上鳴電気が告白する


「あのさ、好き。なんだけど……付き合ってくんね?」

今コイツなんて言った?

「えっと……? 誰を?」
「えっ。名字を、だけど」
「だ、誰が?」
「俺が! お前を! 好きなんです! 恥ずいから何度も言わせないでくれ……」

突然のことにキョトンとしてしまった私とは裏腹に真っ赤な顔を両手で覆い隠す上鳴。
放課後の体育館裏、今考えるととてもベタなシチュエーションではないか。ベタなシチュエーションでベタな告白をされてしまった私だが、これはどうするのが正解なのか。
男子の中では一番仲がいいし、好きか嫌いかで言えば好きだけどいわゆる男友達というやつだ。
返事をしなければいけないのはわかるが、いまいち考えがまとまらず沈黙が続く。
いまだに顔を隠す上鳴を見つめながら考えていると顔をあげた彼と視線が合う。
見つめていたことに驚いたのか、一瞬逸らされるも再び目があう。
「返事は今じゃなくてもいいから、考えといてくれませんか」

「うん、わかった」







翌日の彼はびっくりするくらいいつも通りで、本当に私のこと好きなのか? と思ってしまうほどだった。最近ハマっているという動画の話をいつものようにスマホを見ながら適当に相槌を打つ。
ふと、どんな顔をしているのだろうと気になって顔をあげるとちょうど動画を探しているところだった。
スマホを見ているのをいいことにジッと見つめてみる。

「あっこれこれ。この動画がマジでやばいんだ……よ……なに……?」
「いや、続けて?」
「そんな見つめられるとちょっと、困る」

顔を見て話をするなんて当たり前なはずなのに、昨日の告白を彷彿とさせる上鳴の表情にこっちも恥ずかしくなってスマホに視線を戻す。私、何調べてたんだっけ。

「で、続きは?」
「っと、なんだっけ……?」
「なにそれ」

気の抜けた声に思わず笑ってしまった。






告白されてから数日が経ち、無意識に意識をしてしまっている自分に気が付いた。
当たり前だったはずの距離感が照れくさい。いつもこんなに顔近かったけ? 

「おっそのジュース今日発売のやつじゃん! いーなー。一口ちょーだい」

私が意識すればするほど、あの告白はやっぱり冗談とか罰ゲームだったんじゃないかと思ってしまう。
告白した相手に間接キスねだるか普通。間接キスとか意識している自分が嫌になる。

「だめ?」
「いいけど」
「やったね」

ごくりと一口、動く喉元に目が奪われる。意外と首太いなーなんて。
サンキューな、と返されたそれに少し戸惑う。ああもう、気にしたら負けだ。
受け取ったそれをそのまま一口、飲んでやった。私の思考を読まれているわけではないが、どうだと言わんばかりのどや顔で上鳴を見るとぎょっとした表情を浮かべていた。

「なに」
「いや……別に」
「言いたいことあるなら言って下さい」
「……間接キ、スだなあと」
「は?今更じゃん」
「ソウデスネ」
「嫌なら飲むな」

自分から欲しいって言った癖に、そんなこと言ってどういうつもりなんだろう。少しは意識して、ってアピール? そんなことされなくても意識させられてるっつーの。
何でこんなに振り回されなきゃいけないんだ。

「ムカつく」

読めない上鳴も、変わってしまった自分も。




気持ちの変化に気が付いてしまったものの名前のあるそれに名前を付けるのはなんか悔しくて、でも今まで通りにできるはずもなかった。そんなモヤモヤに蓋をするように上鳴を避けた。

「上鳴となんかあった?」

さすがにやり過ぎたか。できるだけ周りに気づかれないように自然に避けてたつもりだったけど、仲がいい子のはバレるものだ。

「なんで?」
「上鳴が名字が冷たいってうるさいからさ。最近話してるの見ないし」
「冷たいのはいつもじゃん。でも、ここだけの話避けてますね……」
「喧嘩じゃなさそうだし、どした?」
「色々あるので後で聞いてくれますか」
「ウチでよければ」



耳郎の部屋で椅子に腰かける耳郎の足元に正座をし、昨日の出来事を聞いてもらった。告白されたことはまだ誰にも言っていないのに驚いた様子はなく淡々と聞いてくれた。

「へー。上鳴がついにねぇ」
「ついにって何」
「こっちの話。で? どうするの?」
「それが分かんないから困ってるの……」

最初は本当にただの男友達だったのに告白されたからって好きになりかけてる自分の軽さに腹が立つ。

「そりゃ仲良かったし、好きか嫌いかで言ったら好きなんだけど……」
「ウチはあんまそういうの分かんないけど、上鳴がうるさいからちょっとは会話してあげなよ」
「……善処します」
「返事急かされれるわけじゃないんだし、名前もすぐに断らなかったんだからちょっとはいいと思ってるんじゃないの? 」
「あの時は返事とか考えられないくらいびっくりしたんだもん」
「相手が峰田でも返事しなかったわけ?」
「速攻断るね」
「でしょ? そういうことじゃない?」

峰田だったら端からのこのこついて行ったりしないけどそういう問題じゃないか。あの場でたとえ驚いていても本当に嫌だったらその場で断ることもできた。でも答えなかった。そういうこと、なのだろうか。
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