Cendrillon | ナノ


▼ 003
 菫にとって住みやすい環境という点から、ヴィオレ達は日本に拠点を構えてくれた。戸籍――書面上はヴィオレとノアの日本国籍の養子となっている――なども問題なく用意されたある日の事。
 日本で新しい生活を始めるにあたり、菫はある場所へと訪れていた。見た目が子供のためそこに通うのはとても自然だからである。
 そして菫はそこで思いがけない出会いをしてしまうのだった。

「ヴィ、ヴィオレさん! ノアさん! 大変です! この世界に私の知ってる人がいました!」

 見学と称して出掛けた先から帰宅した途端、菫は二人に慌てた様子で詰め寄った。出先の施設で初めて会った新たに知り合えた人物を、菫は知っていたのだ。
 正確には本人かはまだ分からない。だが菫はその人物をとても尊敬していた。好きだったと言ってもいい。その人の面影のある人物なのは間違いなかった。
 
「それに伴って気付いたのですが、この世界、危なすぎます!!」
「そうね……確かにあっちと比べたらこっちは物騒よね。本当にあっちの日本は、世界は平和だったわねぇ」
「あっちの世界だって、危なかったですよ! 凶悪犯罪増えてましたし! でもそれを凌駕するくらい、こっちの世界は危ない事が多いんです!」

 少し懐かしむようなヴィオレに菫は首を振った。
 出先では中身が大人なため子供らしからぬ行儀良さを見せ周りから褒められてはいたが、その落ち着きも作られたものだったらしい。
 普段の菫からかけ離れた振る舞いにノアが落ち着くようにと宥めながら最もな指摘をする。

「犯罪発生率が高いのは事実です。世界でも比較的安全な日本ですらね。それにしても菫。こちらにあなたの知り合いがいるのはあり得ないとは言いませんが、勘違いの可能性は?」
「それは、あの実は私も、まだ半信半疑な所があるんです。知ってる人と全く同じって訳じゃないから……」
「前の世界の知人、そっくりさんでもいたのかしら?」
「まさか相手も菫の事を知っていたのですか?」
「いえ、相手は私の事なんて知りません。私が一方的に知っているだけで」

 この世界でも歴史上の人物は前の世界と共通する。だが現在世間で知られているような有名人などは菫の記憶に引っかからない。一般人など言わずもがなだ。それは早いうちからヴィオレたちと確認し合っていた。
 そのため、まだ自分の見たものが信じ切れずに口ごもる菫にヴィオレが問いかける。

「今日行った場所は幼稚園よ? 危ない人はいなかったと思うけど。あそこで会える人って先生くらいしかいないわよね?」
「あの、先生じゃなくて……」
「それではお試しで混ぜてもらった子供達のグループの中にいたんですか?」
「はい。その…………あの……」
「うん? どうしたんだい? まさか危険人物とかだったのかな? でも菫の反応からしてそんな感じではないね……」
「もし苦手な子じゃないなら、こちらの世界での初めてのお友達になってもらったら? 知っている分取っ付きやすいかもしれないし……」
「でも……」

 躊躇してなかなか先を言わない菫が二人の視線に促されてようやく口を開いた。

「…………私が知っている人って、創造上の人物、本の、物語の登場人物なんです」

 菫からの突拍子のない発言に二人は一瞬沈黙した。

(絶対あり得ないって断言できないくらい、似ていた。ううん、ほとんど同じだった。名前はもちろん、見た目も……。少し話もしたけど、思い返せば思い返すほど、余計確信してしまった気がする。物語で描かれる表面上の事くらいしか分からないのに……)

 半信半疑と言いながら菫は心のどこかで認めてしまっているようだ。深刻そうな表情の菫にヴィオレとノアは共に顔を見合わせる。だがひとまずノアが口を開いた。

「ホー……この世界は本の中と同じ世界観なんですか。興味深いですね」
「まぁ世界は広い、というか、いくつもあるから、そういう事もあるでしょうね」
「ええ。それを知る機会は滅多にないでしょうけれど。私もヴィオレが菫の世界に飛ばされたと聞いていなければ、にわかには信じられなかったでしょうが」
「菫の世界も私が気づかなかっただけで、物語の世界の可能性があったのかしら」
「もし私の世界が物語の世界だったら、どんなお話なのか気になりますね……」

