Bitter Barentain Eve


バレンタインはクリスマスにつぐイベントだ
関連企業にとってバレンタイン商戦で勝てる事は極めて重要だ
金が大量に動くこのイベントは
年々加速している気がする
僕には興味のない話なんだが


いや、嘘だ
世間に毒された僕は
今まで考えた事もなかった思考に頭を悩ませた



第一あいつが喜ぶのか

僕の粗末なチョコレート等に
あいつは毎年他校の女子学生から山のように
チョコレートを貰っている
僕は多くて5個程度だが
あいつの場合桁が違う
一度前にあいつが1日に貰った
チョコレートの数を数えたことがあった
小学生の時だった
その時点であいつの袋には32個のチョコレートが入っていた
32個 およそ1クラス分だ
僕はそんなチョコレートを見たことがない
きっと今ならもっとその数は多いんだろう


印象的だったのは
あいつは貰う時は、相手を気遣ってか
優しそうな表情を浮かべ ありがとう と丁寧に礼をいう
だけどそういって秘密基地に帰った時にそのチョコレートを床にぶちまけた

そしてこう言った
「俺、チョコレート好きじゃないから、いらねー」
床にぶちまかれたチョコレートを僕は数えてみた

「そうは言わず食べてあげなよ」
穏便派の金田にあいつはこう返した
「金田、食べていいよ」


あいつは、タミヤは最低だ



そんな裏表人間タミヤと僕は一応付き合っている
一応というのが情けない所だ
そんな僕はきっと自分が思う以上にタミヤが好きなんだろう
だけど感情表現の苦手な僕はそれをうまく現せない

せめて、チョコレートを渡したら
言葉足らずの僕の気持ちを代弁してくれないだろうか
今更、口に出すのは…
僕は浅はかな自分の考えにため息をつく
あいつはチョコレートを欲しがっていない
寧ろ嫌いくらいの勢いだった
悶々とした考えに僕は秘密基地の壁に頭をガンガンぶつけたい衝動にかられた

「ゼラ、どうしたの?」
いつの間にか後ろにいたジャイボに声をかけられた
僕は調度額を壁にぶつけていた
「あぁ、ジャイボ」
優しいジャイボの声に僕は悶々とした気持ちをぶつけた


ジャイボは一番の友人だ
こんな僕が友人と呼べるのはこいつくらいかもしれない
小学生の時に蛍光町に引っ越してきて初めて出来た友達だ
いや、僕は転校続きで友達が居なかったから
生まれて初めての友達だ
勿論 僕とタミヤのことも知っていた


「よし、ゼラ」
ジャイボは僕の手を掴んで言った
「今からチョコレートを作るよ」
「えぇ?!」
渡すかどうかの段階でうじうじ考えていた僕は
びっくりしつつジャイボの顔をみた
「善は急げ!明日に間に合わなくなるよ」
そうバレンタインは明日だ

そこには少し悲しそうな笑顔のジャイボがいた
「ジャイボ」
ジャイボは僕を好きといった
好きなんて親以外の他人から言われたのは初めてだった
それはどういう意味か分からなくて僕は追求しなかった
でも、嬉しいと思った
ジャイボの気まぐれだったんだろうか
それ以来ジャイボは好きという言葉を口にしない
ジャイボが僕をどう思ってても
僕にジャイボは必要だった


タミヤは違うんだ
何かが違うんだ
僕はタミヤの事を考えると苦しくなる
幸せなような悲しいような苦しいような
そんな気持ちに占拠されて何も手につかなくなる
タミヤの傍若無人に振り回されている
だけど、そんな自分が嫌ではない
最近それが好きなんだと気付いた

同時にジャイボの好きも同じ好きだったのかとも考えたが
僕はジャイボを失いたくないから追求しない

自分勝手な僕に優しいジャイボに甘えて
僕はチョコレートを用意することにした


「でも、まさか作ることから始まるとは思ってなかった」
僕はまな板の上のチョコと格闘しながらいった
市販の物を買う気満々だった僕は
こんな重労働があるとは思ってなかった
ジャイボの「せっかくだから」ということで僕はスーパーで板チョコを買わされた
「タミヤはチョコレートが嫌いだ」
僕は板チョコ3枚を刻みながら
横にいるジャイボに言った
「へーそうなんだ、なんで知ってるの?」

「あいつ、小学生のときに女子に貰った32個の
チョコレートを床にぶちまけて要らないって」
「あーそんなことあったねー」
ジャイボは懐かしそうに頷いた
そうタミヤはチョコレートが嫌いなんだ
だから、僕は砂糖の少ないビターなものを選んだ
「一時期秘密基地にチョコがいっぱいあって僕食べてたよ」
いかにもジャイボらしい
タミヤが捨てたチョコを拾い食いしている

「きっと、タミヤはゼラの作ったチョコなら食べてくれる」
ジャイボは呟いて湯煎のチョコの中に
白い粉をぶちまけた

「これは、なんだ?」
「僕からのバレンタイン。身体には全く害はないよ。安心して」
「さては、お前」
ジャイボが考えそうなことを思いつき横目で見ると
ジャイボはフフっと怪しく笑った

「たまには泣き顔のタミヤも見てみたいじゃん」



「ありがとうジャイボ」
ジャイボの手伝いによって僕の手には
僕1人じゃ絶対に作れなかったチョコがあった


「どういたしまして」
「ジャイボ、お礼は…」
すっかり夜になってしまっていた
時計を見たら10時をとっくに過ぎていた
「お礼なんか要らないよ」
ジャイボは綺麗な顔で笑った
「それは、あまりに申し訳ない、深夜までお邪魔した上に台所まで借りたのに」

「いいって。親も仕事で帰ってこないし」



「あ!」
ジャイボが突然声をだした
「なんだ」
「お礼くれるの?」
ジャイボの視線が僕の視線を捕らえた
「あまり無茶なお礼は出来ないぞ、僕には財力がない」
「はいはい、じゃ、お礼貰うね」

そう言って
ジャイボは僕の唇を奪った


「?!」
薄いそれはタミヤとは全く違うかった
でも不思議と潔癖気味な僕でも気持ち悪さを感じなかった

鏡の中の自分に唇付けするような不思議な感覚になった
軽く何度か唇が触れた
「ジャイボ…」
呻くとリップ音を残して ジャイボの唇が離れた

「早く渡しておいで」


そういってジャイボは僕の肩を叩いた


「ありがとう、ジャイボ」



僕は手の中の小箱を大切に抱えて
帰り道を急いだ
バレンタインは明日だ

明日これをタミヤに渡そう
そして普段言えない気持ちが もし伝えれるなら
明日だけは素直に伝えてみたい

僕は大きく息をはいて
家路についた


2011/2/5/Web


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