Cendrillon | ナノ


▼ *マーキング
日常の一コマ。取りあえず、爆処も降谷さんも所有印つけるよ! という話。短いよ!


 ポアロで先ほどまで食事をしていた客が店を出て行く。それを見送った梓は、空の食器を下げるためコーヒーを飲んでいる菫の横を通り過ぎた。

「あ……」

 その瞬間、その動きが風を巻き起こしたのか、ふと梓にある香りを認識させた。ふわりと鼻に届いた香りに梓はぽつりと呟く。

「……タバコ?」

 ただそれは、客の嗜好に口を出すつもりなどではなく、あまりにも意外で思わず口から飛び出てしまったものだ。

「え? あ、私ですよね? そんなに匂います?」
「あ、ご、ごめんなさい、菫さん。そう言う意味じゃなくて、菫さんからタバコの匂いがするの、ちょっと意外だったから……」
「……ああ、本当ですね。珍しい、菫さんからタバコなんて」

 梓が慌てて謝る中、菫の反対隣に座っていた蘭もくんっと鼻を鳴らして、梓に同意する。

「あれ? 菫さん、タバコなんて吸う――訳ないよね。ねぇ、誰かタバコを吸う人のそばにいたの?」
「あ、梓さん、そういう事なら気にしてないですから。そんなに謝らないで……。あ、うん、そうなのコナン君。ポアロに来る前に会ってた人が吸う人でね。ごめんね、気になったかな?」

 菫は梓に対し気にしていないと手を振りながら、離れた席から声を掛けてくるコナンの無難な推理に、あっさり肯定の言葉を返す。
 コナンは菫からのその問いかけには首を振った。

「ううん。小五郎のおじさんも吸うけど、おじさんはこの位の距離でも匂いでわかるんだ。菫さんのは多分もっと近づかないと気付かないと思う」
「ええ、菫さん。私も隣にいましたけど、梓さんに言われるまで気付きませんでしたよ?」
「ただ菫さんからタバコの匂いがするっていうのは、蘭姉ちゃん達が言う通りちょっと違和感があったから……」
「そうよね。菫さん、タバコって柄じゃないし。……あー! もしかしてタバコを吸う一緒にいた人って男? 菫さんの彼氏!?」

 蘭の隣に座っていた園子が菫の印象を率直に零す。そして、思いついた! と言わんばかりに、そのタバコを吸う人間が菫の恋人ではないかと園子は顔をニヤつかせた。

「園子ちゃんったら……確かに男の人だけど、タバコ吸ってた人って二人いたんだよ?」
「なーんだ……。いや、待って。菫さんなら彼氏が二人でもイケるわね。男の二人くらい手玉に取れる……」
「もー園子ちゃん! 無理に決まってるでしょ! すぐにそういう話に繋げるんだからー」

 菫と園子の二人できゃーきゃーと少し騒いでいると、バックヤードから零が現れた。菫は、あれ、今日は出勤してたんだ……と思う。
 零は真っ直ぐ座っている菫に近寄ると、その身体や髪に鼻を寄せ、さらに眉を寄せた。

「この残り香……あいつらですか」
「ちょっ……透さん。そんなにあからさまに匂いを嗅がないでください! 恥ずかしいじゃないですか!」

 菫が顔を赤くして抗議するが、どこ吹く風の零の顔は険しいままである。

「え? あいつらって、タバコを吸ってた人、安室さんの知り合いの人?」
「ええ、恐らく昔の仕事仲間ですね。僕を通じて菫さんとも知り合いなんですよ」
「……透さん、タバコの匂いで普通そこまで分かります? ……確かにその通りですけど」

 コナンの指摘に、零は躊躇なく頷く。同じ銘柄のタバコを吸う人間が一体どれだけいると思うのだ……と菫は思うものの、零の推測通りなものでつい遠い目をした。

「二種類のタバコの匂いが混ざっています。確かにどこにでもある物ですが、この組み合わせが菫さんからしてくるという事は、十中八九、犯人はあいつらです」

 ポアロ店内で安室に扮している筈の零だったが、この時ばかりは少し地を混ぜ込みながら憤りを口にした。

「あいつら……菫さんの前でタバコは吸うなって、あれほど言ってあったのに……」
「あーそうね、吸わない女性の前でタバコを吸う男は確かに減点よね?」
「うーん、そうだねぇ……」
「あ、あの透さん、園子ちゃんも蘭ちゃんもね、違うよ! 私がね、タバコ吸っていいですよって言ったの。それに、私が先にタバコどうぞって勧めないと、私の前で吸った事なんて、その人達なかったよ!」