 魔術師という特殊な職に就く二人のせいか、菫の言葉も全く受け入れられない類の話ではないようだ。
 現実逃避気味に菫も二人の会話に加わるが、話はあっさりと軌道修正される。

「それで、菫の知ってる人って誰なの?」
「あなたがそんなに平常心でいられない相手とは、確かに気になりますね」

 それは確かに気にかけずにはいられないだろう。菫は覚悟を決めたようにその名を紡いだ。

「……降谷零、君です。肌が小麦色の子がいましたよね?」
「あぁ、あのハーフの子ですね」

 ノアはすぐに誰なのか思い当たったようだ。またヴィオレもその子供については記憶があるらしい。

「菫に話し掛けてくれて、帰るまでずっと一緒にいてくれてたわね。あの優しそうな男の子でしょ?」
「はい……彼、本の中では大人だったんですけど、ね」
「あら、菫の知る時間軸とはズレてるの。それじゃあ、物語はこれから起こる未来の話になるのかしら?」
「多分、恐らく?」

 菫は自分の知る物語の展開を思い浮かべ、泣きたい気持ちを隠せなかった。



 * * *



 菫の困ったような悲しそうな表情を見てヴィオレは首を傾げる。ノアも菫の様子に追及した。

「しかし何か問題でも? 何が菫をそこまで悩ませるんだい?」
「そうよ菫。あなたとても苦しそうだわ」
「降谷君……いえ降谷さんは、悪の組織に潜入捜査をしている警察官の人なんです」

 絞り出すように菫は言葉を吐き出した。彼の人にまつわる情報が菫の頭を駆け巡る。
 身と心を削って、純粋に日本という国のために生きている人だ。悲しい別れを経験している、強い人だ。

「……なるほど」
「将来、大変な役目があるようね……」
「しかし帰宅直後に菫が脈絡もなく、この世界が危ない世界だと言った訳が分かりました」
「あら、やだわ。未来はもっと治安が悪くなってるのかしら。ちなみにその物語って、やっぱり危ないお話し? 悪の組織に警察官が登場するって事は」

 合点がいったという風にノアは頷く。そして未来の展開を予測してかヴィオレは眉を顰める。

「そうなんです。探偵の少年が主役の推理もので、長期連載していた人気漫画でした」
「スポーツものとか学園ものとかじゃなくて、推理ものなのね」
「はい、殺人事件とかテロとかは日常茶飯事みたいな物語です。主人公は違う子なんですけど、その主人公も追いかけていた黒ずくめの男達――黒ずくめの組織っていうところに潜入していたのが、あの男の子です」

 遠い未来の事とはいえ、今日出会った幼い少年が今後辛い目に遭う事を知っている菫からすると、どうしようもない憂鬱な気持ちが沸き上がってくる。
 あの少年は大切な友人を恐らく全て亡くしてしまうのだ。いっそ同姓同名なだけで、物語とは全く無関係な人であってほしいと菫は思う。

「菫。その黒ずくめの組織とはどういう組織なのかな?」
「そうね、知りたいわね」
「黒ずくめの組織ですか? 作中でもあまり詳しくは描かれてなくて、全容は分からないんですけど……」

 菫は問われるがままに、組織の目的や起こした犯罪などを分かる限り二人に説明をした。

「黒ずくめの組織……何だか似たような事件がヨーロッパで何件かあったわね。あなたも聞き覚えがあるでしょう? ねぇ、ノア?」
「そうですね。魔術師界隈でも、時折話に上がる集団がそれでしょうか? 好んで関わりあう者は我々の中にはいませんが、伝え聞く限りでは後ろ暗い集団のようですね」
「お二人も知ってるんですか!? ……それじゃあやっぱり確定ですか。ここってコナンの世界か……」

