Cendrillon | ナノ


▼ *ポアロにて、この世界のヒーローと
ミストレ前の、安室さんがさほど怪しまれてないかなり初期の頃の話


「ねぇ、菫お姉さん。僕たち前に会った事、ない?」
「私達が?」
「おや、コナン君。菫さんをナンパかい?」

 コナン少年は巷でよく聞く常套文句を、その日初めて会う女性に対して口にした。
 すると、洗い物をしていた青年――今は安室透に扮する降谷零がその手を止めて、からかう口ぶりで、でもどこか興味あり気に聞き返す。

「え? ち、違うよ! そんなんじゃないよ?」
「ふふ、分かってるよ、大丈夫。透さんは意地悪ですねぇ?」

 慌てる少年に菫は苦笑する。まさかそんな誤解をしよう筈もない。案の定、零は悪びれもなく肩をすくめている。

「それで、えっと……私とコナン君が前に会った事があるか、だよね? うーん……」

 偶然隣り合って座った少年とまさか自己紹介まで済ませられるとは、菫も思ってはいなかった。狙ってこの喫茶ポアロを訪れた訳ではなかったのだ。
 むしろあまり会わない方が良いだろうと、午前中に足を運んだのだが、それが裏目に出てしまい、ばったりと出会ってしまった。

 どうやら少年は本日、学校が短縮授業で給食が出なかったようである。ランドセルを背負ったまま入店するところを、すでにカウンター席で腰を落ち着けていた菫は目撃してしまい、つい咽てしまったのだ。
 自分を見て驚いた様子の初対面の筈の女性に、その少年が興味を示さない訳がなく、冒頭の会話となる。

「コナン君はどこかで、私に会った記憶があるのかな?」
「それがちょっと、あやふやなんだ。なんだか覚えがあるような気はするんだけど……」
「そっかー。私はどうだろう……思い出してみるね?」

 取りあえず考え込むそぶりを見せながら、菫は心の中で拍手をしていた。確かに十年ほど前、菫は目の前の少年と海辺で顔を合わせた事があったのだ。

(私はあの時、本当に見てるだけだったのに。誰かまでは思い出せていないみたいだけど、事件に居合わせた人間まで覚えているんだ。記憶力がすごすぎるよ、主人公。流石だねぇ……)

 伊達に探偵は名乗っていないというものである。事あるごとに聞いた、見た目は子供、頭脳は大人……そんなフレーズが思い出されて懐かしくなった。

 しかし、だからこそ疑問を抱いた彼を煙に巻くのは至難の業でもある。変に否定するよりも、相手の不安を煽った方が良いだろう。菫はこの少年が追及の手を緩めざるを得ない質問の答え方を知っていた。

「そうだね……そういえば何だか見覚えがあるかも……」
「ほんとう?」
「そうなんですか? 菫さん」

 菫の言葉に、零は意外そうに問い返す。

「はい、透さん。思い当たる事がありました。でも……」
「でも?」

 聞き返してきた少年に菫は向き直る。そして菫は隣に座るコナン少年を覗き込むように言った。

「私がコナン君と似た子に会ったのって、十年位前だったと思うんだよね?」
「げっ!」

 小さい声であったが、確かにコナン少年はうめき声を上げた。顔色がばっちり変わっている。そしてすぐに菫の望む返答を口にした。

「えぇ〜と……十年前じゃ僕じゃないよね? 僕生まれてないもん! 勘違いだったみたい! ごめんなさい、お姉さん。変な事言って」
「ううん、気にしないで。そういう勘違いって、あるよね?」

 今回は年の功で何とか乗り切れたが、やはり主人公は侮れないな……と思いつつ、菫は素知らぬ顔をでそう答えるのだった。



 * * *



 その日、菫は朝から落ち着かない心境で、なかなか進まない時計の針を見つめていた。もういい頃合いだろうと目星をつけていた時刻になると、菫は高鳴る胸を押さえ、ある場所へと足を向ける。

 ついに始まったのだと思った。先日、とても多忙な幼馴染が仕事ではない連絡を寄越してきた。それは近況の報告で、零は毛利探偵に弟子入りしたのだという。そして安室としてバイトをする事になった喫茶店へ顔を出さないか? という誘いの連絡でもあった。

