【入学式オムニバス】1年生・9月



ブラック・シリウスの場合

車から降りると、見たことない人数のマグルでそこら中溢れ返っていた。大勢の人が放つ独特の熱気にあてられながら、きっと誰が見ても分かるくらい眉を顰めた。ホグワーツ入学のこの日に、きっと僕ほど自分自身を祝福していない生徒はいないだろう。長い歴史の中、たぶん、100年くらいは。

「シリウス。」

慣れないワンピースをいかにも「汚らわしい」という顔で身にまとって車から降りてきたこの女性は、僕の母上だ。母上、なんて呼び方が馬鹿げてるって知ったのは数年前のこと。ホグワーツについたらうっかり使ってしまわないように気をつけないと。

「貴方には色々と妙なことを言われて困らせられたけれど、スリザリンに入ればきっとなにもかもが良い方向に変わって行くわ。」

座っている時についたであろう僕のシャツに残った微かなシワを伸ばすように肩に手を置いて、母上は微かに僕を抱き寄せた。人前でこうやって触ってくるのは本当に珍しいことだ。僕はなんとなく、本当になんとなくだけど、これが永遠の別れになってしまうような気がした。物理的な意味ではないけど。だって、僕はどうやったって、例えば伝統どおりスリザリンに組み分けされたって、母上の望む息子にはなれそうもないから。

「行って来ます。」

母上の手を振り払うようにして挨拶をすると、この人は微かに眉を寄せた。それを気付かないフリが出来るほど、僕はまだ大人じゃない。一瞬、ほんの一瞬、胸が苦しくなった。


「ママ!」

「ジェームズ、恥ずかしいわよ。さぁもう行きなさい。」

「手紙書いてね!約束だよ!僕もすぐに書くから!」

「分かった、分かったから、ほら。いい加減ドーレアから離れなさい!お友達に笑われちゃうよジェームズ。」

列車に乗ろうとした瞬間、ものすごい声で叫んでいた男の子と目が合った。同じ新入生だ。なんて恥ずかしいんだろうと思ったら、その男の子は母親の手をはなれ、まっすぐ僕の方に向かってきた。正確には、列車の入り口に。

「やぁ、君も新入生?」

ほっそりと長い手を差し出して握手を求める目の前の男の子を、僕はただ馬鹿みたいに見詰めていた。こんな風に気さくに誰かに話しかけられるのはほとんど初めてだったからだ。

「そうだよ。」

「よろしく!僕はジェームズ・ポッター。君は?」

「シリウス。シリウス・ブラック。」

「シリウス?変わった名前だね。」

ジェームズは、何の臆面も無くそう言い放った。正直、むっとするのを止められなかったけど、ジェームズはそんなこと気付きもしないようだった。もう一度ご両親の方を振り返って手紙を書いてと催促するのに余念が無かったからだろう。

僕たちは相当ぐずぐずしていた方だったらしく、もう空いているコンパートメントは少なかった。同じ新入生だろうか、赤毛が野暮ったい女の子と見るからに陰気そうな顔色の悪い男の子が窓際に2人で座っているコンパートメントを見つけて、断りもそこそこにそこへ腰を落ち着けた。一息つくと、いきなりジェームズが僕を見て言った。

「僕たち気が合いそうだ。」

「会って10分も経ってないのに何が分かるっていうの。」

僕は、言ってから、しまったと思った。折角友達になれそうな人にこんなことを言うなんて。でもジェームズは驚いた事にこれもあんまり気にしないようだった。鈍感なのかもしれない。

「インスピレーションかな。一緒の寮になれるといいね!」

寮、その単語を認識して、僕の胸は再び鉛とヘドロに占領されていった。僕はスリザリンだろうか。それとも、それ以外だろうか。スリザリン以外の寮を望んでいるのも僕だったし、恐れているのも僕だった。どちらが僕にとって正しいのか、分からない。きっと選ばれた寮が正しいんだろう。スリザリンは絶対に嫌だ。でも、スリザリン以外の寮に選ばれたときの母上…、母の反応を考えると気が滅入るのも確かに自分だった。

どっちにしろ、数時間後には分かることなんだ。そう自分に言い聞かせて、窓の外を眺めた。車窓には見たことの無い田園風景が広がっていて、僕の心をほんの少しだけ軽くしてくれた。



***



ポッター・ジェームズの場合

ホームで会ったシリウス・ブラックは、男の僕から見ても綺麗な人間だった。ママママ言ってる自分がちょっと恥ずかしくなるくらい凛として、身長だってそんなに変わらないのに、とても同じ新入生とは思えない。

