2022年11月29日

※最後にほんのり性描写あり。R15程度です。



物入れの中に花火の余りがあったとかで、俺の誕生日を家族で祝ってくれた後に公園で季節外れの花火が始まった。
近所のこの公園は、ロケット花火とかネズミ花火みてェな迷惑なやつでなければ禁止されてなくて、中々に貴重な場だと思う。
11月も末となりゃ夜は冷えるから、チビ達を中心に「火傷すんな」「風邪ひくな」「上着焦がすな」を言い聞かせた。
火薬から煙が上がってそのにおいがすると不思議に、クソ寒ィ中でも夏の熱気を思い出す。

就也に火をつけた花火を渡してやってから、寿美や貞子と線香花火を囲むミズキを見た。
もう当たり前に俺の家族に溶け込んで、姉みたいな穏やかな目で妹たちを見てくれている。ウチの家族は気の強い顔が多いから系統は全然違うが。
寿美の花火が落ちて「あーっ」と惜しむ声が上がった。寿美はすぐに次を物色し始めた。

「ねぇミズキちゃん」とまだ花火を保っている貞子が言った。

「実にぃはやっぱりミズキちゃんにひとめぼれだったの?恋におちたの?」

その話せめて俺のいない時にしてくんねェか、と割って入りたいところだったが、花火が終わったと就也が俺をつついた。
貞子は最近アニメの影響とかで、恋人とくれば一目惚れの運命だと信じてる節がある。

「あ、私知ってるよ!居間に飾ってる絵をミズキちゃんがくれた時にね、実にぃ『キモ』って言ったんだよ!」

花火を物色していた寿美が爆弾発言をくれた。
待て待て待て一時停止、寿美、兄ちゃんを殺す気か?兄ちゃん今日誕生日だぞ?就也悪ィが次の花火は玄弥に頼んでくれ。

「寿美ィ!その話誰から聞いた!?」
「天元くん」

処す。宇髄、確実に処す。つーか何で学年違うアイツが知ってんだ。
俺の慌て様を見たミズキがカラカラ笑った。

「懐かしいな、そんなこともあったねぇ」
「実にぃひどーい!ミズキちゃんこんなにかわいいのにっ」

可愛いのは俺が一番良く知ってる。
貞子違うんだ、あの時の兄ちゃんはどうかしてたんだ会う機会があったら殴っとくから。
とにかく俺はミズキに向かって深く頭を下げた。

「その節は誠に申し訳ありませんでした…」
「ふふっ謝りすぎ、実弥くん、ふ、気にしてないからっ!」
「ミズキちゃん、実にぃがごめんね。別れたいって思ったら私がミズキちゃんのことお嫁さんにするね」
「寿美それはダメだ」
「実にぃマジすぎ」

冷ややかな目に妹の成長を知る。勘弁してくれ。
何で俺は誕生日に近所の公園で人生最大の失言を蒸し返されてんだ、厄日か?誕生日だっつってんだろ。
ミズキは微笑ましく場を眺めてるが、ミズキが気にしてるかどうかの問題じゃねェ。俺の後悔の話なのだ。

「本当に悪かった一生償う気が向いたら殴ってくれェ…」
「えっ殴らないよ!?もー本当に気にしてないったら」

ミズキはまた笑った。
その時貞子の線香花火が落ちて、寿美とそっくり同じの「あーっ」が上がった。妹達の興味は既に他に移っている。ダメージ受けてんの俺だけじゃねェか畜生。

「ミズキ姉ちゃんは実にぃに何あげたの?」

玄弥に新しい花火を持たせてもらった就也が無邪気に言った。家族からはさっきネクタイとタンブラーをもらったところだ。
ミズキは唇の前に人差し指を立てて笑った。

「まだひみつ。この後帰ったら渡すから、明日お兄ちゃんに聞いてみてね」
「わかった!」
「『プレゼントは私』ってやらないの?」

寿美そりゃァどこの漫画だ。

「私のことはもうあげちゃったから別のにするの」

寿美が自分で振っておきながら黄色い声を上げた。
俺は初めて弟妹達の前で顔を覆って悶絶した。
でもな寿美、経験的に分かるけどミズキはこれ特に意識せずに言ってんだぜ。





玄関を入るなりミズキは安心したように息を抜いた。手を擦り合わせている。
公園で花火をしてたのは精々10分ぐらいのもんだったのに、弟達と別れて徒歩1分のマンションに帰ってきた時にはミズキの指先は冷え冷えとしていた。
暖房をつけるとか風呂を溜めるとかやるべきことは色々控えてるが、どうにもその、有り体に言うと俺はムラついていた。

「ミズキ」と呼ぶと、靴を脱いだばかりの頭が振り返った。

「…今日ありがとなァ」
「ううん。お料理はほとんどお母様が用意してくださったし、私お呼ばれしちゃったね」
「ミズキが来るとチビ達喜ぶし」
「可愛くて癒されるよね」

俺は靴を履いたまま、フローリングに上がったミズキを抱き締めた。段差の分いつもより近い。
ミズキからはさっきまでの花火のにおいがして、でも深く吸い込むといつも通りの甘い匂いが分かった。『可愛くて癒される』はいつも俺の方だ。

「ミズキ」
「うん?」
「もう貰ってっけど、毎年欲しい。毎日でもいい」

ミズキは最初俺が何のことを言ってるのか分かってない様子で、少しして意図を掴むと「あー」と、花火を落とした妹達とは少しニュアンスの違う声を上げた。
それからミズキの細い手が、俺の背中で上着を握った。

「ねぇ実弥くん、外は寒かったね」
「ん」
「温かいことしよっか」

我ながら欲深い。



「ミズキ、温けェか?寒くねぇ?」と俺はしつこいぐらいに何度も聞いて、ミズキはその度必死に頷いて答えた。
ミズキとする『温かいこと』はいつも融けるぐらいに気持ちいい。
お互い息が荒くなって汗ばんで、目が合うと俺の下でミズキがふっと笑った。ミズキの白い手が伸びてきて俺の頬を撫でた。

「実弥くん、温かい?」

温けェよ。生きてきた中で今が一番。

「お誕生日おめでとう」

俺は今手に余るぐらい、幸せだ。




***

ネタポストより『一話目にて実弥さんが夢主ちゃんに「キモ」と発言したことを思い出すor「そんなこともあったねぇ」(言われた本人は多分そんなに気にしてない)と話題がでて、今更ながら後悔してる実弥さんのお話』

と、お誕生日祝いです。
お誕生日にガチの謝罪をさせてごめん。

ネタ提供ありがとうございました&実弥さんお誕生日おめでとう!幸せになれー!

2022.11.29


[*prev] [next#]
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -