Cendrillon | ナノ


▼ *02


「どうしたの? 菫さんったら……。安室さんも、二人して内緒話?」

 菫と零が傷のないペンダントについて、コソコソと話をしているのを園子が訝しがる。それに零が笑いながら首を振った。

「いえ、何でもないですよ」
「そう? ……でも、そうそうコレよ。次郎吉おじ様が菫さんに譲ってほしいって、前から何度もお願いしてるペンダント。まぁ、断られ続けてるんだけど」
「あー……うん、次郎吉さんのお願いでも、これをお譲りするのはちょっと難しい、かな……」

 菫は困ったように眉を下げる。何が気に入ったのか、菫は以前から次郎吉にこの宝石を――ペンダントを譲渡してほしいと、事あるごとに声を掛けられている。しかし、菫がこの世界に来るきっかけとなった大切なペンダントだ。手離すなど考えた事もない。

「分かってるわよ。仕方ないわよね? 家族からもらった大切なものだって聞いてるし。そもそもご家族全員が思い入れのある物みたいだし? おじ様もダメ元で聞いてるんだと思うのよ」

 次郎吉はともかく、園子はそれが譲られる事はないと理解しているようだ。
 コナンと蘭もそれぞれペンダントを手に取って見つめたあと、感嘆の声を漏らす。

「これが、次郎吉おじさんがご執心の宝石。何か、すごいね……」
「確かに目が吸い寄せられるみたいに綺麗ですね? しかも大きい石……。台座の細工も芸が細かいわ……」
「引き込まれるような美しさもさる事ながら、このペンダント、由来が面白いのよ!」
「由来ですか? それは僕も聞いた事がないですね?」

 園子の興味深い発言に零も関心を示した。それに園子は我が意を得たりと、その由来を話し始める。

「私も前に一度聞いただけだけど、印象に残ってるわ。ちょうど菫さんと初めて顔合わせした日よ。以前は次郎吉おじ様と、菫さんのご家族――ヴィオレさんとノアさんっていう外国人のお二人が直接取引してたんだけど――」
「え? 菫お姉さんの家族って、外国の人なの? 菫お姉さん、日本人だよね?」
「ガキンチョ、話の腰を折るんじゃないわよ……」
「ふふ、でもそんな話聞いたら、気になっちゃうよね? うん、コナン君。私の両親は外国の人なの。私、子供の頃にヴィオレさんとノアさんの養子にしてもらったから」

 コナンが園子に睨まれていたが、この少年ならば気になるだろう。隠している訳ではないので、菫もそれをさらりと説明する。

「それに、コナン君の言う通り、私は日本人だよ。私の親はイギリスの人だけど、私の国籍は日本なの」
「あ、うん。養子縁組をしたからと言って、国籍が変動する訳じゃないんだよね?」
「そうだよ。やっぱりコナン君は詳しいねぇ」
「わっ……あ、ありがとう?」

 思わず菫はコナンの頭を撫でてしまう。中身は工藤少年だとは分かっているが、見た目が幼いので問題ないだろうと、相手が年頃な男子高生だというのは菫はあまり気にしていない。

「菫さんったら律儀に付き合うんだから―。もう! ガキンチョのせいで、どこまで話したか忘れたじゃない!」
「園子さん。鈴木相談役が以前はヴィオレさん達と取引をしていた、というところまでですよ?」

 園子が声を荒げたが、零が苦笑しながら続きを促した。

「あぁ、安室さんありがとう。そうよ、昔は取引を菫さんの親御さんとしてたけど、その二人は国外での活動をメインにする事になったらしいの。それで、日本での取引は娘に任せますって事で、顔合わせをしたのよ。菫さんが大学を卒業した年だったわよね?」
「うん。7年くらい前の話だね。園子ちゃんと会ったのも、その時が初めてだったねぇ?」
「それでその時、このペンダントの由来を聞いたって事?」

 コナンの発言に園子は一瞥し、頷きながらさらに続ける。

「そうよ。あの時も、菫さんが手品で商品を何点か取り出して見せてくれてたんだけど、間違えて私物も商品の中に混ざっちゃってたのよね?」
「あれねぇ……あぁ、恥ずかしい。やだな、園子ちゃん本当に良く覚えてるね? あれは初めて次郎吉さんに会うって事で、すごく緊張してたんだよ……」