組み分けの前、新入生の全員が緊張で吐きそうになってる時も、シリウスだけはしゃんと2本の足でホグワーツの歴史ある床をとらえていた。瞬間、僕は思った。「あ、彼はこういう人間なんだ」って。名は体をあらわす、とは良く言ったもので。シリウスはその名のとおり、ただ立っているだけでもどこか人目を惹くオーラを持っている。もちろん彼だって、緊張してないわけじゃないと思う。人生の大事な分岐点と言っても良い場なんだし。だけどそれを微塵も表に出さないで、周りをきょろきょろ見渡したりも、手のひらにかいた汗をローブで拭う事も、めがねの縁をやたら押し上げたりすることもしない。いや、シリウスは裸眼だけど、そういうことじゃなくって。

僕はすぐに彼の真似をしてみた。背筋を伸ばして前だけ見る。手は軽く握って真っ直ぐおろす。そうすると、不思議に心もしゃんとしてくるのを感じて、やっぱり僕も相当緊張してたんだなぁなんて検討違いなことを思った。でも、こんなに効果的かつ実行が相当困難な解決方法をさらりとやってのけるなんて、一体彼はどんな経験を積んできたんだろうか。僕と同い年で?もしかしてやばいくらい凄いヤツなんじゃないか?

「君、グリフィンドールだと良いね。」

突然ふってきた言葉に、僕は驚いてシリウスを見た。彼はほんの少し笑っていた。

「うん。君もね。」

シリウスは返事をしなかった。

彼のファミリーネームはブラックでBだから呼ばれたのはほとんど最初だった。彼の寮はグリフィンドールだった。がたがたの椅子に座って、頭に帽子が触れて、1分くらいの間があって、帽子はグリフィンドール、勇気あるものの住まう寮を彼に選択したのだ。シリウスの表情は全く読めなかった。ただ、素直に喜んでいたわけじゃないのは分かった。そして僕が一番驚いたのは、帽子が叫んだ瞬間、本人でもグリフィンドールの歓声でもなくスリザリンのテーブルからのどよめきが一番大きかったこと。やっぱり彼はただものじゃないらしい。でも面白そうなやつだなって印象は変わらなかった。むしろ増したと言っても良い。グリフィンドール寮のテーブルに着くなり、周囲はあたたかく彼を迎えていたようだった。僕からは良く見えなかったけど。

僕の名前が呼ばれるまではしばらく間があったけど、僕はどんどん落ち着いて行くのを自分でも感じていた。意味も無い自信と、確信が僕の中に静かに満ちて行った。僕は絶対グリフィンドールだ!

コンパートメントで一緒だった赤毛の女の子の名前はリリーと言った。名前を呼ばれてグリフィンドールのテーブルに駆けて行く彼女は、コンパートメントで見た陰気な彼女とは別人のように明るく、そしてきらきら輝いていた。なんて可愛いんだろう…。あんなに可愛い生き物を、僕は他に見たことが無い。そして、僕はどうして睨まれているんだろうか。気のせいか?彼女、目つきが悪いだけ?



***



エバンズ・リリーの場合

コンパートメントで大層な無礼を働いた不届き物は、にたにたと嫌味ったらしい笑みを口元に浮かべて私を見ていた。私がグリフィンドールになったのがそんなに可笑しいのかしら。セブと離ればなれになったのが愉快なの?どちらにしろ失礼な人。眼鏡野郎。隣は眼鏡野郎じゃない方の失礼な人だった。これまた不愉快な声で「宜しくエバンズさん。」なんて言って来たから頭に来て無視した。

ホグワーツ城は本当に豪華で荘厳なお城だった。着いたときはこの世のものとも思えないほどの光景にとても興奮した。チュニーのことを一時忘れてしまうほどに胸が躍って、これから魔女としての私に起きるすべてのことに期待して。そんな自分に嫌悪したけど、でも自分の力じゃどうにもならなかった。彼女の言葉が頭の中で何度も何度も響き渡った。生まれ損ない。チュニーは本気で言ったのだろうか。私達姉妹の確執は、このまま深まって一生戻らないところまでいってしまうのだろうか。そう考えたらぞっとした。

「食べないの?」

いつの間にか目の前には山盛りの特別おいしそうなお食事が並んでいた。ぼんやりしていた私は全くそれに気付かなかった。声のした方を見ると、真っ黒な髪真っ黒な瞳黄色い肌をした女の子が私の方を見ながらチキンを頬張っていた。身長を抜きにしても特段幼い印象をもたらす、切り揃えられた前髪の下でくりくり輝く瞳がしっかりと私をとらえていた。

