Cendrillon | ナノ


▼ *女子高生探偵
世良ちゃん登場の話。呼び方は秀兄と同じ感じで、菫姉(ねえ)です。


「菫さん!」
「え? あ、園子ちゃん。……あれ?」

 ポアロへ向かう途中、菫は後方から声を掛けられ振り返った。そこには学校帰りと見られる蘭と園子、加えてコナンがおり、声を掛けてきたのは園子だった。その中にはさらにもう一人、見覚えのある者もいた。その者も菫に気付き声を上げる。

「え? 菫姉じゃないか? この辺に住んでたんだなぁ!」
「わぁ! 真純ちゃん久しぶりだねぇ! しかもその制服! いつ転校してきたの?」

 生まれた時からの知り合いである少女が帝丹高校の制服を纏ってそこにいた。その驚いたような、それでいて嬉しそうな声に菫も同様な声を上げる。だが内心ではまた違う意味で驚いていた。

(えー! 真純ちゃんもう米花に馴染んでるの?! 昴さんの時も思ったけど、さすが時間の進み方がおかしい世界だなぁ……。いや、うん、分かってはいたけどね……)

 物語ではだいぶ遅れて登場の真純ではあるが、想像していたよりも早く米花に転校してきているようだ。

「こっちに来たのは本当につい最近の事なんだ。連絡してなくて、ごめんよ?」
「ううん。私も最近連絡してなかったよね? お相子だよ」
「ははっ、確かに50:50だ」

 色んな意味での驚きはあったが、単純に真純との再会は喜ばしい。ニコニコと笑みを浮かべた菫を見て、二人は確かに知り合いらしいと分かると、その場にいた者達からも驚きの声が上がった。

「えぇー! 菫さん、世良ちゃんのお姉さんだったの?」
「まさか! 園子君、名字が違うだろ? 菫姉は昔からよく遊んでくれた近所のお姉さんって感じの人なんだ。実際に近所に住んでいた訳じゃないけどね?」
「真純ちゃん、園子ちゃんや蘭ちゃんとも知り合いだったんだねぇ?」
「クラスが同じなんだよ。でも転校前に、蘭君や園子君、それにコナン君とも偶然知り合っているんだ」
「そうなんだ?」

 もはや話の詳細などは覚えていないが、真純とコナン達がやはり事件で事前に知り合うという知識だけはあったので、あまり込み入った話はせずに菫も相づちを打つ。

「菫さんも世良さんも久しぶりに会ったって感じですか? 昔の知り合いと思いがけず出会えて、良かったですね!」
「蘭ちゃん、私も本当にそう思うよー。使い方は違うけど状況的には正に、朋有り、遠方より来たる……って感じかな?」
「全くだ。僕も、亦た楽しからずや、だよ。でもそうかー、菫姉もこの町に住んでいたんだったか……」

 真純がそう言って少し考え込んだ様子の傍らで、コナンが少し顔を強張らせて菫に問い掛ける。

「菫さん、世良の姉ちゃんと知り合いなんだね?」
「あ、うん、そうなの。真純ちゃんとは子供の頃からの付き合いだね」

 この時菫は初めて気付いた。

(あ……このままだと近いうちに、私と秀一さんの関係って必然的にコナン君にばれちゃう?)

 コナンに自分と赤井家との関わりを知られるのは、はたして良いのか、と。しかし、問題があるような気もするが、支障もないような気もする。

(あれ? でもばれても困るものはそんなにない? 平気、かな?)

 沖矢と秀一が同一人物だと知っている事までばれてしまえば問題だろうが、そうでなければ特に問題ないかもしれないと菫は思い直した。出会ったばかりらしいという情報と、またコナンの表情で、真純と秀一の関係にはまだ気付いていないようだと菫は思う。

(うーん、私も真純ちゃんと話をする時、あまり秀一さんの名前は出さない方が良いかな?)

 そんな事を考えながら菫はある提案をする。

「真純ちゃんにも久しぶりに会えたし、今日は良い日。よし! 今日は私がおごります。皆でどこかバイキングとかに行かない?」
「え! 行く行く!」
「菫さん、良いんですか?」
「うん! 時間があるなら、付き合って?」
「嬉しいな! ボクは構わないよ? コナン君も行くだろ?」
「あ、うん……」

 真純を怪しんでいるらしいコナンが少し躊躇した様子だったが、真純の誘いには肯定の返事を返してきた。もしかしたらこれを機に真純の情報を収集するのかもしれないと菫は思った。



