Cendrillon | ナノ


▼ ∴02


 チラホラと遊び終えた客たちが車に乗って駐車場を出て行く。それを真純は真剣に見つめ、メモを取っていた。それを傍らで見つめながら付き合っていた菫は、ぽつりと呟いた。

「真純ちゃん。さっきは、ごめんね」
「うん? 菫お姉ちゃん、何がごめんなの?」
「真純ちゃんは気にしてないみたいなのに、私が一人で勝手に怒ってたよね……」

 ペンを止めて真純は菫を見上げる。何を謝っているのか真純にも見当がついた。少し前に菫と秀一と口論していた事だ。自己紹介の時点で、真純をガキと称した秀一に菫は苦言を呈していたのだ。その後も自分が何かをする度に、菫が秀一に強い口調で注意しているのを真純も見ていた。

「うーん、でもボクが何してもちっとも反応してくれないから、怒ってくれたのは少し嬉しかったよ?」
「そう? でも、思えば家族の事だもんね。私が口を出すべきじゃなかったよね? 秀一さんにも悪い事しちゃった……。あとで謝らないと……」

 余計な事をした……と菫の陰った表情に真純は慌てる。

「菫お姉ちゃん、あのね、ボクこれから秀兄ちゃんと仲良くなれるよう、もっと頑張る! 笑った顔が見てみたいから! だから、お姉ちゃんも手伝って! ね?」
「……真純ちゃんは本当に優しいね? 私にも、秀一さんにもね? ……うん、分かった。私も真純ちゃんのお手伝いするね」

 真純の言葉に菫はどことなく困ったような笑みを浮かべつつも、頷いた。子供に気を使わせた事が少し気まずかった。

「菫お姉ちゃん、ありがとう! でも……菫お姉ちゃんはすごいよね? ボクが何をしても反応を返してくれないのに、菫お姉ちゃんが何か言うとお兄ちゃん、ちょっと慌ててたみたいだもん」
「え? そうだった?」

 菫は首を捻る。秀一にはだいぶ簡単にあしらわれていると感じていただけに、真純の発言にはあまりピンとこない。

「さっきの男の子もお兄ちゃんを笑わせられて、すごいなって思ったけど、菫お姉ちゃんも同じくらいすごいと思う」
「そうかな? でも、真純ちゃんと私の違いはたぶん、付き合いの長さだけだよ。だから、真純ちゃんもすぐに秀一さんと打ち解けられると思うよ? 真純ちゃんは可愛い妹だし、やっぱり秀一さんは元々優しい人だしね。頑張ってね」
「うん!」

 真純の元気の良い返事に菫は頬が緩んだ。今は確かにぎこちない関係だが、未来では真純はかなり秀一を尊敬し懐いていた。恐らく自分の協力がなくとも、二人の距離は自ずと近づくのだろう。その点は菫はあまり心配していない。
 しかし、その距離が近づくのは早ければ早い程、真純には良い筈だと思うと、どうしたら秀一の態度が軟化するのだろうかと、菫も策を思いめぐらすのだった。



 * * *



 しばらくすると、赤井家の面々と幼い工藤少年が駐車場まで迎えに現れた。
 真純は秀一に近づくと、申し訳なさそうに俯きながら、小さな声で謝罪する。

「ごめんなさい。ボク、手伝いをするって自分から言ったのに、頼まれた事をちゃんと出来なかったんだ」

 それには菫も思わず口を挟んでしまう。

「あ、あの、違うんです! 秀一さん、真純ちゃんはちゃんと言われた通りの事はやろうとしてたんです。私がそれを止めちゃったんです。それに真純ちゃんは代わりに、帰っていくお客さんの特徴とかをメモしてました。ね? 真純ちゃん」
「う、うん。これだよ」

