【Miss Moriarty's caprice〜謎かけ編〜】 18話後



とある休日の昼下がり、俺やジェームズたちが暖炉の前で思い思いに学業に勤しんでいると、不意にナマエがやってきて満面の笑みを顔中に浮かべて見せた。その顔には(ジェームズに言わせれば)何か悪戯的発想をしている人間特有のいやらしさが滲み出ていて、俺たちは意味も無くたじろいでしまった。

「どうしたの、ナマエ。」

俺が冷静を繕って声をかけると、ナマエは首を横に振った。その拍子に髪からふわりと良い香りがして、胸一杯に吸い込みたい衝動を押さえなければならなかったけど、ナマエはそんな俺の極めて青年的な葛藤など知る由もなく、あまりにナマエらしくないテンションで言葉を続けた。

「のんのんシリウス。私は今、ナマエにしてナマエにあらず!」

ナマエは決して分かりやすい性格ではない。それは断言出来るけど、ここまで突拍子も無い女の子だっただろうか?全く持って意味が分からない。ついでに彼女が考えている事も分からない。

「じゃあ一体どなたなんでしょうか、レディ。」

恭しく尋ねてみると、ナマエは至極尊大な態度で言った。

「わたくしはモリアーティ教授なり。本日は君、ホームズ君に挑戦を申し込みたく参上仕った。」

すると隣で何事かと事の成り行きを見ていたリーマスが目を丸くして言った。

「シリウスがホームズなの?ナマエじゃなくて?」

「あっ、リーマス!リーマスはこっちに来て!」

ナマエは慌てたようにリーマスの腕を掴んで、自分の隣へと立たせた。ジェームズもピーターもぽかんとした表情でナマエを見ている。

「リーマスがワトスンだったらホームズ君が必要なくなっちゃうでしょ!ワトスンはこの子で十分!」

ナマエはそう言うと今まで肩に乗っかっていた自分の愛梟を俺に差し出した。ワケも分からないままナマエからフクロウを受け取ると、ナマエは神妙な面持ちで頷いた。やや乱暴な受け渡しだったにもかかわらず、フクロウは俺の腕の中で少し羽を動かしただけで大人しくしていた。

「第一の暗号はそのエルシーが教えてくれるわ。健闘を祈ります!」

ナマエはそう言うとリーマスを連れて足早に談話室を出て行ってしまった。何一つ理解出来ないでいるまま彼女が去ってしまい俺がポカーンとしていると、同じくポカーンとしていたジェームズがケラケラケラと声を上げて笑い出した。

「どうしたの、ジェームズ?」

ピーターが尋ねると、ジェームズは落ち着きを取り戻して優雅に紅茶をすすり、またクスリと笑った。

「シリウスが羨ましい。ナマエ素敵すぎ。リリーに会ってなかったら僕、絶対彼女に惚れてたね。」


不穏当なジェームズの発言は聞かなかったことにして、俺は早速広げていた勉強道具を簡単に片付けると、フクロウがくわえていた小さく丸められた羊皮紙を広げた。そこには細かい字で挑戦状、とタイトルがつけられていて、その後に暗号のようなものが書かれていた。

【第3魔法薬学室の住人の卵の下(※卵はプロングズの子)】

一体何のことか分からずに首を傾げると、ジェームズは「僕にも見せて!」と言って暗号が書かれた羊皮紙を引っ手繰った。ピーターも興味深気に覗き込む。

「なにこれ、暗号?」

「みたいだ。」

ジェームズが問うたので、俺は頷いて見せてフクロウを机の上に置いた。その衝撃にフクロウは不愉快そうにもう一度羽を小さく羽ばたかせた。

「第3魔法薬学室って倉庫になってるよね?教授とか、誰か住んでたっけ?」

「ううんピーター、大抵いつも無人でしかも鍵がかかってるよ。あるのは魔法薬の在庫だけ。」

ジェームズの言葉を聞いて、俺はなんとなくこの暗号が読めた気がした。さっと杖を振ってローブを呼び寄せると席を立ってそれを羽織った。するとピーターの不思議そうな視線を感じた。