 * * *



 園子が行ってみたかったというケーキバイキングの店に足を運び、しばらくは見た目も華やかなデザートに舌鼓をうちながら菫は女子高生たちの話に耳を傾けていた。甘い物だけでなく、サンドイッチやピザなど軽食も取り揃えられており、コナンも食べる物がないという事はなさそうだった。
 ちょうど菫と真純だけがテーブルに残り、他の三人が席を立った時の事だ。少し声を潜めて真純が尋ねてきた。

「そういえば菫姉は大丈夫かい? その……前に連絡したろ? 秀兄が亡くなったって」
「あ……うん。私はね……。むしろ真純ちゃんこそ大丈夫?」
「まあ、ね。今は吹っ切れてるよ」

 真純の兄である秀一に関する話題で菫の表情は陰る。真純には知らされていない秀一の生存についての沈黙が申し訳なかった。そして真純を窺うように見ると、菫の視線を受け真純は困ったようにだが笑っている。自分よりよほどショックを受けている筈な少女の空元気であろうそれが、菫には居た堪れない。しかし真純はさらりと話を変えた。

「あ、あと、菫姉は覚えてるかな? ボクの魔法使いの事」
「あぁ、海で事件に遭った時の子だよね? 懐かしい話だけど、それがどうしたの?」
「それがさ、その魔法使いにもしかしたら会えるかもしれないんだ!」

 その話題は真純の気分をかなり高揚させるようで、先の暗い話の雰囲気が一掃された。だが、その話題はある意味核心に触れるものであり、菫はさらに発言に慎重になる。取りあえず普通なら問うであろう事を聞いてみる。

「……そうなの? 真純ちゃんと同じ年頃だったから、今通っている高校に似ている子でもいるのかな?」
「うーん、そうとも言えるかな? ただ、まだ確認中の段階なんだ。今は裏を取っているところさ」
「そっか……本人だといいねぇ……」

 当時から新一に対して並々ならぬ思いがあるようだと傍目に分かるだけに、新一との再会が出来る事を菫は一歩引いたところから応援した。また真純のその裏取りが順調に進む事は分かるので、いずれ確証は得るのだろうとは思っている。

「それで、ちょっと色々確認したい事があるから、秀兄の事は彼ら……蘭君達にはボクが話題にするまでは黙ってほしいんだけど、良いかな?」
「私は構わないけど。……そういえばあの時一緒にいた女の子、蘭ちゃんに似てるね? あと年齢的に違うけど男の子の方はコナン君にも似てるかな?」

 あまり知らない振りをするのもおかしい話のため、菫は普通なら考え付くであろう事を指摘する。一応菫も当事者ではあるので、その程度の見解を述べるのは良いだろうと口にすると、真純は勢い込んで頷いた。

「菫姉もそう思うかい! そうなんだよ。ボクも怪しいって思ってるんだ」
「あの子が蘭ちゃんだとすると、男の子は蘭ちゃんの幼馴染って事になりそうだよね? 私は今のところ会った事がないけど工藤君? 確かコナン君は遠い親戚だって聞いた事があるかも。だから似てるのかな? 今は事件の調査で学校に来てないんだよね?」
「あー……それも含めて調査中さ」

 菫がさらに言及すると、途端に真純の歯切れが悪くなった。まさかコナンを怪しんでいるとも言えないからだろう。一般人からすれば新一とコナンが同一人物などという事自体が荒唐無稽で、さらにその原因は黒の組織であるため、それも致し方ない。しかもメアリーが小さくなってしまったために成り立つ仮説であり、それについても説明はできない真純は菫を巻き込めずに濁すしかない。

「そうだ! 母さんが最近連絡できなくてすまないって言ってたよ。ついでにもうしばらく連絡は無理だってさ」
「そうなんだ? それなら時間に余裕が出来た時にご連絡ください、って伝えてくれるかな?」

 事情が分かる菫も深入りはせずに、メアリーからの連絡を待つ旨を伝えた。

「了解。それと、菫姉は吉兄に会ってるかい? ボク、忙しいって言われて振られてばっかりなんだ」
「秀吉くん? だいぶ前に会ったきりかも。メールと電話はするんだけどね? でも七冠を目指すから将棋に集中したいって言ってたよ。だからあまり邪魔しちゃダメかなって、あまり頻繁には連絡してないの」
「なになに? 二人とも何の話をしてるの?」

 話が真純のもう一人の兄の秀吉について及んだ時、園子や蘭が皿に新たなデザートを載せて戻ってきた。菫達が何の話をしていたのかと園子が尋ねると、真純が早速二人の兄について話し始める。

「ボクの兄の話さ。菫姉はボクの兄貴たちとの方が年が近いんだ。元は兄の知り合いだからね」
「あぁ、お兄さん繋がりだったんですね。世良さんと菫さんは」
「兄貴たちっていうと世良の姉ちゃんには兄弟が何人かいるんだね?」

