The love that lasts the longest is the love
that is never returned.- W. Somerset Maugham -


ぐちゃぐちゃに掻き乱された感情を携えて、見慣れた道を歩く。何も持たず、何も付いていない裸の合鍵だけを握り締めて。

街灯がチカチカと点滅して夏の夜の羽虫がちらと反射する。ただ黙々といつもの道を辿りながら考える。俺はあいつをどうしたいんだ?心の中で自問するが答えは出ない。

初夏だというのに、ただ外を歩くだけでじっとり汗が滲む。夜も深くなり、もうすぐ日付が変わる頃だというのに、だ。それが苛立ちをさらに助長させて思わず舌打ちをする。目の前を歩いていた男女がびくりと驚き道を開ける。うぜぇな、てめえらに舌打ちしたんじゃねぇよ。勘違いすんな。心の中で毒づいて睨みつける。さらに怯えるそいつらに思わず絡みそうになるが、今はこんな奴らに構ってる場合じゃない。

遠目からマンションの一室を確認すると、部屋には電気がついていた。あぁ、まだ起きてやがるな。と、期待と絶望と二つの相容れない感覚が一瞬で押し寄せて引いていく。真っ直ぐマンションのエントランスへ向かい、合鍵を差し込む。オートロックが開く。エレベーターを呼んで階数ボタンを押す。監視カメラが俺を映していた。少しTシャツの背中に汗が滲んでいる。前髪を掻き上げるのと一緒に額の汗を拭った。

エレベーターを降りてすぐの部屋。
俺は一度ドアノブを握り施錠の有無を確認するが、やはり鍵は掛かっていた。一人暮らしの女だ。当たり前だと少しだけほっとして合鍵を差し込んで回す。ガチャンと廊下に音が響く。俺はそのままドアを乱暴に開けて家に入って内側から鍵とチェーンを掛ける。

部屋の奥でガタンと物音がして人影が揺らめき、「尾形さん?」聞き慣れた声が聞こえてくる。「来るなら連絡くれればよかったのに…」と、引戸を開けてキャミソールにショートパンツという無防備なパジャマ姿で彼女が顔を覗かせる。彼女は俺の顔を見るなり微かに不安そうな表情を一瞬浮かべて息を呑んだ。それほどまでに感情的な表情をしていただろうか?俺は。



「お前」



俺は言いながらサンダルを脱ぎ捨てて部屋に上がる。
彼女が少し後に引こうとしたのを阻むように腕を掴んで引き寄せる。



「尾形さん…?」
「昼間に男と会ってたろ」



彼女の目がハッと見開かれてすぐに視線が逸れる。
俺はそれが気に食わない。
遠回しにぐちぐち嬲ってやろうと思ったが、考えさせる時間を与えたくなかった。それは功を成したようで、彼女はうまく言い訳をすることができず「あれは、違うの」と苦し紛れの言葉を紡いでもう一度俺を見て「友達がどうしてもって言うから、仕方なく会ったの」と言う。俺は目を細めて彼女を見て笑う。



「そうか。それなら仕方がないか」



彼女が一瞬安堵の表情を浮かべて何か言おうと唇を開く。俺は掴んでいた彼女の腕を掴んで捻り上げて言葉を奪う。そのままベッドまで押しやって強引に組み敷く。



「女は目を見て嘘をつくって知ってるか?」
「そっ、んな、嘘じゃない」



彼女は再び慌てふためき俺から逃れようと身を捩った。
俺は力一杯に細いその手を握って押さえつける。女が暴れるくらいなんてことはない。外が暑かったせいで、こんな弱い冷房のついた部屋では身体は冷えなかった。額から滴る汗が彼女の顔へ落ち、彼女の頬を伝う。



