ギシ、と床が軋む音がして、浅い眠りから不意に引き戻される。あれ、鍵…かけなかったっけ、…急にゾッと恐怖心が湧き上がって振り向くことができないでいると、背中側から布団の中に何かが入ってきて、私は思わず寝たふりをする。
心臓はドキドキ音を立てて、呼吸も乱れそうになるのを必死で堪えて静かにするのに集中する。ふわりと覚えのある香りがする。



(えっ…尾形さん……?)
(なんで?なにしに?…)



私は目を閉じたままおそらく尾形さんであろうその人の気配を背中に感じながらまだ呼吸を一生懸命整えていた。
横向きで寝転ぶ私の身体の側面に、ゆっくりと手が触れる。その手は身体の線をなぞるように胸の横から腰をゆっくりゆっくり撫でていく。嫌な予感がする、と言ったら自意識過剰なのかもしれないけれど、寝たふりは失敗だったかもしれないと、焦り始める。今起きたふりをして振り向いてしまった方がいいのは分かっているのだけど、逡巡しているうちに彼の手がするりと身体の前の方へ回る。お腹から今度は上へ滑らすように撫で、服の上から胸を掴む。あぁ…どうしよう、今ならまだ、後戻りできる、かもしれない、…けど、このまま気づかないふりをして、やり過ごした方が気まずくないかもしれない、と、やはり私は迷ってしまって目覚める機会を逃す。


尾形さんの手が服を捲り上げて素肌に触れる。背中に彼の身体がぴたりとくっついてくる。唾を飲み込むのを我慢して、喉の奥が気持ち悪いのを堪えながら目を固く閉じて早く終われ、と願っていると、彼の指が急に乳首を直にギュッと摘んで反射的に身体がビクンと跳ねる。尾形さんが耳元で微かに笑うのが聞こえる。
彼はそのまま指先で乳首を摘んで潰したり転がしたりしながら唇で首筋に触れる。理性とは裏腹に下腹部が疼いてくる。
だんだん気持ち良くなって、吐息が漏れる。喉の奥に唾液が引っかかって限界だった。寝たふりだって、バレてしまう、と分かっていながらごくりと唾を飲み込んで、悪あがきに大きく息を吸って誤魔化そうとする。

尾形さんは何も言わずにそのまま下腹部へ手を伸ばして下着の中に焦らすことなく指を差し込む。私はギュッと身体に力を入れて少しだけ抵抗を試みるも、すでにとろとろになっているそこは彼の指をすんなり受け入れる。耳元で尾形さんが「眠っていても濡れるのか?」と意地悪気に囁く。くちゅ、と卑猥な水音を立てて彼の指が抜き挿しされてなんだか変な具合になる。尾形さんは私の身体を引っ張って仰向けにさせる。静かな部屋の中に布団が擦れる音だけひびく。それがひどくいやらしく思えて私はまた喉の奥が気持ち悪く引っかかって唾液を飲み込んだ。尾形さんは私の足に自分の足を絡めて開かせ、もう一度指を膣の中へ押し込む。反射的に腰がビクつく。お腹の方を指の腹でぐにぐにと押したり擦ったりされて感情とか理性とか関係なく愛液がぶわっと溢れてくるのを感じて思わず唇を噛んで感じないようにと耐えるけれど、限界が近いことも、分かっていて、私は彼の手を止めようとギュッと握る。尾形さんの手は一瞬止まったけれど、くくっ、と微かな笑い声が聞こえて、一層激しくなかを掻き回される。



「……ッ、」
「…我慢するなよ」
「……、ん、…っ、」
「息吸わねえと苦しくなるぞ」



尾形さんは耳元で小さく囁く。私が寝たふりだって、きっと気づいていて、意地悪をしていたんだ。彼の指がぐりぐりと変なところをしつこく押してくるのがわけがわからなくなるほど気持ち良くて頭の中がはじけてしまう。意識とは無関係に股の間から温い液体が溢れるように漏れ出て彼の指と布団を濡らす。