 頬を両手で押さえ隠していたが、菫の顔は赤かった。園子はそれを見てクスリと笑う。

「でもあれで私は、このお姉さん話しかけやすいかも……って思ったわよ? 菫さんのご家族のヴィオレさん達、本当に気後れするぐらいのすっごい美形でね。ちょっと取っ付き辛かったのよ。うちの家族でも、ポンポン話し掛けるのはおじ様くらいだったわね」
「園子姉ちゃんが気後れって、そんなに美形の人なの? その二人」

 普段から様々な人間と会う機会がある園子が物怖じするとは珍しい、という気持ちでコナンはつい口を出してしまう。それに反応したのは零である。

「コナン君。ヴィオレさんとノアさんは本当に、神話に出てくる神々だと言われても納得してしまうような人達ですよ。何というかオーラがあるんです」
「そんなに雰囲気がある人達なんですか? でも、安室さんも、菫さんのご両親をご存じなんですね?」
「ええ。僕も以前は良く仕事でお会いしましたから」

 蘭の疑問にも零はよどみなく答える。だが、話がずれた事に気付いたらしい園子が再び口を開いた。

「それで、菫さんが間違ってこの紫の石のペンダントをおじ様の前に出しちゃったから、ちょっと騒ぎになったのよ。おじ様がこれは良いな! って、その気になっちゃったのね」
「本当にあれは私が悪かったんだけど、あの時は困っちゃったねぇ……」

 あれは大変だった……と、菫はその時の事が思い出されて、つい苦笑が零れた。



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 顔合わせのついでにと、商品を菫がポケットから取り出し、併せてその紹介をするという流れでの事だった。

「なんじゃとぉ! これは売り物ではないと?!」
「はい、こちらは私物でして。お目に掛ける予定の物ではありませんでした」
「しかし、これはなかなかの一品……。どうじゃ、これを譲ってはくれぬか?」
「……申し訳ありません。こちらは家族からの贈り物で……。次郎吉様の御目に留まったのは光栄なのですが……」

 世界的にも、物語的にも有名な人物の前とあって、菫の手元は狂ってしまう。本来見せるつもりもなかったペンダントが、次郎吉の前に提示されてしまったのが事の始まりであった。

「うーむ……惜しいのぉ……この美しさは手元で愛でたいものじゃ。そこをなんとかならんかの?」
「……うぅ……お心に沿えず、本当に申し訳ありません」
「――次郎吉様。こちらは例え商品だったとしても、提供するものとしては不完全。本来の美しさが損なわれているのですよ」

 今後の取引の勉強も兼ねていた顔合わせで、それまで菫の対応を見ていたヴィオレとノアだったが、次郎吉相手では分が悪いと、ノアがまず最初に助け舟を出した。

「不完全とな?」
「はい。こちらは本来、妻のヴィオレの家に代々伝わる家宝なのですが、元はとても美しく輝いていたのです」
「これが今よりもさらに美しかったと?」
「ええ。元の美しさを知る身としては、今は抜け殻のように感じられます」
「これで抜け殻……しかし何故じゃ? 何故元の美しさは失われたのじゃ?」
「それは、私の願いが叶ったからですよ。次郎吉様……」

 ヴィオレが妖しく微笑んだ。それを間近で見てしまった、その場に同席していた幼かった園子は、ひゃっ……と小さな声を上げる。
 園子のその様子に更に笑みを深めたヴィオレは、件のペンダントを園子の手に渡してみせる。

「園子お嬢様、このペンダント――中央の石を光に透かしてご覧いただけますか? 本来は月光だと分かりやすいのですが、今は明るいですからね。太陽光でご確認ください」
「え? 光に?」

 ほとんど話す機会のなかった外国人の女性に声を掛けられ、園子は慌てふためきながらも言われた通り、その石を窓に向けて掲げ、光に透かして見た。

「んー? あ! これ、石の中に影? みたいなのが……。おじ様……この石、普通に見れば透明だけど、光に当てると何だか一部が少し濁って見えるわ」
「ほぉ? どれ、ワシにも見せておくれ」
「ええ、どうぞご覧になってください。そしてこれは元は濁りのない、それは美しい宝石でした」

