Cendrillon | ナノ


▼ :身を潜める人
魔術師協会内で結成された対黒ずくめの組織に特化したバックアップチームの働きで、赤井父は協会に匿われているという設定(大雑把)。正直そこら辺の描写を詳しくする予定はないです(不精)。そして短い。


「務武さん、絶対メアリーさんに無事を伝えた方が良いですよ?」
「いや、家族を巻き込めない。死んだと思った方が諦めもつく。結果、危険とも距離を置けるだろう」

 原作から17年前、秀一の父がメールを残して行方不明になるというエピソードがあった。
 組織に消されたという線が濃厚でもあった。

 しかし、その人は現在、某国で潜伏生活中だ。



 * * *



 遡ると菫がこの世界に訪れた初期の頃の話だ。菫がヴィオレとノアの二人に黒ずくめの組織について説明したのが始まりである。何やら対策はすると言っていたのは菫も聞いていたが、具体的な事は全く想像出来ていなかった。


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「え! 魔術師協会で、もう何人も黒ずくめの組織から保護している人がいるんですか!?」
「ええ。現在それぞれ別の場所で身を隠していますね」
「必ずしも全員助けられている訳じゃないけどね。協会に危険が及ばない範囲で、保護してるわ」

 菫はヴィオレとノアから魔術師協会内に、すでに黒ずくめの組織に対抗すべく対策チームが発足している事を知らされた。情報収集をするとは知っていたが、そのような実体があるものとは菫も思ってもいなかった。

「組織に対抗するには、内情を知る協力者が必要でしょ? それに組織から消されそうな人間って言ったら、存在すると都合が悪い人間。組織にとってよほど使えない構成員か、もしくは組織の邪魔になる厄介な人間だわ」
「組織が消したい人間を保護する事は、突き詰めれば組織の痛手になりますからね」
「そう。人命救助にもなって、組織の裏も掛ける。まさに一石二鳥ね」

 軽い調子でヴィオレとノアは言ったが、菫は事の大きさに呆気に取られた。あの恐ろしい組織に歯向かうという事がどれだけ危険であるか想像は容易い。

「ヴィオレさんもノアさんも、協会の魔術師の方にだって、危険が及ぶかもしれないんですよ? そんな大丈夫なんですか?」
「私達は組織の存在を知っていて、あちらは知らない。これってかなりアドバンテージがあると思うわよ?」
「そして、菫。私達は魔術師ですよ。悪人と言えど、一般人に遅れはとりません」
「そうよ。私達の活動の難しい所は、いかに世間に私達の存在が露見しないように行動するか、その一点なの。……あら、黒ずくめの組織と似てるわね?」

 ヴィオレは面白そうに自分の発言に笑った。
 魔術師の力をもってすれば何事も簡単に収められるらしいのだが、通常ではありえないという認識を与える行動はご法度という事だった。整合性さが求められるそうだ。
 人目がある時は理屈が通るような状況でなければ、基本的に傍観するしかないのである。もちろん保護する人間には秘密保持の契約を施すという。

「協会は積極的に人命救助は行いますが、それが義務だとは思っていません。我が身が可愛いですからね。協会の事が露見する危険性がある時は動けませんし、動きません」

 自分達の安全を確保できた上での行為であるとノアは事もなげに言った。しかし、組織から保護するという事は、どうしても長期的な視点がいる。

「でも、匿い続けるにも下世話な話……お金とか掛かりますよね? そういう金銭面でヴィオレさん達の負担になるなら――」

 組織から一時的に保護し、助かったならばそれで終わり、そのままサヨナラ……とはいかないだろう。だが、菫の懸念は笑って飛ばされる。

「ふふ、やあね。心配のし過ぎよ。それに大丈夫。ちゃんと予算はあるから。協会の有事の際に使用できるやつね」
「黒ずくめの組織は放置すると後々問題になる危険性を孕んでいます。それを理由に対策関連資金として予算が下りたんですよ。安心しなさい」

 ヴィオレ達個人に負担はないようだったが、それでもそれを負担する存在がいる事が菫には申し訳ない。
 全ては菫の発言が発端で、その張本人である自分が何の負担も強いられていないからだ。

「でも……それって協会が負担しなくても良いものですよね?」
「世界の危機は、ひいては協会の危機にも成り得るというのが理由ですよ」
「それに今までに組織に消されそうになってた人って、優秀な人間ばかりなのよね。保護する代わりに協会内で仕事を割り振ってるから、持ちつ持たれつって感じよ?」
「そうですよ。思いがけず人材が確保できました。あと、協会の予算も実は当初の額より増えてるんですよね」