 黒ずくめの組織に心当たりがあるらしい魔術師二人の言葉に、菫は顔色を悪くした。しかもやはり組織はもう活動を始めているようだ。
 もはや登場人物にたまたま似ている人物が一人いた、などと自分の思い違いでは済ませられない事態のようである。

「実体は不明だけど過激派。どんどん規模が大きくなってる組織とは聞いてたけど、将来相当な不安因子になるみたいね。菫の様子を見ると。まさかそこまで厄介な存在だとは思ってなかったわ」
「我々も今後は意識して情報収集が必要そうですね。魔術師が関わらぬよう注意喚起もした方が良さそうだ。火の粉が掛からぬよう注視すべきでしょう……」

 ヴィオレとノアが互いに今後の方針を淡々と決定しているのを聞きながら、菫はふと思う。

「あ、れ? でも、黒ずくめの組織って警察でも一部の人しか知らないらしいですよ? 組織の事が魔術師の方たちの話題になるって、魔術師の人って情報通なんでしょうか」
「蛇の道は蛇とは言いたくないですが、魔術師も表立っては行動できませんからね。裏の世界に通じるところがあるんですよ」

 この世界では不思議な魔法の力が扱える人間はいるが、それは決して一般的ではない。ひっそりと身を潜めながら存在する特殊能力の部類であった。
 魔術師は存在自体が秘匿されているのだ。

 しかし魔術師たちの所属する団体として魔術師協会というものがイギリスにはある。それも各国に支部があるらしいので協会自体はそれなりに有名だそうだ。
 もちろん実際に魔術師が所属しているとは思われていない。
 魔術師フリークや魔術師について学問的に研究している人間が、同好の者と集うための場として活用する言わば大規模なサークルのようなものだ。
 だがそれは表向きの姿で、裏では本物の魔術師が情報収集や連携を取るための母体となっていた。

「勿論、世間一般で言われるような、裏稼業的なことにはノータッチよ? 悪事には手を染めないっていう不文律が魔術師にはあるのよ」
「そうですね。魔術師の悪い人はいないと思います。ヴィオレさんの声掛かりもあるでしょうけど、私みたいな子供にも皆さん凄く親切にしてくださいますし。本当に異常なくらい良くしてくれますけど……」

 菫は周囲にいる魔術師の肩書を持つ人間たちを思い浮かべてひとりごちた。
 どうやらこの世界の、更に言うならば魔術師のコミュニティーでのヴィオレの地位はかなり上のようなのだ。

 何を隠そうヴィオレはイギリスに本部を置く魔術師協会の会長なのだと言う。稀代の魔術師と呼び声が高いと、菫は他の魔術師たちから耳がタコになるほど聞いている。
 その補佐のノアもまた同様に名が知られているらしい。

 その前提でヴィオレからは命の恩人と公言され、またその養い子の立場にいる菫は、ノアを筆頭とする魔術師たちから下にも置かない態度で持てはやされているのが現状だった。

「それに私の知る物語では魔術師は一切出てきません。というよりも、一応普通の世界が舞台のお話なので、魔法が使える人が出てくるようなファンタジー要素はないお話なんですよ。……あっ、でも――」

 ふと思い当たる事に菫は一度言葉を止める。全くファンタジー要素がない訳でもない事を思い出したからだ。

「同じ作者のお話で、マジシャン――手品師の怪盗が出てくるんですけど、こっちは少し魔術師的要素があります。そういえばパンドラもこの作品で登場する小道具みたいなものでした! それと時々推理ものの方にゲストで登場するシーンがありましたね」
「あら! クロスオーバーね! という事は探偵と怪盗が対決するのかしら?」
「それは確かに面白そうですね。人気のある作家ならではでしょうか」
「そうなんです! もうこちらでは本が読めないのが残念なくらい面白い作品なんですよ! でもゲスト出演の場合は、推理ものの設定に準拠してるって聞いた事があります。怪盗側の魔法的ファンタジー要素は推理ものの方では存在しない設定になるみたいなんですけどね?」