 園子から手渡された石を次郎吉も同様に光にかざし、しばらくそれを見つめたあと首肯した。

「ふむ、確かに。じゃがそれでも、心惹かれる美しさは変わらんがの。して……ヴィオレの願いと、宝石の損なわれた美しさに何の関係が?」
「はい。このペンダントは元は我が家に伝わる家宝と、ノアの説明にございましたね。ですが同時に、言い伝えもございまして……」
「言い伝え?」

 首を傾げた園子にヴィオレは頷いた。

「ええ、お嬢様。これはとても不思議な石なのですよ。エルピス……希望という意味の名を冠する、幸福を呼ぶ石です。我が家に昔から伝わっておりました。そしてこの石は、自分の主と認めた者の願いが叶えると……」
「石が、願いを……?」
「お伽話のような話でしょう? でも、叶ったんですよ?」

 そう言ったヴィオレがまるで大輪の薔薇が咲き綻ぶように笑ったため、それを目の当たりにした園子は顔を真っ赤にさせた。通常ならば大人でも挙動不審に陥るものなのだが、それでも園子の度胸は大したもので、どもりながらもヴィオレに気になった事を尋ねる。

「ヴィ、ヴィオレさんの願い事って、何だったんですか?」
「うふふ……それは秘密。秘密ですよ。園子お嬢様。でも、絶望していた私を救ってくれたんです。正に希望でした。この石と菫は……」
「菫が? どういう事じゃ?」

 唐突に菫の名前が出てきた事に、次郎吉は疑問の声を上げた。

「次郎吉様、単刀直入に申し上げますと、この石の主は菫なのです」
「あぁ、石が主と認めると言っておったの……。しかし、願いが叶ったのはヴィオレなのじゃろう?」
「その通りです。ですがそれは、菫が私の願いを叶えてほしいと、石に願ってくれたからなのですよ」
「じゃが、元はヴィオレの所有する石であろう?」

 例え菫が石に認められようと、持ち主はヴィオレである。それは昔、菫自身も感じた違和感だ。だが当の所有者は、昔も今もその事に疑問は抱いていないようだ。

「確かにそうです。ですがこの石は、長年に渡り誰も主と認められず、我が家で宝の持ち腐れのような状態でした。それが他ならぬ菫によって、この石は本来の力を引き出せた――取り戻せたのです。この石を生かす事が出来るのは菫だけ……。我が家で所有していたという事実は些末な事でしょう」
「――そして役目を果たしたこの石は、以前の輝きを失いました。宝石に濁りがあるのがその証し。……ですが、今この石は主の下で力を蓄えています。いずれまた、己が主のためにその力を発揮するでしょう」

 最後はノアが引き継ぎ、話を締めた。その石は菫の下で輝くのだと暗に伝えて……。

「そういえばお主らは異国の人間。菫は養子だと言っておったな……」
「ええ。この石の件がありまして、私達は菫を養子に迎え入れました。それは間違いありません」
「菫は石が認めた養い子という事じゃな。得難い人材と言い換えても良かろう……。ふん。ここでそれを相手に、無理を通すのは悪手か――」

 そう小さく呟くと次郎吉はあごに手をやり、残念そうに唸る。

「……うぅむ。エルピスか……。興味深い話じゃった。それに免じて、今回は引き下がるかの……」
「次郎吉様、今回は私の不注意で本当に申し訳ありませんでした」

 菫が再び頭を下げると、次郎吉は手を横に振り、鷹揚に頷いて見せた。

「良い良い。珍しい石を見る事も、面白い話を聞く事も出来たからの。石の主が菫だという事じゃし、持ち主から無理に引き離すのも良くなかろう。じゃが、希望の石――惜しいのぉ……」

 名残惜し気に次郎吉は菫のペンダントをチラチラと見やる。結局その言葉の通り、完全に諦めきれない次郎吉は、菫に心変わりはないかとその後も再三確認し続ける事になるのだった。



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「エルピス……希望の石ですか――」
「へぇ……願いが叶う石なんて、素敵ですね?」
「俄かには信じられないでしょう?」

