「窮鳥懐に入れば猟師も殺さず、って言うだろ」


尾形上等兵はそう言いながらゆっくり歩いてくる。
私は後ろ手に手錠を掛けられ両足首を椅子の脚に固定されていて、ほとんど身動きが取れずにいた。窓のない部屋には、拘束具のついたこの椅子と鉄の扉しか無い。壁は分厚いコンクリートで外の音も聞こえなければ中の音も漏れることは無かった。狭い部屋の中に尾形上等兵の足音が反響していた。


尾形上等兵は何も持っていないことをわざわざ私に見せるように両手を上げて手のひらを見せ、「お前を殺せとは言われていない」と言った。「謀反を企てているのが誰か名前を上げればお前のことだけは傷一つ付けずに見逃してやれと、鶴見中尉殿が仰られた。お前は知ってることを話せばいい。簡単なことだろう?」私は黙っていた。
尾形上等兵の腰には軍刀が吊ってあって、何の説得力もなかった。それで私の頸動脈を掻き切ることも心臓を一突きにすることも簡単なことだ。それに、あの鶴見中尉が傷一つ付けずに逃すわけがない。解放したところで後ろ頭をズドンと撃ち抜かれておしまいだ。白状してもしなくても、同じことだ、きっと。私が謀反を企てている側ではないと判断される以外に逃げ道はきっと無い。私は「存じません、誤解です」と、答える。

尾形上等兵はやんわりと笑って「そうか」と言った。それから私の目の前に立って顎を掴む。無表情の真っ暗い尾形上等兵の両目が私を貫く。


「嘘は良くないぞ。お前がここに拘束されているということは、お前は謀反の疑いを既にかけられているということだ。知らないはずはない。火のないところに煙は立たないし、お前がこうしているのには理由があるんだ」


確かにどうして、私は何もまだしていないのに、ここに閉じ込められているんだっけ。そうか、誰かが私を売ったんだ。同志の中に裏切り者が居る。もしかしたら鶴見中尉側の人間も混ざっているのかも知れない。



「ですが尾形上等兵殿、私は本当に何も…」
「俺は最初に言ったよな?お前を殺すつもりはない、と」



尾形上等兵が私の前に膝を突いて、そっと足の爪を指で触る。徐に軍刀を抜く。独特の金属音が部屋の中で微かに反響して、冷たい刃先が足先に触れる。



「傷は付けるなと、鶴見中尉殿に念を押されている」



足の爪と皮膚の隙間に、刀先があてがわれる。私は息を止めてお腹に力を入れて歯を食いしばる。



「どういうことか分かるか?」



尾形上等兵は残念だ、と言う風な表情を浮かべた。すぐに足先から刃を離し、再び軍刀を納めて言う。「こんな立派な尋問部屋があると言うのに」「俺なら情報を吐くまで足の爪を一枚ずつ剥がすか…あるいは一本ずつ切り落とすが…。鶴見中尉に救われたな」と尾形上等兵は立ち上がって嘲るような笑い方をした。
それからゆっくりスカートの上から私の足を撫でた。背中に冷たい汗が噴き出る。尾形上等兵の手が、シャツのボタンにかかる。上から順番に、ひとつずつ外されていく。両手を後ろで拘束されていて、何の抵抗もできない。力めば力むほどに鬱血して肩から指先まで少しずつ痺れていく。



「早く白状した方がいいんじゃないのか?」



私は固まって動けない。身じろぎをすると椅子がギシッと微かに軋むだけでどうにもならなかった。シャツのボタンをへその上まで外したところで尾形上等兵の手が滑り込んできて、彼は、わざと直接的に触れることなく肋骨の上に手を添え、身体の側面を撫でる。



「俺だってこんな嫌われ役はやりたくない」



そう言いながら尾形上等兵はもう一度私と目線を合わせるように屈んで不自然に歪な笑みを浮かべる。私の体を下から舐めるように見上げ、口を軽く開けて笑っている尾形上等兵の唇の隙間から覗く彼の歯列が嫌に尖って見える。


「こんなの…許されるはずが…」
「許されるはずがない?それはお前達の方じゃないのか?謀反を企てておいて、何を寝ぼけたことを言っているんだ」


尾形上等兵は大真面目な顔で言い、腰を撫でていた手を上へ這わす。私は反射的にびくついて目を閉じて俯く。



「目を瞑るな。俺を見ろ」



尾形上等兵が私の顔を覗き込む。片手で胸を掴み、もう片方の手でまた私の顎を掴んで上を向かせた。立ち上がった尾形上等兵に今度は見下ろされ、私は無理やり彼を見上げる形になった。目を開けるとまっすぐに私を見る尾形上等兵の無感情な瞳がある。彼は無表情のまま私の身体を弄って、「早く言えよ」「取り返しがつかなくなるぞ」と脅す。
私は早鐘のように打ち始める心臓に呼吸が追いつかず息遣いが荒くなる。尾形上等兵はそれを見て「お前、男に触られるの初めてか?」と聞いた。私が何も答えられないでいると、彼は少しだけ下唇を舐めて「じゃぁ、効果覿面だな」と言った。彼の指がきゅっと乳首を摘んで引っ張っるのが痛くて私は目を閉じる。俺を見ろと言ってるだろ。と上から声が降ってきて、もっと強く乳首を抓られる。痛い、と悲鳴が漏れる。尾形上等兵は、じゃぁ早く言え。と無慈悲に返す。
それでも私が黙ったままでいるので、尾形上等兵は少しだけ苛ついたような顔をして、今度はスカートをたくし上げる。下着が丸見えになって居た堪れなくて私はまた息を呑む。



「うっ、!きゃ、ぁあ、やめ…、っ!」



尾形上等兵は濡れてもいなければ慣れてもいないそこに強引に指を捩じ込む。私はただ痛くて呻く。痛みに涙が滲んで微かに頬に落ちる。逃げようと腰を捩ると中に入れられた指が動いて余計に引っ掻かれてじわりと汗が滲んでくる。歯を食いしばって呻く私に尾形上等兵は、もう後には退けんぞ。と最後通牒を突きつける。「私は何も…知りません…」絞り出すように言う。「強情だな」と彼は言って、私の中から引き抜いた指を私の口に突っ込む。



「舐めろ。噛むなよ」



唾液がじわ、と反射的にでてくる。尾形上等兵は無表情のまま私の舌を指で捏ねくりまわして唾液を絡める。2本の指で舌を挟んで引っ張ったり奥に突っ込んだりするので、分泌され過ぎた唾液が私の口の端から糸を引いて漏れ、はだけた胸にまで垂れて気持ちが悪かった。涎でぬるぬるになった指を口から引き抜き、尾形上等兵はまた私の中へ挿入する。濡れた手のせいかさっきほどの苦しさはなかったけれど、やはりギチギチと音を立てそうなほどに、いっぱいいっぱいだった。



「はぁ、っ、は、ぁ…あ…」
「気持ち良くなったら意味ねぇんだよなぁ」



尾形上等兵はぶっきらぼうに言いながら指を抜き挿しする。
その動きに合わせて私の身体が揺れて椅子が軋む。彼の指が膣の中を掻き回して擦るのに、脚の裏がじんと熱くなる。これを気持ちがいいというのか分からなかったが、変な感覚であたまがぼやっとしてくる。太ももに力が入って身体が強張る。逃げようと腰をくねらせるも拘束されていて逃げられない。



「聞こえるか?」
「はっ、あ、何が…ですか、」
「お前のここ、濡れてきてるぞ」
「っ、……ぅ…」



じゅぷじゅぷと粘っこい嫌な音が私の呼吸と絡むように静かな部屋に充満する。はぁ、はぁ、と荒くなる息遣いと水音だけが聞こえる。尾形上等兵は少し目を細めて私の顔を見ているようだった。目を閉じるとまた酷くされるのではと、わたしは目を開けたまま痴態を晒す自分を見つめる尾形上等兵の首の辺りをじっと見ていた。眼球が渇いて涙が滲んでくる。瞬きすらできずにいた。



