上鳴と勉強
お風呂から上がって寝るまでの数時間。テスト前に一気に詰め込もうとするのが悪いとやっと気づいた彼との勉強タイム。期末の筆記試験はヤオモモのおかげで赤点を免れた電気だが、クラスワーストスリーに変わりはない。そんな彼のためにお風呂上り、毎日この時間に勉強会をしている。
「手、止まってるよ」
「ハイ。スミマセン」
 勉強会というよりは私が電気を監視しているといったほうが正しいだろうか。
 今現在、早々に課題を終わらせた私は教科書を睨みながら百面相をする電気の横で悠々と漫画を読んでいる。
「あ〜〜〜疲れた! 」
「終わったの? 」
「まだ……だけど、あとちょっとだから休憩してもいいですか!」
「電気休憩したらやる気なくしちゃうからダーメ。ほら、頑張って」
 何度も重ねた勉強会におかげで電気が課題の途中で休憩をはさむとどうなるかは理解している。半分で休憩をはさむならまだしも、見たところあと二.三問。休憩中に眠くなるのが目に見えている。明日の自分にまかせて寝て、授業前になって泣きついてくるに決まってる。
「……ケチ」
「何か言った?」
「何でもないです。頑張ります!」
「ん」
「え、今の可愛い」
「……うるさいな」
 照れた? 照れた? としつこく聞いてくる電気の頭を叩いて再び漫画に視線を落とす。
「なー」
「今度は何?」
「これ、最後の問題。教科書見てもさっぱり」
 最初はちょっとわからないとすぐ聞いてきた電気だが、少しは自分で考えろと指摘し続けた結果、最近はできるだけ自分で解いてどうしても詰まった時だけ聞いてくるようになった。意外とやればできるんだけどな。
「それ応用入ってるやつ。授業でやったけどね! 聞いてなかったでしょ」
「どうしても午後の座学は……」
「言い訳しないの。みんな一緒でしょ」
「うぇい……」
 口調が怪しくなってきた電気に最後の問いを教えてあげようと彼のノートを見ると、後ろのページに進むにつれてノートを這うミミズが増えていて思わず笑ってしまった。よっぽど眠かったんだね。後でノート貸してあげよう。
「こっから今までのやつと同じ。はい。後は自力で頑張れ」
「さんきゅ〜、助かった。大好き」
「ハイハイ」
 もう少しかな、と漫画を置いて伸びをするとちょうど終わったらしく長い溜息が聞こえた。
「はぁ〜〜〜〜。終わった〜〜〜」
「お疲れ」
「今日俺めっちゃ頑張った! えらくね!?」
「うん。えらいえらい」
「だから〜ご褒美下さい!」
「は?」
 課題を終わらせただけで何を言っているんだ。こっちは同じ量を数時間前に終わらせているというのに。
「寝るから部屋帰るよ」
「え〜。じゃあ、ちゅーしてい?」
 立ちあがりかけた私に上目遣いで聞いてくる電気。クソ、可愛い。でも流されてあげないもん。
「……えー」
「ダメ?」
「んー」
「ちぇ〜」
 課題を終わらせるのなんて当たり前だし、みんな同じ量をこなしている。
 ……でも今日はいつもより聞いてくることが少なかったし、休憩もなかったし確かに頑張っていたと思う。ご褒美、あげてもいいかな。
「電気」
「なに?」
 返事をしながらさっきと同じく顔をあげる電気との距離をゼロにする。
 ウェ?! と間抜けな声を出す電気にすぐさま背を向け「おやすみ」と一言残して部屋を出た。
 誰にも会いませんように。顔に集まる熱を感じながら速足で女子棟へ向かった。




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