Cendrillon | ナノ


▼ *事件の裏側で
時系列ガン無視。67巻の赤井さんの振りをしたバーボンが登場する話の、さらに外野の話。


「あっ! チュウ吉の新しい彼女!」
「はい? えっ!? チュウ吉って……」

 初見の女性にいきなり指を差され、菫は目を見開く。だが、見覚えのある女性の聞き覚えのある言葉で、この人って秀吉くんの……と思い出し掛けていたところを、その場にいた男性二名に思考を遮断される。

「おい菫。チュウ吉って何だ」
「菫ちゃん、恋人なんていつ出来たの?!」
「そんな、陣平さんに研二さんも信じないでくださいぃ……」

 弱り切った声で菫が否定すると目の前の女性――勤務中であろう制服を身に纏った婦警が、拍子抜けしたような表情を浮かべる。

「えっ? 違うの?」
「違います! というかチュウ吉って、秀吉くんの事ですよね? そう呼ばれてるって本人から聞いた事があります」
「?! やっぱり! チュウ吉の知り合いなら、新しい彼女よ!」

 秀吉の想い人である宮本由美警部補が再度、ビシィッ! と菫を指差す。菫は慌てて両手を横に振り弁解に回った。

「だから誤解です! 私、秀吉くんの彼女は由美タンだって聞いてますから!」
「「由美タン?」」
「ブハッ! お前ら由美タンってなんだよ?! 男が二人して真顔で言うから笑えるぞ!」

 松田と萩原が菫の言葉を思わず復唱して聞き返してしまったその時、ちょうどそれを耳にした大柄の男性が笑いながら会話に参加してくる。その声の主を見て、爆発物処理班として呼ばれながらもその腕を振るう機会がなく、不完全燃焼だった松田が吠えた。

「うっせー伊達!」
「伊達じゃーん。一課の人間まで呼ばれちゃったの?」

 松田ほど気にしていない萩原が伊達に、お疲れ〜と軽く片手を振っている。

「俺は帰る間際に応援に駆り出されちまってなぁ……」
「でもさー結局、爆弾はなかったから俺達は出番なしだよ」
「お前ら二人は出番がない方が平和だからなぁ。無駄足だろうと取り越し苦労だろうと、何もないのに越した事はないじゃねーか。警官がこれだけ集まって何も起こらなかったなんてラッキーだぜ?」

 そう、ここは伊達が言う通り警察官が大集合する、事が収束したばかりの事件現場であった。

 さらに言うならば、現在地は米花百貨店。赤いTシャツ絡みの爆弾騒ぎがあり、赤井に扮した零とその本人が扮する沖矢が居合わせ、デパートの外には黒の組織の幹部が勢ぞろいしているという微妙に緊迫した現場の筈だった。

 しかし、所詮外野である菫はそんな緊張感の漂っていた状況とは裏腹の現状のこの騒ぎに、つい呟いてしまう。

「カオス……」



 * * *



 そもそも菫がそこにいたのは純然たる偶然であった。何気なく買い物のためにデパートに訪れ、下の階から順に見て回り、菫はスポーツ用品売り場の階に辿り着く。あまり興味を引かれなかった菫は軽く一回りした程度で次の階へ移動しようと考えていたのだが、そこで毛利一行に声を掛けられた。
 そして、あっという間に爆弾を巻き付けられたという男が現れ、ズルズルと事件に巻き込まれてしまったのである。そこでようやく菫はこれは自分も知っている事件の一つだと気付くのであった。

(でも事件は早々に解決したし、秀一さんに変装してた零くんを狙っていたあのライフルの女の人も、結構早い段階で退場してたから、今日は取りあえずもう危ない事はないよね?)

 外野なりに気を揉んでいた菫は全てが終わった時、秘かにため息をついた。黒の組織とは今まで無縁に過ごしてきた菫の初めてのニアミスのようなものである。当事者達からすれば自分など認識すらされていないであろうが、菫としては実はかなり緊張した時間であった。

 ちなみに、ライフルの女――黒の組織のスナイパー、キャンティの早期の退場の原因は、気付いていないながらも菫である。爆弾騒ぎがコナンによって解決した後、菫は一足早く一階のデパート入り口まで降りると、赤井に扮する零に銃口の狙いを定めんとするキャンティを不安な目で見つめた。まかり間違って零が撃たれるのではないかと、菫はチラチラと向かいの建物を見上げていた。