「言わないなら続けるぞ」



彼の親指がクリトリスに触れる。ビリッと全身に熱が走るような強い刺激に腰が反って息が詰まった。中を指で掻き回しながら親指の腹でくにくにと押したり弾いたりしながら、「こういうのが好きなのか?被虐嗜好でもあるのかお前」となじる。耐えられずわたしは喉の奥から嗚咽を漏らしながら目をギュッと閉じて下を向く。涙がパタパタと太ももに落ちる。下半身が異様に痺れて意思とは無関係に痙攣する。心臓がどくどくと脈打って息ができなくなる。尾形上等兵の指が抜かれるのと同時に全身の筋肉が弛緩していく。

尾形上等兵は「本当に強情なやつだな」と言って私の両足の拘束を解いて二の腕を掴んで立たせようとしたけれど、私は足が震えてうまく自力で立てなかった。尾形上等兵が強い力で引っ張って抱え両手の手錠はそのままに、私の体を壁に押し付けた。ぴたりと背中に体を押し付ける。後で手錠に繋がれている私の手のひらに自らの股間を当てがい熱く体温を持って硬くなったそれを私の手のひらに擦り付けて「残念だったな」と、言った。私は理解することができずにただこの状況に震えていた。尾形上等兵は軍袴の前を緩めて私の下着をずらして後ろからそのまま挿入した。腰を微かに持ち上げられつま先立ちになる。膝ががくがく震えてうまく立てないのに、両手も後ろで手錠をかけられ身体を支えるものがなかった。壁に頬と肩がぶつかって痛み、尾形上等兵が動く度に膝がかくんと折れて私の体重でより深く挿入されるのがもっと痛くて必死で足に力を入れてつま先で床を蹴る。言葉にならない呻き声が喉から漏れるだけで私は何も分からなくなる。耳鳴りがして音が千切れる。
尾形上等兵が私の身体を後ろから抱きかかえて何度も腰を打ちつけた。口から涎が垂れて床に落ちる。



「うっ、う、ッ、ぉ、おがた、じょ、とうへい、」
「んだよ…ッ」
「あぐ、も、…やめ、…っくださ…っ」
「じゃぁ全部吐けよ」
「本当に…知らな……っあぁ、!」



じゃあもう二度と裏切りません、許してくださいって鶴見中尉殿に泣きついてこいよ。尾形上等兵はそう言いながら強い力で尻を掴む。彼の短い爪が食い込んで皮膚が剥がれるのがわかる。尾形上等兵は耳元で「どうしたい?」と聞く。私は意味がわからず、えっ、と聞き返す。尾形上等兵は掃除するのめんどくせぇな、と独り言のような誘導尋問のような言い方をして、後ろから私を羽交締めのように両手で抱き抱えた。一層激しくなる動きに息も絶え絶えになり視界がチカチカ爆ける。



「はぁっ、あっ、あ、おがた…上等兵っ、」
「ははっ…悪くねぇなぁ、それ…」
「う、ぁ、あっ、…だめ、っ、だめです、待っ…」



尾形上等兵は私の身体を強く抱きしめてそのまま中で果てる。蛇が巻き付いて締め上げるように、尾形上等兵の腕が私を絞める。もう全部どうでもよかった。尾形上等兵の腕の力が緩んで解放されても私は足腰が立たずその場に崩れ落ちる。力が抜けるとごぽごぽと変な音がして腿の間をぬるい液体が溢れていく。私はうつ伏せに倒れたまま振り返って尾形上等兵を見上げる。尾形上等兵はもう身なりを整えて、また感情のない冷たい顔をして、力の抜けた私を見下ろしていた。




「お前のおかげで助かった」



尾形上等兵は、低い声でそう言って部屋を出て行った。
私はあぁ、そうか、と、私はぼんやりしたままの頭で理解する。私は尾形上等兵に試され、尾形上等兵は鶴見中尉に試されていたのだ、きっと。…



(2022.04.16/踏み絵)


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