「とっても美味しいわよ。取りましょうか?」

その女の子はそう言うと、頷いた私を見て一番近くにあったパイを私のお皿に取ってくれた。

「ありがとう。」

私が動揺しながらそれを受け取ると、その女の子はようやくにっこり笑って「どういたしまして。」と言った。英語が上手だ。イントネーションが変だけど。

「名前を聞いても良いかしら?」

私がそう言うと、女の子は「ミョウジナマエ。」と短く答えた。

「ミョウジ?」

「名前はナマエっていうの。ミョウジは苗字。ねぇ、リリーって呼んでも良い?」

「もちろん。」

私が不思議そうな顔をしていたのか、ナマエは「素敵な名前だから覚えてたの。」と答えた。私はなんだかとっても照れてしまって、本当に本当に照れてしまった。名前を褒められてこんなに嬉しくなったのは初めてだった。普段は、このありふれてかつ意味深長な名前のせいで、どちらかというと素直に受け取れないことが多いのだけど。

「えっと、あの、ナマエ、出身はどこ?」

照れてしまったことを隠したくて、急いで話題を探したけど、そんな必要は無かったみたいだった。だってナマエは2本目のチキンに取り掛かろうとしている真っ最中だったから。その姿がなんだかとっても可愛いくて、うっかり抱き締めたくなりそうだった。

「日本よ。知ってる?ずーっと東のアジアの端っこにある島国。イギリスには、お父さんの仕事の関係で9歳の時に来たんだけど。」

それからしばらくナマエから日本の話を聞いたり私の家族の話しをしたりして、あっという間に大広間は解散の時間になった。寮での部屋割りは監督生の人が1人ずつ名前を呼んで行われたのだけど、ナマエと私は何でだか最後まで名前を呼ばれなかった。どうやら人数の関係で、一番端の古くて小さな部屋に2人で暮らすことになったらしい。これも運命ってやつかしら?それとも必然?

「改めて、これから宜しくね、ナマエ。」

「こちらこそ!」

ふかふかのベッドに潜り込んだら、やっぱりチュニーのことが頭を過ぎったけど、明日から始まる授業への不安や期待の方が勝っていた。セブと離れてしまったこと、それにあの眼鏡野郎と同じ寮っていうことはなんだか嫌だけど、でも彼女と同じ部屋になれたのは2つのマイナスを足したって抵抗出来ない程のプラスだと思う。出会ってまだ何時間だけど、私のインスピレーションがそう言って聞かなかった。言うなれば一目惚れってやつ。彼女と一緒なら、きっとこれからの学校生活は素晴らしいものになる、そんな気がして。早く朝が来ないかな。



***



ミョウジ・ナマエの場合

同室になったリリーは、赤毛が綺麗な女の子だった。私と違ってすぐにグリフィンドールの寮に選ばれて、花のように、でもちょっとだけ寂しそうに笑う姿は言いようも無く可憐で目を奪われた。これはもう一目惚れっていうか運命かもしれない。とにかく同じ部屋になれた幸運に感謝した。

次の日、早速校内をあちこち説明があったけど、ホグワーツ城は広すぎて1日やそこらの説明じゃほとんどカバーしきれていなかった。それに監督生の人は私達にこっそり、本当のところ城の隅々まで知っているのはダンブルドア校長先生くらいなものだ、と教えてくれた。それよりも当面重要なのは恐ろしい管理人や厄介なポルターガイスト、それに良く通る場所の騙し階段なんかだからって。何もかもがはちゃめちゃで、規格外で、私のちっぽけな常識なんてあってないようなものだ。でもそれがとっても楽しい。

「リーマス。」

「ナマエ。」

ランチも終わりかけの頃、リリーと隣同士で座っていたら後ろをリーマスが通った。リーマスとは行きの列車の中で知り合った。同い年なはずなのにとっても落ち着いていて、なんというか影のある男の子。私と同じで1人ぼっちだったからすぐに仲良くなった。

「リーマスもグリフィンドールだったね!」

「ナマエと同じで嬉しいな。」

私がリリーをリーマスに紹介すると、リーマスも同室だと言って3人の男の子を紹介してくれた。ジェームズとピーターと、あとシリウス。私が握手しようと思って手を差し出したのに、誰も応じてくれなかったのは本当に寂しくって胸が痛んだ。でもリーマスが困ったような顔をしたから文句を言うのはやめにしておいた。せっかく友達になってくれた彼を入学早々同室の人と気まずい関係にさせるわけにはいかない。