 真純は菫と会話をしながらも、しっかりとメモを取っていた。そのメモ帳を秀一に恐る恐る差し出す。その時、菫は小さな声でメアリーに話し掛けられた。

「菫、ごめんなさいね? 真純が無理を言って駐車場の管理人とか困らせていたところでも、止めてくれたんでしょ?」
「いえ。真純ちゃんがお兄ちゃんに頼まれた事を完遂しようとしていたのを、私が大人の都合で止めちゃったのは事実ですから……」
「いいのよ。事件を調べているから! とか言って無理を通そうとしたり、自分の行動を正当化するようになったら、碌な大人にならないわ。叱れる時に叱って、注意出来る時には注意。それは周りの大人がしないとね」

 菫とメアリーがそんな話をしている中で、秀一は真純がメモを取っていたメモ帳をペラペラと眺めると、ゆっくり頷いた。

「ホォー、人物の特徴がよく書けている。思っていた以上だ。だが……子供のお前には面倒な事を頼んだようだな。悪かった」
「ううん。そんな事ないよ! あの、犯人はもう分かったの?」
「真純! もう止めなさい!」
「ママ」

 二人の会話が済んだと見たメアリーは、真純と秀一のそれぞれに釘を刺す。

「貴方もわかっているでしょ? 私達が事件にかかわっちゃいけない人間だって事……」
「問題はないさ……」

 だが、メアリーは釘を刺すには遅すぎたようだ。

「Case Closed! 後は、犯人を名指しするだけだからな……」

 秀一はやはりすでに、犯人の目星をつけていたのだから。



 * * *



 事件は菫の知る通り、速やかに解決した。若い女性が警察へと連れて行かれる。
 しかし、菫の居た堪れない時間はここからだった。そして菫はその場から逃げ出す事が許されていない。それを甘んじて受けなければならない理由があるのだ。

「それで? 気は変わったの? FBIに入るとか言ってたけど……」
「いや……ますますその気は強まったよ……」

 赤井家の会話を菫は心なしか身体を縮こまらせながら聞いていた。

(ここで私がある一言を言えば――務武さんが生きているって言えば、たぶんメアリーさんも、秀一さんだって未来は変わる。でも……言えない)

 菫は今までそれを苦渋の決断で秘密にしていた。務武の生存を知ってから、ずっと抱えていた秘密であり、心のしこりだった。そして赤井家に対する罪悪感の根源だ。

 元をただせばそれは務武の秘密である。本人から自分の生存を伝えないでくれと言われているのもあるが、根本的に人の秘密を第三者である自分が漏らすのは、仁義にもとる行為だと菫は認識している。そのため、恐らく今後も本人の許可がない限り、菫はそれを言えないだろうと思う。

(だけど、それが正しい事なのか、分からないよ……)

 黙っている事が、それが本当に赤井家の幸せなのだろうかと考えてしまう。務武は自分が死んだという情報で家族を危険から遠ざけられると思っているようだ。
 だが、秀一は父親の血を引き、好奇心という名の熱病に冒されているのだ。父親の関わる事件の真相を知りたがっている秀一は、その第一歩として既にFBIに入る事を自身の中で確定させていた。危険と隣り合わせの職務だ。いずれ黒ずくめの組織に潜入もするだろう。

(言ってしまった方がいいかもしれないって、思った事もある。ううん。今でも思ってる。迷ってる。でも……)

 それは未来を知るからこそ菫の心中にだけ生じる葛藤だ。このまま黙っていれば決められたように世界は回るだろう。そうなると務武が望んでいる展開には決してならない。
 メアリーもいずれ幼児化してしまう筈だ。赤井家はその秘密を知っていれば避けられるであろう危機を迎える事になる。

(でも、ここでも私は天秤に掛けてるんだ。知っている未来の通りに進んでも良いんじゃないかって……)

 菫の沈黙には利己的な判断も多分に含まれている事が申し訳なかった。楽観的な見方だが、この世界の主役である工藤少年はコナンとなってしまっても、いずれ元の身体に戻るだろう。恐らくだが、コナン少年に与する者達には幸せな結末が用意されているのだと菫は思いたかったのだ。黙っているのはそれを期待しての事も大きい。無理をしてその未来を変える事に躊躇してしまう。
 だが、やはり言ってしまいたいという矛盾した心も存在する。何より、時間は有限だからだ。

