Cendrillon | ナノ


▼ *02


「菫……」
「菫ちゃん……」
「ご、ごめんね? た、助けて……」

 呆れたように自分を見つめてくる幼馴染二人に菫は小さな声で謝る。リビングのテーブルにはチョコが含まれた多種多様な菓子が並べられていた。

「友人にバレンタイン用のお菓子の手解きをする事になって、見本代わりにこんな沢山用意しちゃった訳ね、菫ちゃん」
「そしてその用が済んだ見本が一人では処理できないと僕達は呼ばれた訳だな……。作るにしてももっと計画的に作れ」

 菫は先日も似たような状況に陥っていた筈なのに学習していなかった。
 ちょうど昨日の事だ。菫は由美と美和子を自宅に招き、恋人への贈り物の作成を手伝っていた。菫が作り置きしていた菓子を由美と美和子に試食してもらった上で、彼女たちはそれぞれ恋人に送るチョコを作り上げている。テーブルの上の菓子たちは菫の用意した見本のその余りであった。

 ちなみに由美はチョコチーズケーキ、美和子はラズベリージャムを挟んだチョコマカロンを手作りして意気揚々と帰宅していっている。また試食用に作られたチーズケーキとマカロン、他にも何種類かの菓子はこの二人にお土産にも持たせたり、また本日出先で出会った少年探偵団にもこれ幸いと振る舞われ残っていない。
 それでも捌き切れなかったのが菫達の目の前にある菓子である。

「お願い、ヒロくんと零くんも協力して! 私しばらくはお菓子はお腹いっぱいです! 見本用に作ったシュークリームが失敗しちゃって、自分で全部食べたから胸焼けが……」

 ウ〜……と菫は若干気持ち悪そうに胃の辺りを押さえる。シュー生地が膨らまずに、唯一失敗した見た目が悪いシュークリームは誰にも食べさせられないと、菫が一人で完食している。足が早いチョコクリームを後回しに出来ず、率先して食べきったそれのせいで菫の胃はもはやチョコを受け付けない。

「それにこれでもだいぶ少なくなったんだよ? 子供達にあげたりして」

 現時点で手元に残っているのは仕上げが冷蔵庫で冷やし固めるだけの大量生産が可能なものが多かった。

 シンプルにかたどられただけの一口サイズのチョコや生チョコ。
 チョコでコーティングされたオレンジピールやナッツ。
 チョコとバター、砕いたビスケットを混ぜ合わせ作るチョコフリッジ。
 焼き菓子系ならばクッキー、ガトーショコラなどなど。

 しかしこれらを見て露骨に顔を顰めた者がいる。菫からの要請を受けやって来ていた松田だ。ソファに足を組んで座り、その膝に肘をついてつれない事を言う。

「お前な、俺達がこの時期どれだけチョコ押し付けられると思ってるんだよ? いっそ奇をてらって辛いもんでも渡された方がよっぽどいいぞ」
「そう言わないでくださいよ〜。時期が悪いのは分かるんですけど陣平さんも研二さんも、どれでもいいから減らすの手伝ってください!」
「う〜ん、俺たち皆、女の子ほど甘いのは食べられないんだよねぇ」

 普段は菫の要望を軽く請け負ってくれる萩原も今回ばかりは松田の隣で、困ったなぁーという様子を隠さない。
 最近は甘味を好む男性にも人権が認められ、男性だからと言って奇異な目で見られるような事は少なくなっている。だが菫の周りにいる男性は揃いも揃って、ステレオタイプな甘い物をそれほど好んでいない男性ばかりなのであった。
 


 * * *



 菫は何とかアピールポイントを掲げ、四人の男性に協力を乞うた。このままでは自分一人でこれらを処理しなければなくなるからだ。

「で、でもね、ここにあるのはビターチョコを使って甘くないですよ? 甘いのは子供達に優先的にあげましたし。生チョコ以外は日持ちするよ! もう非常食みたいなのだと思って引き取って〜!」
「はぁ……でも日持ちするなら持ち帰って仕事中にでも食べればいいか。このまま放って置く訳にもいかないしね」
「まぁ、僕達で四等分すれば食べきれない量ではないな……」