「零くんがポアロでバイト……!」

 菫はこれまで、それも20年以上この世界で息を潜めてきていた。節目節目に現実となるかもしれなかった悲劇を、可能な限り防ぐ事もした。周囲に助けてくれる心強い味方がいなければ不可能だっただろう。
 だが、基本は傍観者だった。菫はちっぽけだった。人の力を借りなければ何もできない自分に歯がゆさも覚えた。

 この世界のヒーロー……主人公である、工藤新一であり江戸川コナンの動向も陰から見守っていた。
 菫が率先して働きかけた訳ではない危うい邂逅もあった。だがそれも、工藤少年にとっては一期一会の人間にすぎないだろう。流れゆく人生の中で一時、ただすれ違った人、程度の認識だろう。
 つまり菫としては、工藤少年に関してはそれこそ舞台を見つめる観客のように、触れる事も、話し掛ける事もなかった。紛う事なき傍観者であった。

「今まで、ヒロ君たちの未来には手を出してしまっていたけど、まだ大きな変化は起きてない」

 零の友人たちの行く末に手を加えてしまった事が、今後何かに影響するのではないかと菫にはひどく恐ろしかった。それは今でも、いつまでも変わらない。
 だが、それでも彼らを例外的に扱ってしまった事を菫は後悔していない。どうしても助けずにはいられなかったのだ。そして今を生きる彼らと交流できる幸福を手離せない。不安を抱えて生きる事など、何の苦でもない。

「でも……工藤君の件は、結果的には見捨てたんだよね……。私が上から目線で言う事自体、間違ってるけど」

 事の発端、この世界の……原作の始まり。工藤少年がコナン少年へと変貌してしまう事件の事だ。
 そのトロピカルランドの事件を始めとする、コナン少年の関わる事件を、菫はほぼ傍観している。

「工藤君の件は……この世界の根本過ぎて、手を出せなかったんだよ……」

 世界の根幹を揺るがして、この先が全く分からなくなる事を菫は恐れてしまった。怖気づいたのだ。
 零の友人たちは言ってみれば原作が始まった時には既に故人で、言葉は悪いが脇役とも言える。それを変えてしまっても、恐らくはこの世界にとっては――ノアの言葉を借りれば、誤差であろう。

 しかし、工藤少年は菫にとっては不可侵に近い存在だ。
 何せ彼は主役……この世界の中心なのだから――。

「コナン君は存在が大きすぎて、私じゃどうしようもできない……」

 舞台の上にすらいない自分が、主役の行動――シナリオに手を加えては、物語が破綻してしまう。そんな風に菫には思えたのだ。
 そして何より、菫の優先事項はやはり零なのである。彼とその仲間が笑って生きられるように、恐る恐る、手探りで未然に悲しい結末を避けてきたのだ。とてもではないが、コナンやその近辺までには手が回らないのも正直なところではあった。

 今まで菫は裏方、黒子、そして観客に徹していた。だが、零の喫茶ポアロへの誘いの言葉は菫にしてみれば、舞台の上へのお誘いだ。役が欲しい訳ではない。だが、傍近くで見られるその権利を無私無欲で放棄する事は、菫には出来そうになかった。



 * * *



 零の言葉に甘えて、菫はポアロでニコニコと日常風景であろうそれらを見つめていた。物語の彼らをただの本の登場人物とはさすがにもう思っていないが、アイドルや芸能人、ある種の憧れの人というような目で見るのは菫には止められそうにない。
 特に最も長い付き合いになる零は、いまだ燦然と菫の心の中で憧れの対象の頂点にいる。カウンターの中で動き回っている零をただ見ているだけでも全く飽きない。

「安室さん、僕、ナポリタンお願い」
「透さん、コナン君のあとでいいので、今度はミルクティーをもらえますか?」
「はい、ナポリタンにミルクティーですね? 分かりました。コナン君、菫さん。少し待っててくださいね?」