「シリウス、どこ行くの?」

「とりあえず第3魔法薬学室。その後、たぶんそれっぽい場所に。」

「えっ、シリウスもう分かったの?」

「何も考えずにナマエの彼氏をやってるわけじゃないさ、ピーター。」

俺はふふんと得意気に笑って見せて、それからジェームズの方を向いた。

「でもどうしたんだろう、いきなりこんな。何かあったのかな。」

ジェームズは肩を竦めてまた少し笑った。人を小馬鹿にしたような灰汁のある笑い方だったけど、それにいちいち腹を立てるほど俺はジェームズを理解出来ていないわけじゃない。

「さぁ、僕には計り知れない。なんにも考えずに付き合ってあげたら良いんじゃない?」

俺は頷いて、2人にひらひらと手を振って談話室を後にした。



第3魔法薬学室は、普段授業で頻繁に使われる教室が集まっている場所からかなり遠く離れた場所にある。ほとんど人気も無いので、俺は自慢のナイフで頑なに閉ざされた扉を開けるのに少しの努力もしなくて大丈夫だった。するりと忍び込んだ教室は、教室と言うよりほとんど倉庫に近かった。ホグワーツで暮らしてもう7年になるけど、ここへ入った回数は片手で数えられるくらいしかない。所狭しと並べられた魔法薬の見本や在庫たちは、埃っぽい空気と相まって、分厚すぎるカーテンが締め切られた部屋の雰囲気にぞくっとするほどの陰気なイメージを与えている。

昼間だというのに俺は杖に灯りを燈して棚を一通り見て回った。肩のフクロウが思いのほか重たい。俺は絶対にナマエの猫可愛がりが原因でフクロウが必要以上の体重になっているに違いないと確信していた。前に一度そのことを指摘したら、ナマエは「大きくなる種類なのよ」とだけ言ったが、それからベーコンなんかの油の多い食べ物を与えているところを見ていないので、たぶんナマエもちょっとは気にかけるようになったのだろう。それが良い。ペットは長生きが一番だ。

もう一度広げた暗号の紙には【第3魔法薬学室の住人の卵の下(※卵はプロングズの子)】と書かれている。じっと黙って考えた。ナマエがいくらミステリマニアだからといって、ミステリに関してはほとんど素人の俺に解けないほど難しい暗号は出さないはず。となると、住人とは恐らく、ここに居並ぶ魔法薬たちのことだろう。卵は魔法薬になる前の姿。つまり数多の薬草のことだ。ホグワーツで一番薬草が集まる場所は、以前ナマエと一緒に大量の三本角カメムシの駆除をした温室以外にない。

俺はそう確信して、用心深く第3魔法薬学室を後にすると、真っ直ぐに薬草学の温室の方へと向かった。何かの薬草の下に次の暗号の紙があることは予想できたが、その何かが分からない。第3魔法薬学室にはありとあらゆる魔法薬が揃っていたのでどの原材料とも特定出来ないし、プロングスの子の意味も分からない。なんだ、プロングスの子って。

お嬢様方は解けましたか?漢字に直すと分かりやすい、ハリーポッターシリーズで何度も出てくる薬草です。プロングスの子。では第一の暗号の解答↓どうぞ




温室は、ホグワーツ城のエントランスから程近い場所にある。スプラウト先生ご自慢のそれは、先生支持者の熱心な手伝いによって常に完璧な状態に保たれていた。貴重であったり危険であったりする薬草の温室は厳重に鍵がかけられているが、その他の温室は基本的に生徒も出入り自由になっている。もちろん摘むには許可がいるが、入り組んでいるその場所は人目につきにくいので生徒御用達のデートスポットの1つでもあった。