 遅れてコナンもコーヒーカップを手に戻ってきており、椅子に腰かけながら真純に問い掛ける。

「兄が2人だよ。ちなみにコナン君にはお兄さんはいないのかい?」
「ボ、ボク、一人っ子だから……。あ、園子姉ちゃんがお姉さんいるよ?」

 真純にまじまじと見つめられての質問に、コナンも思わずどもる。また話の矛先を園子へと変えようと、違う情報を提供した。そのコナンの発言に乗った真純が園子に水を向ける。

「へぇ……園子君、お姉さんがいるのか? 年は近いのかな?」
「姉キは院生だから少し離れてるわね。今まさに年頃よー。ついでに富沢家に嫁入りが決まってるわ」
「それはおめでとう! でも、お嫁さんか……」
「お嫁さんがどうかしたの、世良さん?」

 意味ありげに言葉をとめた真純に蘭が問い掛けると、真純の目は菫に固定される。菫が、ん? と首を傾げたところで真純はニヤリと笑って答えた。

「実は、菫姉はボクの兄貴のお嫁さん候補だったんだよな」
「「「えぇっ?!」」」



 * * *



 突如真純から飛び出した菫の浮いた話に園子が飛びついた。

「え! 世良ちゃん、それってマジな話なの?!」
「もちろん! 我が家ではそう目されていたよ」
「真純ちゃんったら、またそんな事言って〜……」

 しかし、当の本人の菫は、またか……というように苦笑する。

「蘭ちゃんも園子ちゃんも、あとコナン君もね、真に受けないでね? 真純ちゃんの冗談みたいなものだから」

 幼い頃から真純が頻繁に口にしている、その上当事者たちの了解を得ていない口癖のようなものだった。真純は菫の気のない返答に口を尖らせる。

「え〜、菫姉ったらひどいな。ボクは兄貴の方も満更じゃないって思ってたんだけどな」
「世良の姉ちゃんはこう言ってるけど、菫さんはその気がないの?」
「その気もなにも、真純ちゃんのお兄さんは周りの人が放っておかないような人だよ。引く手数多な素敵な男性なの。畏れ多いというか、私には高嶺の花すぎて、手が届かない人だね」
「んん?」

 菫の発言にコナンは何かが引っ掛かった。前にも菫とはこんな会話をした事があった気がした。しかし、真純の兄に対して菫からのかなり好意的な言葉に園子が身を乗り出し詰め寄った事と、そのあとの真純の衝撃的な言葉にそれについては考えずじまいになる。

「そんないい男なら尚更ゲットすべきじゃない!」
「まぁ、その兄貴も死んじゃったんだけどね!」
「「「はい?」」」

 話題になっていた人物が既に故人だという事に、コナン達に一瞬緊張が走ったように菫には見受けられた。あからさまな反応は見せなかったが、身内が亡くなっているという事に気まずさを覚えているらしい。だが、かなり軽く真純が言ってのけている事もあり、空気を読んだのか三人とも最終的にはあまり気負わずに受け止めたようだ。

「……ちょっと世良ちゃん。盛り上がらせといてそれはないでしょ。でも、という事は菫さんは未亡人?」
「もう、園子ちゃんまで……私、結婚してないよ」
「あ、でも世良さん、お兄さんはもう一人いるって……」
「ふふ、蘭ちゃん。もう一人の方はね、真純ちゃんが言っているお兄さんより、もっと可能性がないねぇ」

 蘭が思い出したように言うと、それには菫が首を振る。秀吉の相手はそれこそ自分ではあり得ないのを身をもって実感していたため、少し楽しそうにその理由を打ち明けた。

「もう一人の方はね、恋人というか大好きな人がいるの。間違いなくその彼女との結婚を視野に入れてるよ。私の出る幕はないかな」
「あれ? 菫さんはその女の人と会った事があるの?」
「ううん、コナン君。電話で聞いただけなんだけどね? でもすごい惚気られちゃった。あぁ、ベタ惚れだなぁ……って思ったの」
「そうなのかー……。せっかく菫姉と姉妹になれると思ったのに」
「そんなお嫁さん云々なんて言わなくても、真純ちゃんの事は妹みたいだって思ってるよ?」

 残念そうな真純に菫は困ったような、だが少し照れたような表情を浮かべてそう告げる。これまでにも似たようなやり取りをしており、その都度それを否定するのは骨ではあった。しかし、真純から変わらず懐かれている事は嬉しいのである。

「本当かい!? それならお嫁さんに来てもらうのは諦めるか。そもそも我が家で婿を用意できないんじゃ、仕方ないね」
「もうなによー、結局世良ちゃんが菫さんをお姉さんに欲しかっただけじゃないのよぉー」