 零に復唱で確認されると、コナンと共に菫は頷いた。そして再び作業を始めた零の背中を目で追う。その時だ。コナン少年から菫は腕の袖を引かれた。

「菫お姉さんは、安室さんとは昔からの知り合い?」
「うん? なんでそう思うの?」
「だって安室さんの事、透さんって名前で呼んでるでしょ? 安室さんはここのバイト最近からだけど、他のお客さんで名前を呼ぶ人はいないんだ。みんな安室さんって呼ぶから」
「そうなの? でも透さんとはここ四、五年の付き合いかな?」

 それは事実である。菫が安室透と知り合った、というより知らされたのは、景光が組織から身を隠し潜伏生活に入ってからなのだ。景光の仕事の補佐で安室との付き合いも開始したのである。

(最初は安室さんって呼ぶつもりだったんだけどな? でも透と呼ぶようにって言われたんだよね)

 仕事関係で出会ったという体で振る舞うようにと菫は零に言われていた。だが、安室と自分の関係の詳しい設定などは未確認だった。まだ口裏を合わせていない。このように公然と安室透としての零と交流するのはこれが初めてなのだ。そのため平日の午前は人が少ないという事もあり、打ち合わせを兼ねてポアロに菫は誘われたという理由もあったのだ。

(仕事の延長の付き合いっていう設定なら、名前呼びはちょっと距離が近すぎるよね……。現にコナン君には昔からの知人みたいに思われてるし。実際の所は間違ってないけど)

 恐らく今からコナンにさらに追及されるだろう事は、菫にも予想できた。どうしよう……と悩んでいると助け船が入る。もちろんそれは零からである。

「菫さんは僕の昔の依頼人の娘さんなんだ。仕事で出会ったけど年が同じでね? 話も合うから今も個人的に仲良くさせてもらってるんだよ。それに今もたまに菫さんから仕事の依頼があるんだ。……これでいいかい、コナン君?」
「ふーん。名前で呼び合うくらい、仲が良いんだね?」
「ああ。昔からの知り合いみたいに、気の置けない仲だと思うよ」
「でもバイト先にわざわざ招くなんて、ただの友達かなぁ?」

 現時点で零は何かを怪しまれているのか、もしくはただの好奇心なのか、コナン少年の追及に容赦がない。

「恋人だとでも言ってほしいのかい? ご想像にお任せするよ。でも実は彼女、色んな所から引っ張りだこでね。僕だけが一人占めには出来ないんだ。だから時間がある時に来て下さいってお願いしたのさ」

 それを聞いて菫は、零くんの方が三つの顔で忙しくて引っ張りだこ……と遠い目をする。しかし、今後は比較的この喫茶ポアロで会える機会があるだろうと菫も期待もしている。

「菫お姉さんが引っ張りだこ? どういう意味?」
「色々さ。まぁ仕事で色々呼び出しされる事が多いんだよ。菫さんはよく海外に行き来してるしね。ご家族の仕事の手伝いをしてるんだ」
「菫お姉さんの仕事って何なの?」
「彼女のかい? ご家族は個人相手に美術品の取引関連の仕事をしてるけど、彼女はその顧客相手と直接会って荷の受け渡しをしているんだ」

 菫が零のトリプルフェイス生活に少し気を取られているうちに、話題がいつの間にか自分に移っていた。それに気付き菫はハッとする。

(でもまぁ、私の仕事って言っても、零くんもポアロでバイトを始めたし、所謂表向きの仕事は休業状態だけどね……)

 これまで、菫も家業手伝いという名目で、ヴィオレ達の日本での仕事のフォローを任されていた。仕事内容としてはヴィオレの関係者との美術品売買における商品の運搬担当だ。
 ヴィオレ達はいわくありの取り扱い注意な美術品を入手しては、それを魔術師の能力でいわくをないものとしていたのだ。そしてそれらを通常の美術品として一般人に払い下げるのが日本での生業だった。

 だが、現在は物語の流れからして忙しくなるという事が明白なため、黒ずくめの組織の件で動いているヴィオレ達ともども、日本の仮初めの仕事は控えている状況だ。
 今まさに零が話す内容は、現在は仕事をセーブしているという以外に相違はなく、また話されても特に困る内容でもない。

