尾形さんの寝顔はかわいい。
起きている時は何を考えているか分からないし、どこか冷たくて人間味を感じない人なのだけど、眠っている顔はかわいかった。なんだか無垢で、優しい顔に見える。目も、口も瞑って、頬にかすかに睫毛の影が落ちて、造りもののようで。
私はそっと静かに手を伸ばして、尾形さんの頬に触れてみる。柔らかくて温かい。いかついおとこのひとでもほっぺは柔らかいんだなぁって(当たり前のことを)大発見したかのように感心し、しばらく眺めていた。尾形さんの頬をつつくように触りながら、やっぱりかわいい、と思う。少し色白で、肌理が細かい。きっと元々もち肌なんだろうなぁ。…ふにっ、と尾形さんの頬をつい摘んでしまったところで彼の目がバチっと開く。私は超ビックリしてパッと手を離す。
「なんだよさっきから」
「ご、ごめんなさい」
あまりに可愛くてつい触ってしまって、などとは口が裂けても言えず、「ほっぺに蚊が」と意味不明な苦しい言い逃れをすると、尾形さんはまだ蚊は早いだろ、と冷静に言う。
彼は横になったまま私の方へ手を伸ばす。
私はなんだか急にドキドキして、息を呑む。
尾形さんの手が、私の頬に触れる。
彼は、人差し指と親指で、私の頬をギュッと抓った。
「えっ!痛いッ!」
尾形さんの手を掴んで退けようとしたけれど彼は離さない。
「何するんですか!ひどい!」
「仕返し」
無表情でそう言って、手を離す。
私は生理的に滲んだ涙で視界を霞めながら抓られた頬をさする。ふっ、と尾形さんが鼻で笑って、私の顔を見る。
その視線がいやに男前なので私はまたドキドキして、目を逸らす。
「尾形さんのいじわる」
毒吐いてやると、彼は「そうかよ」と言って私の腕を掴んで引っ張った。私はよろけて尾形さんの身体の上に倒れる。それをぎゅうっと抱きかかえて尾形さんはまた目を閉じる。心臓がどきどきして、心音が尾形さんに聞こえてしまうんじゃないかと思うとなんだか急に恥ずかしくて彼の胸に顔を埋める。
「…ばか」
嫌なら離すぞ。と尾形さんの声が降ってくる。
私は観念して尾形さんの身体にしがみついて目を瞑る。尾形さんのあまい匂いと体温に包まれて微睡む。ふにふにして、温い時間。
(2022.04.18/まどろみ)
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