがどこだか分かる?」

リリーが問うと、シリウスは急に不安そうな顔をしてゆっくり首を横に振った。

「ああやだ、脳みそまで戻ってるみたい!」

リリーに任せていては進まないと判断したのか、しびれを切らしたリーマスが「シリウス。」と呼びかけた。

「君がいるこの場所はホグワーツ魔法魔術学校って言うんだ。その中のグリフィンドールっていう寮の談話室だよ。知ってる?分かるかい?」

「うん、きいたことあるよ。」

「それは良かった。僕の名前はリーマス・ルーピン。こんなことを言ったら君は混乱するかも知れないけど、君の友人だ。」

目を白黒させてるシリウスに優しく笑いかけると、リーマスは「心配いらない。」と続けた。

「君は本当は僕と同じ17歳なんだけど、ちょっとしたアクシデントで子供の頃に戻ってる。身体も心もね。でも心配いらないよ。僕らがすぐに解決方法を見つけ出して、君を元に戻すから。」

何が何だかわけが分からないといった表情をしているシリウスの頭をぽんぽんと撫でると、リーマスは「とりあえずマクゴナガル先生のところに連れて行こう。」と言った。

「えっ?」

「どうしたのジェームズ、マクゴナガル先生なら変身術のプロだもの、きっと知恵を貸して下さるわ。」

リリーが不思議そうに言うと、ちょうどリリーの背もたれのところに立っていたナマエがようやく口を開いた。

「マクゴナガル先生にバレたらまずいことがあるんでしょ?」

ずばり指摘されたジェームズはびくりと肩を揺らした。

「さっきジェームズ、小さくなってたシリウスに起こされたって言ったわ。おかしいじゃない、頭の中まで小さなシリウスが自分の部屋で寝てたなら、寮にあるたくさんの部屋の中からどうやって親友の部屋を見つけ出すの?夜通し一緒の部屋にいて何かやってたって考えるのが普通だわ。」

ナマエが言う間、リリーはどんどん形相を恐ろしくさせていった。

「ジェームズーッ!あなたの仕業なのねー!?」

物凄い顔でジェームズにこぶしを振り上げるリリーを見て、ジェームズはたまらず駆け出した。

「待ちなさいっ、何をやったの!」

「何もやってないよ!ただシリウスとちょっとふざけて、お互いに試薬を飲んだんだ。僕もシリウスも何の変化も無かったから、失敗だったと思ったんだけど、」

「ほんっとにロクでもないことしかしないんだから!」

談話室中を追いかけっこしている2人を他所に、リーマスがナマエに言った。

「僕、ちょっとジェームズの部屋に行って薬の成分表とか集めてくる。そしたら…どうしよう、マクゴナガル先生よりマダム・ポンフリーかな?」

「そうね、とりあえずマダムのところが良いでしょう。マダムが手に負えないようならスラグホーン先生にお願いしてもらえば良いし。マクゴナガル先生に報告するのは後で。」

リーマスが頷きさっと踵を返そうとすると、ナマエはそのローブをむんずと掴んだ。

「どうしたの?」

「私も一緒に行く。2人でジェームズの部屋とシリウスの部屋を手分けして捜しましょう。その方が効率が良いわ。」

「…ナマエ、どうしたの?」

「え?どう…、どうって?」

「変だよ。いつものナマエならあんなに不安そうな顔してる小さなシリウスを置いて一緒に行くなんて言わないよ。」

ナマエはうっと言葉を詰まらせると、怪訝そうな顔をしているリーマスをそろそろと見上げた。

「だって、だって、」

「どうしたの?子供が苦手?」

「まさか!だけど、なんて言うか、ああ、とっても言葉にし辛いんだけど、なんて言えば良いか…。」

ナマエはあわあわと両手を動かしながら必死になって言葉を探したが、ピンと来る言葉が出てこない。

「まぁ、つまり混乱してるってことだね」

リーマスがあきれたように言ったのに、ナマエは真顔で頷いた。つまりそういうことだ。

「そうなの。つまりパニックなの。」

「じゃあなおさら一緒にいると良いよ。リリー、ジェームズー、一緒に来てー。ピーターも来てー。」

「えっ、リマ、リーマス?」

リーマスはちらっとナマエを振り返ると、「良い予行練習になるよ、将来男の子を生んだ時のね。」と意地の悪い笑みを浮かべた。



「こ、こんにちは。」

リーマスが皆を連れて行ってしまったので、ナマエはどうしようもなくなってシリウスが座っているソファのところへ戻った。


小さなシリウスはナマエのことをじっと見ると「この時間はおはようだよ。」と至極真っ当な意見をした。

「そうね、おはよう、シリウス君。」

「ぼく、あなたの名前しらないからあいさつもできない。」

「あっ、ごめんなさい。私の名前はナマエです。あなたの…お友達よ。」

「ふぅん、そう。おはようナマエ。」

シリウスはつまらなそうに頷くと今のシリウスそっくりの擦れた目でナマエを見た。

ナマエは激しく動揺して頭皮から妙な汗が出てくるのを感じたが、つとめて優しく微笑んだ。そして子供らしからぬ態度を取るシリウスをまじまじ見詰めたが、シリウスはますますつまらなそうな顔をした。



周りにいた同級生や後輩たちが事情を尋ねてくるたびにのらりくらりとかわしていたナマエだったが、いよいよ煩わしくなったので伝言をフクロウに託し、いったん寮の自室に戻ることにした。

「子供だったら、女子寮にも入れるのね。」

階段を上っていると、小さなシリウスが不安そうな顔をしてどんどんナマエの方に近づいてくるのを見て、ナマエはさっきまでの態度はなんだったのかと首をかしげた。

ナマエが見かねてシリウスの小さな手をそっと握ると、シリウスは驚いたように手を引っ込めようとした。それでもナマエが握っていると、恐る恐るといった感じでほんの少しだったが、握り返してきた。



部屋に入ってシリウスを自分のベッドに座らせると、ナマエは自分もシリウスの隣に座った。

何を話せば良いのか困っていたナマエだったが、突然脳みそが閃いた。

「そうだシリウス君。お腹空いてない?」

ナマエが言うとシリウスはちょっと考えてから「ううん。」と答えた。

「遠慮しなくて良いのよ。」

ナマエは部屋に置いてあったメイプルクッキーを取り出すと、お水と一緒にサイドテーブルの上に広げた。

「このクッキーとっても美味しいの。一緒に食べましょう。」

ナマエはそう言ってクッキーを一枚つまんで口に放り込んだ。それを見たシリウスも同じように一枚食べたが、それ以上は食べなかった。

緊張しているのだろうかと思ったナマエは、もう一度シリウスの手を握ってゆっくり話しかけた。

「シリウス君、それじゃあ私とお話しない?シリウス君のこと色々聞かせて欲しいわ。」

シリウスは目をぱちぱちさせると「なにを?」とたずねた。

「そうね、じゃあ私が質問するわ。まずはシリウス君の好きなもの。食べ物は何が好き?」

「チキン。」

「そうなの。」

この頃からそうだったのか、とシリウスのぶれない趣向をなんだか可笑しく思ったナマエは笑いを噛み殺しきれなかった。

「じゃあ色は?」

「あお。」

「じゃあ動物は?」

「うーん、わかんない。」

「お家でなにかペットとか飼ってないの?」

ナマエが尋ねると、シリウスは眉毛を寄せて「ううん。」と首を振った。

「どうぶつは、母上がいやっていうから。にわにとりがいるけど、かみつくからちかよれない。」

「それは残念ね。じゃあシリウス、飼ってみたい動物とかいる?」

「うーん。」

「なんでも良いのよ、ドラゴンなんて素敵じゃない?火を噴くからお庭でバーベキュをするときに便利だわ。」

ナマエがそう言うと、シリウスは目を丸くして、それから初めてナマエに笑って見せた。

「ドラゴンなんてかえるわけないよ!」

笑うといっそう幼く見えるシリウスを思わず抱きしめようとしたナマエだったが、ここで不用意に変なことをしてもせっかく笑ってくれたこの子が怖がったりしやしないかと心配でやめておくことにした。

「もしもの話よ。」

ナマエがそう言うと、シリウスはうーんとうなりながら考えて、そして唐突に言った。

「じゃあぼくはケルピー!」

「ケルピー?」

「うん。こないだ読んだ本にでてきたんだ。あんなのがにわの池にいたらすごいもん!」

目を輝かせるシリウスは愛らしく、きっと見るものすべてをめろめろにさせてしまうだろう。ナマエはぼーっと小さなシリウスを眺めながらそんなことを考えた。ぷにぷにの頬も小さな手もなにもかもが猛烈に可愛い。もういっそ犯罪級だな、と思ってから、これでは自分が犯罪者じゃないか、と考え直した。



***



「と、いうわけで、以上が検査の結果です。強い魔法ではないので数時間もすれば元に戻るでしょう。下手に解毒剤を飲むより待った方が良いです。」

マダム・ポンフリーはしかめっ面のままそう言うと、小さなシリウスに怒っても仕方ないと思い直したのか表情を緩めた。

マダムの言葉に、その場にいた皆が一斉に安堵のため息を吐いた。

「ああ良かった、良かったねシリウス!」

一番大きく肩を撫で下ろしたのはジェームズだった。自分だけ何とも無かった負い目があるからだろうか、小さなシリウスに向かって何度も「良かった」を繰り返した。

「とりあえず目立たない場所でご飯食べましょうよ。シリウスもお腹減ってるだろうし。」

リリーの提案でみんなで厨房へ行く間も、シリウスはナマエのそばにぴったりくっついてはなれない。

「すっかり仲良くなったみたいじゃない、ナマエ。」

リーマスが言うとナマエは照れたように笑って「まあね。」と答えた。



ブランチを終えた皆は、ナマエにシリウスを任せてそれぞれ用事を済ませに散って行った。

「シリウス君、お腹いっぱいになった?」

「うん。」

「美味しかった?」

「うん。」

「眠たい?」

「ううん、ぼくもうおひるねはしないよ。あかちゃんじゃないんだし。」

「それもそうね。」

ナマエは頷くと、屋敷しもべ妖精たちにお礼を言って厨房を後にした。

「シリウス君、どこか行きたいとこある?」

「ぼくそとにいきたい。」

「外?でも外は雪が…、」

シリウスがまるで置き去りにされるうさぎのような眼でナマエを見るので、ナマエはうっと言葉を詰まらせて、それからはぁとため息を吐いた。とてもじゃないけど逆らえない。

「いいわ。ちゃんとマフラーと手袋をするなら。」

「ほんと?」

「ええほんと。お散歩しましょう。」

「やった!」

手をぱちんと叩いたシリウスはナマエの手を取って走り出した。

「あっ、ちょっと待って、」

「はやくはやく!」

走り出た先はホグワーツ城の正面だった。

城を振り返ったシリウスはそのはるか上まで聳え立つ荘厳な姿に感心したようだった。

「ほらほら、ひっくり返っちゃうわよ。」

そのまま後ろに倒れんばかりに首を反らせるシリウスの背中を優しく支えながら、ナマエも一緒になって城を見上げた。

小さな子の視線の先はいつも新鮮なもので溢れかえっている。ナマエは、ホグワーツ城ってこんなに立派だっただろうかと改めて思った。見慣れてしまうということは、ある意味何より恐ろしいことなのだ。

「寒くない?」

「へーきっ。」

シリウスは湖に向かって走り出すと、ちらりとナマエを振り返った。

ナマエがにっこり笑いかけると、シリウスは照れたようにまた前を向いて走って行った。

「いやだ、あれって天然だったの?」

あんなに小さい頃からもうあんなに乙女心をくすぐるのが上手だなんて、やっぱり犯罪級だ、とナマエは思った。



雪はほとんど降っていなかったが、湿った冷たい風が水面を伝いナマエとシリウスに容赦無く吹き付けてきた。

ナマエはもう一度シリウスのマフラーを巻き直すと、自分のローブもしっかりと結び直した。正直なところ寒かったが、楽しそうに湖の中を覗き込んでいるシリウスを見ているとそんなことも吹っ飛んでしまう。

「ナマエ、なんかいるよ!」

「なあに?」

「はやく!」

小さな手に引かれて湖面を覗き込むと、ごく浅い湖底に酷く衰弱したプリンピーが一匹いた。

「これはプリンピーよ、シリウス君。」

「プリンピー?」

ナマエが言うと、シリウスは興味深そうにさらに顔を湖面に近づけた。ナマエはシリウスが落っこちては大変とそのローブと腕をしっかりと掴んだ。

「そう。普段は深い深い湖の底で餌を探しながら暮らしてるんだけど、このプリンピーは弱って力が無くなって、それで浮いてきちゃったのね。」

「そうなんだ…。」

ふらふらと頼りなく浅瀬を歩くプリンピーを見て、シリウスはじっと黙っていた。小さなシリウスが死にかけのプリンピーに何を想うのか、ナマエにははかり知れなかった。

「もうとしよりなの?しぬ?」

死、という言葉をいとも簡単に口にした小さなシリウスには、もうきちんとその意味が理解出来ているように、ナマエの眼には映った。もちろん表層的ではあるが、ナマエは自分がこの子と同じ年の頃に死というものがこんなにしっかりと認識できていたかどうか疑問に思った。

「いずれ死ぬわ。そしたらその死骸は湖に生きる色々なもののご馳走になるのよ。」

「ふーん。」

シリウスは死にかけたプリンピーをしばらく眺めたあと、ナマエの手をひいて自主的にその場をはなれた。

ナマエは小さなその手に本当に導かれているような気持ちになって、ぎゅっと目を瞑った。


「シリウス。」

「なあに?」

「泣いても良いのよ。」

「えっ?」

泣かない子供なんて、そんなものが存在して良いはずがない。子供は泣くものだ。

見知らぬ場所、見知らぬ人の中にたった1人で放り込まれて、小さくなったシリウスにずっと抱いていた違和感。談話室での、子供らしからぬ態度。その正体にようやく気付いたナマエは、気付いたと同時に胸が締め付けられるようなとてもせつない気持ちになった。

「おいで、シリウス。」

ナマエが両手を広げると、シリウスは「でも、ははうえが、」と言いながらナマエの腕の中にすっぽりとおさまった。

「お母さんがなあに?泣いちゃ駄目って言うの?」

シリウスはぎゅーっと唇を噛み締めながら頷いた。いつの間にかたまった涙はいまにも零れ落ちそうだ。

「泣いちゃいけない人なんていないのよ、シリウス。大人だってみんな泣くわ。不安だったり、怖かったり、寂しかったり悲しかったり。泣きたいと思ったら泣いて良いのよ。」



わんわん泣きじゃくっているシリウスを抱っこしてベンチまで運ぶと、ナマエは体中のあちこちが痛くなっていた。それはシリウスが予想よりずっと重たかったせいであり、足場がぬかるんで覚束なかったせいでもあったが、一番の原因はシリウスが強い力でナマエの首にしがみ付いていたせいである。

ナマエは自分の膝で寝ているシリウスの柔らかな髪を撫でると、見たことの無いシリウスの幼少時代を垣間見てしまったことに罪悪感を覚えていた。シリウスが望まないのなら見てはいけなかったし、シリウスが望まないのなら知ってはいけないかったものだ。

無償の愛をくれる存在である母親。

ナマエは惜しみない愛を注いでもらって今まで生きてきた。だからシリウスの気持ちは分からない。どんな思いをして、どんな幼少時代を過ごしたのか。ホグワーツに上がってからのことは、大きな噂になったことやジェームズたちから漏れ聞いたこと、シリウス本人が話したことでなんとなくは知っていた。入学式の直後にダンブルドア校長先生に息子の寮をスリザリンにかえる様にと直談判しにいらした話はあまりにも有名な話で、親子喧嘩と呼ぶにはいささか派手過ぎる事件や勘当などなど、ナマエはそんな話しか知らない。

でもナマエは、きっとお母さんとも楽しい思い出が何かあるはずだという希望を捨てていなかった。シリウス、なんて素敵な名前をもらったのだ。きっと今だって、愛していないはずがない。きっと。

じーっと見詰めながらそんなことを考えていたナマエだったが、シリウスを取り囲む魔法の小さな変化に気付き、おもむろに杖を取り出すとシリウスのローブやシャツや何もかもを元のサイズに戻した。最初だぶだぶだったそれらはじわりじわりと元に戻るシリウスの身体のサイズに合っていき、すぐにぴったりになった。

「お帰り、シリウス君。」

ずっしりと重たくなった膝の上で目を閉じているシリウスにそう声をかけると、シリウスはばつが悪そうに笑いながら「ただいま。」と返した。

「何があったか、覚えてる?」

沈黙は肯定と受け取ったナマエは、「そうかそうか。」と意地悪に頷いた後、起き上がったシリウスの頬にキスした。

「馬鹿なことしたお咎めは、私からはなしにしておくわ。マクゴナガル教授に任せる。」

「どうも。」

シリウスは恥ずかしそうに俯いたまま呟いた。

「シリウス君犯罪級の可愛さだったわ。よく何事も無く無事に大きくなったわね。」

「…どういう意味?」

「正太郎君なんて比じゃないって意味。ああ駄目、私なんだか目覚めちゃいそう。」

さっぱり意味が分からない、といった顔をしているシリウスを見て、ナマエはクスクス笑いながら立ち上がった。

「ここは冷えるから戻りましょう、シリウス君。」

「うん。」

「シリウス君は本当に素直で良い子ね。」

「…ナマエ、その呼び方、いつまで、」

「私が飽きるまで。気に入っちゃったんだもの。」



2人が談話室に戻ると、今度はジェームズが女の子になっていた。パニックになったリリーに向かって「一緒にお風呂に入ろうよ!」などと馬鹿なことを言ったジェームズは、一瞬で冷静さを取り戻したリリーによって半殺しにされた状態でマクゴナガル教授の部屋へシリウスともども連行された。


End?

※2人がマクゴナガル先生に受けた罰則は、ホグワーツ至上でも1、2を争う厳しいものでした。あまりに筆舌尽くし難いので省略します。


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