「菫さんの家族、今時そんな方法で商品の受け渡しをしてるの? 運送業者を使わないの?」
「個人相手の仕事だしね。大切な荷物を取り扱っているから、むしろ業者に任せないみたいだよ」
「さっき安室さんが言ってた、昔の依頼人の依頼って、その個人相手の仕事関連?」
「守秘義務があるから詳しく言えないけど、まぁそんな感じかな?」
「あ、あと他にも聞きたい事があるんだけど――」

 零だけに及ばずコナン少年はさりげなく自分の情報も収集している。隣で聞いていた菫は戦慄する。

(えー……まだ聞くの? 私は大したものじゃないよ、コナン君! 関心の対象が広すぎ! うぅ〜さすが探偵さん……)

 本人が隣にいるにもかかわらず零に質問する事に疑問もあるが、変に口を出して突っ込まれてもたまらない。ここは幼馴染に任せようと菫は思う。
 また零は安室と菫の関係について、まるで事実であるかのようにスラスラとコナンに説明している。それが目の前の少年だけでなく、自分にも言い聞かせているのだと菫もすぐに気付いた。今後自分にも関係してくるそれを聞き逃さないよう、菫も自分達の期間限定の設定に耳を傾ける。
 だがそれもつかの間、またもや話題が変わった。

(……あれ? もう互いに相手へ疑問を抱いてる時期? ミステリートレインはまだだよね?)

 そういえば今は物語のどのあたりを推移しているのだろうと菫は首を傾げる。
 零とコナンの間で何やら探り合いというのに相応しい雰囲気が醸し出され始めたのだ。しかし二人の会話はどこか抽象的で、正直菫には何を言っているのかが不明であった。

(ん? でも、ピリピリした雰囲気はない?)

 二人の会話はどう深読みしても黒ずくめの組織に関する話でもないようで、何というか探り合い――というより化かし合いに近い会話だと菫は気付く。よくよく聞けば零もコナンも打てば響くような応酬を繰り返しており、少し楽し気でさえあった。もしかすると普段からこんな会話をしているのか、と菫の顔は引きつる。

(……この二人はこんなのが日常茶飯事なの? 本当に、頭の良い人同士の会話って一般人には理解し難い……。でもという事は、今二人は頭が良い人同士にだけ通じる会話を楽しんでるのかな――)

 仲間外れだ……と菫は少し落ち込む。しかし、それでも菫はぼんやりと、ついていけなくなった二人の探偵の会話風景を眺めるのだった。


 * * *



「――おっと、コナン君。君のナポリタンを用意するから話はここまでだよ」

 時間にして4、5分だっただろうか。そう言って零が店の奥の調理場に引っ込んでしまう。コナンもそれなりに情報を得られたようで満足したのか追及は打ち止めらしい。ようやく終わった……と菫も息をつくが、目で追う最たる対象の零が一時的に退場してしまった。
 そのため菫は視線の矛先をコナンに変更する。どうやらコナンは注文した料理が来る前に宿題を済ませてしまう心づもりのようだ。

「それじゃあ、僕、今のうちに宿題終わらせちゃうね」

 コナンはカウンターに問題集を開くと、早速ペンを取っている。そしてスラスラよどみなく答えていくのが、傍から見ていて小気味よかった。
 菫が邪魔にならない程度にコナンに目を向けてしばらくすると、コナンのその軽快なペンの動きがふと途中で止まってしまう。

「あー、シャープペンの芯、切れちまったか。予備、あったかなぁ……」

 小さな声でぼやいたコナンがペンケースを引っ掻きまわしていたため、つい菫は口を出してしまった。

「替え芯、あるよ。濃さはHBしかないけど、太さは0.3mm、0.5mm、0.7mmの3つだね。一般的なのは0.5mmかな?」
「え? あ、じゃあ、0.5mmの……」
「じゃあこれだね。はい、コナン君にこのままあげる」