「エバンズさん、ごきげんいかが?」

「あなたがあらわれるまでは麗しかったわ。」

リリーは彼らと、というより眼鏡の人と知り合いのようだ。私が驚いて首を傾げると、リーマスも似たような顔をしていた。どうやらリーマスも良く分からないらしい。

「リリー?」

険悪な空気に耐えかねて私が恐る恐る口にすると、リリーはふんと鼻を鳴らして私の手首を掴んで立ち上がった。

「待ってよ、どこ行くの?」

ジェームズが慌てたように呼び止めた。

「私たちは食事終わったの。あなたたちまだならさっさと済ませた方が良いんじゃない?」

リリーは小さな声で「行きましょうよ。」と私を促した。私が黙って頷くと、リリーは足早に大広間を横切って外に出た。ずんずんと歩いて彼らが追いかけてこないのを確認すると、くるりと私に向き直った。

「ごめんなさい、ナマエ。でもあの人たち、列車の中で私や友達に酷いこと言ってきたの。ナマエにも失礼なこと言うんじゃないかと思って…、」

リリーは一端言葉を途切れさせると、ふるふると首を振ってもう一度「ごめんね。」と言った。

「良いのよ。確かにあの人たち、私にもあんまり友好的じゃない感じだったし。」

「どういうつもりなのかしら。本当に失礼ね。」

リリーはぷりぷり怒っていたけど、私の心には暗い闇が広がっていった。握手を拒まれた。それはどういう意味なんだろう。大広間に入ると視線を感じるのは気のせいじゃなかったんだろうか。自意識過剰だと思っていたけど、それこそが間違いだったとしたら。

「リリー、友達って昨日言ってたスリザリンの?」

リリーは頷いて、「今度紹介するね。」と嬉しそうに言った。スリザリン。あの人たちは私と同じグリフィンドールなのにあんな風な態度を取った。スリザリンの人は、もっと酷いかも知れない。いや、でも、そうじゃないかも知れない。ネガティブ思考はやめにして、とりあえず今は忘れておこう。

「セブルスって言うの。ちょっと変わってるけど、良い人よ。」

「名前もちょっと変わってるわね。」

私がそう言うと、リリーは頷いて「でもシリウスよりはありふれてない?」と返してきた。そうだ、そう言われてみれば。私、どうしてそう思わなかったんだろうか。前にどこかで聞いたことがあるような気もしないでもない…?

「どうかした?」

「ううん、何でもない。」

何でもない。きっと気のせいだ。



***



ルーピン・リーマスの場合

僕は人間だ、僕は狼人間だ、僕は魔法使いだ、僕は混血だ、僕は狼人間だ。
このやりとりを、一体何度頭の中で繰り返しただろう。あれに噛まれてからだから、もう数え切れないほどであることは間違いない。それでも、僕が何ものかという納得の行く答えは出ない。たぶん、死ぬまで分からないままだろう。

ダンブルドア校長先生は、僕にホグワーツに来ても良いと言ってくれた。それは僕が生まれた時から決まってたことだから、そうするのが当然だって。最初聞いた時僕は嬉しくて感動してしょうがなかったけど、入学の日が近づいてくるにつれて言いようの無い不安だけが大きくなっていった。黙っていたら分からないだろうか、僕が狼人間だということ。みんなをあざむいて7年間もやっていけるのだろうか。そもそも、本当に許されるのだろうか。ダンブルドア先生はああいったけど、もしも同級生を噛んでしまうような事があったら?そう考えると吐き気すら伴う恐怖と不安、それに罪悪感に苛まれて立っていることすら難しくなった。

9月1日、引きこもりがちだった僕は久しぶりにこんなに大勢の中に立っていた。みんなが僕を見ているような気がして、大急ぎで一番端っこのコンパートメントに駆け込んだ。そんなはずないのは分かってるのに。

しばらくしたら、小さなノックの音が聞こえてそのノックの音と同じくらい小さな女の子が入ってきた。あんまり小さいから僕は一瞬誰かの妹かなにかが間違って乗ってしまったのかと思ったけど、その身体に不釣合いな大きなトランクを引っ張っていたからそうじゃないと分かった。