「尾形さん、」
「そんなに怖がるな」



そっと彼女の首を掴む。
彼女は小さく悲鳴をあげて両手で俺の手首を掴んだ。「殺したいと思ったよ」と、見下ろしたまま言うと、瞳を潤ませて恐る恐る俺を見上げてくる。
彼女の首を片手で掴んだままキャミソールを捲り上げてブラジャーをずり上げる。白い肌といかにも柔らかそうな乳房が露出する。愛おしい。身体も声も全てが。これが他の誰かに触れられることを思うと、煮え激るような怒りが込み上げてくる。俺以外に何かを許すこいつに対してだ。相手の男なんかどうだっていい。彼女が肌を覆うように手を下ろそうとするので少し強く首を絞める。指の腹にドクドクと脈が伝わってくる。



「…ッ、かはっ、」
「苦しいか?」
「……っぐ、」
「おい。まだ落ちるなよ」



少しだけ力を緩めてやると、彼女はひゅっと息を吸って咳込む。俺はいつでも力を加えられるように首の根元を押さえたまま彼女の乳首に舌を這わせる。びくんと身体が震えて小さく喘ぐ。昼間に会った男とはヤったのか?それとも本当に飯だけ食って、健全な「デート」を楽しんだのか?どちらにしても不愉快だな。乳首を噛んでギリギリ歯を立ててやると痛いと鳴いた。無視してショートパンツと一緒に下着を剥ぎ取ってやる。首を絞められながら乳首を噛まれて下半身まで丸出しにされて、彼女は何をどうすればいいのか分からないというように両手を慌ただしくばたつかせ、何かを阻もうと必死になっていた。片手で首を絞める俺の手首を触って、もう片方の手で下半身を覆うように手を伸ばして隠そうとする。俺はその手を払って一度も触れていない彼女のそこに指を突っ込む。「痛い!」と半分悲鳴のように叫ぶので、俺は彼女の唇をキスで塞ぐ。「んぐ、」とくぐもった声を漏らしながら俺の指を抜こうと腰をよじる。俺は彼女の唇を舐める。それから閉じられた唇を無理やり割って口腔内へ舌を差し込む。ねっとりと唾液が滲む。微かに甘い。
彼女の舌を吸ったり噛んだりしながら、秘部に差し込んだ指を何度も抜き差しするうちにくちゅくちゅと音が立つほど濡れてくる。少しだけ気分が良くなって、首筋を押さえていた手を外して顎を掴む。柔らかい頬。細い顎。彼女の身体が小さく震えて膣がぎゅうと締まる。



「おい、誰がイっていいって言った?」
「ぁ、はぅ、っ、…はぁ、あ、ごめん、なさ」
「……俺は今機嫌が悪いんだよ」



彼女が小刻みに体を震わせて息を荒げているのには構わずもう一度指を差し込んでこれ以上届かない奥まで突き上げる。突起のような何かが指先に当たる。それをぐりぐり指で触ると彼女は痛がって泣く。ぬるいセックスばかりしていたから全然慣らされていない。俺は彼女を見下ろしながら執拗にそれを触る。彼女はまだ痛がって身を捩っていたが、「そのうち良くなるから」と耳元で囁いて耳朶を舌で舐めてやると恍惚とした溜息が漏れてくる。身体と頭と痛みと快楽の神経回路がバグっているのか、迷走しているのか。反応が一つに定まらない。俺はそれを見て北叟笑みながら、絶対に手放してやるものかと澱んだ感情が溢れ出してくるのを感じていた。



「誰にも渡さねぇ」
「…ぉ、がたさん…?」
「…….殺してやる」
「…っぁ、ん、それ、…っ、」



どういう意味…?と、彼女が掠れた声で聞く。
お前が俺以外の男のものになるなら、俺がお前を殺してやるってことだよ。言う代わりに笑う。彼女は俺の感情が読めずに少しだけ困惑したような顔をする。分からなくていい。逃げられなくて済む。


俺は彼女の中から指を抜いてベルトを外す。
彼女はすでにぐったりして力の抜けた身体を横たえてただ俺を見ていた。彼女の手を取ってがちがちに熱り勃つ陰茎を握らせると、ぼんやりした表情のまま、彼女の手が俺の陰茎を撫でて上下に擦る。殆ど反射的にその行為に及ぶ彼女を見てぞくぞくと内側から粟立っていく。