 菫は持っていた替え芯の入ったスティック状のケースを一つ、そのままコナンに渡してしまう。

「いや、使う分だけでいいよ」
「そう? 何個かあるから気にしないで。それに今日のコナン君との出会いを記念して、お近づきの印に貰ってくれないかな? 替え芯なんて色気がないけど」
「うーん……それならありがたく受け取るね。ありがとう、菫お姉さん」
「どういたしまして」

 最初は遠慮したコナンだったが、菫の言葉に固辞するのもどうかと思ったのか、礼の言葉と共にそれを受け取る。

「でも……急に替え芯を出されて、びっくりしたよ? 菫お姉さん、こんなのよく持ってたね。しかも三種類も」
「おや、コナン君。どうしたんだい? 菫さんはまた突拍子のない物を、唐突に出したのかな?」
「あ、安室さん。もう出来たの?」

 奥で調理をしていた安室が両手に皿を持ちながら現れる。

「ああ、こっちがコナンくんのナポリタン。こっちは菫さんにハムサンドですよ」
「あれ、透さん、私注文してないですよ?」

 菫の目の前に置かれたのは、ファンの間ではとても有名なハムサンドである。取りあえず最初に頼んでいたコーヒーを味わってから注文しようと思っていたのだが、コナンの来店によって菫の頭からすっかり忘れさられてしまっていたものだ。

「お店で出す予定の試作品です。ここのマスターは定期的に商品を改良してるそうです。これも既存のレシピにアレンジを加えました。マスターの許可が出たら、メニューに載りますよ。感想を頂けたら助かります」
「! まだメニューに載ってないハムサンドですか?」

 どうやら現時点では安室特製のハムサンドは店頭では日の目を見ていないらしい。菫は喜々としてそれを受け取る。

「わぁ! 嬉しい! お言葉に甘えて頂きますね!」
「はい、どうぞ召し上がれ。ミルクティーはあとで出しますね?」
「ねぇ、安室さん。菫お姉さんの、また突拍子のない物……って何の事?」

 コナンもナポリタンに手をつけながら、先の安室の発言を繰り返す。零は肩をすくめ、説明した。もはや自身も追及を断念した菫の技能について。

「彼女、手品が得意なんだよ。と言っても、何もない所から物を出し入れしたりするのが専門で、他のマジックは一切出来ないけどね」
「へぇ、菫お姉さん、マジック出来るんだ?」
「ん? あ、うん。透さんが言う通り、物を出したり仕舞ったりするだけね? でも私の出来る手品はそれだけに特化してるから、ある意味一芸に秀でてるかなって、自信はあるんだー」

 そう言いながらも菫の関心は手元のハムサンドから離れておらず、その返答はどこか上の空だ。またハムサンドを嬉しそうに頬張ると目を輝かせて、美味しいです、透さん! と菫は興奮したように声を上げる。

 コナンはそんな菫を意外そうに見つめる。出会ったばかりながらもコナンは菫の性格を大体のところは予測できていた。大言壮語は言いそうにない控えめな女性だと理解していた。つまり、自ら一芸に秀でていると宣言するからには、相応の実力があると考えても良いという事だ。

「本当にそんなに手品が得意なの? 菫お姉さんは……」
「コナン君、菫さんはその手品だけは本当に、常識外れな腕前だよ」

 苦笑いを浮かべ零はコナンに、最初は驚くかもしれないよ、と強調した。

「安室さんがそこまで言うの?」
「ああ。まぁ、すぐに慣れるよ。それに基本的に何でも出せるから、困った時は頼るといい。頼られると彼女、きっと喜ぶから」
「ふーん……」

 美味しい、美味しいと満面の笑みを浮かべている幼馴染を零は優しく見つめながら、菫の望みそうな事を口にする。それがコナンには、あまりにも愛おしげな表情に見えた。
 気になる事はまだあったが、これはあまり突き過ぎると野暮なやつなのかもしれない……とコナンも思う。今日はもういいか……と自制するため、わざとフォークに多めに巻き付けたそれをコナンは頬張り、質問が飛び出そうになる口を自ら塞ぐのだった。



そのうち違和感も疑問も放棄され、「菫さん、○○貸して!」とコナン少年に便利に使われるようになる(夢主は役に立って嬉しいので、さらにポケットの中身を充実させるのループ)。


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