 零は少し考え込むように、蘭は感心したような声だったが、菫は苦笑交じりで首を傾げて見せた。例え菫がそれを真実だと知っていても、大っぴらに主張もできない話だ。あまり公になってしまうのは正直よろしくない。
 だが、縁起が良いほど耳目を引き、箔もつくので古い美術品はこの手の曰くが多い。いざとなれば美術品のよくある与太話の一つとして、基本は埋もれてしまうだろう。

「ねぇ、菫お姉さん。そのヴィオレさんって人の願い事って何だったの?」
「やっぱりコナン君はそこが気になるよね?」

 そして、当然の事ながらコナンはピンポイントで核心をついてくる。

「ごめんね。それはやっぱり秘密なの。私のじゃない、人の秘密だから教えられないよ。でも、願い事は確かに叶ったの。それは本当だよ?」
「ふーん……それじゃあ、菫お姉さんはこのペンダントの石が、本当に願いが叶う石だって信じてるの?」
「私は……うん、信じてるよ。でも、他の人が簡単には信じられないのも分かるの。だからもし、これが沢山の人の目に触れる事になったとしても、この事はあまり知られたくないかな? 分かっていても、嘘だって言われるのは悲しいから……」

 次郎吉への一時貸与は寝耳に水であるが、この園子達が認識している由来が合わせて広く認知されるようであれば、この話はないだろうな……と菫は思う。
 すると、それを聞いていた園子が慌てて首を振った。

「菫さん! 一時貸与の条件は融通を利かせるとも、おじ様は言ってたわよ? 菫さんが望まないなら、持ち主についてとかその他諸々も、公開情報の制限はする筈よ!」
「あ、そうなの?」
「ええ! 最近めぼしい宝石が手に入らなくて、おじ様ってばキッド様に挑戦状を用意出来なかったのよ。だからレンタルなんて言い始めたって訳。多分どんな条件を出したって、今のおじ様なら呑むわよー」

 この際自分の所有物でなくとも、目を引けるものがないかと考えての今回の貸与話らしい。

「……でも、このサイズの宝石じゃ、キッドは興味持たないんじゃないかな……。ビックジュエルってこぶし大くらいの大きさだよね?」

 菫は自分の手のひらのペンダントを見て首を傾げる。紫色の石自体は直径5センチほどだ。女性の手のひらに収まる。とてもではないが、怪盗キッドの狙う宝石には届かない。

「しかもねぇ……これ、実はアメシストかどうかも分かってないんだよね。宝石だとは思うんだけど……」
「菫さんもこの宝石の正体、分からないんですか?」

 零が目を瞠り、思わず問い返した。その零の様子に菫は首を傾げながらも、頷く。

「うん。あのヴィオレさん達でも、この宝石の種類が分からないって言ってるくらいなの。そもそも博物館で展示なんてして良いものか……」

 下手をしたら、博物館の名前に傷が付くんじゃないかなぁ……と菫は困り顔だ。

「でも、これすごく魅力的な石よ! 次郎吉おじ様が諦めきれないくらいなんだから! 宝石なのは間違いないわ!」
「そうですよ、菫さん。私、園子みたいに宝石なんて見慣れてないですけど、これは目が惹かれますよ。ねぇ、コナン君?」
「え、ボク、宝石はよく分からないけど……うん、綺麗だとは思うよ? 目が離せないって言うのかな、ただの石じゃないって感じはするね」
「ええ、菫さん。これは純粋にただの宝石というより、何か異なる付加価値がある物だと皆感じ取ってますよ」
「そ、そうなんですか?」

 その場にいる者達からのかなりの高評価を受け、菫はたじたじとなる。また、園子が宝石の種類が不明という事は問題がないと軽く請け負う。

「博物館に展示する事になったら、まず真っ先に詳細鑑定をさせてもらう事になると思うわ。安心してよ菫さん。宝石名くらい、すぐに分かるわよ。それにもしかしたら新種の宝石! なんて分かったりしたら、ものすごく注目されるわよー」

 そうなったら楽しみ! キッド様がきっと来てくれるわ! と園子はきゃーと声を上げる。

「……園子姉ちゃん、それだと菫お姉さんの宝石、本当にキッドに狙われちゃうって事じゃ……」

 呆れたようなコナンの声に、園子はチッチッと人差し指を立てて横に振る。

「もちろんセキュリティは強化するから、盗まれる事なんてないわよ? ねぇ、菫さん本当にこの話、どう思う? 鈴木財閥のセキュリティで安全な展示、期間後には必ず返却というのは確約するっておじ様は太鼓判を押してたのよ。そのうち話が菫さんの所にもいってたんじゃないかしら?」
「本当にそこまで話を詰めてたんだ……」