 真純があっさり嫁発言を翻したため、園子はせっかくの菫の色恋沙汰かと期待していた事が肩透かしだったと気付き、ブーブーと文句を言う。

「えー? ボクの願望だけの筈はないんだけどなぁ……」
「でも私は一人っ子だから、世良さんのお姉さんが欲しいっていう気持ちは分かるなぁ」
「いたらいたでケンカになったりするけどね? まぁ、兄弟が一人もいない蘭からすれば贅沢な悩みかしら……」

 園子の一括りには真純も控えめに反論するが、蘭が兄弟に憧れると同調したため園子も我が身を振り返って真純への非難のトーンを低くした。そこで菫が腕時計を確認して声を挟む。

「あ! 皆、皆。バイキングの制限時間、あと20分だよ? 追加しなくて大丈夫? もう満足した?」
「えっ! 私最後にもう一個、アレ食べたいかも」
「私も! まだ気になるのがあったのよね!」
「ボクももう一つくらいならお腹に入りそうだ」

 女子高生たちは慌ただしく空の皿を持って目的のデザートを取りに席を立つ。皿が空いておらずテーブルに残った菫は共に動かないコナンを見て首を傾げた。

「コナン君は最後に何か食べないの?」
「ボクはもういいや。お腹いっぱい……。そういえば菫さん、前から聞きたかったたんだけどその腕時計、新しいね?」
「あ、これ? うん、そうなの。前に使っていた時計が壊れちゃって。昔からの知り合いがね、プレゼントしてくれたの」

 やはり目聡いコナンが新調した菫の腕時計に目を付けた。また、さらに気になっていたであろう事を尋ねられる。

「だけどそれ……男物じゃない?」
「ベルトは私のサイズに調整してくれたから問題ないよ。それと男物なのは悪い虫が付かないように、だって。そんなの無用な心配なんだけどね?」
「その知り合いって男の人? もしくは身内の人かな? 悪い虫が付かないように心配するのって、そのどちらかぐらいだよね?」
「身内みたいなものかな? 心配性なの――というより、私が心配を掛けるからかも、ね……」

 先頃の京都での己の失態に菫はどんよりと項垂れる。いきなり落ち込んだ様子の菫にコナンがたじろいだ。
 
「え? 菫さん、どうしたの?」
「うぅ、こっちの話だから気にしないで……。あ、私も前からコナン君の腕時計が気になってたんだけど、これライトになってるんだよね? 多機能でいいねぇ」
「え、あ、うん。博士が色々作ってくれるんだ……」

 菫もまた阿笠博士の発明品である腕時計に興味を引かれそれを指摘すると、コナンはしどろもどろに言葉を濁す。色々仕込まれている腕時計なため、あまり関心を持たれたくないのかもしれないと菫も途中で思い至り、言及は止める。そこに皿にスイーツを載せた面々がばらばらに戻り始めた。

「よーし、ラストスパートで食べるわよぉ〜」
「園子、それ盛り過ぎじゃない?」
「これくらいイケるわよ」
「菫姉にコナン君はもういいのかい?」
「私は今食べてるので十分だね」
「ボクはもうお腹いっぱいだから……」

 そして女性陣が戻って来た事で、話題はまた違うものへと移り変わっていった。


 ・
 ・
 ・


「あーあ……結局、また菫姉に一喜一憂させられちゃったなー。兄妹揃って情けないや。さすがボクの魔女だ」
「え?」

 先に外に出ていてと促され、コナン達は店の前で菫が戻ってくるのを待っていた。蘭と園子は食べたケーキの批評をし合っており、それに混ざらなかった真純は頭の後ろで両手を組みながら、ぼやくように零す。
 それを聞き咎めたのはコナンだ。魔女という単語が菫を指すだろう事は分かったが、あまりピンとこなかったからである。

「魔女? 菫さんが?」
「そうさ。ボク……いや、我が家にとっても菫姉は魔女なのさ! そしてそれとは別にもう一人、魔法使いもいるんだよね」
「魔法使い? 世良の姉ちゃん、何を言って……」
「おっと、今日はここまでだよコナン君。菫姉、今日はご馳走様! 近いうちに皆でどこかに行こうな!」
「そうだねぇ――」

 コナンの質問を打ち切って、真純は会計を済ませた菫に駆け寄り次の約束を取り付けていた。真純のその思わせぶりな発言に、コナンは眉を寄せてしばらく考え込むのだった。



世良ちゃんが登場すると一気に原作沿いの話に傾きそうになるなぁ……という印象。

[ back to top ]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -