鬼火 

※以前に拍手コメントでいただいたリクエストを、書き切れる自信がなく一度はお断りしましたが、あまりの熱量にこのまま終わるのも申し訳なく文を書いてみた次第です。
※いただいた設定文に肉付けしただけなので実質作者は拍手をくださった方です。
※一度断ってしまったためご覧いただけるか不安…見てもらってなかったら設定泥棒じゃねーかと不安…
※Elenourは基本的にリクエストを受け付けておりません。
※すみません。






「…この場に相応しい話題かは分かりかねますけれど、ふたりでお話する機会があれば是非申し上げたかったことがあるんです。
前世と地獄と鬼は実在します。私は見てきましたから、確かです。鬼と言っても、地獄で罪人を虐めている鬼ではないのですよ。人の生きる世の中に紛れて、人を食べる鬼です。
ふふ、私は、こんな物騒で突拍子も無いことを言いそうに見えませんか?もっと驚いていただきましょうか…私ね、前世ではその鬼と愛し合っていたのです。あら、ご興味を持たれましたか。それでは続きをお話ししましょう。
私は鬼を殺すことを生業とする剣士でした。それが…不甲斐なくも力不足で鬼に捕えられ、自分では歯の立たない相手に抵抗すら出来ませんでした。それでも鬼殺の剣士として矜持はありましたから、ある時隙を見て逃げたのです。間もなく捕まってしまって、連れ戻され私も鬼にされました。そう、鬼はこうして増えるのです。ですけど、あんなに苦しかったのは前世も地獄も今も含めてあの時だけでした。身体を内側から焼かれるような、虫の這い回るような…今思い出しても恐ろしくて手が震えてしまうくらい。苦しみのたうつ私を、その鬼がどうしたと思いますか?放っておく、いたぶる…そう思われるでしょう?普通ー…というのが正しいかわかりませんけれど、そう。
ですけどね、甲斐甲斐しく介抱してくれたんです。ほとんど一日中付きっきりで。水は飲めるか、粥なら食べられるか、人の血はまだ無理か、汗を拭いて着替えさせて、鬼になると日光に当たれないから昼間窓辺には行くなとか、元気になったら着物や簪をたくさんやるから、とか…意外でしょう?私も戸惑いました。
ですけど地獄より苦しい中で、その鬼しか頼る相手がいなかったんです。だんだん憎んでいることが出来なくなってしまって。だってね、私が『今日は少し楽です』って言うと、子どもみたいに嬉しそうに笑うんですもの。ギザギザの歯を見せて、目を細くして『そうかぁ、そうかぁ』って。

それから程なくして、彼は殺されてしまいました。私とて鬼殺の剣士だったのですから、喜びこそすれ悲しんで泣くだなんて、許されるはずはありません。けど、心は別でした。私は後を追いました。知人の剣士を捕まえて、殺してくれと詰め寄りました。カナヲには酷な仕事を押し付けてしまったわ…。
そうして地獄へ参りましたら、本当に再会したんです。不思議ですよね、地獄で鬼と再会して喜ぶだなんて、色々倒錯しているわ。それでも嬉しかった。彼と手を繋いで地獄を歩きました。『鬼になるときより幾分ましですね』なんて笑いながら。彼は妹さんをー…勿論彼女も鬼です、妹さんを連れていましたから、地獄に鬼3人です。結構楽しかったかもしれません。その内にね、刑期満了といいますか、生まれ変われることになりまして。

ふふ、益々作り話みたいでしょう?続けますか?
じゃあ…えっと、生まれ変わる前にね、彼がこう言うんです。『来世ではきっと幸せにするから』って。結構ロマンチストでしょう?
ですけど私の方は生まれ変わって、最初はすっかりその記憶を無くしてしまっていたんです。彼と妹さんは最初から全部覚えていたそうですから、随分やきもきさせてしまったと思います。彼の方は時間を掛けてでも私と恋愛してくれるつもりだったそうなんですけれど、妹さんの方はお兄ちゃん想いで勝ち気な性分ですから、私に思い出させようとあれこれ頑張ってくれたみたいです。可笑しな話をする子だなぁと思っていましたけれど、今思えばいじらしいわ。だって、『ねぇ鬼っていると思う?』なんて、綺麗で派手な女子高生が言うんですよ。
本当のことを言うと、私も不思議な夢はよく見ていたんです。誰かと大切な約束をしたような気がする…という程度の、不鮮明な夢でしたけれど。

そう、可笑しいお話がもうひとつ。私ね、小さな頃からピアノをやっているので、たまに音楽室でピアノを弾かせてもらっていたんです。そこにあの人が来たんですよ。音楽室なんて、美術室の次に近寄りそうにないあの人が。それでね、その時に私が弾いていたのが、ピアノエチュードの鬼火ですよ。こんなことってありますか?
その時私はまだ前世のことを忘れたままですから、正直彼が音楽室に来たことに少し萎縮していたんです。何しろ、相手は有名な不良ですもの。根っから悪い人ではないという根拠のない確信はありましたけれど。彼はすすっと近寄ってきて、『上手いなぁ』って言って笑ったんです。ギザギザの歯を見せて、目を細めて。それで何だか可愛らしく思えてしまって、以来彼の妹さんも交えて話すようになったというわけです。

私が前世のことを思い出したきっかけは、思い当たりません。本当に突然だったんです。炭治郎くんと話してる時に彼のピアスを眺めていてー…ほら炭治郎くん、花札みたいなピアスをしているでしょう?ゆらゆら、ゆらゆら、揺れているのを見ていたら、模様のお日さまに吸い込まれるような気分になって、それで突然。ボロボロ泣き出した私を見て、炭治郎くんはひどく慌てていました。私があの人の名前を呟いたら、記憶が戻ったと合点してすぐに連絡を取ってくれました。炭治郎くんも前世でご縁があって、しかもそれを覚えている人だったんです。思い出してみたら、キメツ学園にはそんな人がたくさんいました。まるで皆んなで手を繋いで生まれ変わったみたいに。

…どうです?中々素敵なお話じゃありませんか?
ずっとこのことをお話ししたかったんですけれど、お聞きいただいた通り時間が必要でしたから。
思い出す以前には、随分素っ気ない態度を取っていたこと…この機会にお詫びします。申し訳ありませんでした。けど、思い出してみたら苦手に感じていた理由が分かったような気がします。上司であり仇だったから…、ねぇ、宇髄先生、先生も覚えてらっしゃるんじゃないかと私は思っているんですけど、どうかしら。
やっぱり。
どうかお気になさらないでくださいね。宇髄先生がいればこそ、今こうして幸せな世に皆んなで立っていられるのだと思っているんですから…炭治郎くんも善逸くんも伊之助くんもカナヲもそう。

さて、長話をしてしまいましたね。そろそろご退室いただけますか?花嫁の控え室に忍び込むだなんていけない人。宇髄先生が自分よりも先に私の姿を見ただなんて妓夫太郎さんが知ったらどうなるか、前世を覚えてらっしゃるならお分かりでしょう?」


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