ありあまるしあわせ

※本編後、夢主2年生



放課後になって数学準備室にするりと入り込んだミズキは、どこか不機嫌そうにしていた。
それを不死川が「どうした」と尋ねると、彼女は机の上の紙袋を見た。紙袋の中には可愛らしい包みがいくつも入っている。
誕生日とあって、不死川は方々から祝いの言葉や贈り物を手渡されて一日過ごしたのだった。バレンタインデーのチョコレートは受け取らない宣言をしている彼だけれど、自分の誕生日に人がわざわざ用意してくれた贈り物を無碍には出来ない真面目な性格だった。

不死川はミズキの視線から不機嫌の理由を察すると、思わず相好を崩した。

「アー…悪ィな、気分は良くねェだろうが、受け取らねぇってのもよォ」
「先生が受け取るのはいいの」
「いいのかよ」

可愛い嫉妬をしてくれたと喜んだ不死川は若干凹んだ。

「私は堂々と渡せないから、いいなぁって思ったの」

ミズキは足元に視線を落として、ほんのり唇を尖らせた。
不死川は一度目を丸くしてから、突然つかつかとミズキに寄ると、驚いて顔を上げた彼女の横で戸に鍵を掛けた。
「先生、鍵」とミズキが呟くように言った。

「今日この後一緒に帰って自宅で祝ってくれんのはひとりだけと思ってたんだがなァ?」
「…うん、一緒にケーキ食べてね」
「食うよ、ありがとなァ」

廊下からは死角になる壁にミズキを押し付けて、不死川は彼女に柔らかいキスをした。
ようやくミズキの表情が解けるように緩んだのを確認して、不死川は内心で安堵した。

「つーかな、日付変わった途端に真っ先に祝ってくれたろォ、ベッドの中で」
「そういうの学校で言わないっ」
「前日夜からのソレで俺はもう満足してる」
「先生のえっち」
「今日でまたひとつオッサンになったもんでなァ。男が20歳超えたら後はもう祝う気も起こらねェ」

不死川は軽く肩を竦めて見せた。

「要らないなら先生の歳ひとつ私にちょうだい」
「うん?」
「そしたら私18歳になれるから」

隣に並ぶまで、1年にひとつのそれを手渡すことが出来たなら。
可愛らしい無理難題に不死川は笑って、ミズキをきゅぅっと抱き締めて大きな手で柔い髪を撫でた。

「歳は渡してやれねェが、待ってるからゆっくり大人になってくれなァ」
「…うん、待っててね、きっとよ」
「大人になったお前は綺麗だろうなァ。他の男に見せたくねェ」

ミズキの振袖姿を見たら自分は泣くだろうなと不死川は本気で思った。前世からの悲願と言っても過言ではない。振袖は何色がいいだろうか、いやでももしかしたら御内儀の振袖があるか、と結構真面目に検討し始めたのを、彼の腕の中でミズキは思考があらぬ方向にズレ始めたことだけ何となく察した。

「先生、何か違うこと考えてるでしょ」
「ミズキの振袖の色について考えてた」
「何で?もうほら、私おはぎちゃんにご飯あげて来ますから、お仕事頑張って。早くお祝いしたいから今日は残業禁止なんです」
「了解すぐ行く。終わったら車で待ってな」

不死川は車の鍵をミズキに握らせると、小さくて丸い頭を優しく撫でた。
ミズキは温かい手に心地良さそうに目を細めた後、離れていった手を追いかけるように背伸びをして不死川の唇に小さくキスをした。
紫色の目が丸く見開いた。

「お誕生日おめでとう、大好き、実弥さん」



2021.11.29

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