可愛いのはどっち? 02
飯も食い終わり、次は何を乗るかという話になった。
王道のアトラクションはもう一通り乗ってしまったから残りは観覧車くらいだが、やはり観覧車は最後だろう。
ブラブラと歩きながら地図を見る。

「ねえ!お化け屋敷いこうよ!」

そう提案してきたのは及川。

「無理」

即答したのは名前。
こいつまじで怖いのダメだからな…。
しかもここのお化け屋敷は怖いと有名のようだ。

「いいじゃん行こうよ!」

「絶対入らないからね!」

入るか入らないかは置いといて
とりあえず向かう事にした。

目的地に着くと、建物の中から悲鳴が聞こえてきた。それだけで隣でビクビクしている名前。
1〜2人1組で入る形式で
及川岩泉、松川矢巾、国見金田一のペアになる。
え、もしかして俺一人?最悪だ。
なんて考えていると裾をくいくいと引っ張られた。

「ねえ、貴大も入るの…?一人で待つの嫌」

少し怯えた表情で見上げてくる彼女。
外といってもお化け屋敷の雰囲気にあわせて作られているし、当然さっきのように中から悲鳴も聞こえてくる。名前は極度の怖がりだ。外で待つのも怖いのだろう。1人ならなおさら。俺の彼女可愛すぎかよ…。
やっぱ俺もパス。そう言おうとした時。

「じゃあマッキーと名前ちゃんからね、いってらっしゃーい」

及川の声と同時に背中を押され入場口に押し込まれた。もちろん名前と一緒に。

「待って、ほんとに無理!!」

聞こえたのか聞こえてないのか。
反論もできないまま係の人に案内された。

隣に立つ彼女はすでに泣きそうな顔をしていて
大丈夫か、なんて聞くまでもないようだ。

「ねえ、無理。戻ろ?」

入り口に戻ることはできないが、途中退場は可能。
ただ、出てからのことを考えるとさっさと出口まで向かう方が良さそうだ。

「大丈夫、とりあえず進もう。目瞑ってていいから。な?」

出来るだけ何も聞かせないように肩に腕を回して引き寄せる。

「うん、ありがと」

名前は片手で俺の服を握りもう片方の手は自分の耳を塞ぐ。

有名なだけあって仕掛けやお化けもかなり迫力がある。多少はビビるが早足で素通り。お化け役に申し訳ないくらいだ。
一方彼女は遮断しきれない音にビクビク怯えてる様子。鼻をすすってるから多分泣いてるな。
ただ歩くだけだと意外と短いもので出口に着く。
外に出るとすぐに名前が抱きついてきた。

「怖かったな〜、よしよし」

少し乱れた髪を直しながら頭を撫でる。

「及川あとで殺す…」

泣いてる彼女の口から出たのは物騒な言葉。

「俺も同じこと考えてた」

俺の大事な彼女泣かせやがって。及川め。あとで奢らせよう。
噂をすれば…出口から騒がしい声。

「ちょっ岩ちゃん置いていかないで!」

「グズ川うるせぇ!」

出たきたのは及川岩泉ペア。

「はぁ〜結構怖かった。え。名前ちゃん泣いてる?」

「…嫌だって言ったのに。及川…ケーキ」

「あとシュークリーム」

「あーもー分かったよ奢ればいいんでしょ!」

奢らせる約束を取り付けた所で次の2人が出てきた。

「結構怖かった…」

「そう?金田一騒ぎすぎ」

胸に手を当てて冷や汗をかいている金田一と、 何食わぬ顔であくびをしている国見。こいつら通常運転かよ、つまんねぇな。と思ったその時。

「ぎゃぁぁぁぁぁあああ」

すごい叫び声が聞こえ、勢いよく出てきたのは涙目の矢巾。その後、ニヤニヤしながら出てきた松川。

「あれ?矢巾泣いちゃった?ゴメンねー」

「また松川さんだったんすか!本当たち悪い…」

「矢巾が何回も引っかかるから面白くてつい」

「もう絶対松川さんとお化け屋敷入らない…」

「えー、ヒドイナー」

松川に散々遊ばれたであろう矢巾は涙目でとても疲れた顔をしていた。一体何をしたんだ…。

全員が出た頃には名前も落ち着いていてすっかり普段どおり。

「じゃあ最後に観覧車行こっか」

少し早いが帰るのにかかる時間も考えるとそろそろ締めた方が良さそうだ。

1周15分の観覧車。
先ほどと同じ組み合わせで乗ることになった。矢巾は嫌がってたけど。

「先乗りな。気をつけてネ」

「ありがと」

扉を閉められ二人きりの空間になる。
向かい側に座る名前を手招きし隣に座らせる。
もちろん後ろのゴンドラに背を向けて。

「貴大、さっきはありがとう」

「何が?」

「お化け屋敷、貴大のおかげで怖くなかったよ」

「泣いてたくせに」

「うるさいなあ」

文句を言いながらも肩に頭を預けてくる名前。

「次は二人で来ようね」

「お化け屋敷?」

「しつこいです」

「ははっ、ごめんって」

むすっとした顔で見上げる名前の頭を撫でる。
こういう遊園地の観覧車って大抵何かしらのジンクスが存在する。永遠に結ばれるとかそういうやつ。
ここにもなんかあるんじゃないかと思いスマホで検索をかけた。

しばらく黙って寄り添っていると名前が急に立ち上がり周りを見渡す。

「ねえ!もうすぐてっぺんじゃない?」

「そうだネ」

子供のようにはしゃぐ名前が可愛くて思わずにやける。 てっぺん、ね。

「ほら!てっぺんだよ!貴大ちゃんと聞いて…んっ」

立ち上がり、振り返った名前の唇を塞ぐ。

「…ちょっと急に何すんのさ」

「キス?」

「そんなこと聞いてないし」

「この観覧車、頂上でキスすると幸せになれるらしいよ?」

驚いた表情を浮かべ。すぐに顔を赤くした。

「あっそ」

照れているのか、座って窓の外に視線をそらす。
しばらく黙り込んだと思えばまた驚いた表情に。

「ねえ。あれ、大丈夫かな?」

そう言って頂上を指差す彼女。
彼女の指差す先には明らかに他より揺れているゴンドラ。

「あー、松川と矢巾だな」

「大丈夫…なのかな?」

「まあ流石に吐く前にはやめてくれるだろ」

「そういう問題?!」

つーか。

「そんなのどうでもいいから今は俺にかまって」

再び隣に座り今度は俺が名前に頭を預ける。
降りたらどうせ気分悪くなってる矢巾の世話、やくんだろ?

「今日はヤキモチ焼きだね。可愛い」

よしよしと頭を撫でられる。
観覧車もせいぜいあと5.6分。
今くらい独り占めしてもいいよな?


おまけ

「ちょっとマッキーなにあれ!頂上のアレ!羨ましすぎる!」

「うぇ…気持ち悪い…」
「え?矢巾ダイジョブ?」
「誰のせいだとっ…うっ」
「ちょっと矢巾大丈夫?!松川やりすぎ!肩貸すからとりあえず座って…」

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