「他にヒントは無いの?」

フクロウの背中のあたりをぽんぽんとやりながら温室中に目をやる。青臭い、新鮮な植物の匂いと湿った土の匂いが満ちていて、なんとも言えない感じに心を和ませてくれた。
この匂い、好きだ。

「プロングスの子、プロングスの子。あいついつの間に子供なんて…、」

軽口を叩こうとしたその時、可憐で細かい花をたくさんつけている草が突然目に飛び込んできた。俺のふくらはぎ程度の背丈を持つそれは、一見頼りないように見えてしっかりと地に根を張りちょっとやそっとじゃ抜けも倒れもしない、ハナハッカと並んでもっとも一般的で良く使われる薬草の1つ。

「カノコソウか…、カノコソウ、かのこ草、鹿の子草!あぁ!」

俺は脳みそがパッと明るくなるのを感じて、カノコソウが植えてある一角に急いで駆け寄った。注意深く根元を見渡すと、ほとんど目立たない場所にナマエのフクロウと同じ色の羽根が一枚、不自然に土に刺す感じで置いてあった。その場所を浅く掘り返すと、ビニール袋に包まれた小さな巻き羊皮紙が入っていた。なるほど、鹿の子草ね。鹿の子だからプロングスってわけか。暗号なんてものは、過程はどうあれ分かってみれば簡単なものだ。

温室の隅に腰をおろして、ついでに肩の重たいフクロウもおろして、中に入っていた羊皮紙を広げてみると今度の暗号は【ミセス・ノリス、ここより立ち入り禁止也!】そしてその下にはさらに小さな文字で“2、月毛の獅子の睫毛を支える金色の蟹。”と書かれていた。

またわけが分からない。下に書かれている小さな文字は、たぶん次の暗号の場所を示すものではないだろう。2って書いてあるし、文字列をくくってあるカッコが最初と別だし。

「ミセス・ノリスって…、フィルチの猫…?」

俺の知る限り、新しい管理人であるフィルチの愛猫であるミセス・ノリスは新参者のくせに、教授陣よりも生徒たちよりもフィルチよりも、そして俺たち悪戯仕掛け人よりも我が物顔でホグワーツを徘徊している。入れない場所なんて無いはずだ。それに、ペットに比較的寛大である我らが校長先生は、勉学に支障をきたさない最大範囲内での人権ならぬペット権を認めている為、ミセス・ノリスに限らず、誰が飼っているペットもごくわずかの制限で自由に行動出来ている。

「立ち入り禁止、ねぇ。」

ホグワーツ城を隅から隅まで知り尽くした俺は、端から順番に猫が入れ無さそうな場所を思い浮かべて行ったが、いくつか候補はあってもこれぞという場所が見つからない。しらみつぶしにあたっていくしかないかな、と思った、その時だった。


そう言えば、最近ナマエと話した中にかの猫の名前が出てきた気がすることを思い出したのだ。誰か意外な人が大嫌いだと言っていたのを聞いたとか、なんとか。誰だったっけ?

「あー、駄目だ、思い出せない。」

確か、俺にとってはそんなに意外な人物でもなかった気がする。でもそこまで分かっていても思い出せない。

「ミセス・ノリスはどうしてミセス・ノリスなんだろう。誰かと結婚してるのかな。」

フクロウは土の上をひょこひょこと歩き、蟻か何かを啄もうとしているのか嬉々として嘴を動かしていて、俺の言葉なんて何も聞いてはいない様子だった。

必要以上に楽しそうな姿が、フクロウを手渡してきたナマエの姿とだぶって見えて、俺は思わずちょっと笑ってしまった。どうして急にこんなことをしようと思ったのかは分からないが、暗号を考えて頭をひねっている彼女を想像するだけで、おかしいような愛しいような不思議な感情がこみ上げてくるのを感じた。いつ準備してたんだろう?

温室の空気は相変わらず湿っぽくて馨しくて俺を和ませたけど、いつまでもここにこうしているわけにもいかない。とりあえず思い当たるところを片っ端からつぶしていこうかと腰を上げ、フクロウを抱き上げて温室を出た。

温室を出た瞬間、冷たく強い風が吹いて、俺は寒さのあまり身を縮ませた。

「くしゅっ。」

くしゃみが出て、風邪を引く前にいったん城に戻ろうかと思ったその時だった。

「そうだ!」

出来すぎだって?ほら、へっぽこ探偵には作者からのちょっとしたアシストがつきものだろう?

ミセス・ノリスが苦手なあの人と言えば…!もうお分かりですね。



「やっぱりここだった。」

急ぎ足で向かった先はここ、ハグリッドの小屋の前だ。ドアの下にはさっきと同じようにフクロウの羽根が置いてあって、その隣にはやはりさっきと同じようにビニール袋に入った小さな巻き羊皮紙が置いてあった。

「よう、シリウス!久しぶりだなぁ。」

「ハグリッド。」

俺がその袋を手にしたちょうどその時、ハグリッドが水に濡れた手をハンカチで拭きながら戻ってくるところだった。

「最近ちっとも見かけねぇから心配しとったぞ。」

「色々忙しかったんだ。」

「薄情なヤツだ。」

そう言いながらも、ハグリッドはにこにこ笑って俺を中へと招き入れてくれた。中は相変わらず粗野で無骨なもので溢れ返っていたけど、そのどれもがハグリッドの優しい人柄を表すようだった。

「どうだ、ナマエと上手くやっちょるのか?」

「まぁね。その顔はハグリッド、何か知ってるんだ。ドアのとこにあったこの羊皮紙のこととか。」

いきなりハグリッドらしからぬ質問が飛んできて、俺はちょっと面食らった。ハグリッドはにたにた笑って「いんや。」と答えたっきり、紅茶を淹れる作業に没頭してしまった。

「何も聞かずに置かせてくれって頼まれただけだ。」

「彼女、どんな様子だった?」

「どんなって、普通だったように見えたが?もっとも、俺に彼女は計り知れん。お前さん以上にな。」

ハグリッドが言外にお似合いだと含ませたような気がして、俺はちょっとだけ照れた。

ハグリッドにお茶をご馳走になるのは本当に久しぶりのことで、ちょっと前まで月に何度か遊びに来ては禁じられた森の話を聞いたり色々していたので、最近足が遠のいていたことを申し訳なく思った。もしかしたらハグリッドは待っていてくれたかもしれないのに。

「シリウス、ちょっと見ねぇうちにまた背が伸びたんじゃねぇのか?」

「そうかな。自分じゃ分かんないけど。そういえばハグリッド、猫アレルギーの方はどう?」

「んにゃ、相変わらずだ。猫に近寄るとくしゃみが止まらん。」

俺はにんまり笑って、ナマエが残した暗号が入った袋をぎゅっと握った。ミセス・ノリスについて最近ナマエと話したことは、ハグリッドが「しょちゅう畑に遊びに来てくしゃみが止まらない!」と嘆いていたというものだった。ナマエは動物好きのハグリッドが猫だけは弱い、というのが大層意外だったのか、「知らなかった!」を連発していたのだ。

ハグリッドはほとんど一方的に、色々な話を俺にしてくれた。俺やジェームズが禁じられた森に忍び込もうとしなくなったおかげで畑にかけられる時間が増えたこと、それにともなって収穫が少し増えそうなこと、今年はバラにつく厄介な虫が多かったことなどなど。

気付くと、30分以上が経っていて、俺は重たい腰を上げた。肩の上で大人しくしていたフクロウはどうやら眠っていたらしく、振動で眠りを妨げられて不機嫌そうな声を上げた。いつまで俺のところにいるのかは分からないが、戻る気配がないのでそのままにしておくことにする。もしかしたら、ナマエに言いつけられてるのかもしれないし。

「じゃあ、ハグリッド。そろそろ行くよ。」

「お前さんも中々忙しいんだろうけどな、たまには顔を見せてくれても良いだろうが。」

「うん、分かった。今度はジェームズも連れてくるよ。」

そう言うと、ハグリッドは嬉しそうににっこり笑ってくれた。その顔を見てちくりと胸が痛んだ。やっぱり、悪いことしちゃったな。



ハグリッドにお別れを言って部屋を後にすると、俺は急いで暗号の紙を広げた。今度の暗号は【花に譬ゑて歩き賜ふもの】、そして“1、鯨と硝子管の中もがく銀色の天秤”と書かれていた。今度の暗号は簡単だ。簡単すぎて、ちょっと拍子抜けするくらい。いや、俺がいつ出てくるかいつ出てくるかって考えてたからかもしれないけど。やっぱりナマエと言えばコレだろうな。


今回は簡単なのでヒント無しで!さぁ、ミス・モリアーティまであとひといき!



「ジェームズ。」

「おや、名探偵。君の可愛い悪役は見つけられたの?」

「ジェームズ、それはちょっと聞き捨てなら無いな。モリアーティ教授は確かに悪役だけど、それだけに括れない人物なんだ。第一に、」
「ちょ、分かった、悪かったよムーニー。君のホームズ話に付き合えるのはナマエくらいだ。」

リーマスは口を尖らせて紅茶を啜ると、「まったく。」と呟いた。

「それで?」

ジェームズの興味津々な瞳を無視して、俺は立ったまま広げてあったクッキーを1枚つまんだ。甘い。リーマスのだな、これは。フクロウの物欲しそうな視線を感じたけど、あげるわけにはいかない。飼い主のいないところでこんなに糖質と脂質が高そうなものをあげるなんて。

「リリーはどこ?」

「リリーなら図書館。ちなみに、地図と透明マントは小さなモリアーティ様の手にあるから。」

リーマスはくつくつと喉で笑って、紅茶にもう2つ角砂糖を溶かした。紅茶は既に飽和状態で、カップの底にざらりとした砂糖が溜まっているのが見えた。見るだけで喉が焼けそうだ。

「急いだ方が良いんじゃない、シリウス。彼女を凍えさせたくないなら。」

「凍える?凍えるって?ナマエは今どこに、」

言いかけて、リーマスの意味深な笑みで大体読めた。つまり、この2行目の獅子云々鯨云々って暗号は、小さく愛らしい悪役であるモリアーティ様へ辿り着く為の暗号ってわけだ。

「健闘を祈るよ、出来損ないのホームズ君。」

「勘弁してくれよ。」

口ではそう言ったけど、俺が心の底から楽しんでいることはたぶん伝わってしまっただろう。長年の親友であるこいつらには。



リリーは、いつもナマエと2人で座るお気に入りの席に1人でいた。マダム・ピンスからは死角になっていて、直射日光も当たらず、尚且つ良く使う本棚からも近いここは2人の特等席だ。

「リリー。」

小さな声で話しかけると、リリーは「やぁっと来たわね。」と答えた。

「暗号は解けたの?」

「立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿はリリー・エバンズ。これが一番簡単だった。リリーは絶対どっかで出てくると思ってたし。」

椅子を引いてリリーの向かい側に腰を降ろすと、リリーは片眉を上げた。リリーはなんだか最近ジェームズに似てきたように思う。恐くて口には出せない、けど。リーマスもピーターも言ってたから勘違いではないはずだ。リーマスなんかに言わせれば、「わざわざ指摘して喜ばせてあげる義理はない」のだそうだけど。

「どこで道草くってたのよ。」

「ハグリッドのとこ。」

俺がそう答えると、リリーは何故か嬉しそうに笑った。なんだ?

「良いわ。そうそう、私で最後よ。はい、これ。」

そう言ってリリーから手渡されたのは暗号の紙、ではなく、ただの表にしか見えないマスが書かれた紙だった。



なんだ、これ?俺の不思議そうな顔を見たリリーはちょっと笑って言った。

「モリアーティ様からの伝言。『これを使って私を見つけたまえ!』ですって。早く行かないと風邪ひかせちゃうわよ。」

「リーマスにも同じこと言われた。ねぇ、ほんとにこれだけ?伝言は他には無いの?ヒントも?」

「無いわ。」

リリーは取り付くしまも無いといった様子で、今まで読んでいた本に再び視線を落とした。が、何を思ったのかもう一度顔を上げて俺をじっと見た。なんとなく、居心地が悪くなるような眼だ。

「なに。」

「シリウス、ナマエがどうしてこんなことしたか分かる?」

リリーは、何かおもうところがあるのだろうか。そんな眼をしていた。俺が黙ったまま首を横に振ると、リリーは全くの無表情のまま「あっそ。」とだけ言った。

「とにかく、夕食には連れて来てあげてよ。」

「分かった。」

「健闘を祈るわ。」

リリーはひらひらと手を振って俺を席から立たせた。ここで考えようかと思ったのに。表と2つの暗号を見比べつつ図書館を出ると、すぐ先の廊下の窓で待たせていたフクロウを再び肩に乗せた。うっかりそのまま図書館に入ろうとしたら、マダム・ピンスに物凄い顔で睨まれたのだ。たとえ1歩でも図書館の敷地に侵入してたらヤバかったな。



寮の談話室ではなく自室に戻って1人暗号と表を広げてみた。

最初の暗号が“2、月毛の獅子の睫毛を支える金色の蟹。”

次の暗号が“1、鯨と硝子管の中もがく銀色の天秤”

そしてこの表だ。



うーん、駄目だ、さっぱり分かんない。とりあえず表に暗号を書き込んでみたけど、なんのことはない。暗号自体に意味はないのだろうか?獅子、蟹、鯨、天秤、どこかで見たことあるような感じだけど。


俺がうんうん唸って悩んでいると、リーマスがやって来た。実に楽しそうだ。それはもう、俺以上に。

「ミス・モリアーティがね、僕にヒントを出しても良いとおっしゃったから。」

「ほんとに?」

思いがけない言葉に俺がかすかな希望を見出していると、リーマスは1回頷いた。

「僕はナマエを裏切らない。」

リーマスはにっこり不気味なまでにさわやかに笑って、俺の隣に座った。

「どこまで解けたの?」

「さっぱり。」

ぐちゃぐちゃと色々書きこんだ羊皮紙を覗き込んで、リーマスはふむふむと唸った。

「じゃあ僕からヒント。ひとつ、彼女は日本人で、その独特の言語に誇りを持っている。ふたつ、文字通りひとすじなわじゃいかないけど、素直に考えた方が良いね。みっつ、暗号自体にはほとんど意味は無いよ。全くってわけじゃないけど。」

リーマスは「解けたら急いで行くんだよ。」と言い残して去っていった。ますますわけがわからない。本当にヒントなのか?


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というわけで、謎かけ編でした!
答えが分かったよ、というお嬢様はどうぞ、答え合わせ編へお進み下さい。

念のためお断りしておきますが、所詮エルシーが考えた暗号というかパズルなので、程度の低い仕上がりとなっております。ないとは思いますが過度のご期待等なさらないようにくれぐれもお願い申し上げます(笑) 「こんなの暗号でもなんでもねーよ!」と思われたお嬢様も、生温い目で見逃してやって下さい。

最後に、エルシーからもヒントを。
・全部日本語で考えてください。英語に直したりとかはないです。
・表の右上の斜め線はただのスラッシュというか、マスが無いものとして考えてください。

私の可愛いミス・ホームズたち、健闘を祈ります!(←…)


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