「ここあいてますか?」

「あ、うん、はい、どうぞ。」

本当なら、彼女のトランクを代わりに置いてあげるべきだったんだろうけど、僕はすっかり動揺していてそれどころじゃなかった。僕はアホみたいにただぼーっと目の前にちょこんと座った女の子を凝視していた。女の子はカバンの中から飲み物を取り出すとそれを一口飲んで、丁寧にしまって、それからようやく僕が見ていることに気付いたらしい。首を傾げて「なに?」と尋ねてきた。

「えっと、君、新入生?」

「そうです。ミョウジナマエと言います。」

「僕はリーマス・ルーピン。僕も新入生だよ。」

そう言うと、ナマエは心底びっくりしたようで、目を真ん丸くしながら「そうなの!」と言った。

「リーマスはホグワーツのこと色々知ってる?お兄さんやお姉さんがいる?」

「ううんいないけど、でも父さんがくれた本で少し読んだよ。」

僕が寮のことやどんな教科やクラブがあるかなんかを簡単に話したら、ナマエは期待と不安の入り混じった顔で熱心に聞いてくれた。何度も頷いてくれるのが嬉しくて同時に、どきどきしてるのは自分だけじゃないと分かった。彼女も話し方や見た目なんかでこの国の人で無いのは分かったし、そういう意味では不安も人一倍だろう。

「私、どの寮だって良いわ。でも出来たらレイブンクローが良いかしら。」

「勉強が好きなの?」

「ううん、なんとなく名前の響きが素敵。リーマスは?」

「…そうだね、僕もどの寮だって良いよ。」

学校に入れるだけで感謝しなきゃいけない。そう思ってナマエを見ると、名前が素敵、と笑った彼女がまだ笑っていた。なんていうか、すごく優しい子だ。きっと僕が緊張しているのを見抜いて、それで気を使ってあんな風に言ってくれたんだろう。ナマエは続けて「チョコレート好き?」と尋ねてきた。もちろん。

「大好物だよ。」



次の日の夜、列車の中で彼女が分けてくれたチョコレートがポケットの中に入れっぱなしだったことに気がついた。甘くてほろ苦いそれはなんとなく心を和らげてくれる気がして、1つ食べたところでもう1つは組み分けのお守り代わりに取っておいた。包装紙に少しシワが寄ったそれを机の上に置いて眺めていると、シリウスが不思議そうな顔で僕を見てきた。

「食べないの?」

「あ、うん。シリウス食べる?」

お守りは効果てきめんだった。もうお役御免なわけだけど、僕はどうしても食べてしまう気にならなかったから、シリウスに代わりに食べてもらって助かった。

「それミョウジさんにもらったんだ。美味しいよね。」

僕がそう言うと、僕の隣に椅子を引っ張ってきて配られた日程表を確認し直そうとしていたシリウスが怪訝な顔をした。

「ミョウジさん?あのちっちゃい日本人?」

「シリウスもミョウジさんと知り合いなの?」

「いや、違うけど。」

「へぇ、じゃあ良く日本人だって分かったね。僕は正直なところ、会っただけじゃ中国の人なのか日本の人なのかいまいち、」

僕が言いかけたら、シリウスはきょとんと目を丸くして首を傾げた。そして小さな声で「そういえば何でそう思ったんだろ?」と呟いた。いや、僕に聞かれても知らないよ。



「おはようエバンズさん!あっ、ちょっと待ってよ!」
「あなたと交わす挨拶なんて持ち合わせてないわ。」
「えっ!ちょっ、エバンズさん!待って!ねぇ!」
「毎朝毎朝良くあきないなぁ、ジェームズは。」
「シリウスの言う通り。ミョウジさんおはよう。」
「おはよう、リーマス。またミョウジさんって言ってるわ。」
「ごめん、おはようナマエ。」
「早く慣れてね。」
「行きましょう、ナマエ!」
「あ、うんリリー。」
「…あの2人ってほんと仲良いよな。いつも一緒で。女ってどうしてああ群れたがるわけ?」
「そうじゃなくてねシリウス、なんでもお互い一目惚れなんだって。」
「はぁ?なんだそれ。」
「いや、僕も良く分からないんだけどね。だからジェームズ、リリーにアタックするならまずミョウジ、ナマエさんから攻略した方が良いと思うよ。」
「駄目だリーマス、今は何を言っても無駄な状態になってる。」
「じゃあ引っ張ってシリウス。僕らも朝ご飯にしないと、1時間目に間に合わない。」
「そうだな。ジェームズ、しゃんとしてって。毎朝のことだろ?」
「ううぅ。」


End?

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