私が彼の家に着いたときには、既に彼はビールを片手にソファーで踏ん反り返っていた。観てもいないテレビが賑やかに音を鳴らしている。
「遅かったな」
「1人で飲んでたんですか?待っててくれたらよかったのに」
私は荷物を部屋の隅にどすんと下ろして、真っ先に冷蔵庫からビールを取り出す。うきうきしながら尾形さんの隣に腰掛けて、プルタブに指を引っ掛けて缶ビールを開けた。
あぁ、いい匂い。最高だ。
私は尾形さんが片手に持っているビールの缶に勝手に自分の缶をぶつけて「乾杯!」と1人で言ってから口をつける。
ビール、最初の一口何でこんなに美味しいんだろう。
仕事で疲れ果てた身体が歓喜の涙を流している(たぶん)
「尾形さんそれ何本目?」
「ばか、まだそんなに飲んでねぇよ」
「あ、もしかして少し気を遣ってくれてました?」
私が冷やかすと尾形さんは露骨に顔をしかめて私を見た。
私は机の上に置いてあったチーズを一欠片ちぎって尾形さんの口の前に持っていく。
「あーんしてください」
「んだよ、お前もう酔ってんのか?」
「まだ酔ってません」
彼は言いながら口を開ける。意外と素直に応じるところがなんともかわいくて、私は好きだ。
私は尾形さんの腕にぎゅうとひっついて、二口目のビールを飲む。尾形さんはチーズを摘んできて、私の口元にぴたっとくっつける。やだ、なにそれ、と笑って口を開けると、彼は私には与えずに自分の口へ放り込む。
「あーんしてもらえるとでも思ったか?」
「意地悪」
尾形さんは、はっ、と笑って持っていた缶ビールを飲み干す。そして私にもう一本持ってこいと顎で指図するので、私はぶりぶり文句を言いながら冷蔵庫へ向かう。
このどうでもいい時間が、何よりも愛おしい。
今日も明日も明後日も、ずっとこんな時間が続いていけばきっと幸せだ。
(2022.04.28/二度と離すものか)
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