ring


部屋に入った瞬間の眼前に広がる光景
クダリがぎこちない手でまち針を持ち、己の耳朶をつついているものだから
ノボリの心臓は確実に5年は寿命が縮むくらいの衝撃を受け、ひゅっと息を吐きそして絶叫した

「おやめくださいましっっ!!!」


ノボリのタックルまがいの制止をクダリは受けとめきれずにそのままぶっ飛んでいき
床にしこたま体をぶつけた

「っノボリ…ぐっ」
苦しそうに息をはくクダリにノボリは衝動を押さえれずに
クダリをおしたおしてしまったことに気付くも
コロコロと転がる銀色の針が視界に入り
瞼が熱くなりツンと鼻先が痛くなりノボリの眼から
ぱたぱたと涙が溢れて重力に逆らえずクダリの頬に次々と落下していった


「あれ…ノボリ…どうしたの?しんどいの痛いの?」
ふいに涙を流すノボリに押し倒された意味もよく解らないままにクダリは動揺し
クダリまで半泣き状態になる

「…酷いです」
涙を流し真っ赤な眼でノボリはクダリを睨みつけた

「わたくしの大切な大切なクダリに、」
少し赤くなった耳朶に触れてノボリはさらに涙を流した

クダリを傷つけていいのはわたくしだけです
いや、本当は傷つけたくはないのですが
でもこんな無機物にクダリを傷つけられること、わたくしは絶対に絶対に許しません
そんなに傷つけたいならいっそこの手でつけてさしあげましょうか
ざっと以上のことをいい聞かせなお赤い眼でこちらを見ている様子から
どうやらノボリを怒らせてしまったとクダリはオロオロ狼狽えた

でもノボリは何か勘違いしている
ノボリのために僕のためになんとか理由を説明しなければ

「あの、、ノボリ違うの、ごめん、ごめんね」
あぁ言葉足らずな自分が憎い


流石のノボリにも必死に説明しようとする
クダリの言葉は届いたようだ

先日エメットの耳に青くキラキラしたピアスを発見し
耳に穴があいているそれが気になり痛くないかどうか聞いてみた
インゴの耳にも赤くキラキラしたものがついていて
再び痛くないかどうか聞いてみた
エメットは痛い
インゴは痛くない
どっちが本当なんだろうかと
と、いうか穴があくってどんな感じ?

そこまで説明してようやくノボリは床に押し付けたままだったクダリを
ソファに座らせた。ノボリの腕は相変わらずクダリに巻き付いたまま

「で、どうだったんですか?」
「痛そうだった」
インゴの嘘つきと、膨らむクダリに
ノボリは舌打ちをした
あの野郎ただじゃすまさない…と

「でも、ごめんなさい」
ノボリ泣いちゃった僕のせいだごめんなさい
シュンと項垂れなクダリを抱き締めてノボリはいう

「わたくしも思わず心臓発作で死ぬかと思いました。胸が痛いでございます」

「ごめんなさい、でもお揃いが…」
「お揃い?」

クダリはまた説明を追加した
エメットが青
インゴが赤
左右対称に同じところにそれがあったと

「お揃いがいい」

ようやくクダリの真意が確認できてノボリは脱力した
2人のピアスに興味をもったこと
それが痛いかどうか気になったこと
2人がお揃いのが羨ましいこと

それが拙い説明からノボリが汲み取ったことだった


「わたくしたちもお揃いのものたくさんありますよ?」
たしかにそうだった。ノボリのいうように
お揃いは多かった。寧ろ生活用品の大抵のものはお揃いだった


でも違う
違うのと
何が違うか聞かれたら説明できないけど
そうじゃない




「解りましたお揃いがいいのですね」
「え?お揃いできるの?」
首をかしげるクダリを撫でながらノボリは珍しくにっこりと笑ってみせた

「耳に穴をあける方法以外で考えておきます」






「と、いうことがあったのですがね」
床につっぷしたインゴを蹴り飛ばしながらノボリは言った

「あぁ、そうデスカ」
やれやれと面白くなさそうに上半身を起こしたインゴの喉仏に
ノボリの愛刀の黒い鞘がぶつかった

「このまま喉をかっきってやりましょうか」
「おお、恐い」

少しからかってみればインゴの予想通り
ノボリは逆上し結果いつも通りの殴りあいになる

ノボリの口角から赤い血が垂れているのをみてインゴはニヤリと唇を歪める

ああゾクゾクする
怒りにまかせたノボリが最も魅惑的だと思う
あの弟にデレデレにのぼせるノボリなんて気持ち悪くて仕方ない

「貴方また何か考えてるでしょう」
喉にあった刀の切っ先はそのまま
頬をなぶるように撫であげる

「貴方のことですヨ」
そう答えるとノボリは苦虫を噛み潰したような顔で舌打ちをした



「で、なにをお揃いにするのですか?」
ようやくノボリの腹の虫が収まったのか
インゴの体は床から自由になり
コートの埃をはたきながら革のソファに腰をかけノボリに問いかける
反対に座ったノボリはぶすっとしたまま黒い小さな箱をインゴの眼前に差し出した

ヒュっとインゴの口笛が響いた瞬間
ノボリはもう一発インゴの頬を平手打ちするも全く気にならない

「本当可愛いらしいお2人です」
「お黙りなさい」

インゴがクツクツ笑いながら煙草をくわえ紫煙を吐き出す

「貴方たちも同じです」
「これですか?」
インゴの耳朶の軟骨部分にあるルビーを指差し言った

「目に見えるものが欲しいそうです」
「…そうでございますか」
「開けてくれと頼まれて、いざ開けようとすると泣き出して大変でしたヨ」
「ノロケなら結構ですよ」



「とにかくあの子に余計なことを吹き込まないでください」
ノボリ低く唸るような忠告もインゴの差し出した煙草で塞がれる

「いつ渡すのデスカ?」
「…本日」

「フフ…喜ぶと思います」


クダリにこの箱を渡すその瞬間を思えば
目の前のいけすかない黒と過ごす今など…

ノボリは肺いっぱいに煙を吸い込みインゴに向かって盛大に紫煙を吐き出した


応援しております
余計なお世話でございます




2012/ 11/5/Web

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