 必死に頼み込んでくる菫に、まず幼馴染が真っ先に折れた。なんだかんだ言ってもこの二人は菫に甘いのである。

「そうそう、4人で分ければ一人当たりの量はそんなに多くないから!」
「おいコラそこの幼馴染組、俺らもさらっと頭数に入れてんじゃねーよ……って、あぁ〜分かった。ったく、しょーがねーな!」

 松田は不服そうに文句を言いかけたが、菫に手を合わされ必死に拝まれるのを見て、疲れたように片手で顔を覆い口を噤んだ。

「ふはっ、陣平ちゃんも陥落したか。ま、この場にいる時点で結果は見えてたけどね! 菫ちゃんのお願いだし、ここは粛々と受け取るかぁ」
「! ありがとうございます! わーん、助かったー! それじゃあ包んでおくから持って帰ってね」

 残り二人からも同意を得て菫はチョコ尽くしは免れたと安堵の息をつく。取りあえず人数分に分け持ち帰れるようにしておこうと、菫は梱包材を取りに足早にキッチンへ移動する。背を向けた後ろ側からは四人の会話が漏れ聞こえてきていた。

「そういや俺、菫ちゃんからここにある様なお菓子はもらった事ないな。ゼロもそうだろ?」
「というか、菫から普通のチョコをもらった事がないぞ? 毎年同じやつを渡されるよな。この出来上がったのを見ると、他のチョコ菓子が不得意って訳じゃなさそうだが……」
「そうなのか? ゼロもヒロも菫との付き合いは俺達よりなげーのに、ここにあるのは食った事ねぇのかよ? つーかもしかして全員、毎年同じもん貰ってるって事か?」
「じゃあ今日のこれって滅多にない機会って訳だ。菫ちゃん、早速食べてみても良いよねー?」
「良いですよ――って、あ! 皆待って! ハート形のチョコだったら食べるの待って――」

 萩原の声に一度は菫も許可を出すも、ある事を思い出しすぐさま前言を撤回しながらリビングへ踵を返した。菫は一つ、彼らに伝えるべき注意事項をまだ共有していなかったのである。

「あ? もう口ん中だぞ。食っちまった」

 代表してか松田が無情に言い切る。制止の甲斐なく、四人はほぼ同時に摘まんでいたチョコを口に入れてしまっていた。
 サイコロ型の生チョコならば特に問題なかったのだが、奇しくも皆、菫が食べるのを引き止めた飾り気のないハート形の一口チョコをモグモグと咀嚼中である。

「あ〜……」

 菫が何やら気まずそうに表情を変えたそのすぐ後だ。口の中に広がったチョコのその味に、次々と苦悶の声があがった。

「ぐっ……」
「!?」
「苦っ!」
「菫、水……」
「も、持ってくる!」

 四人は心構えもなく食べたのも要因か、しばらく口を押さえ舌に残る苦みに悶絶していた。菫は慌ててキッチンへ走り、飲み物を持って戻るとそれを四人に手渡しながらバツが悪そうに口を開く。

「ごめんね……ちゃんと説明するつもりだったんだけど、最初にそれが選ばれるとは思わなくて……」
「菫ちゃ〜ん、これビターチョコじゃないのぉ?」
「これってあれだろ……」
「菫ちゃん、これカカオ? 何%のやつなの?」
「うんヒロくん、それだけはカカオ99%のやつなの。すごく苦い」
「言うのが遅いぞ、菫……」

 運悪く全員が真っ先に食べたのがユニーク枠で作ったチョコだった。ハートの型に流し込み形を変えただけで、ほぼ何も手を加えていないカカオ99%のチョコだ。シンプルな外観が男性陣の手に取りやすかったようである。

「これね、私も試しに今回初めて食べてみたの。なんだかすごい味だって聞いてたから面白そうだなって。でもさすが99%は聞きしに勝るっていうか……。普通のチョコの方がいいねぇ」
「カカオとチョコって別物だな……」
「松田、日本の規格ではカカオ分35%以上、ココアバター18%以上、糖分55%以下の物しかチョコレートと表示できない。つまりバターと砂糖が入っていなければ別物だ」
「うんうん、バターと砂糖は偉大だね〜」
「カカオ70〜80%くらいは美味しいみたいだけど、こっちはもう目が覚める苦さだな」

 水を飲みながら四人は口々に感想を述べ、また口直しを兼ねてか他のチョコ菓子にも手を付け始める。他の菓子は概ね評判はいいが、最初に食べた物がひどかったせいか何となく正当な評価ではないような気がした。しかし今回ばかりは菫が悪いため、詳しい感想を聞くのは諦める事となった。



 * * *



「皆さん、ご協力ありがとうございました〜」

 ハプニングはあったが、程なくして菫が持ち帰ってもらおうと思っていたテーブルの菓子は、四人の胃袋へと次々に消えていった。食べるスピードが落ちた辺りで菫は残りを人数分にラッピングし、現在卓上にはコーヒーカップがそれぞれあるだけだった。
 綺麗に菓子がなくなった皿をキッチンに片付け、憂いが消えてホクホクしていた菫がリビングに戻ってくると、コーヒーに口をつけながら萩原が首を傾げた。

「――そうだ菫ちゃん。今日はいつものやつないの? 今回はここにあるのもらっちゃったから、今年はなし?」
「え? 研二さんまだチョコのお菓子食べれます? もういらないって言われると思ってました」

 萩原の言葉にまさか催促されるとは……と菫は正直驚く。毎年彼らに用意するチョコ菓子を菫は今回の自分の不手際――大量の見本があるため、製作を見送っていたところであった。本日あんなにチョコを押し付けられ、さらにもう一品渡されるなど嫌がらせになるかと遠慮したのだ。

「もう皆、私にたくさんチョコを食べさせられて飽きちゃったんじゃないですか?」
「お前、菓子なんてそんなに食べないだろ、ハギ」

 菫にいつものが欲しいと自然に伝えられる萩原を面白くなさそうに睨んだ零だったが、フッとある事を思いついた。

「あ、いや菫、こいつにはいつものやつは勿体ない。マシュマロでもやっておけばいい」
「グミでもいいよ、菫ちゃん。百歩譲ってクッキーかな?」

 零に追従して景光も付け加えた内容に萩原は情けない声で抗議する。

「ひどい! ゼロもヒロもひどい!」
「え? グミとクッキーも意味あったの?」
「あぁん? どういう事だ?」

 萩原の泣き言と菫の意味を問う声に、松田が器用に片眉だけあげた。それに萩原は、あぁ、やはり知らなかったか、と説明する。

「陣平ちゃん、プレゼントにも色々意味があるんだよー? マシュマロとグミは、“あなたが嫌い”。クッキーは“友達でいよう”っていう意味ね」
「はぁ? それ本当に一般的なのか? っていうか世の中の男はそこまで考えて物を贈らなきゃなんねーのかよ?」

 萩原の言葉に松田が面倒そうな表情を浮かべた。だが菫が小首を傾げる。

「男性に限らず大体の人はそこまで考えてないと思いますけどね?」
「現に菫もグミとクッキーは知らなかったみたいだしな」
「零くん達は雑学が強過ぎ! それに知らなくてもあまり問題なさそうじゃない。どちらかといえばマイナーなグミをあえてプレゼントに選ぶなら、きっと相手がそういうのを好むからだろうし、クッキーだってお返しには無難そうだよ? マシュマロもホワイトデーの定番のお返しだけあって、本来は悪い意味ではないよね」

 零の指摘に菫が反論していると景光が確認するように問いかけた。

「でも菫ちゃんはバレンタインはいつもバウムクーヘンだよな?」
「菫の事だから多分そういう意味でくれてたんだろ?」
「お? やっぱり全員、毎年菫ちゃんからバウムクーヘン貰ってたんだー?」
「バウムクーヘンは良い意味がいっぱいじゃないですか」

 どうやらここにいる全員は菫からバレンタインにはバウムクーヘンを受け取っていたらしい。十中八九、ここにはいない伊達も同じ物をもらっていたのだろうと皆推測した。

「……菫が寄越すもんにはどんな意味あったんだよ」

 話題になっているバウムクーヘンはもちろん松田も承知していたが、その話題についていけない。その真意が一人分からず、自分だけのけ者のように感じるのか松田が不機嫌そうに問うと、景光、零の順で口を開く。

