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「あ、尾形さん。おかえりなさい」


彼女は屈託なく笑って俺の方へ駆け寄る。夜中過ぎだというのに、こいつは寝ずに俺を待っていたのか。


「皆はどうした」
「もうとっくにお休みですよ。尾形さん外套預かります」


彼女は両腕を俺の前に突き出す。俺は外套を脱いで彼女へ渡す。何がそんなに楽しいのか、終始にこにこと笑顔を浮かべて彼女は何かを喋り続ける。俺はその音を聞きながら、彼女の後ろをついて宿の廊下を歩く。「こちらが尾形さんのお部屋です。鍵を預かっていますので、今開けますね」彼女は俺の前に立って部屋の鍵を開け、扉を開く。真っ暗な四角い簡素な部屋だった。ベッドが一つ、背の低い机と、小さな腰掛けがひとつ。
彼女は俺の外套を掛けるためにか、俺より先に部屋の中へ入っていく。無防備な背中。彼女が灯りをつける前に、部屋の扉を閉める。バタン、と乾いた音がして、廊下の光が遮られ、部屋の中がふっと暗くなる。彼女は「きゃ、何も見えない」と言って、何かを探しているようだった。
俺は部屋の鍵を閉める。ガチャ、と音がしたのに、彼女はふと動きを止めて振り返る。「尾形さん…?」俺は何も言わずに入り口の扉に銃を立て掛けて置き、彼女の方へ近づく。
カーテンの隙間から微かに漏れる月明かりで少し目が慣れる。彼女は俺の外套を胸の前で抱きかかえて、後ずさる。
俺はその外套を取り上げ床へ放り投げた。彼女の瞳が怯えたように揺れる。「あの、尾形さん…」

彼女の腕を乱暴に掴んでベッドの上に組み敷いて着物の衿を引っ張って開く。月の明かりに白い肌がぼうっと浮かんで光を放つようだった。彼女は突然のことに声も出ないのか口をぱくぱくさせて震えはじめる。到底抵抗もできそうになかったが、念の為に彼女の両手首を掴んでねじ伏せ、帯を雑に解いて着物をはだけさせると、か細い声で「尾形さん」と俺の名前を呼ぶ。なんだよ。うるせぇな。心の中で呟いて彼女の着物を取り去って床へ放る。細くて白い小さな裸体が俺の下で縮こまろうとするのを阻むように腕を引っ張ると、痛い、痛い、と小さい声で鳴いた。涙でいっぱいになった瞳が月明かりを受けて光る。
彼女の顎を掴んで無理やり口付けしても噛みつきもせず彼女はただ荒い呼吸をしながら泣いていた。嗚咽は漏れていたが、叫びもしなかった。なんて弱くて情けない生き物か、と、俺は目を細めて女を見る。抵抗の一つもできない、非力な生き物。


「どうして」


彼女は絞り出すようにそう言った。
どうして?お前が嫌いだからだよ。俺は心の中で呟いて、さっき取り払った彼女の腰紐を掴んで折り畳み長さを調節して彼女の両手を頭の上で縛った。彼女はやはり抵抗できなかった。訳が分からないまま震えて泣いているだけなのも余計に腹が立つ。俺は軍袴の前を緩めて触れてもない彼女の秘部へ完全には勃起していない自分のものをあてがう。彼女はやっと「やめてください」と消え入りそうな声で言う。怯えきって頼りない声音が狭い部屋にぽつんと落ちて溶ける。俺は無視して濡れてないそこに無理やりねじ込むと、彼女は大きく息を吸って、それが喉の奥で悲鳴になる。全く濡れてなくて入りきらないのを少しずつ奥へ突くように無理やり前後に動かすと、彼女は顔を歪めて痛い、痛い、と独り言のように言い、脚を閉じようとする。それを両手で押し開いて彼女の腰を引き寄せる。これ以上入らないところまで押しつけてから引き抜き、また奥まで挿れる。いつまで経っても濡れないそこから血が滴って少し水っぽくなる。鉄のようなにおいと粘っこいものが纏わりつく。

この女の、勝手に人の心にずかずか入り込んでくるような、無遠慮なところが嫌いだ。俺に手を伸ばし、掴んで、地獄へ引きずって行こうとする。こいつらの投げかける答えを持たない問いが俺を蝕んで殺していくことを知らない。俺を憐れむな。純真などただの幻想だ。夢だ。幻だ。そんなものありはしない。人間の行動にも結果にも理由があり、利害があり、合理的であるはずだ。お前らの、その非合理な行動は道理にかなわない。人間として矛盾している。それが余計に俺を苛立たせる。


「尾形さん、やめて…」
「黙れ」
「こわい…おねがい…」


微かに身体を捩るが、猫でももっと強い力で逃げようとするだろうと思う程弱々しく何の意味もなかった。俺は言う「嫌なら抵抗すればいい」「俺から軍刀を奪うか、大声で叫んで助けをよぶか、好きにすればいいだろ」彼女は、あぁ、と小さく声とも息ともつかない音を漏らしてただ泣いた。俺は腰にぶら下がる軍刀を抜いて彼女に見せる「解いてやろうか?これで俺を刺すか?」彼女はますます怯えてただ俺を見つめるばかりで埒が開かない。俺は彼女の腕の拘束を解いて、軍刀の柄を握らせるが、彼女の手は震えて上手に握っていることすらできず、刀の重さですぐに掌から溢れて落ちる。




愛情のない親が交わって出来る子供は
何かが欠けた人間に育つのですかね?



彼女がようやく堰を切ったように泣き叫ぼうと息を吸うその口を押さえて乳房に吸い付く。身体がビクンと大きく跳ねて逃げようともがく。俺は体重をかけて彼女の身体が動かないように押さえつけて何度も腰を打ち付ける。くぐもった彼女の叫び声が、部屋の中に血の匂いと共に充満する。自分の身を自分で守ることすらできない、弱くて愚かしいそれは誰かに護られなければ機能を果たせない。自力で立つことさえできない。俺のような受け皿がなければ成立しない。俺たちを殺したその上で言うのだ。さも自らが救いの手を差し伸べるように「あなたたちはそんな人間ではない」と。
そんな人間にしたのは、誰だ?



なぁ、試してみるか?
そして、俺にその答えを
教えてくれ。



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(2022.04.19/香雪蘭)
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