尾形さんが前髪を後ろへ撫で付けるように髪を掻き上げると、ふわ、と彼の匂いが一瞬香る。男の人の匂いなのに、どこか懐かしくて品があって、どこか仄暗い。

その香りによろよろと惹かれて、私は尾形さんの背中にドンッと頭突きをするようにぶつかる。そのまま尾形さんのお腹に腕を回してぎゅうと抱きつくと、彼は振り返らずに「なんだよ」と低い声で言った。私は額を彼の背中にくっつけて、外套の上から匂いを嗅ぐけれど、外套は、どちらかというと、自然のような草木の匂いがした。


「甘えたいです」


私は素直に言ってみる。尾形さんは、ちらりと顔だけで振り返って、私の手を掴んで引き剥がそうとする。彼が動くと、やっぱり柔らかくて甘い尾形さんの匂いがする。


「おい、離せ」
「だめですか?」
「分かったから離せ」


尾形さんは面倒臭そうにため息を溢して私を見る。彼を見上げながら渋々手を離して横に並んで歩こうとすると、尾形さんは立ち止まって、少し休むか?と聞いた。私がその意味を把握しかねて少しどきどきしながら呆気に取られていると、尾形さんは道を逸れて近くにあった木の幹を背ゆっくり腰をおろした。


「来いよ」
「えっ…」



私は色々と想像を膨らませて自分で顔が赤く火照るのを感じて手の甲で口元を押さえて尾形さんの方をみると、彼は意地悪そうに笑っていた。



「お前…何を想像してんだ?」
「いや…その、」



胡座をかいて手招きをする彼のそばで膝をつくと、腕を引っ張られてそのまま抱き抱えられる。尾形さんは真っ赤になる私を見下ろして確信犯らしい笑みを浮かべたまま、私の身体をくるりと回す。私は尾形さんの体に背中をぴたりとくっつける形になる。後ろから尾形さんが私に外套を被せたところで、同時に、ふわ、と、大好きな匂いに包まれる。
尾形さんは私を外套の中にしまって、後ろから身体を抱くと、私の耳を軽く噛みながら「昼間っからいやらしいやつだな」と煽る。
私は、ただ、ぎゅってしてほしかっただけですもん、と反論したけれど、少し声が震えてしまう。


ずるい香りなんだもの、尾形さん。
男の人らしく清涼感があるくせに、どこか煽情的で、甘くて、しっとりと、やわらかい。とても、一言ではあらわすことができない。うっとりしてしまうのを隠すこともなく、私は尾形さんに縋る。体温が暖かくて、いい匂いで、目を閉じると蕩けて落ちてしまいそうになる。



(2022.04.28/シプレ)
いい香りの、いい男。

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