 零と、特に女子高生二人からの不当な評価を避けたい。ここにはいないのにもかかわらず、菫はタバコを吸う二人の男性を庇うべく慌てて声を上げた。



 * * *



 本当に気遣いができる優しい人たちなの! と菫の必死のフォローで、女子高生たちは考えを軟化させたようだ。だがそれでも、園子は腕を組み、上から目線でのたまう。

「むー……まぁ、菫さんが許可を出してから吸い始めるなら、ギリギリ及第点ね」
「園子ったら……すみません、菫さん」
「いえいえ、大丈夫ですよ蘭ちゃん」

 まだ見ぬ二人の男性をそう評価した園子に、菫と蘭は互いに苦笑し合う。しかし、そこへ納得していないらしい零が口を挟んできた。

「……なんで菫さんは吸って良いなんて許可を出すんです? タバコ、苦手でしたよね?」
「え? あの、タバコ自体は苦手ですけど、えっと……」
「……何ですか?」
「その、あのお二人、タバコを吸うところが……カッコよくて……」

 菫がテレテレと口ごもりながらそんな事を言った。零がスッと目を細めた事にも気付いていない。だが菫の言葉に、意外な人物から賛同の声が上がった。

「菫さん分かります! いますよね、タバコを吸うところがすごく似合う人って! タバコは好きじゃなくても、それは見たいの! ってなるんですよね?」
「梓さんも分かってくれますか! そうなんです! もう映画の俳優さんかっていうくらい様になる人って、いるんですよねぇ……」

 今度は同志を見つけたらしい菫と梓がきゃっきゃっし始めた。それを見つめる零は笑顔を浮かべている。だがそれは表面上のもので、零の纏う空気は冷たい。

 恐らく菫がただ吸っても良いと許可した程度では、断る筈である。その程度の分別はあの二人にもある筈だと零は思う。だが、実際吸っている様子である事から、菫が二人にタバコを促したと考えられた。つまり菫は梓と話している内容を、二人が気兼ねせぬよう寸分違わず伝えているであろうと零は結論付ける。

(松田に萩原……二人とも菫の言葉通り受け取らず、遠慮くらいしろ!)

 それは零の推測なので言いがかりではあるのだが、ある意味正当な言い分でもある。その推測が実際間違っていないのだ。菫は固辞する二人に毎回、タバコを吸っているところが好きなので、気にしないで吸ってほしいと伝えている。

 そのほぼ正確な推測をしている零は、一見平静だった。しかしにこやかな微笑みの零の目は笑っていない。それを目撃してしまったコナンは半眼で乾いた声を上げる。

「あー……」

 安室さんの前でそういう事、言わない方が良いじゃないかなー菫さん……とは思ったが、賢明にもコナンはそれを口にはしなかった。藪蛇である。
 しかし、当の本人はそんな事もつゆ知らず、梓と談笑を続けていた。

「――しかも、今日はタバコの煙で輪っかを作ってくれて、ちょっと楽しかったです」
「スモーカーはそういうの得意ですよねー」
「はい。タバコを吸っていた二人で、競い合うみたいに輪っかを出して遊んでたので、面白かったですよー。でもそれのせいでしょうか? 匂いが強く残っちゃったのは……」

 菫は自分の腕を鼻に寄せクンクンと匂いを確かめるが、首を傾げる。鼻が慣れてしまったのかもしれない。自分ではよく分からなかった。
 するとポンポンと菫の肩を叩く者が一人――零である。零がにっこり笑って、脈絡もなく菫に言った。

「菫さん、僕、あとで香水をプレゼントしますよ。菫さんに似合いそうだなって思ってたやつがあるんです」
「? 香水ですか? そんな……いいですよ。あまり使わないですし……」

 貰う理由もないため、菫は首を傾げてそれを辞退する。しかし零は引かない。

「でも香水は何本か持ってらっしゃいますよね? その中に僕が選んだものを仲間に入れてくださいよ」
「菫さん! もちろん受け取るわよね?! 男のプレゼントは女の勲章よ! 受取拒否は許されないんだから!!」
「え、でも……」

 何故かそれを聞いてテンションを上げた園子の強い勧めもあり、結局後日、菫は零から香水をプレゼントされる事になったのだった。



菫はさっきまで俺達といたぜ……という誰かさんから誰かさんへのアピール。存在感を主張。そういえば、パフューム・オン・ノーベンバーセブンという爆処組イメージの香水が2種出るらしいですね? すごいな松&萩。没後というか初登場何年目の快挙ですか……。


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