(互いに生きているのに、何年も会えないなんて……。そんなの辛い)

 人間はいつ死ぬか分からないのだ。それならば、大切な人と過ごす時間を優先してほしいと思う。
 けれども、菫はそれを率先して後押しできない。務武の秘密だという事で雁字搦めだ。結局は言えないという結論になってしまうが、それを黙っているという事に菫はひどく罪の意識を覚える。

(遠い未来、皆が無事だったとして、私が秘密にしていた事は明らかになる。その時私は、秀一さん達になんて思われるんだろう……)

 その未来が訪れるかは分からない。赤井家や、幼馴染達の行く末、そして自分自身の事ですら不明だ。もしかしたら、自分が誰よりも先にこの世界から消えてしまう――死んでしまう事だって考えられた。
 秀一達にどのように思われるかなど、無用な心配の可能性もあったが、菫はその遠い未来に思いを馳せると、憂鬱な気持ちがどうしても芽生えてしまうのだった。

(きっと、嫌われちゃうよね。そばにいたのに、こんな大事な事を何年も黙っていたなんて分かったら――)

 あちらを立てればこちらが立たないという状況、またいずれ秘密がばれる時、それを黙していた自分が赤井家の人間にどう思われるのだろう考えると、菫はとても苦しくなった。思わず胸を押さえる。

 またちょうどその時、赤井家の会話も終盤に差し掛かっていた。

「行け秀一! その熱病でお前の命が尽きるまで……真実を覆い隠す霧を一掃しろ!! その代わり靄一つ残したら許さんぞ!!」
「ああ、元よりそのつもりだ……」
「どうしたの母さん? 口調がまるで――」

 メアリーはとうとう秀一を秀吉と真純の父親代わりにさせる事を諦めてしまった。秀一のFBIへの入職は決定したのも同然だ。

(あぁ……これは私が選んだ事でもあるんだ)

 この状況になっても、やはり菫は話せないし、話さない。自分の選択だ。自分が責任を持たないといけない事なのだと、その重みが菫の背中に圧し掛かる。

 そんな顔を強張らせ青褪めている菫に気付いたメアリーは、家族喧嘩に巻き込まれたせいだと勘違いしたようだ。早速、務武の口調を真似て謝罪した。

「すまなかったな、菫。こんな家族のごたごたに居合わせるなんて、迷惑以外の何物でもないだろう?」
「いえ、これはそういうのじゃないんです。気にしないで、ください……」

 菫は申し訳なさそうに、そう言う他なかった。



 * * *



「え? 菫お姉ちゃん、ボク達と一緒にホテルに泊まらないの? 今日中に家に帰っちゃうの?!」

 真純の驚いたような声が辺りに響く。直前には再び工藤少年が秀一を笑わせ、真純も幼い工藤に対して頬を紅潮させ、まるで魔法使いのようだと一目を置いている素振りを見せていた。そのどこか嬉しげな様子は菫の帰宅を告げる言葉で消え去ってしまった。
 秀吉も首を傾げて菫に尋ねる。

「菫ちゃん、用事でもあるの?」
「うーん……そういう訳じゃないけどね? でも、あれ? メアリーさんには事前に伝えてましたよね?」
「ああ、聞いていたぞ。ただ子供達には言っていなかったがな」
「……母さん。俺も菫が日帰りだとは聞いていないぞ」

 秀一は不機嫌そうに目を細め、母親を睨み付けている。しかし、メアリーは意に介した様子は見せなかった。

「フンッ。菫を引っ張り出さなければ、お前は帰国を相当渋っただろうからな。こんな情報を伝える訳がないだろう?」
「チッ……。菫も予定がないなら、泊まっていったらどうだ? 菫も今は夏休みだろう?」
「でも、せっかくの家族水入らずですよね? 家族だけで過ごされた方が良いんじゃないかなぁって……」

 予定もないのに菫が日帰りにしたのは、それが一番の理由だ。秀一も今後は帰国の数がぐっと減るだろう。今日ばかりは部外者がいない方が良いと思ったのだ。

「皆そんな事は思っていないぞ? それに今から帰るとなると、帰宅はだいぶ遅くなるんじゃないか?」
「そうだよ、ボクからもお願い! 菫お姉ちゃん、もっと一緒にいようよ!」
「うん。僕達に気を使っているなら、それは無用だよ?」
「念のために菫の分の部屋も予約しているぞ?」
「え! そうなんですか? どうしよう……」

 赤井家の好意的な反応に、菫も段々とその気になってきた。

「菫お姉ちゃん、泊まっていってよー!」
「真純ちゃんったら。もう、可愛いなぁ……そうだねぇ……」

 その上、真純が菫の足にギュッと腕を回し、てこでも動かないという愛らしい仕草を見せたのが極め付けだった。
 元々一泊する予定ではなかったので何も準備はしていなかったが、それとは別にポケットに多少の備えがある。急な泊まりでも対応できそうな事もその決断にプラスに働いた。

「それじゃあ……お言葉に甘えて家族の団欒にお邪魔しても良いでしょうか?」
「よし。では菫も一緒にホテルに向かうか」
「やったー!」

 無邪気に喜び、自分にまとわりつく真純を見ていると、先ほどまで落ち込んでいた菫の気分は徐々に軽くなっていく。いわば自業自得の痛みのようなものだが、菫も今はそれを忘れたかった。いずれ秘密が秘密でなくなった時、彼らとの別離があるならば、今この時の記憶はかけがえのない思い出になるだろうとも思えた。

 別れの予感がするのに、未来で彼らに厭われるかもしれないのに、それでも彼らのそばにいたいのは菫のエゴだ。そんな事実から目を逸らして、菫は未来のための思い出作りに勤しむ。

 急遽自分も泊まる事になったホテルへと赤井家の者達と向かっている途中、菫は秀一へと歩み寄った。

「秀一さん」
「ん? どうした?」
「さっきは……真純ちゃんへの対応の事で、口を出してごめんなさい」
「あれか……。あれは俺も悪かっただろう? 過失の割合は50:50だ。気にするな」
「そう言ってもらえると、助かります……」

 ホテルに戻るならばもういいだろうと、菫の被っていたパーカーのフードを下ろし、秀一はくしゃくしゃと菫の髪をかき混ぜた。菫の謝罪をさらりと受け流す秀一は大人だったが、そのあとに続いた言葉はどこか子供っぽかった。

「しかし、あんな小さいのと仲良くしろと言われても、どうすればいいんだ?」

 菫はそれに、ふふ……と空気が漏れるような小さな笑い声をあげた。乱れた髪を手で梳き直しながら、参考になりそうな昔の事を何となく思い出す。

「そうですねぇ……。昔私にしてくれたみたいな事をしてみたらどうでしょう?」
「例えば?」
「ほら、初めて会った日、怪我をした私を抱っこして運んでくれましたよね? あれが実はちょっと嬉しかったんです。それまで抱っこされた事、覚えている限りじゃなかったですから……」
「……ホォー」

 菫の嬉しそうな、でもどこか悲しそうな表情に、不覚にも秀一は一瞬返答が遅れた。しかし、参考になる意見ではあったようで、秀一は早速それを実行に移す。

「そうか……だが、それなら今の俺でも出来そうだな。……真純」
「え? ……え!! な、何? お兄ちゃん……」

 秀一の呼び掛けに振り向いた真純は目を見張った。基本的に無反応だった自分の兄が、手のひらを上に向け、おいで……と言うようなジェスチャーをしているのだ。

 それを見て真純はかなり驚いたようなリアクションをする。だが、そのすぐ後には従順に駆け足で秀一の下へとやって来た。
 秀一はそんな妹を見下ろすと、突然ひょいっと真純を抱き上げた。当然、真純は急な事に声を上げる。

「わ、わぁっ?!」

 その特に声掛けをしないところが、幼かった菫が秀一に抱き上げられた時の事を彷彿とさせた。そのため、菫も思わず苦笑してしまう。

「秀一さん、当時と全く同じ事をしてますね? やっぱり昔と変わってませんよ」
「む、そうか?」
「菫お姉ちゃん? あ、あの、これ……どういう事?」

 この状況は菫が発端ではないのかと、真純は秀一の腕の中で慌てふためきながら尋ねてきた。

「秀一さんも真純ちゃんと仲良くなりたいって事だよ?」
「俺はそんな事は言っていないが?」
「言ったも同然ですよ」
「菫……」

 菫の発言に秀一がさらに何か物言いたげに口を開こうとする。それを感じ取った菫は、ぴしゃりと言い返した。

「もう! 否定しないでくださいね? どうすればいいか……なんて聞いてくるんですから、秀一さんも気にしていたって事ですよ」
「しかし、それでは語弊があるぞ……」
「そんな事ありません。秀一さんが真純ちゃんの事を本当に気にしていなかったら、こんな風に抱っことかしようって思いませんよね?」
「それは……そうだが……」

 苦い表情を浮かべる秀一に、菫はやはりそうではないか……と、その言い分をものともしなかった。
 そんな二人のやり取りを、真純は秀一の腕の中で間近から見る事ができた。何やら言い負かされているような雰囲気の兄は、自分を相手していた時とは全く様子が違う。兄にそんな変化を与えられる菫を、真純はキラキラした目で見つめていた。


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 泊まる事になったホテルの一室で菫が一息ついていると、興奮した真純が部屋へと突撃してきた。

「菫お姉ちゃんも、やっぱりすごい! 菫お姉ちゃんの言う事なら、あのお兄ちゃんも反応してくれるんだもん」
「えぇ……? そう?」

 実は菫の話題でそれなりに秀一と会話が成り立つ事を発見した真純は、この部屋に訪れる直前まで秀一に相手をしてもらっていたのだ。
 自分と兄との距離を急速に縮めさせるその仲立ちをした年上の女性を、心から尊敬したように真純は仰ぎ見る。

「うん! 菫お姉ちゃんみたいな人、なんて言うのかな? ん〜ん〜…………あっ! 魔女だ!」
「ま、魔女? 私が?!」

 真純から飛び出た魔女という単語に菫はドキリとする。自分は魔女でもなんでもないが、菫には多少縁のある職業なため、真純の言うその真意がやはり気になる。

「真純ちゃん? あの、どうしてかなー?」
「さっきの男の子はお兄ちゃんを笑わせられたから、魔法使いみたいだって思ったけど、菫お姉ちゃんなら女の魔法使いだ。だから、魔女だよ!」

 魔女とは自分が心配した意味ではなかったが、あの工藤少年と似た意味合いでの魔女というのも、あまり自分にはしっくりこず、菫は疑問顔だ。

「う、うーん、魔女かぁ……。女性の魔法使いという意味では、そう、かも?」
「そうだよ! 菫お姉ちゃんはあのお兄ちゃんを慌てさせる事ができるし、言う事もちゃんと聞いてもらえる。ボクには出来なかったもん!」
「あ、慌てさせる? 真純ちゃん、さっきも駐車場でもそんな事を言っていたけど、私そんなに秀一さんを慌てさせてたの?」
「うん! ママが怒ってても知らん顔な風なのに、菫お姉ちゃんが怒ってる時は困った風だったよ?」
「えぇ……それって傍から聞くと、かなり迷惑な人だよね……」

 慌てさせる、困らせる、ましてや言う事を聞かせるなどとは、要は相手を煩わせるという意味だ。自分がクレーマーにでもなったかのように感じられ、また秀一にそんな事をしていたのかと、菫は思わず額を押さえ項垂れた。

「と、とりあえず秀一さんに、ごめんなさいしてくるね……」
「えぇ〜なんで!? お姉ちゃんは魔女だから、別にいいんだよ?」

 幼い真純のその言い分に、菫は何と言って返せばいいのか分からず、う〜んと唸り、頭を抱え込むのだった。



書いていて思ったのですが、赤井父が悪い人なんてオチはないですよね……? それだと色々設定が破綻しそうで怖い。


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