学校はキライ。だって、手をのばせば届く距離にあなたは 居るのに、触れられないの。過度な接触は周りの皆に疑わ れてしまうから。
放課後はスキ。遅くまで自習室に居残って、あなたの仕事 が終わるのを今か今かと首を長くして待つのよ。
一番スキなのは、あなたの仕事が終わって一緒に帰ってい る今この時間。あなたの髪の色と同じワインレッドの車に 乗せてもらって、お洒落な洋楽を聞きながら薄暗い街の風 景が窓の外を流れていくのを見送るの。
私、ちゃんと知ってるわ。あなたのような素敵な人とお付 き合いをしていく上では、それなりの苦労は避けられない のよね。そうでなくても世間様から見れば問題たっぷりな 恋なのだから、我慢しなければならないこともたくさんあ るの。
今日のお昼休みに職員室の前であなたと君菊先生が仲良さ そうに話しているのを見つけたとき、私、つい「左之助さ ん」って声をかけてしまいそうになった。危うく半分出かかった言葉を仕舞いこんで、こっそりとそ の場を立ち去ったわ。そりゃあ職場の同僚なんだから、あんなふうに会話を交わ すなんてごく普通のことでしょう。でも、君菊先生って女 の私から見ても魅力的だし、何よりもあなたとお似合いだ し、心配になってしまうのよ。 我慢、我慢。一生懸命、念仏みたいに自分の心に言い聞か せて、やっとの思いで不安とも焦燥ともつかないもやもや した気持ちを押さえ込んだ。 私も早くオトナになれれば良いのに。そうすればきっと、 あなたの隣に並んでみたときに君菊先生にも負けないくら いお似合いになれるんでしょうね。

「何でそんなに不機嫌そうなんだ?」
「別に不機嫌なんかじゃありません」
「嘘つけ。語調が刺々しいぞ」
「気のせいです」
「ごめんな」
「どうして……謝るんですか」
「俺はお前に苦労させてばかりだからさ」
「苦労だなんてそんな……っ」

あなたは何も悪くないの。私がただ一人でむくれているだ けで。だからあなたがそんな困った顔をする必要なんてな いのに。ああ、ほら、その申し訳無さそうな表情はやめ て。ますます自分の子供っぽさを思い知らされてしまうか ら。

「左之助さんは悪くないんです。ただ、私が子供すぎるだけで」
「実際まだ子供なんだから気にすることはねぇだろ」
「気にします。私も早くオトナになって……、左之助さんに釣り合うような素敵な女性になりたいんです」
悔しくて、もどかしくて、制服のスカートの裾をきゅっと 強く握りしめる。
十字路交差点で赤信号 に引っかかり、左之助さんはブレーキを踏んで車を止め た。ゆったりとした音楽だけが車内を彩る。この曲は何を歌っ ているのだろう。知っている英単語を拾い集めて意味を探っていると、運転席の左之助さんがおもむろに口を開い た。

「釣り合うとか釣り合わないとか、そんなのはどうでもいいさ」

――この人はやっぱり器の大きい人だ。我が侭な私に呆れもせずに、何時だって優しい笑顔で宥めてくれる。あなたが優しいから、私も甘えてしまう。 わるいひと。教師なのだから私を叱ってくれればい いのに。それなのに、彼はその代わりに私の唇を塞いだ。信号が青に切り替わる5秒前のことだった。

「俺にはお前しかいねぇんだよ」

耳元で甘く囁いて、左之助さんは再び車を走らせ始める。フロントガラスの向こうを見据える端正な横顔をそっと見 上げると、一瞬視線が交錯した。 私は小さく「反則です」と呟いて、真っ赤に火照った顔を俯けた。



20130510(再掲)

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -