作戦成功?
※大学生設定
バレー漬けだった高校生活を終え、早くも半年。
一人暮らしにもだいぶ慣れた。綺麗とは言えないいかにも男の部屋の中で唯一可愛らしさを持つ大きなクッション。
高校から付き合っている名前のものだ。
志望校を告げないまま受験をし、合格報告の時に同じ大学なことを知った。お互い宮城を出て離れてしまうことを不安に思っていたことが馬鹿らしくて大笑いしたをよく覚えている。
それぞれ別のアパートを借りているが、俺の家の方が学校に近いためよく泊まりに来る。そんな名前が俺の家に置いているものが3つ。歯ブラシ、服、そしてこのクッション。
例によって今日も「明日一限だから」という理由で泊まりにきている。
「名前、起きてる?」
「んー…」
「そんなとこで寝んなよ、明日後悔するぞー」
「んー…」
お気に入りのクッションを抱きかかえ、顔を埋める彼女の返事は一定。唯一見えている目も閉じかけていてほっとくと本当にこのまま寝てしまいそうだ。
「ほら、立って。寝るならベッドいこ」
「ん」
体制は変わらぬまま右手を差し出した名前。
立たせろ、と。
「はいはい、しょーがねーな。…よっと」
引っ張りあげても依然として離さないそれ。
家に来てから風呂以外では手放してないのでは?
珍しくないとはいえ、せっかく泊まりに来た彼女はクッションにとられっぱなし。だき心地がいいのは分かるけどそろそろ妬けてくる。
「名前〜。コレ、気持ちいい?」
彼女ごと後ろから抱きしめてクッションをつつく。やっぱこれ手触りいいな。
「んー、気持ちい」
「そんな好き?」
「好き」
「ふーん、俺とどっちが好き?」
反応を期待して覗き込むように耳元で囁いた、が。
「貴大に決まってるでしょ、クッションなんかに妬かないで、ね?」
覗き込んでいたことで近かった距離は名前が振り向いたことでゼロになり、リップ音を鳴らして離れていった。
てっきり照れると思ったのに。予想外の反応だ。
さっきまでの眠気はどこへ消えたのか、嬉々とした表情で鼻歌を歌いながら寝室へ向かう名前。
「やられた……」
すでに目が覚めてる彼女にどう仕返しをしようかと考えながら背中を追った。