さわるな 

※R15相当
※ちょっと変態ぽいかもしれない




自分から望んで行ったのでは断じてない。実際、心底楽しくなかった。何がというと、キャバクラだ。
遠方からの来客をもてなすだとかで酒席は分かるが、その後のキャバクラまで強制参加とは時代錯誤もいいとこだ。
あんな何が入ってんのかよく分からん酒に大枚叩くぐらいなら、俺はミズキを連れていい飯食いに行く。
飲み会のことは元々伝えてあったが、終わり頃になって『次も行くぞ』と強制されて渋々電話を掛けた。遅くなると伝えると、俺のゲンナリした声色にミズキが逆に心配した。後々モメるのが嫌でキャバクラ行きを白状したところ、ミズキは笑って「割り切って楽しんじゃうしかないねぇ」と言った。

「理解ありすぎんだろォ…」
「だって本当に嫌そうな声なんだもの」
「正解だわ畜生…」

そこまで話したところで後ろから上司のお呼びが掛かり、「また連絡する」と言い残して通話を切った。
で、苦行の時間を過ごして(無心で『ハァ』『ヘェ』botを決め込んだ)、無理矢理押し付けられたケバい名刺やら何やらを洗いざらい駅のゴミ箱に捨てて、電車を待ちながらミズキに帰宅時間を伝えた。どうにか自宅に辿り着くとミズキが風呂を溜めて待っていてくれた。癒し。

礼を言って風呂に入り熱いシャワーで不快感を流していると、ガラス戸越しに「洗濯機回しちゃうよー?」とミズキの声がした。
…妬いてくれとは言わねェが、この年下の恋人は、ちぃとばかし理解がありすぎて時々こっちが寂しい。
しかしそれは贅沢な悩みというやつだろう。キャバクラでも笑顔で送り出してくれる恋人、結構じゃねェか、以上、というのが世間様のご意見だ。

風呂を済ませてようやく小ざっっぱりした気分で部屋に戻ると、ミズキがソファの上で膝を抱いて難しい顔をしていた。ローテーブルにはケバい名刺が1枚。

「あー悪ィ、残ってたかァ」

すぐに握り潰してゴミ箱に放り込んだ。染み込んだ香水がせっかく洗った手に鬱陶しかった。
ミズキはまだ難しい顔をしていて、俺は正直少し、喜んでいた。隣に腰を下ろして肩を抱いた。

「なァミズキ、悪かったよ。嫌だったなァ」
「…おしりのポケット」
「ハ?」

…何かちょっと思ったのと違う。

「おしりのポケットに入ってたの。他のは、実弥さんどこかで捨てたんでしょ?」
「うん…?あァ…全部捨てたと思ったんだが、悪ィ」
「気付いてなかったってことは、女の人が入れたんでしょ?実弥さんのおしりに触ったぁ…!」

…ケツ、俺の。
………いやどォでも良くね?

「…野郎のケツなんざどォでもいいだろ」
「よくないっ」

どうやらミズキが嫌がっているのは俺のキャバクラ行きじゃなく、名刺の捨て忘れでもなく、キャバ嬢が俺のケツに触ったことこの一点であるらしかった。いや何つーか、贅沢な我儘とは思うんだが、『やっぱりキャバクラいやだった』とか言われたかったんだが。
ミズキは至って真面目に憤慨している。

「考えてみてねっ!私のおしりのポケットに知らない間にホストの名刺が入ってたら実弥さんどうする?」
「ア?ソイツの指から手首まで1p刻みで切り落としてくわ」
「思ったより物騒!」

立場が逆だと有り得ねェ事態だ。どこの誰とも知れねェ野郎が、ミズキの尻に触る?やっぱ手首で止めずに肘ぐらいまでいくかァ?

「お前の可愛い尻と俺のケツは同等じゃねェ」
「同じなのっ!接客の女の人は勝手に触ったりしないって思ってたぁ…」
「…ほォ」

つまり、酒飲もうが女が同席しようが良いけど、触られるのは嫌だと。俺の贅沢な我儘は、意外と遠からぬ形で叶えられてたらしい。
ミズキの肩を抱いていた手を退けて、ソファの上で向かい合った。目元を撫でるとまだ少し不満そうな目が俺を見るのが、気持ち良かった。

「まァ…ケツのことはひとまずいいとして」
「よくないぃ…」
「ミズキが嫌だったんなら謝らなきゃなァ。悪かった、もう触らせねェ」
「…ごめんなさい、実弥さんに怒ってるんじゃないの」

目を伏せてシュンとしたミズキが可愛くて、抱き締めてそのまま俺が仰向けに寝転がる道連れにした。俺の胸の上に頬を置いた状態から慌てて顔を上げたミズキを、俺はアームレストを枕にして気分よく撫でた。

「ごめんね、重くない?」
「全然。…なァミズキ、償いになるのか分かんねェが、」
「うん?」
「俺を好きにしてみるかい」
「んん?」
「他所の女が俺のケツ触ったのが嫌だったんだろ。お前のだもんな、俺の身体どこでも触るなり何なり好きにしな」
「…どこでも?」
「どこでもォ」
「…何だか実弥さん嬉しそう」
「バレたか。願望だ」

ミズキは少し考えを巡らせるみたいに視線を外した後、わくわくした様子で「じゃぁ実弥さんは何もしちゃだめよ」と目を輝かせた。
正直償いっつーかご褒美じゃねェかと自分でツッコミつつ、内心すけべな期待に胸を躍らせながら、冷静を装って「分かった」と言ったのだった。

が、思った以上にこれが辛かった。
ミズキの可愛い舌が俺の唇をずっとチロチロ舐めてて、それはそれは可愛いんだが、もっと中に入ってきてエロいことしてほしい。俺から噛み付こうとするとすぐ察知して離れていって、「だめっ」と可愛いお叱りが飛んでくる。俺のTシャツが捲り上げられて鎖骨の辺りでクシャクシャになっている。剥き出しの俺の鳩尾辺りにはミズキの柔らかい胸が押し付けられてて、完全に勃ってるのはミズキも腹の辺りに感じて分かってるだろうに触ってくれない。
その内にミズキは俺の首筋を舐めたり耳たぶに吸い付いたりし始めた。長時間半端に気持ちいいってこんなに辛いかと新しい発見。

「ミズキ、なァ俺が悪かった、本当悪かった。そろそろ勘弁してくれェ」
「ん…実弥さん、やだ…?」
「嫌じゃねェけどよォ…シようぜ、なァ、頼む」
「ふふ、実弥さんすっごくえっちしたいのね」
「そりゃァもう」
「いまここに名刺のお姉さんしかいなかったら、しちゃうのかなぁ…」

言ってからミズキは自分で言った内容に驚いたみたいな様子で急に俺から離れようとするものだから、俺はその細い腕を捕まえて胸の上にミズキを連れ戻した。

「ごめ…っへんなこと言った」
「しねェよ、萎える。…もう行かねェ」

俺が言うとミズキは一度目を丸くしてから、ふくふくと嬉しそうに笑って「ふぅん」と言った。

ずっと、理解のある(若干ありすぎる)女だと思っていた。交友関係を詮索されたことも酒を嫌がられたこともないし、今回に至ってはキャバクラを割り切って楽しめとまで言ってくれるのだから。それが全部嘘とまでは言わないが、多少の気遣いや遠慮や強がりを含んでいたらしいことが垣間見えて、俺は、結果だけ言うと、興奮した。

「ミズキ」
「えっわっ!?」

俺が急に抱き上げてソファを立ったもんで、ミズキは慌てて俺の首にしがみ付いた。そのままスタスタ歩き出したのを不審がって行き先を聞くのでベッドだと教えてやった。

「そろそろ許してくれェ、抱く」
「…実弥さん怒ってる?」
「怒ってねェ。欲情してる」
「うっうん!?」
「言っとくが、俺はお前にしか欲情しねェ」

ドアノブを捻って足で押し開けて寝室に入り、薄暗い中慣れた場所にミズキを下ろした。
開けたままのドアから居間の明かりが差していて、ミズキがまたふくふくと笑ったのが見えた。

「ふふ、実弥さんすっごくえっちしたいのね」
「お前とならな」


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