「松田、バウムクーヘンは見た目が木の年輪に見えるだろう?」
「その事から“成長”“歳を重ねる”“繁栄”って縁起がいいと言われてるんだ」
「あと“幸せが続きますように”って意味があるって聞いたから、もうこれしかないなって。皆にはぜひ長生きしてほしいので、これからもバウムクーヘンですよ! あ、そういえば零くん達も毎年同じお菓子くれるね? もしかして……?」
「たまに菫ちゃんって抜けてるよねぇ」

 萩原からの肯定に自分が毎年受け取っている菓子にも隠れた意味があったのかと菫は意外そうだった。贈られる菓子は日常的に食べられる機会がある物だっただけに、その事に思い至らなかったのだ。

「でもゼロとヒロならそこら辺もきっちり考えて贈ってそうだけど、陣平ちゃんはホワイトデー、菫ちゃんに何あげてるの? お菓子じゃなくて小物とか? まさかお返ししてないなんて事はないよね?」
「いや……」
「陣平さんも律儀にプレゼントを用意してくださいますよ。しかもリクエストしたお菓子を毎年!」
「菫がリクエストしたのか?」

 松田に代わって菫が答えると皆驚いた様子で目を瞠った。だが零の疑問の声に松田は少し眉を寄せて首を振る。

「何やりゃいいか分かんねーから、手っ取り早く欲しいもんを本人に聞いただけだ。それ以外の意味はねーよ」
「え〜、菫ちゃんにリクエストされるって、陣平ちゃん羨ましいんですけど」
「あ……やっぱりお返しを選ぶの大変でした? 気を使わせてしまって、すみません」
「そういう意味じゃないよ、菫ちゃん。どうせあげるなら欲しがってるのをあげたかっただけ。でも菫ちゃんは松田に何をリクエストしてたんだ?」

 表情を曇らせた菫に景光が手を振って否定する。零と萩原もそれに首肯したため、菫はおずおずと景光からの質問に答えた。

「ほんと? それならいいんだけど……。えっと、それでね、私のリクエストしたのはあるメーカーのホワイトデー限定の瓶詰めのお菓子。毎年瓶のデザインが変わって可愛いの! 私昔からその瓶を集めてたんだよ」
「へぇ? 知らなかったな。瓶の中身はなんだ?」
「キャラメルだな。……なんだよ、萩原は気持ちわりー顔でこっち見んな」
「陣平ちゃんもひどっ。俺かわいそう! 陣平ちゃんも中々やるなぁーって思っただけなのに!」
「……それもなんか意味あんのか?」
「そうですね、私もキャラメルの意味も知らなかったです。どういう意味ですか?」

 松田と菫の疑問に萩原がチェシャ猫のようにニヤニヤと楽しそうに笑いながら言った。

「キャラメル。“ずっと仲良くしたい”だね〜」
「! 俺が意味分かってねーでやってたの話を聞いてて分かってんだろーが。むしろしっかり意味を理解してるお前らは何やってたんだよ」

 赤らめた顔でぶっきらぼうに尋ねる松田に萩原はニコリと菫に笑いかける。

「え〜俺? 俺はマドレーヌ。“もっと仲良くなりたい”し!」
「俺とゼロはキャンディー。“長く一緒にいたい”って意味だからね、菫ちゃん?」
「そうなの? 嬉しい……!」

 口々に発せられるその言葉に、これまでのお返しに込められていたその意味に、菫は顔が緩んでしまうのを止められない。高揚感を覚えるというか、まるで雲の上にでもいるかのようなフワフワとした心地に菫は包まれる。昔から求めてやまなかったものがずっと手元にあったのだととても良い意味で突きつけられた。

「私も皆と同じ気持ちですよ! あと陣平さんがそのつもりじゃなかったのは分かっても、やっぱり嬉しいです。これからも仲良くしてくださいね」

 意図していないとはいえ、それがたとえ偶然でも意味があるような気がする。また思い上がりかもしれないが、松田もそのように思ってくれるのではないかと菫には思えた。
 そんなフニャッと笑う菫に否定も肯定も出来ない松田は、そっぽを向いて舌打ちをするしかなかった。