(だけど、変装した零くんが出てくる前にライフルを構えている人がいるって、騒ぎになったんだよねぇ……)

 菫のその空を見上げる回数があまりにも頻繁で、何かあるのかとつられて菫の視線の先に目をやった他の客たちがそれに気付いてしまったのだ。
 地上の人間達が、ライフルを持っている女がいる、映画の撮影か? とスマホなどを構え始めたため、キャンティは本来よりも早く撤退を余儀なくされていた。しかしそんな事は、菫も相手も知る由はない。

(ただ、ここで陣平さんと研二さんに会うとは思ってなかったなぁ。でも二人は爆発物処理班のツートップだもんね。呼ばれるのは当然だったかな……)

 事件の解決直後からデパート入り口に移動していた菫も、あのジンとウォッカの乗っているであろうクラシックカーは遠目に確認していた。そしてベルモットがバイクで現れ、程なくしてデパート前から車が立ち去っていくのも見送る。
 ほぼ知る通りの展開に菫が安堵の息をついていたところに、爆弾の処理に訪れていた松田と萩原に声を掛けられたのである。そして群衆整理で動いていた由美が菫を見て指を差したのが、冒頭の成り行きだった。

(その上、伊達さんに秀吉くんの彼女さんまで揃うなんて、偶然ってすごい)

 幼馴染の同期が三人全員揃い、また友人の彼女までこの場に集まっている。決められた未来にはあり得ない話で、何となく感慨深いものを菫が感じていると、最後に現れた伊達に松田が再度噛みついた。どうやら何事もないのが一番だとは理解しつつも、仕事がなかった事でフラストレーションが溜まっているようだ。

「お前がこんな所にいるって事は、雑踏警備かなんかで呼ばれたんだろ。仕事しろ!」
「松田、俺は元々応援だ。今日はもう仕事がないんだわ」
「フンッ! ならとっとと帰りやがれ」
「ちょうど菫に用があってな。まだ帰れねーわ」

 毒づく松田に伊達は飄々と言い返すが、その内容に菫は自分に何の用だろうと首を傾げた。しかし、それを問う前に由美が驚いたように声をあげる。

「ちょっと、松田さんに萩原さんに伊達さんも、この人と知り合いなの?」
「うん? あー、警察学校時代の同期の幼馴染だな……」
「つーか宮本は、何で菫がチュウ吉っつーやつの彼女だっていうんだよ?」
「そうそう! まずチュウ吉って誰なのよ?」
「あのー……皆さんも、こちらの方――由美さんとお知り合いでしたか? 所属する部署は違うみたいですけど。由美さんは多分、交通部の方ですよね?」

 物語では由美が松田と知り合いだという描写があったのを辛うじて菫は覚えていたが、それも萩原が殉職した場合の情報だ。菫がおずおずと尋ねると、由美がバツが悪そうに答えた。

「あぁ、名乗らずに悪かったわ。私は交通部交通課の宮本由美よ。それに、さっきは急に指を差したりしてごめんなさいね?」
「いえいえ。こちらこそ申し遅れました。鳳菫です」

 ようやく自己紹介に至り、菫もやっと名乗れたと自分の名刺を渡していると、萩原が由美は知人であると説明した。

「由美ちゃんとは署内の合コンで知り合ったんだよねぇー。お互いに幹事をする事が多いから話す事も多いしさ。でも陣平ちゃんは合コン出ないじゃない。他部署なのにどうやって知り合ったのよ?」
「あぁ? 前にミニパトがエンストしてたのを見てやった事があったんだよ」
「そうなのよ! ちゃちゃっと直してくれたんで助かったわ」
「俺は後輩の佐藤ってやつ経由で知り合ったな。その佐藤とは今は班が違うが。あ、前に会った高木は独り立ちして佐藤の班だぞ」
「そう、なんですか……。でも、そうですよね。同じ警察官同士なら、知り合う機会はいくらでもありますよね……」

 そもそも全員同じ職場で働いている事を思えば、意外というような接点ではなかった。菫が納得していると松田が由美に再度質問をする。

「で? チュウ吉って誰だよ?」
「菫ちゃんは、秀吉って男の彼女は由美タンだって言ってるけどぉー?」

 萩原はニヤニヤと笑い、由美をからかう素振りだ。

「ち、違うわよ! 私もうチュウ吉とは別れたんだからっ!」
「あの、由美さん? 秀吉くんは別れたつもりないですよ?」
「えぇっ? 私、きっぱり振ってるわよ?」
「あ、ついでに陣平さん。秀吉くんは子供の頃からの知り合いです」
「へぇ? 菫の恋人じゃねーのか?」
「まさか! 秀吉くんとはそんな関係じゃないですよ。秀吉くん、由美さんにぞっこんなんですから!」

 松田のどこか笑いながらの指摘が本気ではないのは分かったが、菫はとんでもないとアワアワと否定する。

「由美ちゃんってば、彼氏持ちが合コンに出ちゃダメじゃーん」
「私は今フリーよ!」
「男の方はそう思ってないみたいだけどー?」
「そんなの私には関係ないわよ!」

 萩原と由美が騒いでいる横で、伊達が菫に近づいて来た。そして少し神妙そうに切り出す。

「なぁ、菫、いいか?」
「どうしたんですか? 伊達さん。そういえばさっき、私に用があるって仰ってましたね?」
「あぁ、実はナタリーの事でな……。最近あいつ塞ぎ込んでるんだよ。なんか話聞いてねーか?」
「ナタリーさんが? いえ……連絡は取ってますけど、普段通りだと思ってました。塞ぎ込んでるのはいつ頃からですか?」

 妻であるナタリーの様子がおかしいと伊達は言う。ナタリーとのやり取りに違和感を感じていなかった菫は、それはいつからだと問い返した。

「そうだな……ここ一週間だ。顔色も悪いし、何か悩んでんのかもしれんが、俺じゃ分かんなくてな……。良ければどこかに連れ出して、話でも聞いてやってくれるか? 女同士なら話がしやすいかもしれねーだろ?」
「なるほど。それなら近いうちにナタリーさんにお出掛けしましょって、声かけてみますね?」
「悪いな、助かる」

 ナタリーとの約束を取り付けると菫が話していると、萩原にからかわれ続けていたらしい由美がまるで打ち切るように萩原の声に被せて叫ぶ。

「もう! チュウ吉とはとっくに終わってるのよ! 私が誰と付き合おうが私の勝手でしょー!!」
「えー? 合コンは出会いの場ですー。恋人を求めてくる人が集まるんだから、相手がいる人に来られても不毛でしょ? ついでに修羅場になりそうだしー」
「修羅場になんかならないわよ! もう私仕事に戻る!」
「あ! 由美さん、何か理由があって私が秀吉くんの彼女だって思ってたんですよね? 私の振る舞いで誤解の原因になるような事があったなら聞かせてもらえますか? 秀吉くんは潔白なので説明させてください!」

 もうあまり疑ってはいないようだが、一応今回の騒ぎの原因が判明していないため、菫は去ろうとする由美を引き止める。

「お渡しした名刺に電話番号とメアドが載ってますので、良ければあとでご連絡くださいませんか?」
「あー……そうね。話を聞いてて誤解っぽいのは分かったけど、今回は私が悪いと思うし、菫さんね? 夜にでも時間取って連絡するわ」
「ありがとうございます!」

 一方的に菫に絡んだ事に負い目があるようで、由美は菫の要望を了承する。そしてだいぶ時間を消費していた事から、由美は菫や男性陣に軽く挨拶をして慌てて仕事に戻って行った。



 * * *



 由美がいなくなった事でその場は一瞬静けさに包まれたが、すぐに萩原が面白そうに菫に話し掛けた。

「由美ちゃんは別れたって言ってるけど、あれはそのうち元サヤに戻ると思うよ?」
「研二さんはそう思いますか?!」

 由美をからかっていただけかと思われたが、萩原はその由美とのやり取りで何かを感じ取ったのか復縁するだろうという。秀吉にとっては朗報に成り得るその言葉に菫が嬉しそうに問い返すと、萩原は自信ありげに頷く

「うん。なんだかそのチュウ吉って男をまだ憎からず思ってる感じ。こりゃ合コンにはもう呼べないねー。由美ちゃん狙いの男が泣くだけだわ」
「つーかてめえは、その気もないのに合コン出てんじゃねえかよ……」
「そうだな。萩原は恋人がほしいって訳じゃないところがある意味、宮本より悪質な気がすんな……」
「え? そうなんですか? それじゃ研二さん、どうして合コンに……?」