「どうしてほしいか言えよ」
「ん…っ、ぅ、、」
「やましくて言えねぇのか?」
「ぁう、ちが….お、尾形さん、」



ほしい、と小さくつぶやく。何がほしいって?と彼女の頬を軽く叩く。彼女は俺の陰茎を握ったままぐいと自分の身体に近づけようとする。よく育ったもんだなと嘲笑が漏れる。



「腰、動いてるぞ」



物欲しそうに蠢く彼女の腰を撫でると甘い吐息がこぼれる。「尾形さんの、いれて」まだ恥ずかしそうに耳まで赤くして、下品な言葉が言えないその唇を塞ぐ。口付けをしたまま彼女の秘部に亀頭を当てる。ぬるりとした粘性の液体で潤っていてもまだ狭い。膣口に先を押し込むと、ぐにゅりと形を歪ませて苦しそうに俺を呑み込む。腰を埋めるとぎちぎちと中を割いて沈んでゆくようだった。膣壁がぎゅうと絡みついて全身に鳥肌が立つ。



「ぁ、ぐ、尾形さん、っ、すき…」
「…好きなのに他の男とも会うのかよ」
「だからっ、あれはちが、」
「言い訳すんなよ事実は事実だろ」



再び憎悪の感情が湧き上がって少しも優しくしてやれなくなる。腰を掴んで奥まで叩きつけるように突くと、ひっ!と悲鳴をあげて彼女の身体が跳ねる。奥はまだ痛いのだろうが関係なかった。痛いなら痛みが快感になるまで何度でも犯してやる。彼女の身体を抱いて一番奥に刺さるように体位をかえる。背中を支えて起こしてキスをすると応えるように彼女の腕が俺の首に回る。貪るように口付けをして、舌を絡める。溢れるお互いの唾液を啜り飲み込む。彼女がもっととねだるように俺の顔を見上げる。その顔。その表情が、いつだって感情を掻き乱す。愛らしく、いとおしく、誰にも触れさせたくないと、自分らしからぬ嫉妬の情がわくのだ。そんな俺自身にも嫌気がさしてもっと複雑に禍々しい感情の渦が全てを呑み込んでいく。彼女を抱きしめて髪を撫でながらごちゅごちゅ奥を突くとびくりと腹が痙攣して彼女の背中に汗が滲む。少し慣れたか?そっと耳朶を噛んで髪を指で梳くと、彼女はぎゅうと抱きついてくる。俺の耳元で何度も「すき」と言った。


「あっ、ぁう、わたし、…」
「…ん?」
「尾形さんのものに…なりたい…」



蕩けた瞳で彼女が言う。俺はその言葉にやや満足度して、もう一度口付けをする。彼女はそれに必死で応え、俺の動きに合わせて自分で腰を振る。絡みつく体温にお互いの汗が混じって身体がくっついては弾ける。ぐちゃぐちゃと卑猥な音が部屋の中に充満して聴覚が痺れてくる。頬を伝って落ちる汗が彼女の胸へ垂れる。


「俺以外いらねぇって言え」


彼女は何度も頷いて、「尾形さんしかいらない」と素直に言う。息も絶え絶えのくせに狂ったようにキスをねだって舌を絡めてくる。やっぱり、他の誰かに触れさせるのは癪だ。
俺は彼女の首筋に吸い付いて強めに痕を残す。


「あっ、だめ、見えちゃう、とこ…」
「見えなきゃ意味ねぇだろ」
「…っでも、」
「首一周痕つけて首輪にしてやろうか?」


ひぐ、っと彼女が変な声を漏らして泣きそうな顔をしたので、「冗談だよ」といって笑ってやる。キスマークの首輪も悪くはねぇが、そんなものより。俺がずっと側に居てお前の心臓を握っていてやる。






(2022.07.02/愛憎を綯交ぜにして)
"もっとも永く続く愛は、報われぬ愛である"
るまんどさんへ捧げます。


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