上鳴電気が告白される
「あの、上鳴くんいますか……?」
教室の前でキョロキョロしていた女の子に親切心で声をかけたら彼女の探し人は意外な人物だった。
「呼んでくるね、待ってて」
頬を赤らめながらお礼を言われ、なんとなく要件を察してしまった。告白だな。よりによって上鳴なんて物好きもいるもんだ。
「上鳴ー。普通科の女の子のお客さん」
「は!?」
少し腹が立ってそこそこのボリュームで声をかけると、本人のみならず四方から驚きの声が上がった。
「マジかよォ!? 上鳴に女子のお客……おい名字どんな子だった……」
「身長低めで華奢でおしとやかな感じの子」
血眼になって聞き出してくる峰田と距離を保ちながら見たままを伝えると今度は奇声を挙げ始めた。こいつ本当にヤバいな。
「廊下で待たせてるから早くいってあげなよ」
「え、あ、おう」
上鳴が教室を出た後、峰田はもちろんだが色恋沙汰に敏感な葉隠や芦戸までもが窓から様子を伺いに行った。二人が場所を変えたのか戻ってきた野次馬たちはキャッキャッと盛り上がっている。
「あれは絶対に告白だね!」
「絶対そう! いやー完全に恋する乙女の顔だったねぇ〜」
「なんで上鳴……轟とかならわかるけどよォ! 抜け駆けゼッテーに許さないからな……」
これは帰ってきたらもっと騒がしくなるだろうなーとクラス全体に知らせた張本人でありながら他人事のように傍観していた。
「上鳴もついにリア充の仲間入りか……」
ボソリとつぶやくと耳郎が怪訝そうな顔で見てきた。
「その顔は何ですか」
「付き合うと思ってんの?」
「だってあんだけ彼女欲しいって言ってたじゃん」
「誰でもいいわけじゃないと思うけど」
上鳴の告白が本気じゃないと思っているわけではないけど、誰これ構わず可愛いと思った女の子を食事に誘っていたのだから、自分のことを好きだという可愛い子は彼にとって好都合ではないか。
私なんかよりもよっぽど可愛くて女の子だったし。
「あ、上鳴戻ってきたぞ!」
峰田の言葉にみんなの視線が一点に集まった。
「みんなして何!? 怖っ!」
「上鳴ィ……お前……コクられた……のか……?」
「え……あー……」
「その反応は黒じゃねえかァ! 畜生! 羨ましすぎる! ズリィぞ!」
首を押えながら居心地が悪そうにあたりを見回す上鳴と一瞬目が合い、固まった。
「断った、から」
しっかりと目を合わせて発された言葉は多分、きっと、絶対、私に宛てられたものだ。
「ハァ!? 何で! もったいねえ! 」
「相手のこと知らねぇし……」
「オイラなら絶対断らないね! これから知っていけばいいだろーが! あんなこともこんなことも! 」
あの上鳴が、たとえ相手が全く知らない子でも告白を断るのは少し意外だった。普通の人なら好きな子に告白した後他の人に告白されても受けたりしないだろうけど……。上鳴のこと誤解していたかもしれないな。
事が落ち着いた放課後、久しぶりに自分から声をかけた。
上鳴も避けられていたのを察してか最近話しかけて来なかったからな。最後に二人で話したのいつだっけ。
「可愛いしいい子そうだったけど良かったの?」
「ん?」
「昼休みの子。告白されたんでしょ」
「受けると思ったの?」
普段はあまり見ることのない真剣な、でも少し拗ねたような表情。ちょっと意地悪しすぎたかな。
「俺、名字が思ってるより本気だから」
「今日分かったよ。私上鳴のこと誤解してたなって」
「誤解?」
「うん。上鳴ってチャラいから誰でもいいんだと思ってた」
「誰にでも告ったりしねーよ」
「ご飯は誘うのに?」
「それとこれとは……」
さっきとは打って変わってもごもごと喋る上鳴が面白くてつい吹いてしまった。
「……からかってる?」
「ううん。もうちょっと待って欲しいけど、ちゃんと考えるから」
「うん……。また話してくれる?」
「え?」
「あからさまに避けられると俺も凹むっていうか……」
「あー……ごめんね? ちょっと整理したくて。もう大丈夫です」
クゥーンと切ない鳴き声が聞こえるような表情から一転、今度はブンブンと振られた尻尾が見えた。
意識せずに、いや、意識しすぎて結果的に避けてしまった行動が彼を傷つけたなと反省。
「この間行きたがってたカフェ今度行く?」
「行く」
「即答じゃん」
「マジでもう話してくれないかと思った〜!」
「ごめんって。ほら帰るよ」
「ちょ待って、おいてくなよ」
そそくさ教室を出るとチャックが開いたままの鞄を引っ掴んで追いかけてきた上鳴。
お詫びも兼ねたお出かけは“デート“になるのかな。たまにはおしゃれして浮かれてもいいかもしれない。