 出会いを求めて参加しているのではないのかと、菫は不思議そうに疑問を口にする。

「こいつは人間観察してんだよ。その結果、周りのやつは結構こいつにコントロールされてるぜ?」
「他人が何をするのか、どう思うのかを腹ん中では考えてるんだと思うぞ? 警察学校でも洞察力は優れてるって、教官に太鼓判を押されてたからなぁ」

 どこか苦い表情で松田と伊達が言う事が、何となくだが菫には理解できた。萩原は一歩引いたところがあるというか、明るい振る舞いの中に冷静さが隠れている事があると思っていたからだ。

「研二さんは一番モテるって聞いてたんですけど、それはあくまで副産物だったんですねぇ……」
「えー菫ちゃん、そんなの信じないでよぉ〜。俺は合コンは皆でワイワイ騒げるのが楽しいから参加してるんだって!」
「そうですか?」
「そうだよ! 陣平ちゃんも伊達も、菫ちゃんに余計な事言うなよー」
「でも研二さん、合コンで人間観察は駄目ですよ? 出会いを求めてないなんて合コンの主旨から外れてます。研二さんに思いを寄せる女性がいたら、それこそ泣く人が出ますよね?」

 冷やかしはいけないと菫が注意すると、少し困ったような表情を萩原は浮かべる。

「えー、気になる子はいるんだけど、しばらくアタック出来なさそうだし、ちょっとした暇つぶしも兼ねてるんだよねー?」
「気になる人がいるなら尚更いけません。誤解されちゃいますよ? それに何でアタック出来ないんです? 研二さんならきっと相手の方から良いお返事もらえそうだと思うんですけど?」
「う〜ん、相手に心配事があるみたいで、たぶん恋愛なんてしてる余裕がないっぽいから、かなー?」
「相手の方にご事情があるんですか……。変に口を出してすみません。でも研二さんは優しいですね。相手を慮ってるって事ですもんね?」
「そうでもないかな? 彼女の心配事が手強すぎて、二の足踏んでるだけかも……」

 苦笑する萩原に呆れた視線を松田が向ける。

「お前も待ちの姿勢なら、合コンはやめとけ。マジで対象外になるぞ」
「え、やっぱヤバい? どう思う菫ちゃん?」
「萩原、それを菫に聞くのか……」

 伊達が頬を引き攣らせており、何故だろうと菫は首を捻る。しかし、まずは萩原の問いに答えるべく、そちらの質問について頭を巡らせる。

「? そうですね……思いを寄せる方がいるなら、やっぱり出会いを求めていると思われる行為は得策じゃないと思いますよ? 陣平さんが言ったみたいに対象外になりそうな気がします」
「ほらな。言った通りじゃねーか」
「え〜、菫ちゃんほんと? 陣平ちゃんの対応が当たりだったのかー」
「え! もしかして陣平さんもですか? えっと、その……陣平さんも相手の方に合わせて待ってる感じですか?」
「お、菫。気になるか?」
「それなら菫ちゃん、俺のも気にならない?」
「あ、すみません! プライベートすぎる話ですよね? ごめんなさい、無理には聞きません!」

 眉を下げ、申し訳なさそうに菫が首を振り、これ以上聞かないと即答する。

「そーかぁ? ぶっちゃけ俺はいつでも言えるぞ」
「まぁ、本人が聞くと言えは吝かではないよねぇ……」
「それなら余計私が聞いて良い事じゃないですよね!? 想い人の方の準備が整った暁には直接本人に思いの丈をぶつけてください!」

 すると松田と萩原は二人で何やらボソボソと言葉を交わし合いながら、微妙に残念そうな表情を浮かべて菫を見た。

「おぉ、菫、意外と危機回避能力が高いな。俺は今こんな所で地雷が二つ炸裂するかと思ったぞ」
「地雷が二つ? 伊達さん、どういう意味ですか?」
「おぅ……俺を巻き込むなよ。俺は人の地雷を踏みたくない」
「だからその地雷って、伊達さんが言ったんですよ。教えてください」

 伊達の感心した声に菫は尋ねるも、伊達は曖昧に話を濁すばかりだ。しばらく伊達にまとわりついたが、菫は明確な答えは得られずに首を傾げるしかなかったのだった。



FBIと連携中の降谷さんは、今回単純に上(ラム?)の命令で変装していただけ。ついでに萩さんはパリピを演じてるような気が。社交術のチャラさで傍観者的な所を隠してるような? 基本執着しない刹那的な人のイメージ(一番最初に亡くなるし/泣)。

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