 ただでさえ迷惑を掛けている状況で、予算は増えているのかと、菫は居た堪れなさが最高潮だ。

「そんな……協会に予算の増額で、さらに負担を掛けているって事ですか?」
「あぁ、違うわよ? 組織用の予算が増えてるんじゃなくて、正確には協会の資産が増えてるのよ。実は保護した人間の中に、財テクのプロがいたのよね」
「その人間に資産運用をさせたところ、今までに組織関連で使用した予算が返ってきたどころか、増えてるんですよ」
「結局、組織に関連した支出は、その運用益で相殺になったわね」

 どうやら予算の件は菫の勘違いらしい。しかも詳しく聞けば、協会にとっても良い結果となっているようだ。

「現在も利益が上がり続けているので、対組織の予算は結局全て、協会に返還されてしまいました」
「今は運用されて得た利益の一部が対策チームの予算――というより資金と、保護した人達の生活費になってるわ」
「当初、チームは我々協会メンバーで構成されていましたが、最近は保護した方たちが率先して動いてますね。優秀な方たちばかりで、助かっています」

 しみじみと頷くノアに菫の返す言葉は一つしかなかった。

「そ、そうなんですか……」

 組織から保護した人間は一人、二人程度ではないそうだ。その全ての人間の生活の保障など、一体どれだけ膨大になるのかと菫は思っていた。
 しかしそれが何の問題にもなっていないらしい。というよりも、しっかり自活出来ているようである。
 組織に命を狙われ寸でのところで助け出されている彼らは、恩を感じているのか協会に協力的なのだと言う。そして組織の裏をかきたいと皆の結束力はかなり強いそうだ。

「うーん……さすが黒ずくめの組織に狙われるだけはある人たち、って感じかな? 何だか次元の違うお話だった……」

 自分はつくづく平凡な一般人であると、菫が痛感した一件だった。
 ちなみに協会内の総合的な資産が増えて、今回の件でヴィオレの株がさらに上がったらしい。


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 そして協会の対策チームの働きによって、秘密裏に保護されている一人が、赤井務武……赤井秀一の父親である。
 妻のメアリーが第三子を妊娠したという喜ばしい時期に、その身を隠すしかなくなった不運な人間であった。



 * * *



 それまで務武の無事を知らなかった菫は、ヴィオレ達と共にたまたま旅行で訪れた某国の魔術師協会支部で、その事実を知る事になった。また顔見知りという事もあり、顔を合わせる機会を得た菫はそこで務武の話を聞いて驚いた。
 協会に保護されてから一度として、家族と連絡を取っていないのだという。もちろん無事だと知らせている筈もない。

「メアリーさん、赤ちゃんを産んだばかりできっと大変ですよ? きっと旦那さんの助けが欲しいって、心細い思いをしてます。協会は家族と連絡を取っては駄目だとは言ってませんよ? もちろん最善の注意を払って秘密裏に……って条件は付くそうですけど」
「いや、俺とは会わない方が良い。関わらない方が良いんだ」
「せめて奥さんのメアリーさんにだけでも、連絡を取りませんか?」

 しかし、務武の返答は冒頭のものに尽きるのであった。

「菫もメアリーや息子達には言ってくれるな」

 務武の言葉に菫は何とも言えない表情を浮かべるしかない。

(そういえば秀一さん、日本に移住してきて間もなく、アメリカ留学しちゃったもんね……)

 思えば日本での秀一との交流も、数えられる程度しかなかったのだ。本当に知らせていないのだと菫は実感させられる。

「……務武さん、秀一さんや秀吉君はもちろんですけど、生まれたばかりの娘さん――真純ちゃんに会いたくないんですか? 小さい時はあっという間です。きっとすごく可愛いんですよ? しかも初めての女のお子さんじゃないですか」
「……菫が何と言おうと、何と言われようと、家族に会うつもりはない」
「……そうですか、分かりました……。でも気が変わったら、すぐにチームの方に声を掛けてくださいね? 生活サポート班の方が、すぐに手配できるって言ってましたから」

 ここまで固辞する人間にそれ以上は無理も言えず、菫は困ったように首を傾げるしかないのだった。



基本、黒ずくめの組織の対策チームの魔術師は黒子の人達なので、後見人の2名以外はオリキャラとして本編には出てきません。しかし実際のところ、赤井父はご生存っぽい?


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