Cendrillon | ナノ


▼ *苦くて甘い *01
警察学校編が連載中ですから伊達さんも……。


 菫は零から一時預かりをしているハロを自宅に連れ込み、キッチンで忙しなく動き回っていた。材料を混ぜ合わせながら菫はオーブン前と作業台を行ったり来たりの自分について回っているハロに声を掛ける。

「ハロの分は今冷ましているから、少し待ってねー?」
「アンッ!」

 菫はクッキー作りに精を出していた。先日ハロにと作ったシンプル過ぎるおやつが零と景光に好評だった事が納得できないのだ。打倒犬用クッキーである。

「ただあの二人、お料理も上手なんだよね。零くんもヒロくんも、何でもそつなくこなしすぎ……」

 そもそも幼馴染の二人は手先が器用なため、零だけではなく景光も料理人顔負けの一品をさらりと作り出す。それもあって菫はこの二人に自分の素人の域を出ない手料理を披露する事に積極的ではない。特に菓子ともなればその機会はさらに少なくなる。

(絶賛してほしかった訳じゃないけど、ハロのクッキーの方が受けがいいとか、なんかプライドが!)

 その滅多にない機会で、普通に作ったクッキーよりハロ用のお手軽で味気のないクッキーの方が幼馴染たちの評価が良かった事が、菫には微妙にショックだったのであった。

(うぅ……私にも一つくらい花を持たせてください……)

 多才な二人に菫も立場がないのだ。料理スキルくらい譲ってくれ……と、ある意味女泣かせな幼馴染たちに菫は手を動かしつつため息をつく。それでも気を取り直して菫は調理を続けた。

「零くんとヒロくんにリクエストされた分も焼き終わったし、あとは私の腕試しの分を焼くだけ! クッキー以外にも、あっさりしたクラッカーとか種類だけは豊富に用意したから、どれか零くんとヒロ君のお眼鏡に適うやつがあればいいんだけどな」

 零と景光は糖分や油分が多いクッキーはあまり求めていないようだと前回感じていた。菫はそれも考慮し、さまざまな種類の焼き菓子を作っていく。夜釣りの日に追加で頼まれたシンプルなクッキーが悪いという訳ではないが、ひと手間加えた方を気に入ってもらえればやはり嬉しいものである。

「私だって自炊歴は相当だもんね。数さえこなせば零くんとヒロくんが気に入ってくれるお菓子を作れる筈! ……多分だけど」

 足元でじゃれつくハロの相手もしながら、菫はクッキーをどんどん焼き上げる。だが興が乗ってしまった菫は、需要と供給のバランスを失念してしまっていた。


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 テーブルの上で焼き上がったそれらの粗熱を取りながら、菫は冷めたクッキーを膝に乗せたハロに与えつつ肩を落とした。

「作り過ぎたねぇ……」
「アン?」

 どれか一つでも気に入ってもらえばいいような心境になっていたせいか、知っているレシピを手当たり次第試したせいか、それは気付けばとんでもない量になってしまっていた。
 山のように盛られたクッキーやそれ以外の焼き菓子の皿が菫の目の前にはいくつもあった。失敗した……と菫は思わず呟く。

「零くんとヒロくんには少しずつ色んな種類を渡すだけだから、ほとんど余る」

 どう考えてもこれらを全て幼馴染の二人だけに押し付けるのは迷惑以外の何でもない。かと言ってとてもではないが余った菓子は菫一人では消費しきれない。

「うぅ〜どうしよう。自分で作っておいてなんだけど、しばらくクッキーは食べたくない……」

 一通り味見をしてどれも中々の出来上がりだと自賛はできたが、菫としてはこれ以上食べられる気がしないのだ。

「気が向くまでポケットに入れておこうか……って、あ! 明日はあそこ行くし、ちょうど良いから持って行こう!」

 持て余していた菓子の山の消費先を思いつき、菫は幼馴染に渡す分を確保すると、他の残りもラッピングし始めるのだった。



 * * *



「あれ? 伊達さん!」
「おぅ、菫……」

 翌日、昼前に警視庁の公安へと景光への届け物を預かりに来た帰り道。建物の玄関付近で菫は見覚えのある大柄な男性を呼び止める。駆け寄って来た菫に伊達は頬を緩めた。

「ここで会うとはなぁ。元気か?」
「元気ですけど、私より伊達さんの方が元気なさそうですよ? 顔色も悪いですね? どうしたんです?」

 顔色と合わせて少し頬がこけているようにも見え、菫は心配そうに眉を下げた。

「ナタリーのつわりがひどくてな……。俺もつられてるんだか、気持ち悪くなる時があるんだよな」

 ちょうど胸のあたりをさすり、伊達は少しお疲れ気味のようだ。

「それはいわゆる男つわりじゃないですか? 伊達さん、もしかしてごはんも食べられてないんじゃ……?」
「ナタリーが苦しそうなのを見てると、俺も飯食ってるどころじゃなくてよ。食う気も起こらん……」

 妊娠中で体調不良の妻の様子を見て食欲が落ちているらしい。頭をがりがりと掻いて溜息をつく伊達に菫は少し羨ましそうにした。

「病める時も健やかなる時も――の夫婦の絆を目の当たりにして、ちょっと感動……と言いたいですが、ご夫婦そろって体調的には良くないですね……。ちゃんと栄養は取れてますか?」
「俺はまぁ、いざとなれば意地で食うし元々体力もあるから問題ねえが、ナタリーはそうはいかねーんだよな……。妊婦ってよ、一時期すげー偏ったものしか食べなくなるって言うだろ?」

 菫もそれは耳にした事があり、あぁ、と頷く。ナタリーは何が好物になったのだろうと気になった。

「それは良く聞きますね? ナタリーさんも何か特定の物しか食べられない感じですか?」
「いや、試し試し食っては吐くんだわ。果物が辛うじて食えるからそれでしのいでる感じで、特別気に入ってる訳じゃねーな。果物なんてほとんど水分だろ? もっと腹に溜まるやつ食ってほしいんだが、ナタリーの気に入る物がねーんだよなぁ。もうこの際、偏食でも構わないから何か食べれるのが見つかってほしいんだけどよ……」

 ナタリーの場合はまだ何が食べられるかの模索の段階で、偏食ですらないようだ。伊達も心配そうに表情を歪めている。

「果物が食べられるならドライフルーツは栄養ありますよ――って思いましたけど、あれは甘さも凝縮されて食べ過ぎると虫歯が怖いんですよねぇ。妊婦さんに歯科トラブルは厳禁ですし、ドライフルーツは駄目か。何かあるかな……?」

 パッと思いついた食材を口にしたがあまり勧められるものでもなかった。菫は何か他に良い食材はないかと考えを巡らす。そしてちょうど自分が今持ち歩いていたある物を思い出した。

「あ……あの、これは? 良ければこれ、もらって頂けます? 栄養は結構あると思うんですよ。ナタリーさんにちょうどいいかも……」
「ん? なんだ?」

 菫は持っていた紙袋の一つから箱を取り出すと伊達にそれを開けて見せた。

「オートミールのクッキー……というかシリアルバー? みたいなのです」

 幼馴染たちが気に入るクッキーを作ろうとしていたのだが、色々作っているうちにいつのまにかクッキーから脱線してしまっていた代物の一つでもある。大きめの箱には少し厚めで長方形の板状に切り揃えられたシリアルバーが詰められていた。

「オートミールは粒が大きくてちょっと食べづらいので、フードプロセッサーで荒めの粉状にしてます。これはココアパウダーが入っているのでチョコ風味ですね。こっちはグラノーラとマシュマロで作ったやつとか、他にもゴマ入りとか抹茶味とか……」

 景光への書類を受け取りに出向く先の公安部は、作り過ぎた菓子のちょうどいい受け入れ先ではないかと昨日の時点では菫も思っていた。だが零たちの仲間に差し入れとして大量に持ち込んだは良いが、建物に入ったところで菫は気付く。相手はあの公安なのだと。

「いっぱい作ったので今日会う方達に渡そうと思ってたんですけど、その人達って手作り品が苦手だったんですよねぇ……」

 公安に手作り品はご法度であった。零や景光が普通に食べているので菫はすっかりそれを忘れており、途中でその事を思い出す。慌てて菫は差し入れ品を普段からポケットに入っている既製品のお菓子の詰め合わせへと変更したのだった。

「あぁ……だからそんな紙袋持ち歩いて、こんな所に来てたのか」

 手作り品がダメな警察関係者と言えばあそこか……と伊達にも容易に見当はついた。また菫がそんな彼らの協力者だという事に複雑な思いを抱きつつも、それには触れずに話を続ける。

「つまりこれは行き場がないやつなんだな」
「はい。うっかりしてました。本当に私だけじゃ食べきれないんですよ……」

 菫の言葉に、受け取る人間がいないならば構わないかと伊達も遠慮は消した。香ばしい匂いがふわりと立ち昇る箱を伊達は指差す。

「んじゃ、ありがたく貰うかね。コレ俺も食っていいか?」
「ええ、どうぞどうぞ。伊達さんには物足りないかもしれませんけど、元々おやつ用なんです。食欲が落ちてる今ならこの位が食べやすいかもしれませんね」

 菫が頷くと伊達は早速一つ口にして咀嚼した。それを飲み込み終えるとさらに手を伸ばし、二個、三個と平らげていく。

「おー菫、どれも美味いぞ。そこらへんで売ってそうな味だわ」
「ありがとうございます。お口にあって良かったです」
「どれもシンプルでナタリーにも良さそうだ。特に抹茶のやつは俺も好きだな」
「それならもしナタリーさんが苦手な感じでしたら、伊達さんが食べてもらえますか? あ、でも無理して全部食べなくても良いですからね? 誰か同僚の方にでもあげてしまってもいいですから」

 そう言いながら菫は箱を紙袋にしまうと、伊達へと預ける。

「結構日持ちするので仕事の合間にでも食べてください」
「ありがとな菫。ナタリーも喜ぶ。……ちなみに、菫がもう一つ持ってるそっちの紙袋は違うやつなのか? 俺が貰ったやつとは見た目が違うな」

 伊達は菫の手元の紙袋の中身を覗き込みながら尋ねる。伊達が菫から受け取った紙袋には無地の紙製の箱が入っていたが、菫がもう一つ持っていた紙袋には片手に納まる程度の小分けにされた袋が何個も入っていた。透明な袋の中には色取り取りの可愛らしい菓子が詰め合わせられている。

「あ、はい。これも差し入れに持ってきた物ですけど、伊達さんに渡した方の箱は基本的に甘さは控えめです。こっちは反対に甘めのクッキーとかをまとめてたんです」

 ちなみに、可愛らしくて衝動買いしたラッピング袋があったので、それを使いたいがために甘い焼き菓子だけは個別に包装しただけである。

「妊娠中のナタリーさんにはあまりお勧めできないかなって思いましたけど、一袋くらいなら大丈夫かな? ――という事でおひとつどうぞ。あ、伊達さんもいりますか?」
「あー、甘いのはナタリーの分だけでいいわ。……って事はそれも今のところ渡すやつがいないのか?」
「そうですね。こっちはもう諦めて自分で地道に食べて減らしていこうかと思ってます。でも、沢山味見したのでちょっと飽き気味なんですよね……」

 内心、あとで少年探偵団の子供達に食べるのを協力してもらおうか……などと考えながら菫は苦笑した。それに伊達が一瞬考え込んで首を捻ると、それならあいつらにやったらどうだ、と菫の後ろを指差す。

「え? あ、由美さんに美和子さん」

 伊達のその指の先に目をやり菫は思わずその名を漏らす。さほど大きくないその声で相手も菫と伊達に気付いたようで声を掛けてきた。

「あらー、伊達さんに菫さんじゃない!」
「伊達さんはともかく、菫さんはこんな所でどうしたの?」

 警察になにか用があるの? と秀吉の想い人である由美が近寄ってくる。その傍らには高木刑事の想い人である佐藤刑事も一緒だった。



 * * *



「菫は俺の嫁さんに差し入れ持って来てくれたんだよ。今うちのやつ、つわりで飯が食えねーから試しにこれはどうだ、ってな」

 何故警察にいるのかという由美の問い掛けに伊達は紙袋を軽く掲げ、咄嗟にそう説明してくれた。公安に用があったとは間違っても言えないため、菫も伊達の言葉に乗っかる。

「そ、そうなんです。伊達さんの奥さんのナタリーさんとも、昔から私も知り合いなんですよ」
「あー、菫さんって伊達さんの警察学校時代からの知り合いなんだっけ? 奥さんともお付き合いあったのね」
「そういえば、菫さんの幼馴染の人が伊達さんの同期って言ってたわね――」

 伊達、警察学校、同期……という単語に、佐藤刑事――美和子がジロリと自分の警察学校時代の締め付けが強くなった原因をねめつける。

「伊達さんとそのお仲間がヤンチャしまくったせいで、私達の年だけ規律が信じられないぐらい厳しくなったんですよねぇ!」
「いやー、立つ鳥跡を濁してすまねぇな!」

 あまり堪えた風ではなく軽く謝っている伊達ではあるが、それは多分この人のせいじゃないっ、と菫がアワアワと言い訳をした。

「あっ、美和子さん。多分伊達さんは騒ぎを起こした面々のフォローをしてくれてた筈です。伊達さんはすごい気配りの人なので! フォローの達人ですよ!!」

 時には萩原から面白そうに、時には零と景光から疲れたように報告されていたので、過去のいくつかの警察学校内での騒動を菫は知っている。その原因が伊達ではないとも聞き及んでいた。たいていは同じ班の幼馴染を含む四名が主にやらかしていたらしいので、むしろ伊達にとっては風評被害である。

「きっとヤンチャしてたのは他の人というか、私の幼馴染たちの方なんだと思います。すみません……」
「もう、それって菫さんが謝るような事じゃないでしょ? その幼馴染たち――伊達さんのお仲間が原因なら、やっぱり伊達さんも悪いのよ! 連帯責任よ!」
「違いねぇ! いや、本当に悪いと思ってるんだぜ? 後輩に迷惑かけたな、ってよ」
「なあに笑ってるんですか伊達さん! 反省してるように見えませんよ!」

 カラカラと笑いながら言う伊達に美和子はさらに突っかかっているが、それを見つめながら菫は松田の事を考えた。

(陣平さんと美和子さん、すごくお似合いだったと思うのにな)

 デパートでの爆弾騒ぎのあと由美と連絡を取り合っていた菫は、その由美を通じて美和子とも知り合っていた。由美と出会った経緯と合わせて、菫が警察関係者――伊達や松田、萩原と交流がある旨も伝えている。反対に菫は美和子に恋人がいる事も聞いていた。

(陣平さんの未来の花……芽吹かなかった。そして美和子さんの花がもう咲いちゃってるんだよね)

 そう、菫を驚かせたのが美和子と松田の関係だ。菫はてっきり美和子と松田は面識があると思っていたのだが、実はこの二人は互いの存在すら知らないようなのだ。

(陣平さん、捜査一課には異動してないから? 由美さんは陣平さんに研二さんの二人ともお付き合いあるのに)

 由美が松田や萩原と知り合いだった事から、美和子も同様だと思い込んでいた菫は自分の知る未来とは違う展開に少し申し訳なさを覚えている。

(高木刑事も悪い人じゃないけど、陣平さんにも機会があればもしかしたら違う未来が……。でもそれ自体、私がどうこう言うものじゃないか……)

 人の出会いや想いなどはあるがまま、赴くままが一番だ。余人の介入は何より無粋であるし、こじれの原因でもあろう。ただ、自身の知識通りでも松田と美和子は結ばれないので、菫が何とも言えない不思議な感情を抱いている所に由美が声を掛けた。

「――ねえ、菫さん。もう用が済んだなら私達とお昼一緒にどう? 美和子とご飯食べに行く所だったのよ」
「わぁ、嬉しい! ご一緒させてくださ、い……って思ったんですけど、今から人と会う用事が……。折角のお誘いなのにすみません」

 由美からの昼食の誘いに、訪れなかった未来に思いを馳せていた菫はパッと思考を切り替えた。そして快諾しようとしてそれが難しい事にもすぐに気付く。
 菫は本日、公安に極秘書類を受け取りに来ていたのだ。しっかりポケットにしまっているとはいえ、風見から預かった書類を持ち歩いて寄り道するのは憚れた。プチ女子会に参加できず菫は名残惜しそうに由美に断りを入れる。

「あ、そうなの? 残念ねぇ。それじゃ今日の夜なら? ……チュウ吉の事で話がしたいし」
「夜なら、是非! あぁ、そうだ由美さん、コレ作りすぎちゃったお菓子なんです。甘い物が苦手じゃない同僚の方がいましたら、皆さんで食べてもらえませんか?」

 伊達があいつらにやればいいと言っていたのを思い出し、菫は紙袋の口を少し広げ中身を見せた。

「え?! マカロンにクッキーとか、こんなに作ったの。すごいわね、しかも美味しそう……」
「簡単なのしか作ってないですよ? それに私、今、基本的に時間が有り余っている暇人なんです」

 休業中なので……と恥ずかしそうに笑いながら言った菫に、由美が何故か詰め寄ってきた。

「菫さん!」
「は、はい! な、何でしょう?」
「お菓子を手作りする菫さんを見込んで頼みが!」

 由美の勢いにたじろぎつつ答えた菫に、由美は少しトーンを落としどこか躊躇いがちに質問をする。

「本当は食事の時にでもに聞くつもりだったんだけど……チュウ吉って何が好きか分かる? その……チョコ系で」
「チョコ? あ、バレンタインですね?」

 チョコといえば最近よく耳にする恋人たちの一大イベントが思い当たった。菫の指摘に、由美がバツが悪そうな表情を浮かべる。

「私はちゃんと出来合いのチョコを用意するつもりだったのよ? でもチュウ吉ったら手作りが食べたいって、なんかすごく期待してるみたいで……」
「プレッシャーを掛けてくるとか秀吉くんも策士ですねぇ。でも我儘に付き合ってあげるなんて由美さん優しい! ふふ、秀吉くんったら幸せ者!」

 この由美の菫への依頼という現状を見れば、秀吉の企みは成功してると言っていいだろう。菫は微笑ましい気持ちと知人の恋愛絡みの話に、ついニヨニヨとした視線を向けてしまう。菫の意味ありげな眼差しに照れたように居心地悪そうだった由美はそれでも話を続ける。

「あぁ〜もうそれでね! 何かチョコの上手な作り方とか教えてほしいんだけど、無理かしら……」
「私、料理の腕は人並みですよ? あまり期待しないでくださいね? でも一緒に作るのはもちろん大丈夫ですよ!」
「本当? 菫さん、恩に着るわ!」
「あ、ただ秀吉くんの食の好みは正直、詳しくないです。むしろ秀吉くんの食事関連は由美さんの方が影響力が大きいじゃないですか。対局中にケーキを食べるようになったのは由美さんの助言だって聞いてますし」

 子供の頃からの付き合いではあるが秀吉は何でも黙々と食べていた記憶しかなく、秀吉の好き嫌いなどを菫は知らない。そして由美が勧める物ならば、秀吉は嫌いな物でも一転して好きになるのではないかとも思っていた。しかし当の由美は秀吉の愛の重さに無頓着のようである。

「え? そんなつもりなかったけど?」
「でも実際はそうですからねぇ。もう由美さんが作った物が秀吉くんの好物になりそうな予感がするので、渡したいなって思ってる物を作っちゃってもいいと思いますけど……」
「なになに? 由美ったらヤダヤダ言ってたのに結局チョコ作る事にしたの? っていうか菫さんを巻き込んだのね?」

 警察学校時代の鬱憤を当事者にぶつけてスッキリした様子の美和子が会話へと混ざってきた。積年の恨みのようなものを一身に浴びたらしい伊達は何やらぐったりしていたが、紙袋を上げると菫に、コレありがとな、と声を掛けそそくさと立ち去って行った。それを見送りつつ美和子の問いにも菫は頷く。

「あぁ、はい。チョコ作りのお手伝いさせてもらいます。……そうだ、美和子さんも一緒にどうですか? 高木刑事に。それとももう準備されてました?」
「私も由美と同じ既製品で済ませるつもりだったけど……。でも、そうねぇ。手作りしたら高木君も喜ぶかしら?」
「喜ぶでしょ、あの男なら。よーし、それじゃ三人でお菓子作りね! 日程とかは今日の夜に食事をしながらでも決めましょ」

 そんな由美の一声で女三人の晩餐は決まり、また最終的には菫宅で菓子作りをする事になるのだった。




公安関係で夢主が出向くのは大体警視庁です。そして次話に続く。

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