 * * *



 いつも歯に衣着せぬ松田が自分の言葉に何も言わない事を菫は都合よく解釈し、喜々とその場の四人に確認する。

「もし貰ってもらえるなら私もバウムクーヘンは皆にあげたいな。一応材料は用意してるから……」

 菫の中では定番のバレンタイン用のバウムクーヘンは、今年一年を無事に過ごせるように、来年も共に過ごせるように……と願掛けも兼ねている。この時期に贈れなくとも日をずらして渡そうとは考えていた。しかし受取人にその気があるならば繰り上げて用意するのも苦ではない。

「もしかしてお菓子、これから作る事になるのかな? 菫ちゃんの手を煩わせるようなら……」

 だが菫がまだバウムクーヘンを準備していないのだと気付くと、萩原はわざわざ手間取らせる事に躊躇したらしく言葉を引っ込めようとした。ただそれを菫はあっさり退ける。

「大丈夫です。今すぐはお渡しできないんですけど、明日伊達さんとお菓子を作る予定なので! 伊達さんにお菓子作りの指南の傍らで私もバウムクーヘンを作ろうかなって思ってたところです」
「うん?」
「あぁん?」
「伊達と菓子作り?」
「菫ちゃん、何でそんな事になったの? 伊達がお菓子を作るってすごい違和感あるんだけど?」

 あの巨漢がよりにもよって菓子を作るのかと皆訝し気に眉を寄せていた。反対に菫は何かおかしいのだろうか? とその反応に不思議そうだったが、事情を説明しだす。

「伊達さんのところ、ナタリーさんが妊娠中じゃないですか。つわりであまりご飯が食べられてなかったそうなんですけど、先日渡したシリアルバーが気に入ってもらえたみたいなんです。それを伊達さんにすごく喜ばれまして」

 身重な妻にようやく見つかった栄養補給が可能な食材に伊達が目を輝かせたのは言うまでもない。
 警視庁に赴いた翌日に伊達から礼の電話があり、話を聞いてそれならば定期的に差し入れすると菫は提案した。しかし伊達が望んだのはさらに一歩踏み込んだ作り方の伝授であった。

「それでナタリーさんの負担を減らすために、伊達さんから作り方教えて欲しいって頼まれたんです。自ら奥さんのご飯を作るなんて、もう本当に旦那さんの鑑! 素敵ですよねぇ……。金の草鞋を履いてでも探すのが伊達さんみたいな人なんでしょうねぇ」

 思わず菫から感嘆の声が漏れる。伊達にそんな事をされてはナタリーも天井知らずに惚れ直しそうだと、身近なカップルの幸せそうな様子を想像し菫もおすそ分けを貰ったような気分になる。

「妻帯者のくせに伊達が無駄に菫ちゃんからの評価が高い!」
「真っ先に結婚してくれて助かったというべきか……」
「普段ワイルドな伊達だからこそ生まれるギャップも、多大に相乗効果をあげている……?」
「日常的に料理する上に見た目的にもゼロだとそのギャップは得られないだろうな」
「それを言ったらヒロだって似たようなものだろ」

 朗らかに上機嫌な菫をよそに、男達は固まってコソコソとない物ねだりでつまらなさそうだ。そのあとも菫が何かにつけて伊達を称賛するので男を上げ続けている唯一の既婚者である友に対し同期四人は閉口するのだった。

 また後日、伊達はしっかり菫からレシピを学び、せっせと愛妻に給餌する事に成功する。順調に食事が出来るようになったと報告を受け菫も喜んだが、そのナタリーの食生活はのちにある者に大きく影響したようだ。



 ・
 ・
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 伊達へとシリアルバーのレシピを伝授したある日から数年後。幼馴染と共に伊達家に訪れた菫はポツリと呟く事になる。

「妊娠中のお母さんがよく食べた物が子供の好物になるって、信憑性のない噂だと思ってた……」
「菫、母親が妊娠中に摂取した物が子供の味覚に影響を与える事は科学的に証明されているぞ?」
「そうそう。だから妊娠中と授乳中も母親は自身の健康はもちろんだけど、子供のためにも偏りない食生活を送る事が推奨されるんだね」

 お土産に持参したシリアルバーやオートミールのクッキーを見て、伊達ジュニアが狂喜乱舞したのを呆気に取られて見つめる事になるのを菫はまだ知らない。



最後はしらっとそしかい後のワンシーン。子供の性別はぼかしました。あとキャンディーには“好き”という意味もあるようです。

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