「ん、っ、や…」
「まだ出るだろ」
「っ、は、…あっ、あ、ゃ…!」



彼の指の刺激が強くなって一層激しく抜き挿しされるとまた下腹部から鳩尾まで痺れるような快感が走ってなまぬるい液体がびゅっ、と飛び散る。息がうまくできなくて、陸に打ち上げられた魚みたいに酸素を求めてくちをぱくぱくさせてしまう。身体もびくびく痙攣して、もう寝たふりがどうこうではなくなっていた。

薄く目を開けて尾形さんの顔を見上げると、彼は私を見下ろして微かに口元を歪めて笑っていた。私の膣からじゅるりと指を抜き、濡れた指先で私の頬を撫で、そのまま顎を掴んで無理矢理唇を重ねる。彼の舌が唇を割って滑り込んできてわたしの舌を絡めとるように舐める。唾液が口の端から垂れる。尾形さんはキスをしたまま私の上に跨って、片手でズボンの前を緩めて自身を取り出して私の秘部にあてがう。私は微かに抵抗しようと彼の身体を押し返そうとするけれどそんなのびくともしなくて慣らすこともなく一気に貫かれる。唇を塞がれていて漏れ出た声もくぐもって変な音になる。そのままぐちゅぐちゅと卑猥な音が部屋の中に響いて、彼が激しく腰を打ち付けるたびに宿の古いベッドがギギッと軋む。
尾形さんは私の唇を塞いだまま、片手で私の両手首を押さえて動かないように押さえつける。息苦しいのと強く掴まれた手首が痛いのと、下腹部の強烈な快感とで脳みそが混乱して目が回りそうになる。口の端からだらだら涎がこぼれ落ちて首まで垂れて気持ちが悪かった。

ようやく尾形さんは唇を離して私を見下ろす。両手を動かせないように掴んだまま、ぐりぐりと奥を突くように腰を埋める。私がギュッと目を閉じると尾形さんは、俺を見ろ、と空いた片手で頬を叩いた。私は目を開けて彼をみて、それでも強まる快感に耐えきれずまた目を閉じて、また叱られて、何度も繰り返してるうちに焦点があわなくなる。尾形さんは「ちゃんと見ろ」とまた頬を叩いて顎を掴む。私は喘ぎながら一生懸命彼の顔に目線をあわせようとする。彼は目を細めて私を見下ろしていた。ぐちゅぐちゅと粘っこい音を立てて触れ合う陰部と抜き挿しされるたびに抉るようにごりごりと膣壁をこする尾形さんのものに快感の波が昇り詰めていく。



「、あっ、あ、っはぁ、ぅ…いく、っ」
「っはは、いい眺めだぜ」
「あ、あっ、…やだっ、ぃッ、」


びくん、と身体が跳ねて私が絶頂に達するのをみて、彼の手がようやく手首を解放する。代わりに私の腰を両手で掴んで引き寄せ、彼はさらに激しく腰を打ち付ける。いったばかりで過敏になっている私の身体はそれが快感なのかどうなのかも解らないほどで、強すぎる刺激に身体が震えて悲鳴が漏れる。尾形さんは「そんな大きい声出したらみんなに聞こえちまうぞ」と笑いながら言って、ベッドの脇机の上に畳んで置いてあったハンカチを手に取りそのまま私の口の中へ押し込んだ。彼の動きが一層激しくなり私はまたビクビク身体を跳ねさせてイッてしまう。口の中の唾液と悲鳴はハンカチに吸われて部屋の中でしずむ。尾形さんは私の腰を抱えて自分本位に何度も打ち付け、中で徐々に硬さを増していくそれが私の内臓を抉っていく。



「はぁ、んう、っぁん、っ、……!」
「中と外とどっちがいい?」
「…っ?!ん、っ、ぅ…んんっ」
「あぁ、…咥えてるから喋れないのか」


尾形さんは私の頬をすっと撫でて口元を歪めて笑った。
私は喘ぎながら口の中のハンカチを噛み締めて半泣きのまままた絶頂する。それといっしょに尾形さんが奥までぐいと突き上げてそのまま果てる。彼のものがずるりと抜かれると、中からごぽっと音を立てて精液が溢れでる。
頭がぐらぐらして、下腹部はまだ熱を持って痺れていて、私はそのまま意識を手放す。



(2022.05.07/慰楽の帷)


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