 面白そうだと自分の好きな作品を褒められ、菫は我が事のように笑みを浮かべながら補足をする。
 菫のその説明を聞き、ノアは口元に指を当て考え込む。しばらくしてから物語とこの世界が必ずしもすべて合致するものではないのだろうと言った。

「ここは魔法が存在する世界ですからね。やはり相違点があるんでしょうか? そうなると菫の知る物語と全く同じ展開にはならないかもしれませんね?」
「相違点と言えば、パンドラは怪盗の物語の方に確かに出てくるんですけど、願いを叶えてくれるエルピスという宝石は話の中に出てこないんです」
「あら、そうだったの? ここにあるものがなかったり、ないものがあったりで、一筋縄ではいかなそうねぇ」

 菫もヴィオレと同様に厄介だと思っていたが、ノアの考えは違うようだった。

「しかしそれならかえって気楽ではないですか? 相違が一切ないと言われたら、それこそ何をするにも未来が決まっているのだと、私ならやる気がなくなってしまいますね」
「確かにそう考える事もできるわね」
「菫もあまりここが物語の世界で、決まった未来が訪れるのだと固定概念のように固執せずに、気ままに暮らすのがいいですよ」
「え?」

 それは思いがけない言葉だった。菫は間の抜けたような声を漏らす。

「菫はその物語の未来で気掛かりがあるのでしょう? あの男の子はお役目があるようですし、きっと辛い目にも合うのでしょう?」
「……」

 菫が心の底で何がしたいのかを察しているかのような発言に、思わず菫は黙り込んでしまう。ノアが何を言いたいのか分からず、菫は俯くがノアはそんな菫を見つめて話し続けた。

「でもそれなら、見たくない未来は全力で変えてしまえばいいんですよ」
「そんな事をして……良いんでしょうか?」
「構わないのでは? 何故なら変えられるでしょうから」

 何故ノアがそう思うのかその根拠が分からず、菫は眉を寄せて考え込む。

「……現時点で物語の根本的な設定で相違があるのですよね? 菫の知る物語には魔術師の存在はなく、この世界には存在するエルピスが物語では描かれていない。でもそれは世界が廻る上では、ちょっとした誤差の範囲なのでしょう。もうすでに物語の通りの未来には進んでいない、という事です」

 菫は俯き加減だった視線をノアへと向ける。ノアはそれをじっと見つめ返すとさらに続けた。

「多少変わった所で、世界は変わらない証左なんだと思いますよ。菫の知る未来も、ふとした拍子に思いがけない変化を遂げたりするんですよ。きっとそれは誰のせいでもないし、その変化した未来は瞬く間に過去の事となります。過去になってしまえば結果として、起こるべくして起きた運命だったと言われるんでしょう」
「つまり過去になるまでは運命は決まってない事? 過去になった時点で運命だって言いたいのよね? つまり未来は変えられる事なんでしょうけど、ベタだわ」

 どこか茶化すようなヴィオレの指摘にノアは笑う。

「ええ、そうですね。ですから変えたくない未来なら見守って、変えたい未来なら手を出せばいいんですよ。嫌な未来は見たくないとは誰もが思う事でしょう?」
「不幸な未来が間近に迫っていたら、どんな人でも足掻くものよね。それって悪い事じゃないわ」
「変えたい未来に手を加えて、その後の未来が不確かなものになっても問題ありません。だって本来、未来なんて分からないものですからね。普通になるだけです」
「人は未来がより良いものになるように試行錯誤する生き物だもの。手を加えた未来に後悔する事もあるだろうけど、生きていればそれはあり得ない話じゃないわ。普通の事よ」

 二人の言葉は菫の望む事に肯定的だった。しかし菫にはまだ気に掛かる事がある。

「でも……悪い事が起きるのを回避したくて手を加えた結果、より悪い未来が訪れたら……」
「そうなる可能性があるのなら、菫一人で何かをするのではなく、周りを頼ればいいのよ。その結果望んでいない未来が訪れたとしても、共犯者がいるなら乗り越えられるんじゃないかしら?」

 暗に自分達を頼れとヴィオレは言う。またノアも菫の憂いを取り払うような発言を重ねた。

「そもそも菫が何かをしなければならない訳ではないですからね。例えば誰かを見殺しにしてしまうような事態があったとしても、その責任が菫にあるとは思えません。勿論何かしたいならよほど危険ではない限り止める事もしませんが」
「菫はあの男の子の未来を変えたいって事よね? あの男の子って、具体的にはどんな未来が待ってるの? そんなに過酷で辛いものなのかしら?」
「えーと……確かに危険ではあるんですけど、彼自身というより周囲の人の未来を変えたい、という気持ちが強いかもしれません。彼の友人はほとんど亡くなってしまうんです。それでも国のために一心不乱に仕事に取り組む様が、胸を打つんです。すごく尊敬できる人です。でもそんな彼だからこそ、友人に囲まれた優しい世界で生きてほしいって思います」

 本を読んでいた頃から思っていた事を菫は吐露する。だがこれは自分だけの考えではないだろうと思う。皆そう思うからこそ、そう思わせるからこそ彼は作品の中でも特に人気だったのだ。

「彼らは本当にキラキラしてたんです。あんな友人が欲しかったって、憧れました。もし叶うなら、彼らがずっと一緒に笑っていられる未来が見たいんです」

 そしてその人たちがすぐ近くで存在するなら、やはり皆同じ事を考えるに違いないと菫は思った。

「でも――やっぱり不安です。私が何かをしない方が良いのかもって気持ちもあります。例えば、この言い方もなんですけど、親しい人を亡くしたからこそ得られる強さとかがあると思うんです。私の考え方一つでその機会を邪魔していいのかっていう迷いもあります」
「まぁ、その考え方も分からないでもないけど……」
「むしろただの傍観者になる可能性の方が高いかもしれません。悲しい未来が訪れないに越した事はないと思いますけど……」
「菫の様子を見ていると、いずれ関わり合うような気はしてますよ、私は」

 いざとなると踏ん切りがつかない菫に、ノアは困ったように笑いつつも小さくそんな事を呟く。だがその本人に結論を急かすような事はしなかった。
 それに気付かない菫は落ち込んだようにため息をこぼす。負のループに入ってしまったようだ。

「思えば、降谷さん……降谷君とは本当に今日知り合ったばかりですし、それもちょっと話をしたくらいでした。それっぽっちの繋がりしかない私がこんな風にあれこれ考える事自体、おこがましいですよね」
「菫。今すぐどうこうしなければならない話でもないようですし、今後どうするかなんてゆっくり考えれば良いと思いますよ」
「でも今考えると、私が口に出せるような関係に今後なるとも思えませんし……」
「え、明日から幼稚園に通うのだし、どんどん話しかけるんじゃないの? せっかく知り合えたのよ? 相手が憧れの人ならもっと強かに生きなきゃ! 駄目よ、そんなんじゃ。何でも諦め癖がついてるのを克服するのもこの世界で生きる目標の一つでしょ?」

 菫の後ろ向きな発言にヴィオレが発破をかけるように激励する。

「何にしてもその男の子と仲良くなるのが一番だと思うわね! 菫、友達づくりの第一歩よ。ここで尻込みしてたら、いつまでも前に進めないわよ? あなたの目標を達成するために、まずは邁進しなさい!」
「わ、分かりました。が、頑張ります?」

 ヴィオレの勢いに思わず返事をしたものの、菫は何とも言えない表情だ。

「自分の事で菫はまだ精いっぱいでしょ? 他人をどうにかするなんて無理な話だわ。今の菫にそんな余裕はないわ」
「ヴィオレの言う通りですよ。彼の未来について思い悩むのは、ひとまずは置いておいておきなさい。まず菫が自分自身の願いを叶えるために動くべきでしょう」

 人の心配をするのはそれからです、とノアに窘められ、ようやく菫はおずおずと頷いて見せた。
 すべてを納得した訳ではなかったが、時間的猶予がある事に菫は答えを先延ばしにしたのだった。



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