 鈴木財閥の本気を見せられそうで、菫は怖気付く。正直即答はできなかった。

「うーん……どうしよう。ちょっと家族にも相談してみたいけど、良いかな?」
「もちろん! 良い返事を期待してるわ!」

 だが、もとはと言えば、菫が次郎吉に紫色の石を見せた事が発端でもある。これは断るのは難しいかなぁ……と、菫はぼんやりそんな事を考えながら園子へ頷き返すのだった。



 * * *



 その日の夜、菫の住む洋館に二つの影が密かに侵入した。

「菫ちゃん、あのペンダント、面白い事になってるんだって?」
「色々聞かせてもらうぞ、菫。……と言っても、ポアロで聞いた話を前提にすると、まともな話は聞けなさそうなんだがな――」
「そうそう、ゼロに聞いたけど、石が元に戻ってるって本当? 俺も見たい!」
「零くん、ヒロくん、いらっしゃい。えーと、取りあえずお茶を入れるね……」

 二人が一緒にいるのを見るのは久しぶりで、訪問の目的はともかくとして、菫は喜んで幼馴染を家に招き入れる。飲み物を用意し、一息ついたところで菫はしばし世間話に興じたいと思っていたのだが、そうは問屋が卸さななかった。

「――さて菫。あの紫の石の話だ」
「う、少しは雑談をしようよ、零くん。でも忙しいもんね二人とも……それがね、ヒロくんにあのペンダントを返してもらったあと、ヴィオレさんが……」
「おっと、ヴィオレさんが関わってたか。ゼロ、これは突っ込み過ぎると、モンペから報復が来るやつだ。慎重にな」
「そうだな……。取りあえず、菫が自発的に話せる事に関しては大丈夫だろう。あとはどれだけ話させられるかだな」

 コソコソと話しているが、本人に全て届いている。菫が眉を吊り上げ声を上げた。

「二人とも、聞こえてるからね! それにヴィオレさん達はモンペじゃないよ!」
「いやいや、菫ちゃん……君が知らないだけだからね? あの二人怖いんだからね?」
「あの人達、菫をいじめるやつには容赦ないぞ」
「そんな事ないってば。二人ともすごく優しいんだから」
「ヴィオレさんとノアさんが優しいのは、菫ちゃんにだけだからね……」

 見解の相違でしばらく揉めたが、菫が聞く耳持たずですぐに話は元に戻った。

「――もういいよ! それに石の話でしょ? えっと確か、ペンダントが手元に戻ってきて、ヴィオレさんが一仕事終えた石を労わってあげなさいって言ったの」
「石を労わる?」

 景光の不思議そうな声に、菫は事もなげに頷く。

「うん、石を月光に当てて浄化してあげるのが良いのよって、教えてくれたんだよね。それで一晩、月光に当たる所に置いておいたら……」
「「置いておいたら?」」

 零と景光が固唾をのみ、声を揃えて聞き返す。

「朝には埋まってた弾丸が、机にポロリって落ちてたよ。あと石も綺麗になってたの。すごいよね? 私もびっくりしたの」
「えー……。嘘だろ、って言えないのが何ともなぁ……。しかも普通に超常現象系の話を受け入れてしまっている自分に困る」

 景光は座っていたソファの背もたれに深く身を預け、ため息をついた。零も組んでいた足に肘をつき、その手にあごを乗せると幼馴染と同様に疲れたような息をつく。

「……僕もだ。その上菫もよく分かってないから、追及しようもない……。こういう時の無知って最強だよな」
「それな……。はぁ、つまり詳細が分かるのはヴィオレさん達か……」

 二人は再び、息を合わせたかのようにため息をついた。

 あの敵に回せない保護者のいないせっかくの機会、状況であった。ようやく菫から、あの不思議なペンダント――紫色の石の真実を解き明かせられるのかと二人は考えていた。だが、肝心の菫がこの調子だったため、結局情報らしい情報を零と景光は得られなかったのだった。



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